レジェンドたちが集うハードコアバンド・湾岸の羊~Sheep living on the edge~が音に注ぐ、鮮烈なメッセージとは (2/2)

なんでもいいから生きようよ

──ここからは1stアルバムからの先行配信第1弾としてリリースされる「REBORN」についてお聞かせください。かなりハードな内容のリリックですよね。

HIRØ 湾岸の羊~Sheep living on edge~というバンド名は、現代社会に生きるさまざまな人を羊に例えて問題提起するというコンセプトが由来なんですけど、僕が書くリリックの柱としては、なるべく自分の半径数メートルで感じたことを大事にしたいと思っています。今回の「REBORN」という言葉には両局面あると思うんです。1つはどうしても耐えられないことから逃れるための「REBORN」。「闇金ウシジマくん」とかを読んでいると、こんな世界もあるんだってつくづく思うんですよ。新宿に、ホスト狂いした女の子が何人も飛び降りているビルが実際にあるんですけど、ゲームみたいに死んでリセットしようと思っても、生まれ変われないんだよということを俺はすごく言いたかった。「REBORN」のもう1つの側面は、犯してきた罪や繰り返した過ちで未来が全部決まるわけじゃないということ。明日から自分がいい人に生まれ変わって、罪を償えるのか……そのツーウェイで書かせてもらったんです。だから「I'm gonna take my gun.」「I'm gonna kill myself.」というリリックは過去の自分との決別であり、同時にスーサイドをストップさせるための言葉なんです。

──MVの終盤、HIRØさんが自分の頭を銃で撃ち抜く映像は衝撃的でした。

HIRØ そのあと、もう一度「TRY.」って巻き戻すシーンを入れているんです。あそこは監督と何度も話し合ったんですけど、「とにかく死んだら終わりだよ、なんでもいいから生きようよ。生きてれば明日何かいいことあるかもしれないし、続けていれば絶対報われるよ」ということを真っ先に伝えたかったんです。だから「REBORN」をアルバムの先行配信の1発目に決めました。

REDZ HIRØから「『REBORN』のミックスができたよ」と送られてきたサウンドを聴いて、これはやばいなと感じました。HIRØのボーカルもキレッキレだし、CHARGEEEEEEとRyotaのグルーヴもすごいし、TATSUが手の込んだ音を追求してアンサンブルを組み立ててくれていて。さっきCHARGEEEEEEが言った通り、“理屈じゃなくてカッコいい”音を感じたから、すごくうれしい気持ちになったんです。今後の展開を考えると本当ワクワクしますね。

CHARGEEEEEE それぞれの魂が持った音を最終的に託すのはミックスエンジニアじゃないですか。どれだけいい歌を歌って、いいギターやベースを弾いても、ミックスがダメだと伝わらない。そんな中、コリンは僕たちのキャラクターと音をちゃんと理解してミックスしてくれているのがすごく伝わってきたし、しかもただ良質な音じゃなく、いい感じの荒さもあって。本当に湾岸の羊のことをわかってくれていて、そこがとてつもなくでかいと思いました。特に湾岸の羊はジャンルを超えたバンドなので、メタルっぽいとかハードコアっぽいイコライザーの作り方をしたところでダメだと思うんです。曲の世界観ごとに最適なイコライザー具合に変えないといけない作業をここまでやりきってくれたコリンに感謝ですね。

Ryota 「REBORN」はちょっと落ちてるときとかに聴くと、たぶんいい響きになるだろうなって。ネガティブに考えると「死ぬことで人生をリセット」という方向になるけど、ポジティブに「やり直せる」と考えれば、もっと気楽に生きられるじゃないですか。そういうきっかけの曲だなって思いますね。一方的に決めつけるんじゃなく、いいところと悪いところを自分で切り替えるスイッチを押してくれる曲になっています。

HIRØ ちなみに「REBORN」の中で獣の鳴き声が聞こえるの、わかります? あれ実際のライオンの咆哮なんです。僕の奥さん(AI)が全国ツアーをやっているとき、子供がまだちっちゃいから僕も一緒に全ツアー帯同して、その合間に子供を連れて動物園に行ったら、ライオンがずっと咆哮していたんですよ。これは珍しいから録るしかないなと思って。5月配信の「Merry-Go-Round」のファンファーレの音は東京ドームシティの音。6月配信予定の「都会の森」には朝5時のニューヨークのセントラルパークの音、夕方のロサンゼルスのダウンタウンの音が入っているんですけど、それも効果音のサンプルから引っ張ってきた音じゃなく、すべて僕が録ったリアルな音を使っています。

湾岸の羊~Sheep living on the edge~「REBORN」配信ジャケット

湾岸の羊~Sheep living on the edge~「REBORN」配信ジャケット

湾岸の羊がロックシーンのカンフル剤になったらいい

──そうした音楽的展開や仕掛けが用意されていることもあって、「REBORN」は5分38秒という長さを感じなかったです。7月のアルバムに向けて、これから毎月1曲ずつ配信されていくわけですが、4月12日に配信される「LOST CHILD」では激しい高速ドラムが聴けますね。

