湾岸の羊~Sheep living on the edge~ 1stアルバム「2020 Rising Sun」特集|新たな夜明けに響き渡る、魂の叫び

HIRØ(MC / カイキゲッショク、ex. RISING SUN)、TATSU(G / GASTUNK)、REDZ(Vo, G / AURA)、CHARGEEEEEE...(Dr /Omega Dripp、カイキゲッショク)、Ryo-Ta(B / Omega Dripp、蟲の息)によるハードコアロックバンド・湾岸の羊~Sheep living on the edge~が、7月12日に1stアルバム「2020 Rising Sun」をリリースした。

2015年より数々の実験的ギグを行い、満を持して12曲入りのアルバムを完成させた彼ら。音楽ナタリーではバンドにとって初のリリース音源となった「REBORN」が先行配信されたタイミングで5人にインタビューを行い、メンバーとの出会いやこれまでの道のりを語ってもらったが、2回目のインタビューとなる今回は、アルバム楽曲の制作過程や作品に込められたメッセージについて深掘りしていく。ロックシーンの礎を築いてきたレジェンドたちの魂の叫びを、アルバムを通して受け止めてほしい。

取材・文 / 秦野邦彦撮影 / NORBERTO RUBEN

ちょっとはいい人になれたのかな

──湾岸の羊~Sheep living on the edge~、待望の1stアルバム「2020 Rising Sun」がついに完成しました。前回の取材でも制作中の話を伺いましたが(参照:湾岸の羊~Sheep living on the edge~「REBORN」インタビュー)、制作開始から約3年半の年月をかけたという作品の熱量に圧倒されました。多くのロックファンに聴いてほしい作品ですが、「2020 Rising Sun」というタイトルにはどういった思いが込められているのでしょうか。

HIRØ 我々がこのアルバムを作り始めた2020年、そして2020年代のRISING SUNという意味でタイトルを付けました。2020年代に入ってから本当にいろんなことがあったじゃないですか。そういう意味で“新しい日の出”になればという願いを込めて。前回お話させてもらった通り、RECチームの一員として参加したJODY天空(RISING SUNのオリジナルメンバー)も含めて、ここにいる全員RISING SUNとしてステージに立ったことのあるメンバーなんです。RISING SUNは僕が1996年に結成して、25年以上前からある“看板”で、みんながどう受け入れてくれるのか読めないまま発進した部分もあったんですが、作り終わった今、きれいにランディングできたかなと思ってます。

──今回のアルバムはRISING SUNの頃からパフォーマンスしていた曲も含まれていますが、湾岸の羊のリリックやサウンドとしてまったく新しいものに生まれ変わっています。

HIRØ そもそものアプローチから違いますから。RISING SUNが2001年にアルバム「ATTITUDE」を発表した頃は、蹴飛ばされたら噛み付いてやるぞみたいな、文字通りアティチュードだけでやってたところもあったんです。このアルバムを聴いてもらえればわかると思うんですけど、すべてポジティブなメッセージやバイブスで曲を終わらせたつもりです。かつて俺はどうしようもない悪いやつだったんですけど、いい人になりたくて、いい人のふりをずっとしてきたんです。心の中で「この野郎!」と思うことがあっても、とにかくポジティブに考えていたら、ちょっとはいい人になれたのかなって。だからこのアルバムに込めたメッセージに嘘偽りは1つもないんです。このアルバムができたことで少しまたいい人に近付けたかなと俺は思ってます。

TATSU それはさ、HIRØが人生の痛みとか苦味とか、いろんなことを知ったからできたことだよね。俺も俺なりにHIRØのポジティブな姿勢にすごく影響されて変わってきてるし。それはHIRØの人への向き合い方がすごく美しかったからだよ。アルバムのレコーディングはサウンドと歌入れを並行してやったから、「ああ、HIRØはこんなリリックを書いて歌を入れてるんだ」って感じながらギターを弾いて。

TATSU(G)

TATSU(G)

