音楽ナタリー PowerPush - ジェッジジョンソン「テクニカルブレイクス・ダウナー」発売記念特集 藤戸じゅにあ×坂本美雨 対談
共鳴し合う15年来の友人
ジェッジジョンソンが約5年ぶりとなるアルバム「テクニカルブレイクス・ダウナー」を発表した。
リーダー・藤戸じゅにあの病気療養のため2011年から活動を休止していたジェッジジョンソンは、昨年行われたライブで復活宣言。SCANDALなどへの楽曲提供で知られるベーシスト・西川響と、元school food punishmentのキーボーディスト・蓮尾理之をメンバーに加え、新体制での再始動を遂げた。その一発目の音源となる本作には、この5年間のケジメと未来に向けた新たな決意がにじんでいる。
今回音楽ナタリーでは、15年を超える旧知の仲であり、NAKED LAMPというユニットも組んでいる藤戸と坂本美雨の対談を実施。ジェッジ復活を肴に多彩なトークを繰り広げてもらった。
取材・文 / もりひでゆき 撮影 / 笹森健一
大好きだったから、どうしても自分のものにしたくて
藤戸じゅにあ 今日は対談っていうか、イジメられそうな気がする(笑)。いいことも悪いことも全部知られてるから。美雨ちゃんは僕の黒歴史も全部知ってますからね。
坂本美雨 そう、だね(笑)。
藤戸 出会いは15年前くらいかな。
坂本 15年以上だよ。私、10代だった気がする。きっかけはcali≠gariの(桜井)青ちゃん。私が青ちゃんと仲良くなって、ジェッジが主催だった「ミルクミックスナイト」っていうイベントによく行ったりしてて。ライブの合間にじゅにあはDJもやってて、私の好きなAphex Twinの曲をかけてたの。そこで「あ、この曲!」みたいになって、いろいろ話すようになったんだと思う。
藤戸 うん。そこからごはんを食べに行ったりする遊び友達になったんだけど、2004年にはジェッジの「Ridham M」(2004年12月発売のアルバム「DEPTH OF LAYERS DOWNER」に収録)でコーラスをやってもらって。……あれがもう11年前か、恐ろしい!(笑)
坂本 それも友達付き合いの中でっていう感じだったよね。すっごく好きな曲だったから「私に歌わせてほしい!」みたいな感じで。
藤戸 もともとあの曲は美雨ちゃんをイメージして作っていたんですよ。だから「歌ってくれたらいいな」って俺も思ってたんだよね。そこからはジェッジのライブに美雨ちゃんが歌いにきてくれたりすることも多くなって。
坂本 で、同じ頃に出たアルバム「DEPTH OF LAYERS UPPER」(2004年2月発売)の「Opus And Mayverse」という曲も私は大好きだったから、どうしても自分のものにしたくて(笑)。自分の3枚目のアルバム「朧の彼方、灯りの気配」で歌わせてもらったんです。さらにもう1曲、楽曲提供もお願いして。
藤戸 そこらへんからアーティストとしての付き合いも始まった感じだよね。「Opus And Mayverse」も実は美雨ちゃんをイメージして作ったものだったんで、気に入ってくれるかなと思ってたら、どストライクだったっていう(笑)。歌いたいって言ってくれたときはもう二つ返事でOKしました。
俺、めっちゃ心配されてるんですよ
──友達から始まった関係とは言え、アーティストとしてお互いにシンパシーを感じていたということなんでしょうね。
藤戸 うん、それはすごくありました。美雨ちゃんの声やメロの使い方、歌詞の入れ方にはシンパシーも感じるし、自分にとっての憧れでもあるんですよ。近しい友達でありつつも、クリエイターとして尊敬しているので。
坂本 うれしい。私もじゅにあの作るメロディ感や声がまずすごく好きで。あとはね、ライブで歌ってるときの痛々しい感じっていうのかな、そういう雰囲気は他の人にはないところだなって思うんです。アーティストとして孤独な人だなあって感じさせるところが興味深いというか(笑)。
藤戸 見抜かれてる(笑)。
坂本 だからね、仲良くなってからも、そういうところをもっと知りたいなってすごく思った。付き合いたくはないけど(笑)、もちろんそこには尊敬もあるし、どこかではちょっと心配なところもあるし、みたいな気持ちですね、ずっと。
藤戸 俺、めっちゃ心配されてるんですよ(笑)。
──どんな部分で心配なんですか?