HIRØ それこそさっきの話じゃないけど「LOST CHILD」の最後、ライブではきっとみんな裸になってるよね(笑)。

CHARGEEEEEE “裸になってほしい”アピールをHIRØさんからされるので(笑)。「脱ごうよ、脱ごうよ」って。

TATSU 俺はいつも知らない間に……。

HIRØ  CHARGEEEEEEもそう言いながらけっこう一番先に脱いでるよ(笑)。

REDZ 逆にCHARGEEEEEEは裸のイメージしかないよね。

HIRØ パンツ一丁で、しかも裸足。ステージだけじゃなくてスタジオでも。

TATSU でも、CHARGEEEEEEの場合、スタジオの雰囲気を何も壊さないんだよね。

CHARGEEEEEE それめっちゃ言われます。歩いてても座っててもナチュラルにパンツ一丁(笑)。

──TATSUさんのギターは80年代からのメタルとパンクを融合させたスタイルだったり、本当にサウンドの幅が広いですね。

REDZ そうそう。この取材前に同じことを僕も言っていたんです。TATSUはパンクヒーローだけど、メタルも入ってるよねって。そう感じますよね? TATSUのことを好きなギターキッズはいっぱいいるし、それでいて危険な香りがムンムンじゃないですか。

HIRØ 「都会の森」で2人の奏でるギターの完成度はすごいですよ。異なるタイプの切なさと悲しさ。

REDZ 僕はずっと憧れてたからね、TATSUに。高校生の頃、初めてこの人は本物だって思ったのがX(後のX JAPAN)のTAIJIで、その次がTATSUなんだよね。表面的じゃないカッコよさがあって、オーラが漂ってる。90年代頭、当時付き合った彼女が音楽を聴いてて、ギターソロがかかった瞬間「これ誰?」って聞いたら「JACKS'N'JOKERのTATSUさんだよ」って。「えっ、TATSUなんだ! このギター、すごいな」というのがリアルな体験としてあって、いつか絶対会ってみたいなとずっと思っていたんです。

TATSU その彼女に会ってみたいね(笑)。

REDZ (笑)。HIRØが主催する「六本木水曜会」で、TATSUを知っている後輩に「今度紹介してよ」って話したその2時間後、新宿を歩いていたら偶然目の前からTATSUが歩いて来たという。余りにもオーラがすごくてまともに自己紹介もできなかったけど、つながったな、みたいな。この湾岸の羊のメンバーは得体が知れないというか、日本ではあまりこういうタイプのバンドっていないですよね。

HIRØ 今はみんなクリーンですし、ちゃんと人間らしく生活してますけどね。俺は嫁と付き合いだした頃、「あんたやっと人間になったね。あの頃のあんた人間じゃなかったよ」って言われてたもん。ただ、人に迷惑かけちゃいけないというのは当然なんだけど、みんなもっといろんな人生を経験しておいたほうがいいよね。特にロックやってる人は。

REDZ そうだね。

HIRØ やっぱり危険な香りといいますか、そういうのって魅力的じゃないですか。この間の「NYRF」50周年の出演者は、ロックバンドとヒップホップのバランスで言うと、もしかしたらヒップホップのアーティストのほうが多かったかなというぐらいになって。今はヒップホップのアーティストのほうがロックしてんじゃないかなと思う気持ちもあるんですよね。

TATSU パンク全体のことはよく分からないけど、普通にデザイナーズブランドもパンクファッションの影響を受けて、いろんなものが世に出てるじゃないですか。一流ブランドから何から。そういう時代だってことですよ、単純に。パンクも筋金入りで何十年もずっと貫いてきてる人たちもいれば、明るく楽しくパンクロックやってる若い子たちもいるし、いろいろなので。そういう意味ではヒップホップのほうが危険かもしれない。

HIRØ 今のヒップホップ、すごいもんね。BEEFとかじゃなくガンガン攻撃するし。まあ、湾岸の羊に関しては音を聴いて、MVを観ていただくのが一番いいですね。“都会派ハードコア・ロックバンド”を名乗っていますけど、都会派の部分はどうしても隠しきれないと思うんです。僕の若い頃のホームは六本木のガスパニックというクラブで、そこはDJがガンズ(Guns N' Roses)流して、レッチリ流して、いきなりRISING SUNを流すような不思議な空間だったんです。そこで日本の女の子に悪さするディスリスペクトな外国人がいたら、つまみ出したり……。

REDZ HIRØの体つき半端なかったからね。「BURST」で「六本木水曜会」の記事を初めて読んだとき、「ここやばそうだな、行きたくないな」って思いましたね。だけど本人に会うととても魅力的な人だなあって思いました。

HIRØ 六本木は特殊な街で、そこでサバイブするためにいろんな体験をしてきたので、決して粋がった言葉ではなく、リアルな言葉だと思って受け取ってもらえたらうれしいです。

REDZ 声出し解禁の動きも進んできているし、ライブをやるにもベストタイミングですよね。焦らず、こだわってやってきてよかったなと思います。今の日本のロックはちょっと寂しい感じだと言われてますし、湾岸の羊が1つのカンフル剤になったらいいですね。

プロフィール

湾岸の羊~Sheep living on the edge~(ワンガンノヒツジ)

HIRØ(MC / カイキゲッショク、ex. RISING SUN)、TATSU(G / GASTUNK)、REDZ(Vo, G / AURA)、CHARGEEEEEE(Dr / OMEGA Dripp、カイキゲッショク)、Ryota(B / OMEGA Dripp、蟲の息)からなる“都会派ハードコア・ロックバンド”。2015年より数々の実験的ギグを行い、2023年7月に満を持して1stアルバムをリリースする。アルバム発売に向けて、3月より「REBORN」「LOST CHILD」「Merry-Go-Round」「都会の森」と4カ月連続で楽曲を先行配信する。