REDZ TATSUの言う通り、今回のアルバムは曲も未完成な状態でどんなフレーズを弾くか決まってない中、レコーディングしながらだんだん形にしていく作り方だったんです。で、やっていくうちにHIRØから「ここでREDZの声が欲しい」と言われて。「すでにカッコいいのに俺の声がここに入ってどういうふうに表現したらいいのかな」と思いながらも歌ったら、「いいよ、いい。全然その声でいい」とHIRØが言ってくれたんです。HIRØのボイスの迫力が半端ないから、いい意味でコントラストとして引き出される部分があって。「もっといける、もっとシャウトしてよ」って、ダメ出しもされながら全身全霊で声を出しました。できたものを聴いて、ちゃんとこの楽曲のパーツの1つとして意味を成してるなと実感できたし、自分の可能性を引き出してもらえたなとも思う。このアルバムで新しい境地を開けた気がしますね。

Ryo-Ta HIRØさんのポジティブな部分には僕もすごく影響を受けました。長い制作期間でいろんな経験をさせてもらって、至らないところもいっぱいあったんですけど、一番よかったのは、みんな僕より先輩だけど同じ目線で接してくれて、同じように意見を言い合えたことです。年齢やキャリア関係なく、当たり前のように自由にやれてる環境の中、改めて俺が好きなロックってこういうものだよなとアルバム制作を通して感じましたね。

CHARGEEEEEE... HIRØさん的にも満を持して、このタイミングだからこそできたアルバムだという思いは絶対にあると思います。僕がHIRØさん、REDZさんと出会った13、4年前にこのアルバムを作るぞって言われていたら、ドラムの技量や音楽への理解度、人との付き合い方も含めて、たぶん足りてなかったと思うんです。あれから僕もたくさんのアーティストの方といろんな音楽をやってきて、もちろん楽しいことばかりではなく悔しい思いもしながら努力を重ねてきたから、培ってきたドラムの技量には自信はある。だから今、このタイミングでレコーディングできたことが僕の中でとてつもなく大きくて。HIRØさんの言葉、TATSUさんのギター、REDZさんの歌とギター、Ryo-Taのベース、1人ひとりの人生の重さに対して、今の僕のドラムだったら絶対に応えられる自信があったし、湾岸の羊は楽曲の幅も広いので、正確なビートだったり、金物の繊細な使い方だったり、精魂込めてレコーディングさせてもらいました。

TATSU あと、これは言っておきたい。僕は40年前からオリジナリティを追求しながらいろんなバンドでやってきたんですけど、基本的にはハードコアから始まってるし、湾岸の羊はハードコアだと思っているんです。伝わる人には伝わってると思うんですけど。あえて言わせてもらいます。

言いたいことを言い合って作れてよかった

──レコーディング中は、音作りに妥協しないメンバー同士のやりとりもたくさんあったそうですね。

REDZ 「LOST CHILD」はライブでもやってた曲だから比較的早く仕上がるかと思ったけど、一番時間がかかったかもね。TATSUがまず「YES」と言わない。Ryo-Taに「それじゃダメだ、違う」って。

TATSU 僕がこだわったのは単純にイントネーションですよ。上モノがどうであれ、軸になるベースが正しくないと。そこはシビアに。

Ryo-Ta 今回のアルバムはTATSUさんと一緒に練ったベースラインも入ってます。TATSUさんはプロデュース業もやってるから、いろんな引き出しを持っているので、すごく勉強になりました。あと「Children's #189」のベースはドロップDでやってます(音をヘビーにするため、6弦をDの音に下げたチューニング方法)。この曲のニュアンスを自分なりに考えて研究した結果、これが合うんじゃないかと思って。

HIRØ 「Children's #189」のRyo-Taのベース、めちゃくちゃエモいよね。

CHARGEEEEEE... やりとりでいうと僕も意外とけっこうダメ出ししてました。「TATSUさん、ここのバッキングもうちょっとバキッとしてください」とか。

HIRØ CHARGEEEEEE...が「とりあえず1回聴きましょう」と言うから、聴いたんですよ。「ほら、TATSUさんとHIRØさん、ズレてるじゃないですか」って。俺、何も言えなくなっちゃった。確かに俺が走ってんな、と。