坂本 例えば女の子に対する幻想というか、そういうのが歌詞によく出てくるから、「いやいや女はそんなんじゃないよ!」とか(笑)。あとは、人間と向き合う上で、自分の生々しいところ、人間くさいところをもっと見せていかなくて大丈夫なのかなっていう心配もあったり。
藤戸 あははは。社交的な人間ではあるんですけど、正直に言います。女性がけっこう苦手かもしれないです(笑)。
坂本 苦手ですよね(笑)。
藤戸 2011年くらいに、美雨ちゃんも含めた仲間同士で高尾山に登ったことがあるんですけど、そのときも登山中、延々ディスられてましたからね。女性を見る目を磨けと。早くいい子を見つけろと(笑)。
坂本 あははは(笑)。そうだったね。自分のことは棚に上げて……ですけど(笑)。
藤戸 ただ、そんな美雨ちゃんの存在は、ジェッジの歌詞世界にすごくリンクしていたところもあって。リアリティを持った考え方をするんだけど、同時にどこか遠くを見ているような雰囲気もある。しかも、決してネガティブに物事を捉えず、必ず希望を見ている。ある種、少女性と少年性の両方を持っているその感じが、僕の書く曲との親和性がすごく高かったんです。だからこそ、彼女のことをイメージして曲を作ることが多いんですよね。
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- ニューアルバム「テクニカルブレイクス・ダウナー」2015年5月20日発売 / 3024円 / UNITED TRAX/BELLWOOD RECORDS / BZCS-1124 / Amazon.co.jp
- 「テクニカルブレイクス・ダウナー」
収録曲
- the Ruler and Savant
- KRUNK
- アルター・エゴ
- 雨上がりの空の下で
- In Laboratory
- 瓦礫の森
- My Arsenals
- Loaded Ingram
- ドミニオン
- the Ruler has never seen another world
- ソナチネ
- SketchBook
- 忘れる魔法
- ふたりをつなぐもの
- Armillary sphere
- 青の連続
- AFTER ALL
- My Little Steps(Ground Final of BREAKS)
ジェッジジョンソン
藤戸じゅにあ(Vo, G, Programing)を中心に1990年代より活動開始。打ち込みを多用した“エレクトロロック”で注目を集め、2004年にUKプロジェクトよりCDデビューを果たす。同年に発表されたアルバム「DEPTH OF LAYERS UPPER」「DEPTH OF LAYERS DOWNER」はカナダおよびブラジルのカレッジチャートで2位を獲得するなど海外でも好評を受け、2008年にはキングレコード内のロックレーベル・UNITED TRAXからメジャーデビュー。「Discoveries」「12WIRES」「SOLID BREAKS UPPER」と年1作のペースでアルバムをリリースするも、藤戸の病気による長期療養で2011年12月よりしばらく活動が休止された。2014年4月の東京・UNIT公演で正式に活動再開を宣言し、同時に蓮尾理之(Key, Programing / ex. school food punishment、SEAGULL SCREAMING KISS HER KISS HER)と西川響(B, Programing)が正式メンバーとして加入。現在はギターとドラムのサポートを含めた5人体制で活動している。2015年5月にニューアルバム「テクニカルブレイクス・ダウナー」をリリース。
坂本美雨(サカモトミウ)
女性シンガー。1997年1月に「Ryuichi Sakamoto featuring Sister M」名義でデビューし、1998年から本名での音楽活動を開始する。透明感あふれる歌声が高い支持を集め、1999年発表のシングル「鉄道員」は映画「鉄道員(ぽっぽや)」の主題歌に採用された。2010年からはエレクトロポップ路線のサウンドを追求し、同年5月にアルバム「PHANTOM girl」、2011年5月に「HATSUKOI」を発表。2012年8月のアルバム「I'm yours!」ではKREVAとのコラボレーションでも話題を集めた。2013年6月に15年間のキャリアをたどる初のベストアルバム「miusic ~The best of 1997-2012~」を発表し、2014年3月には蓮沼執太をプロデューサーに迎えたアルバム「Waving Flags」をリリース。2015年3月には蓮沼執太クルーとのコラボレーションによるライブの模様を収めた初の映像作品「LIVE "Waving Flags"」が発売された。また大のネコ好きとしても知られており、2014年12月に上梓された初の著書「ネコの吸い方」は独自の着眼点が話題を集めロングセラーとなっている。2014年3月にブックディレクター兼編集者として活躍する男性と結婚。まもなく第1子が誕生する。