ナタリー PowerPush - WEAVER
壁を乗り越えるパワーをくれたファンの笑顔に応えたい
神戸出身の3人組ピアノロックバンド、WEAVER。彼らが配信限定でリリースした「キミノトモダチ」(2010年12月~)と、「『あ』『い』をあつめて」(2011年2月~)が、レンタル限定シングルとして1枚のパッケージにまとまることになった。スタッフによると、これは楽曲に多くの問い合わせが寄せられた結果だという。それだけWEAVERの音楽をいろいろな形態で楽しみたい人が多かった、という証だろう。
今回ナタリーでは、その2曲について3人にインタビュー。また、神戸から上京して本格的に活動をスタートさせた2010年についても冒頭でじっくり振り返ってもらった。アルバム3枚、パッケージシングル1枚、ダウンロードシングル2枚という精力的なリリース展開の裏では、苦悩やもがきなども各々が経験した模様。だが、それらを乗り越えた現在の彼らは、またひとつ高いステップへと到達できたようだ。
取材・文/川倉由起子
東京公演に見た光景が大きく自分を変えた
──まずは皆さんの2010年について振り返らせてください。年末には数々の音楽賞の新人賞を受賞したことも話題になりましたが、改めてそんな1年を振り返っていかがですか?
杉本雄治(Vo, Piano) やっぱり強く感じるのは、自分たちの音楽に対する姿勢や、何を届けたいのかってことが、より具体的になった年だったんじゃないかなって。デビュー前はそれが抽象的だったというか、なんとなくイメージで考えてる部分が強かったんですよ。それがメジャーデビューして、たくさんの人に音楽を届けられる機会を得て、自分たちはどこに向けて作ったらいいんだろう?ってことを実感しながら活動することができたんです。
──その、“どこに向けて”の矛先とは?
杉本 それはもちろん、ずっと変わらず“お客さん”ですね。
河邉徹(Dr) でもその気持ちは、去年秋の全国ツアーを通して少し変わりましたね。今まで行ったことのない土地でも本当にたくさんのお客さんが観に来てくれて、その(フロアの)光景を見たとき、「この人たちが笑ってくれるなら、自分たちはもっとがんばれるな」って。「この人たちに、ちゃんと音楽を届けたいな」って思えたんです。
──河邉さんは東京公演、かなり感動してましたもんね。
河邉 はい、あのときはマジ泣きしてしまいました(笑)。「ライブをやれて俺らがうれしいはずなのに、なぜこんなに喜んでくれてる人たちが目の前におるんやろ!?」ってすごい不思議で。でも、そこで得た感触は自分の糧になっていったと思います。
──ライブなどを通して、ファンの皆さんへ向かう気持ちのベクトルがよりくっきり強くなったと。奥野さんはどうでした?
奥野翔太(B) 1年を通していろんな壁があったり、もがき苦しんだこともあったんですけど。でもそれと同時に、周りのスタッフさんやファンの皆さんの温かさも知って、僕らはすごく恵まれてるんやなって思いました。
──もがき苦しんだ、というのはどういう部分で?
