輪入道|高校の文化祭をジャックして「ラッパーになりてえ」と叫んだ少年は今

すべてはクソ野郎だった俺の自業自得

──意外な組み合わせが「YELL feat. eill」。SKY-HIさんの曲にフィーチャリングされたことでも知られるシンガー・eillさんが参加した、女の子へエールを贈る楽曲です。

輪入道

これはかなり新しいことをやりました(笑)。eillさんは去年10月に彼女のデビューミニアルバム「MAKUAKE」のプロモーションでbayfm「輪入道の暴走ぱんちらいん」に出てくれて初めて会ったんですけど、「この人めちゃめちゃ売れるだろうな」と思ったので、すぐオファーしました。どんなトラックが好きか聞いたら元気が出る感じということだったので、それを踏まえてmaria segawaさんという広島の女性のトラックメーカーにお願いして。フェスで流れていておかしくない感じのトラックがいいなと思ったので、それに合わせてリリックを書きました。

──SKY-HIさんも千葉出身ですよね。

市川ですね。俺と同じ千葉でもここまで違うかみたいな(笑)。eillさんがラジオに来てくれた前日、一緒にスタジオに入っていたそうで。翌日が僕で本当に申し訳ないですって謝っておきました(笑)。

──輪入道さんは昨年後半は心身共に大変な時期だったそうですが、「自業自得」を聴いて何があったんだろうと思いました。この曲でラップしているのは、ここ最近の話ですよね?

3rdアルバムを作り始める直前ですね。去年6月に「自分はこのままでいいんだろうか」と思ってレーベルのマネージャーを変えたんです。それから3カ月くらいでまた戻ってもらったんですけど、その期間の話です。これ、ちょっと俺の表現力不足で、クビにしたまま終わったみたいに聴こえると思うんですけど、今は戻ってますので。すべてはクソ野郎だった俺の自業自得ってことです。

──戻っていると聞いて安心しました。

こないだ地元でライブをやったときに、この曲でめちゃめちゃ盛り上がったんです。たぶんみんな、俺には聞けないけど絶対気になってたんだろうな。そのとき、この曲に出てくるマネージャーが物販でCDを売ってくれてたんですけど、「恥ずかしいから歌うんじゃねえ」って言われました(笑)。

小学生たちの目だけを意識してればいいんだ

──その「自業自得」に続くのが「HAPPY BIRTHDAY」ですが、この言葉を3rdアルバムのタイトルに冠したのはなぜですか?

先に曲があってアルバムのタイトルにしたんですが、1stアルバム「片割れ」も2ndアルバム「左回りの時計」も日本語だったので横文字にしようか、くらいの感じで特別深い意味はないんです。ただ、「HAPPY BIRTHDAY」という単語は俺にとってすごく身近なんですよ。昔から友達や先輩の誕生日にいきなり電話してびっくりさせるのが好きで。向こうは何かあったのかとびっくりするけど、俺はただ喜んでほしいからやってるんです。だから俺を昔から知ってる人は、なぜこのタイトルにしたのかわかると思います。

輪入道

──輪入道さんにとっては挨拶代わりの言葉なんですね。

そうです。これがもし「HAPPY WEDDING」だったら、みんなから「どうした!?」って言われたんでしょうけど(笑)。

──アルバムタイトルが「HAPPY WEDDING」だと、女性をナンパする葛藤を歌った「函館夢花火」は絶対入れちゃいけないですね。ヒット曲「徳之島」に続いてライブで訪れた街をフックアップする曲かと思って聴いたら、全然違ったという(笑)。

こんなきれいなトラックで歌うことじゃないですね(笑)。「函館夢花火」はライブで初めて歌った場所が函館だったというだけで、函館の話ではないんです。「徳之島」を出したばかりの頃に函館に呼ばれて行って、「次は『函館』って曲を作ります!」って勢いで言っちゃって。その約束を果たせないまま1年後にもう一度函館に呼ばれたので、ちょうどできたばかりだったこの曲を「函館夢花火」ってタイトルにしたんです。

──saltyさんがトラックを手がけたラスト曲「BLACK」は、ここから何かが始まる予感に満ちた曲ですね。

「BLACK」はこれから外側に1人のラッパーとして出ていく気構えを歌っているので、これを最後に置いたことにすごく意味があると思ってます。「俺らが出てきたところはブラックカルチャーなんだ」っていうのをちゃんと最後に言っておきたかったので。「ヒップホップなんて音楽じゃない」と言われてた時代もあったじゃないですか。それに対して俺らの世代から本当に逆襲してやりたいって気持ちですね。

──それを聞いて今後の展開が非常に楽しみです。最後に「フリースタイルダンジョン」の2代目モンスターとして輪入道さんを知った人も多いと思いますので、バトルについてどんなふうにお考えですか?

自分はバトルから出てきた人間ですけど、「なんであんなに勝ててたんですか?」って聞かれても全然わかんないんです。とにかく朝から晩までバトルのことだけ考えて、頭の中でずっとフリースタイルをやってる感じだったんで。「フリースタイルダンジョン」に出るようになってしばらくの間は自分がどうしていいかわからない時期もあったんです。モンスターって何を求められているんだろうとか、自分のどこを認められてここに立っているんだろうとか。ただ、あの番組を観ている小学生がけっこういることがわかってからは、気持ちはずいぶん変わりましたね。批判とかへイターとかは気にせず、低年齢層の目だけを意識してればいいんだって開き直ることで、悩みから抜け出せた気がしています。バトルと音源は別物ですけど、そういう経験を経て作った「HAPPY BIRTHDAY」は、今の自分にとってすごく自然なアルバムだなと思っています。