CHARGEEEEEE... さっき話したように音楽的にしっかりしてこそ湾岸の羊の作品だと思っているので、「いや、俺は立場的に言えないな」とかじゃないなと思ったんです。

HIRØ バンドで気を使い出したり、言えなくなっちゃうのって一番致命的だもんね。そこは“言う愛”を自覚して、リトライできることが大事だから。

CHARGEEEEEE... ファンだけじゃなく数多の音楽家たちも聴くわけだから「この音、緩いな」なんて絶対に思われたくないし、このメンバーでやる以上音楽的にヤバイものに絶対しなければいけない気持ちがあったんで。HIRØさんが選んでくれたミックスエンジニアのコリン(・スズキ)さんも含めて全員が最強でなければ絶対このアルバムは完成しなかったと思うので、言いたいことを言い合って作れてよかったと思ってます。

REDZ あと、僕としては、今回のアルバムはTATSUのいろんな面が出てると思うんです。「LOST CHILD」のカッティングの感じとかAメロのアプローチとか、よくこんな音が出せるなと思うし。横で見てて、改めてTATSUのギターは唯一無二だなって。確かに粗い部分もあるけど、その粗さがまたすごくいい。

HIRØ 説得力のある粗さだからね。「都会の森」もREDZのリフにTATSUのギターが入ると一瞬にして荒野が目の前に広がったし。

REDZ 「都会の森」のMVでHIRØの背後に広がる“新宿の目”のカットを見たとき、俺、すぐHIRØにメッセージしたじゃない? 「めちゃくちゃカッコいいよ」って。あのギターはTATSUのルームスタジオで一緒に録音したんです。自分のストラトを持って行って、TATSUが音を録ってくれて。今回のアルバムには、俺がTATSUのフライングVを借りてバッキングを弾いた曲もあるよね。

TATSU 「BAD BOY」のイントロだね。あれはREDZの癖があるから、僕には弾けない。

LASTで打ち止めた「BAD BOY」

──「BAD BOY」も20年以上の歴史がある曲ですね。音源になっているものだけでも2003年の「BAD BOY」、2016年に配信リリースされた「still BAD BOY」、そして今回の「LAST BAD BOY」。“LAST”と銘打たれていることが感慨深いです。

HIRØ 最初の「BAD BOY」を2002年にTATSUと一緒に作って、そのあとREDZがアレンジしてミドルテンポになったんだよね。

REDZ 2008年の年末、TATSU以外の4人でRISING SUN名義で「NYRF」(「New Year Rock Festival」)のステージに出たときにアレンジしたんですけど、俺は「BAD BOY」の原曲を聴くまで、あんなに速い曲だと思ってなかったんだよね。

REDZ(Vo, G)

REDZ(Vo, G)

TATSU 曲は作ったけどレコーディングには参加してなかったから「めっちゃ速くなってる!」と思った(笑)。HIRØのリリックも言葉が増えてるし、めっちゃ韻踏んでるし。

HIRØ 「BAD BOY」は俺たちのアンセムでもあるから、アルバムにも入れようということになりました。じゃあタイトルは何がいいかと考えた結果、前回“still”だったから、“LAST”で打ち止めますかって。まあ、そこはプロレスラーの引退と一緒で、この先「BAD BOY RETURNS」とか「BAD BOY FOREVER」とかあるかもしれないですけど(笑)。

──「RISE UP」は、長野にあるJODY天空さんのスタジオで合宿したときのレコーディングから生まれた曲だと前回の取材で伺いました。

TATSU 「RISE UP」は2テイク録って、1回目と2回目で曲の展開が違ったじゃん? REDZがソロでギター弾くのか、歌に重きを置くのかで方向性を変えて。

REDZ 早朝の一発録りでしたね。まさかこういう形でアルバムに入るとは思わないまま、いつもライブでやってるメンバー紹介みたいな感じで進行していたんです。あのときは寸前までギターソロで行くか歌で行くか迷っていたけどやっぱりここは歌だなと。半ば強引にアームブレーキをかけバラードチックに持っていったという。みんながついて来てくれてよかったよ(笑)。

TATSU CHARGEEEEEE...とRyo-Taのコンビネーション、バッチリ合ってたもんね。さすがだった。