奥野 やっぱり、3人だけでやってたインディーズのときとは全然違いますよね。さっき杉本が言ったように、昔は「自分たちの音楽って?」「誰に向けて作ってる?」っていうことを、そこまで考えずにやってたんです。でもプロとしてデビューしてからは、やっぱりそういうことも考えていかないとダメだし、その過程でちょっと思い悩んだりすることもあったんです。あとは、「Hard to say I love you~言い出せなくて~」のときも、新しい楽器を入れることに不安がすごくあって……。
──全体的に、ダイナミックなストリングスサウンドが印象的な仕上がりになっていましたよね。
杉本 はい。最初はやっぱり「(WEAVERは)ロックバンドでないといけないんじゃないか」みたいな思いがみんなにあって、3人以外の楽器を足すことに抵抗があったんです。やっぱりバンドとしての理想を持っていたので、そこからズレてしまうんじゃないかと悩みました。
河邉 自分たちの本当に大好きな音楽を、正直もうやれへんのかなって考えたこともありました。
杉本 あの曲を作り終わったあと、自分を見つめ直す時間を結構持てたんですよ。自分のことを考える時間というか。それまでデビューして必死にやってきて「自分たちはこうあるべきだ!」とか、まだ何もでき上がってないのに勝手に決め付けてしまってる部分があったのかなって。でも、そんなときスタッフさんが「まだまだ何もできてないんやから、何も考えずにどんどんチャレンジしたらいいやん」ということを言ってくれたんです。ライブをしててもお客さんがそういう思いを強くさせてくれたりしたし、そこからは自分らが勝手に作ってた壁を壊して前に進めたんじゃないかなって思います。
奥野 自分らがやってることは正しいんかな? って悩むこともありましたけど、僕も河邉と同じで、東京公演に見た光景が大きく自分を変えましたね。あの日、目の前でお客さんたちが僕らの(デビュー)1周年を祝ってくれて。一緒に喜んでくれてる姿を見たら、自分たちがやってきたことは間違いじゃなかった、この景色を見るために今までがんばってきたんかなって思って。ファンの方のパワーはすごい原動力になるんやなって改めて思いました。
今はロックでもポップスでもジャズでもいい
──そんな1年を経て、現在の心の状態はどんな感じですか?
奥野 まぁ、今もまだいろいろ悩むことはあるんですけど(笑)。バンドとしても、音楽力とか全然まだまだやと思うし、だからこそ今は本当にいろんなことに挑戦して、たくさんのことを吸収していく時期やなって思ってます。ジャンルについても、ロックでもポップスでも、ジャズでもいいし……って今は考えられるし。この1年の経験があったから広い視野が持てたんやと思います。今は前よりももっと自由に音楽がやれてるのかなって気がするんです。
河邉 僕も悩んだりすることは、もちろん今でもあって。例えば歌詞を書くときだと、“思いのカタマリの状態”と“それを磨いたり砕いたりして作品のカタチにしたもの”の違いですね。僕は自分の思いをいっぱい込めた前者を誰かに見せて「良くないですか?」って思うんだけど、それを他人が客観的に見ると「なに? この石ころ」とか「これは全然作品じゃないよ」って見えたりすることがあるんですよ。だから、思いを込めてたらいいってわけじゃなく、それをちゃんと作品にすることの難しさは今もずっと感じていますね。ただ、去年痛感したその経験を、今年の作品にはどんどん生かしていきたいと思います。
杉本 僕はもっともっとたくさんの人に伝えたいっていう思いが、この1年で本当に大きくなりましたね。でもたぶん……基本的に僕ら、あまり難しく考えすぎちゃいけないのかなって気がするんですよ。
──えっ、それはどういう意味で!?
杉本 考えすぎるとね、ガチガチになっちゃうところがあるんです。
奥野 自分らの中に閉じこもって、全然前に進めなくなる(笑)。だからあまり考えずに……とは言っても、やっぱり考えてしまうんやろなぁ。
杉本 そうやなぁ(笑)。
CD収録曲
- キミノトモダチ
- 『あ』『い』をあつめて
<特典映像>
CD-EXTRA「『あ』『い』をあつめて」ショートフィルム
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WEAVER(うぃーばー)
杉本雄治(Vo, Pf)、奥野翔太(B)、河邉徹(Dr)の3人からなるピアノロックバンド。2004年に高校の同級生同士で結成され、2007年に現在の編成となる。神戸を中心に活動を展開し、ライブ会場限定で自主制作盤を発表。2009年3月には神戸VARIT.にて初ワンマンライブを敢行し、大成功を収める。同年8月には夏フェス「SUMMER SONIC 09」にも出演。10月にはA-Sketchより配信限定シングル「白朝夢」でメジャーデビューを果たし、デビュー翌日にはflumpoolの日本武道館公演でフロントアクトを務めた。メンバーの卓越した演奏テクニックと、ピアノの音色が印象的なメロディアスな楽曲が魅力。2010年2月にはメジャー1stミニアルバム「Tapestry」をリリースし、その低価格(980円)を含め話題となった。