音楽ナタリー Power Push - 水曜日のカンパネラ

コムアイの次の一手

コムアイ
コムアイ
コムアイ

多様性を選びたいから、
戦争の歌は絶対に歌いたくない

──お台場のフリーライブ(参照:コムアイ救急車で突入!水カン「uP!!!NEXT」はなんでもありな一夜に)のときのコムアイさんはステージにいる時間が短くて、ライブ中にお客さんの間を走り回っていましたよね。あのときお客さんがコムアイさんを追いかけていたのが面白かった。お客さんの目線どころか足まで動かしてて(笑)。

次はどこへ行くかを常に考えてて余裕がないから、みんなが付いて来てくれてるのには気付かなかったんですけど(笑)、お客さんは動いてくれたほうがいいですね。フエルサ・ブルータっていうアルゼンチンのサーカス団を観たことがあるんだけど、ステージも座席もない倉庫みたいなところで、いきなり上から人が空中ブランコみたいなものに吊るされて降ってきて、驚いてたら会場の真ん中に動く歩道みたいな台が出現して、その上の人たちが下に落ちたり後ろに引っ張られたりして消えていって、そっちに目を奪われてたらまったく反対側で、壁を覆ったカーテンの上を女の子2人が天井から吊られながら体を横にした状態で追っかけっこしてたり、お姉さんが泳いでる透明のプールが天井から降りてきて観客が触れるくらいの位置まで来たり。それがすごく面白かったから、私が動いたらそこがステージになる、みたいなのは全然ありだと思ってるんです。どこで観ていても、そこが急に特等席になったら楽しいっていうか、うれしいよなと思って。四角く囲ってあると、そこにいるべきなんじゃないかっていうアフォーダンスが働いちゃうんですけど、あっちこっち動き回って、みんなも追いかけるのが当たり前って感じのライブにできたら、何が起こるかわかんなくなってもっと楽しくなりそうですよね。

──コンサートというよりアトラクションみたいな。以前「私は何か主張があってやってるわけじゃない」って言っていましたよね。今のお話はそのことと関係があるんじゃないかと思うんですが、コムアイさんがステージ上から届けたいものは何ですか?

みんなを驚かせたい。ショック療法というか、ビックリさせることで、「こう来るんじゃないか」とか「この人はこういう人かな」っていうみんなの思い込みが1回ゼロに戻る感じがすごく好きなんです。思考停止してただ楽しむっていう、原始的な人間に戻れる気がするので。そういう方法として「驚かし」を使ってるところはありますね。あとはさっき言ったみたいに、これも方法なんですけど……いや目的かな? 何かの景色が見せられたら、それで世の中がよくなると思ってます。そういうほうが説教したりするよりよっぽどいい、と思いたいですね……うん、思いたい。自分が好きな世の中のイメージを少しずつ出していければと思ってて。前のツアーで私が乗ったお神輿には脚がいっぱい付いてて、その脚には黒人から白人までいろんな肌色のバリエーションがあるんです。もはや人間じゃない色もありましたけど(笑)。

──多様性の象徴ですね。

あれはちょっと意味がわかりやすすぎるんですけど、目の前に選択肢が現れたら、白1色よりは多様性を選びたいですね。レイシストですごくいい音楽を作る人もいるけど(笑)、もし私が戦争讃歌を歌えって言われたら絶対にイヤだってなると思うし。よっぽど情勢が悪くなったら、両手に手錠をかけられた姿でテレビで戦争讃歌を歌いたいです。

コムアイ
コムアイ

自分で全部作りたいわけじゃない

──2016年はテレビでの活躍も目覚ましかったですね。以前インタビューで「突然目の前に現れてみんなを揺さぶることが一番できるのはテレビだ」って言って、テレビ出演へのモチベーションの高さをうかがわせていましたが。

いっぱい出ましたね! 2016年は仕事もいっぱいしたけど休みももらって、理想的な1年でした。1月は勉強っていうほどじゃないけど卒論のために能のことを調べたりして幸せだったし、2月にLAに行って「LAの人たちはこういう感覚で生きてるんだな」っていうのを見れたのもよかった。そうやって2カ月丸々遊んで、3月に「SXSW」に行ってからすごい勢いで動き始めて、海外の人たちと「UMA」を作って。2017年は音楽制作のペースは少し緩めると思います。このままだとケンモチさん死んじゃうから(笑)。

──その代わりにやりたいことは?

写真とか使って面白いことしたいなとも思うし、街を使って何かやってみたい。ゲリラっていうか現象として。それをカンパネラの活動の1つとして見てもらえるようにしたい。あと、ライブの印象が今、奇抜とか度肝を抜くとか紹介されていますが、全然言い当ててないと思う。Flaming Lipsが好きなので、バカバカしいのは扉で、その奥にあるサイケデリックな多幸感や祝祭感が、水曜日のカンパネラの印象になるはずだと確信していて、しかももっと丁寧に歌うこと自体で人を気持ちの渦に陥れたいし。そういう風に印象を塗り替えてもらえるように、精進しようと思います。あと、別に自分で全部作りたいって思ってるわけじゃなくて、自分の名前で世に出すものに満足できてそれを作ったスタッフたちに感謝できれば、それでいいです。最近関わってくれる面白い人が増えてきたのでうれしいです。もっといっぱい見つかるといいな。

コムアイ