坂本美雨 with Wican Earmuffs for Entertainment|音楽を親子で一緒に、同じ目線で楽しめたら 「子ども向けエンタメ観賞用イヤーマフ」に触れながら考える“家族のエンタメ時間”

ユニバーサル ミュージックが6月にローンチしたファミリープラットフォーム「Wican」。家族や親子で過ごす時間が豊かになるような企画や製品を提供するこのプロジェクトから、「子ども向けエンタメ観賞用イヤーマフ Earmuffs for Entertainment」が10月に発表された。このイヤーマフは、ライブやコンサート会場で子供が装着したときに音量を抑えて耳を守りながら、音そのもののバランスはそのままに大人と同じ音楽を楽しめるよう設計されたアイテム。「リアルな場所だからこそ得られる感動や体験を、親子で共有してほしい」というWicanの思いが込められている。

音楽ナタリーでは、アーティストとして活動する中でこれまで子供と一緒にエンタメを楽しめる企画に多く参加し、自身のSNSでも娘や家族と過ごす時間を日常的に発信している坂本美雨にインタビュー。愛娘のなまこちゃん(愛称)と一緒にWicanのイヤーマフを体験してもらい、なまこちゃんと過ごす時間や、音楽が家族のそばにある暮らし、また親子でエンタテインメントを共に楽しむ際に考えることなどについて話を聞いた。

取材・文 / 岸野恵加 撮影 / 前康輔

子供と同じものを一緒に楽しめる期間は数年しかない

──今日は坂本さんに、Wicanのイヤーマフ「Wican Earmuffs for Entertainment」を5歳の娘さん・なまこちゃんと一緒に体験していただきました。この商品は、以前はライブやコンサートによく行っていたけど子供が産まれてからは足が遠のいてしまっているという方に向けて、「これがあれば家族で一緒に楽しめるよ」と背中を押したい、という思いから企画されたものだそうです。

「親子で一緒に」というのは素敵ですね。子供って、10歳を過ぎた頃にはきっと、親と一緒にというよりは自分が好きで楽しめるものを選ぶようになると思うんです。音楽でもなんでも一緒に楽しめる期間って実はそんなにないと思うから、小さいうちになるべく同じものを見れたら、とは思っていますね。

──確かに、子供と同じものを見て思いを共有できる期間はたったの数年しかないのかもしれないですね。

ね。自分の青春時代を思い返してみても、10代はもう絶対無理だろうなと思うから。私の場合は自分の好きなCD、捨てられましたからね、親に(笑)。

──え! それはどんなジャンルのCDを……?

X JAPANとか、マリリン・マンソンとか。耽美というか、退廃的な音楽ですかね。10代前半はゴシックに傾倒していたんですよ。「音楽的に親には許されないだろうな」と隠れて聴いていたんだけど、見つかっちゃったんです(笑)。

──でもそういうのって、捨てられたりすると余計に聴きたくなったりしませんか?

そうそう。捨てられても捨てられても買い集めて(笑)。決めたことはもう絶対にやり通しますからね、子供は(笑)。だから、小さい頃にできるだけ同じエンタメのルーツを持ちたいというか。「あの映画観たよね」「あのライブ行ったよね」というのが親子で共通の記憶として残っていったら、やっぱりうれしいですね。

坂本美雨

──坂本さんご自身も、小さい頃にご両親のお仕事の場に連れて行かれて育ったそうですけど、その頃の体験が自分に影響を及ぼしていることはありますか?

すごくありますよ。スタジオの環境や観に行ったライブの細部もよく覚えていますし、いろんなジャンルの職人さんたちが協力し合って1つの現場を作っているという感覚が、自分にはとても大きな体験でしたね。ステージに立っている親が特別なのではなくて、みんなに光を当ててもらっていることを肌で学んだというか。メイクさんとか衣装さん、舞台監督さん、美術さん、いろんな人がいて、それぞれすごくカッコいいなって。だからずっと、裏方の仕事のほうに興味を持ってましたね。

──では小さい頃は歌手になりたいとは思っていなかったんですか?

