湾岸の羊インタビュー|ロッカーたちが“トラベリング・バス”で全国ツアー、過密スケジュールでも 「自分のことは自分でやる」

湾岸の羊~Sheep living on the edge~の全国ライブハウスツアー「湾岸の羊~Sheep living on the edge~ RISING SUN TOUR 2024 -HARD CORE TRAVELING BAND-ROCK'N ROLL JOURNEY」が9月から10月にかけて開催される。

「RISING SUN TOUR 2024」は湾岸の羊にとって初の全国ツアー。9月8日の神奈川・Thunder Snake ATSUGIを皮切りに、10月19日の東京・クラブeXまで全24公演で構成される。そんな過密スケジュールの中、メンバーは道中の様子を撮影しながら、“トラベリング・バス”で各会場を回る。いろいろな意味でロックと言えるこのツアーで、彼らが伝えたいメッセージとは。HIRØ(MC / カイキゲッショク、ex. RISING SUN)、TATSU(G / GASTUNK)、REDZ(Vo, G / AURA)、CHARGEEEEEE...(Dr / カイキゲッショク、ZIGGY)、Ryo-Ta(B / Omega Dripp、蟲の息)にサポートメンバーのONODUB(Manipulator)を加えた6人に話を聞いた。

取材・文 / 秦野邦彦撮影 / 入江達也

ライブ情報

湾岸の羊~Sheep living on the edge~ RISING SUN TOUR 2024 -HARD CORE TRAVELING BAND-ROCK'N ROLL JOURNEY

湾岸の羊~Sheep living on the edge~「湾岸の羊~Sheep living on the edge~ RISING SUN TOUR 2024 -HARD CORE TRAVELING BAND-ROCK'N ROLL JOURNEY」

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我慢せず言いたいことを言った結果

──音楽ナタリーのインタビューは昨年7月の1stアルバム「2020 Rising Sun」リリース時以来、1年ぶりの登場となります(参照:湾岸の羊~Sheep living on the edge~ 1stアルバム「2020 Rising Sun」特集)。その後、10月に東京キネマ倶楽部でのワンマンライブ、年越しイベント「50+1 New Year Rock Festival 2023-2024」、今年4月にはYouTube公式チャンネルでの無料配信ライブ「歌舞伎町アンプラグド」もありました。「歌舞伎町アンプラグド」ではホストの売掛問題やそれに伴う人身売買について取り上げ、そういった問題が頻発している新宿歌舞伎町でライブやデモンストレーションを行いました。まずはこの1年を振り返っての思いを聞かせていただけますか?

HIRØ(MC) やっぱりアルバム「2020 Rising Sun」を出してから、すごくバンドらしくなってきましたね。

REDZ(Vo, G) うん。メンバーのキャラクターが際立ってきたり、絆が強くなってきたり、すごく感じるね。

HIRØ 今年の頭に“焚き火トーク”をやって本当によかったなと思ってるんです。メンバーと長い時間を過ごした2023年を経て、みんなで集まって火を囲みながら「どうだった?」と話して。そこで話題に上ったホストの売掛問題の話が「歌舞伎町アンプラグド」につながりました。ツアーの話も出て、実現を目指して行動する。すごくいい形だと思いますね。

HIRØ 年齢やキャリアを重ねてくると、言いたいことがあっても「まあいいや」で済ますことがある。でも、このバンドは「みんなぶつかってもいいから言おう、溜めるのはやめよう」と決めて。雨降って地固まるじゃないですけど、我慢せず言いたいことを言って、ポジティブに解決することをこのバンドで実践してきました。

REDZ 内に秘めてても伝わらないですからね。メンバー間でぶつかっても、ちゃんと意思表示して、最善策を模索していく。これがすごくよかったですね。

Ryo-Ta(B) それぞれライブに向けてのルーチンやモードがあるので、今までは気を使って深く話し合うことがなかったんですけど、話し合いを重ねたことでリラックスできるようになって、逆にメリハリがつきやすくなったかなと思いました。

──濃いメンバーに囲まれて。

Ryo-Ta 濃すぎて前が見えないですから(笑)。

REDZ さっき取材前にRyo-Taがいいこと言ってたね。「湾岸の羊は1人ひとりが“パワースポット”だ」って。湾岸やってると、いろんな側面を要求されるんです。バンドとして、演奏だけじゃなく、発言も写真もカッコよくなきゃいけないとか。なので気が引き締まるし、湾岸のときはいつでも本気モードになれますね。当たり前のことなんですけど、このバンドは特に。

HIRØ 内田裕也さんがよく「ロックやってるやつは太っちゃダメだ」と言ってたんです。カッコいい演奏やステージングはもちろん、ちゃんと会話もできて、体を鍛えてビジュアルでも魅せる。以前、裕也さんがライブのリハーサルのときにステージ前のモニタを見て「ロックンローラーは頭のてっぺんからつま先まで見せなきゃダメだ。全部どけろ!」ってモニタを全部どけさせたんです。いざ音を出したら「おい、聞こえねえじゃねえか!」って(笑)。

REDZ ストイックにならざるを得ない。だってライブやってると、すぐ「脱ぐぞ、裸祭りだ!」ってこともあるわけじゃない?(笑)

まさか俺たちがアンプラグドをやるとは

──「歌舞伎町アンプラグド」では歌舞伎町からアンプラグドライブとデモンストレーションの様子をリアルタイムで無料配信しました。

HIRØ さまざまな社会問題に立ち向かうことはレベルミュージック的なもので、納得がいかない不条理なものに対して声を上げようと感じたときに、その思いがバンドを続けていくモチベーションになっていくんです。

