10代最強ラッパーを決めるフリースタイルMCバトル「第5回激闘!ラップ甲子園」の第5回決勝大会が8月に神奈川・CLUB CITTA'にて行われた。あいにくの悪天候のため無観客での開催となったが、そんな状況をものともせず16人のファイナリストたちは激しいバトルを連発。ラッパーとしての誇りと賞金100万円を懸け、存分にその魂をぶつけ合った。以下にその模様をレポートする。
取材・文 / ナカニシキュウ撮影 / 曽我美芽
よりシンプルになった大会レギュレーション
決勝大会の出場者数は、前回大会の24名から16名に変更された。第1回・第2回大会と同様の枠数に戻った格好だが、これによってトーナメントの決勝戦が三つ巴戦ではなくなり、1対1の対決となる。
ファイナリスト16名の内訳は、全国6地区(北海道、東北、関東、東海、関西、九州)で行われた予選大会の優勝者、「激闘!ラップ甲子園 モンスターバトル」および「激闘!ラップ甲子園 Under-15大会」の優勝者、“激ラ選抜”と呼ばれる選抜選手。これらに加え、今大会には東海大会のMVR(Most Valuable Rapper=最優秀ラッパー)も参戦する。
なお、九州大会の覇者・yamalow_が体調不良により出場を辞退したため、代わりにShamisが激ラ選抜枠で出場権を獲得。また、本来であればワイルドカードマッチ(当日の開会前に行われる敗者復活戦のようなもの)の勝者1名が決勝に出場できるレギュレーションだったが、悪天候の影響でワイルドカードマッチ自体が開催中止に。激ラ選抜枠を急遽もう1人増やすこととなり、Ghinoが選抜された。本戦開始前から何かと波乱含みの様相を呈していた。
対戦ルールは例年通り、1on1での8小節×3ターンのフリースタイルバトル。対戦ごとにラップスキルやリリック内容などが総合的に評価され、5名の審査員がそれぞれ優勢と判定したほうの札を上げる。上がった札の多いほうが勝利となる明快なシステムだ。今大会の審査を務めるのは、FORK(ICE BAHN)、呂布カルマ、輪入道、Benjazzy、Fuma no KTRの5名となっている。
すべての対戦を勝ち抜いて頂点に輝いた優勝者は、トロフィーに相当するゴールドディスクと賞金100万円を手にすることになる。また、勝敗にかかわらずソニー・ミュージック賞に選ばれた選手には、TOKYO MXで放送中のテレビ番組「激闘!ラップ甲子園への道」のテーマ曲の楽曲制作権が与えられる。
波乱の幕開け
観客のいないフロアの光景にMCのカミナリらも若干の戸惑いを見せてはいたが、ステージは予定通りに幕を開けた。オープニングアクトのSirogaras、L.B.R.L、楓によるTOKYO MX「激闘!ラップ甲子園への道」テーマソング「SHUGYO」、そしてL.B.R.Lによる初のソロ曲「Error」のパフォーマンスに続いて行われたのは、8歳の小学生ラッパー2名によるエキシビションマッチ。まだ小さな子供とは思えないほどの確かなスキルが審査員たちを驚かせた。
十分にムードが高まったところでいよいよメインイベントたるトーナメント戦がスタート。16名のファイナリストたちが選手紹介VTRとともに1人ずつステージに姿を現したのち、さっそく第1回戦の火蓋が切られた。
結果は上記の通り。楓や知葉瑠など優勝候補との呼び声も高かった大会常連メンバーをはじめ、牙a.k.a.ANTMOTHやTaizen、T4kqといった決勝大会経験者が軒並み初戦敗退を喫する波乱の幕開けとなった。中でも、第1回大会からもれなく決勝進出を続けている唯一の存在・楓は今年をラストイヤーと位置付けての参戦だっただけに、よもやの敗戦に言葉もない様子だった。
とはいえ、輪入道審査員が「無観客じゃなかったら結果は違っただろうなというバトルが多かった」と評した通り、いずれの対戦でも大きな力量差は認められず、実力は拮抗していたと言っていい。10代ラッパーたちのパフォーマンスレベルは年々上がり続けており、今回初めて本大会に携わるBenjazzy審査員が思わず「こんなにレベル高いんだ?って驚いた」と舌を巻いたほど。
呂布カルマ審査員が1回戦ベストバウトに挙げたChriscoul×Zefar戦およびT4kq×森月竜戦、Fuma no KTR審査員が「3ヴァース目で評価が覆された」と評した虎伯×D-nut's.戦など、初戦らしからぬ名勝負も数多く繰り広げられた。番狂わせが多かった要因については、FORK審査員が「(常連メンバーは)求められるものが大きくなりすぎているのでは」との見解を示した。
スコア以上に実力拮抗の2回戦
続く2回戦は、全員が「激ラ」決勝大会初進出者というフレッシュな顔ぶれとなった。くしくも、時を同じくして開催されていた“本家・甲子園”こと第106回全国高校野球選手権大会においても準々決勝までに優勝経験校がすべて敗退し、「どこが勝っても初優勝」という大会になったが、ある意味それと似たシチュエーションが実現したことになる。
2回戦はこのような結果となった。決勝大会最年少のD-nut's.は、「モンスターバトル」でChanceを下し、「高校生RAP選手権」に続き先ほどの1回戦でも楓に土をつけた実力者・Tricky Vickyと対戦。埼玉県勢同士の戦いは、互いに地元愛を絡めたリリックで意欲的に噛みつき合う白熱の展開となり、僅差でD-nut's.が勝利を収めた。
続く第2試合は、仙台からやって来た激情系ラッパー・NoNが、東海大会でMVRを獲得して特例での決勝大会進出を果たしたOWGを「えこひいき」と一刀両断にするも、終始相手を見下す態度でいなし続けたOWGに軍配。ラップスキルとリリック内容は拮抗していたが、相手のファッションがGUで買ったものであることを瞬時に見抜いて服装の話題に持っていくなど、OWGのインパクトある展開力が評価された形だ。
日本人の血は入っていないものの生まれ育った大阪を誰よりも愛するChriscoulと、「第18回高校生RAP選手権」の覇者・Shamisの対決は、互いに「俺は俺のスタイルで戦う」という揺るぎないアティテュードをハイレベルなラップスキルでぶつけ合う一戦に。結果的には満票でShamisの勝ちとなったが、いずれの審査員も迷いに迷った末の判定だったようだ。
続いて、熱いバイブスで畳みかける思想家ラッパー・森月竜は、飄々とビートを乗りこなす技巧派・Ghinoと対戦。一見噛み合いそうにない2人だが、ヒューマンビートボックスも披露するなど自由なスタイルで音楽を楽しむGhinoに感化されてか、次第に森月も楽しそうに体を揺らしながら言葉をグルーヴさせていく。甲乙つけがたい一戦に思えたが、結果はまさかのスイープ。呂布審査員は「すっごい難しかった。最終的には好みで決めたけど、両方すごくよかったです」と両者に賛辞を送った。
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4人が存分に個性を出しきった準決勝