そう。大道具とかが好きだった(笑)。あとはスタジオミュージシャンやエンジニアになってみたかったですね。歌は大好きだったけど、自分がデビューしたいと思ったことはなくて。16歳のときに父(坂本龍一)に誘われて、“坂本龍一 featuring Sister M”名義で歌わせてもらう機会をいただいたことで、大きく意識が変わりましたね。父は「試しに1回だけ」くらいの感覚だったみたいですが。

──娘に歌の道に進んでほしい、と思っていたわけではなく。

そう。なので本名ではなくてニックネームでのデビューでした。母(矢野顕子)は大反対してたんですよ。だから「何してくれちゃってんの?」って父に怒ってました(笑)。私に才能があるかと言えばそんなにないと思っていたでしょうし、「甘い世界じゃないわよ」とずっと言われてました。結局最初は父親のプロデュースでデビューという形になりましたけど、基本的には親のコネやらなんやらを使うなんていうのはとんでもないという親でした。厳しくしてくれてよかったな、と今は感謝しています。

「歌が好き」と気軽に言えなかった

──自分が親になってみて、なまこちゃんにはどんな思いを持っていますか? 音楽の道に進んでほしいか、進んでほしくないか。

うーん、特にどちらとも思っていないんですよね。声がハスキーで独特な感じだから、歌うのが好きだったら歌えばいいと思うし。歌に限らないですけど、自己表現の方法はいろいろあったらいいなと思いますね。

──Instagramを拝見していると、「#なまこうたう」というハッシュタグでなまこちゃんが歌う動画が60件以上アップされていたり、なまこちゃんは歌うのがお好きなんだろうなと思っていました。

ね、好きそうですよ。森山直太朗くんの歌が大好きで、よく歌ってますね。でも私が歌うことを仕事にしているから、逆に自意識というのか……照れがあるみたいなんです。

──照れというのは、歌うことに?

そう、「自分よりもっとすごい人がいるから、自分が歌うのは恥ずかしい」みたいな感覚かな。娘はそういう感じが3歳くらいからもうありましたね。その気持ち、私はすごくわかるんですよ。私も子供の頃、歌うことを無邪気にできなかったというか。「歌が好き」とか、気軽に言えないと思っていましたね。

──それは一般家庭の子はなかなか抱かない感覚でしょうね。これまでなまこちゃんと一緒に足を運んだライブやコンサートで、印象的だったものはありますか?

毎年行っていて恒例になっているのは、宮城県の塩釜でやってる「GAMA ROCK FES」。毎回呼んでいただいていて、さらに夫が仙台出身ということもあって、娘が赤ちゃんのときから家族みんなで行ってます。あのフェスはミュージシャン同士も垣根がない感じで、娘もみんなにかわいがってもらって、すごくうれしそうにしていますね。あとは、去年10月にLIQUIDROOMであったクラムボンのメジャーデビュー20周年記念ライブも印象深いです。クラムボンは本当に大事な、20年来の友人なので、彼らの大事なライブを自分の娘と一緒に観たり、ミトくんの子供たちと交流したりしているのが、すごくうれしい光景だったなと思います。なんかこう、同じものを観て、次の世代に歴史がつながっていくという感覚があって。

Wicanのイヤーマフを着用するなまこちゃん。

──感慨深いものがあるでしょうね。

はい。クラムボンは音が大きいときは大きいから、それこそ心配になって娘の耳にティッシュを詰めて防音してました(笑)。あ、9月にあった「ハイライフ八ヶ岳」(山梨・サンメドウズ清里で開催された野外音楽フェス)でもクラムボンと一緒でしたね。そのときは娘と最前列でライブを観てたんだけど、気持ちよくなったのか、3曲目くらいで寝ちゃったの(笑)。

──大きい音に包まれると、逆に子供はコロッと寝たりしますよね。気持ちいいんでしょうか(笑)。

胎児がお母さんのお腹の中で聴いてるのはかなり大きい音って言いますもんね。その感覚を思い出すのかな? 私は爆音のYMOとKraftwerkを母のお腹の中で聴いて育ったので、今でも聴くと気持ちいいんですよね。安心するというか(笑)。