TATSU(G) いろんなタイプのバンドがいますけど、僕は意志のない人の作る音楽からは何も感じなくて。やっぱり強い意志があってこそ真のアーティストになれる。この湾岸のメンバーはみんな“意志の塊”みたいな人たちだから、HIRØを中心に志を持って活動できてるんだと思います。

HIRØ 新宿区から音量の問題でストップがかかって、「アンプラグドでやろう」と言ったら本当にできましたね。まさか俺たちがアンプラグドでライブするとは思わなかったよね。CHARGEEEEEE...がロックなカホンを叩いてくれて。

CHARGEEEEEE...(Dr) やってみて思ったのが、湾岸は音楽に真剣に向き合っているからこそ、アンプラグドでもみんなの心に刺さるライブができたなって。

REDZ 伝えたいメッセージがあるから。

Ryo-Ta ONODUBさんのサウンドも、めちゃくちゃいい雰囲気でしたよね。

HIRØ 「狼煙」のイントロのカッコよさったらないよ。あれはヤバかった。

──ONODUBさんはデモテープの制作時からご一緒されてますよね。

ONODUB(Manipulator) 自分で言うのもなんですけど、「オリジナルメンバーと一番近い距離で湾岸の魂を一番感じながら制作できたのは自分です」と言い張りたいぐらい(笑)。

ONODUB(Manipulator)

ONODUB(Manipulator)

HIRØ マチガイナイ!

ONODUB ライブ経験は少ないかもしれないですけど、湾岸の魂をみんなに届けたい思いは人一倍あるので、その都度できることを精一杯やっています。「歌舞伎町アンプラグド」のリハーサルではCHARGEEEEEE...くんに引っ張ってもらいながら、このステージならではの音楽制作を経験させてもらいました。

スケジュールを見て絶句

──初の全国ライブハウスツアー「湾岸の羊~Sheep living on the edge~ RISING SUN TOUR 2024 -HARD CORE TRAVELING BAND-ROCK'N ROLL JOURNEY」が9月にスタートします。約2カ月で24公演というのは、かなりハードなスケジュールですね。

ONODUB 思えば、僕が18歳で最初に働いたのがライブハウスなんです。照明係だったり、チケットのもぎりだったり、受付だったり。ハードかもしれませんが、あの頃の空気を思い出しながらの全国ツアーは楽しみです。

HIRØ 昨年の東京キネマ倶楽部のライブでは、映像とか特効を使ってミュージックビデオの世界観にどれだけ近付けるかをすごく意識して作らせてもらいました。最初は「このショーケースライブを日本全国いろんな街でやりたいね」と話していたんですけど、TATSUが「いや、そうじゃなくて、ライブハウスという空間で演出もなしにガチで勝負しようよ」と言い出して。みんなで話し合って最終的に「TATSUの案で行こう」と決まったんです。

TATSU ライブハウスに集まってくれた人がいて、僕らがいる。あの狭い空間でしか起こらないケミストリーに期待したかった……とは言ったものの、スケジュールを見た瞬間、絶句したね。休んでる暇がない。

REDZ もともと湾岸の活動はライブハウスみたいなところで己と楽器のみで作るステージから始まってるので、TATSUがそう言ったとき、すぐ僕も賛成したんです。俺たちなら、演出なしでも湾岸の音楽を表現できるって。

HIRØ それプラス、新幹線じゃなく車で全国を回ろうと決めました。トランクには楽器とメッセージとロマンと気合いを積んで……。

REDZ CHARGEEEEEE...がツアー慣れしてるから、こっちがちょっとヌルいことを言うと「何言ってるんですか? 自分のことは自分でやんなきゃダメですよ」って。

CHARGEEEEEE... このスケジュールだと、相当の覚悟がないと回りきれない。オフの時間にどうやって気持ちを切り替えるか、どれだけ体を休められるかも考えた結果、みんなの前でいいパフォーマンスができるんです。ツアー中に誰かしらが悩み始めたりするので、メンバーそれぞれの心をケアするために声をかけ合うことがすごく大事なんです。

HIRØ 衣装を管理するためにスタイリストさんを1人だけ連れて行こうか、と言ったらCHARGEEEEEE...に「何言ってるんですか? 自分たちでコインランドリーですよ」と怒られた。初心を思い出させてくれるから、さすがだよね。

REDZ うん。いろいろ教えてもらわないとな。

HIRØ 理想はメンバーだけで車を運転して全国を回りたかったんですけど、せっかくだから道中もカメラを回したいじゃないですか。となると、映像スタッフ、PA、ツアーマネジメント、アーティストマネジメント……最低でも4人はスタッフが必要。その人数だとバンやワゴンじゃなく中型バスじゃないと乗り切れないという話になって、マネジメントの2人が「俺たちが運転しますよ」と教習所に通って中型免許を取ってくれたんです。スタッフが一番本気でしたね。

CHARGEEEEEE... スタッフが気合い入ってると、メンバーも燃えますよね。今回は自分たちが演出をするしかない。

REDZ いいじゃん。このメンバーは自分たちで演出するの得意じゃん。

CHARGEEEEEE... 自分たちでイチから作るライブのほうが生の俺たちの魂を感じられるよって、それを伝えに行きたいですね。