ヴィジュアル系になる要素ゼロの杉本善徳
──La'cryma Christiは活動を続けた結果、「ヴィジュアル系四天王」とまで言われる存在になりました。
SHUSE そうですよね。でも、「Break Out」で注目されると「乗っかった」みたいな見え方になるんですよ。あの番組のために俺らみたいなバンドができて、「そこに出演しているバンド」のように見えるっていうか。
杉本 順番は逆なのにね。
SHUSE 僕らはただマイペースな活動をしてきた中にその番組が食い込んできて……ということやってんけど。だから、あの番組がブームになって、時流に乗ったバンドみたいな言われ方をされるのは心外だし、正直そういう見られ方は邪魔だった。自分たちの音楽をちゃんと育てていって、その特定のジャンルとしての人気を得たかったの。シーンが盛り上がるのは全然いいと思うねんけど、別にお茶の間になる必要はなくて。お茶の間じゃないじゃないですか、BOØWYも。
杉本 BUCK-TICKとかも違いますしね。
SHUSE そうそう。お茶の間じゃないバンドもいっぱいいるじゃないですか。だけど一緒くたにお茶の間にしようとする動きが生まれて。あれが僕にはすごい邪魔だった。傍から見たら、売ってもらっておいしいじゃんとか思ってたんじゃないかな。俺はその意味じゃイカ天ブームがもう1回来てほしかった(笑)。
杉本 僕らはどちらかというと、アンチヴィジュアル系みたいな感じのバンドだったから。Tシャツ着てメイクも薄めで、パンクみたいな曲ばっかりだったし。ただ、深夜音楽番組ムーブメントみたいなものへの憧れはあって、例えば、僕らがガキの頃で言ったらtvkの「ミュートマジャパン」とか。僕はテレ東の音楽番組「eZ」と「eZ a GO! GO!」で育っていて。「eZ」ってそもそもジャンルは関係ないというか、EPIC・ソニーを中心としたソニー系のセンセーショナルなものであればジャンルは関係なかった。それが詩人の血なのかBAD MESSIAHなのかJUDY AND MARYなのか、エレファントカシマシなのかSPARKS GO GOなのかはわからないけど、それになりたいという気持ちがすごくあった。ああいうなんでも取り上げてくれるものに入りたかったけど、「Break Out」以降はジャンルごとに分かれる感じになっていて。その恨みじゃないですけど、はっきりとしたジャンルになってしまったことで、僕らがヴィジュアル系雑誌に載ってる以上、「どれだけ外れたことをやっていても、ヴィジュアル系って言われるんだな」というふうにはなっちゃった。ジャンルとしての言葉がなかった頃にやりたかったっていう憧れはありました。
SHUSE 「eZ」っ子なんだ。
杉本 完全にそうですね。
SHUSE 今の話だけだったら、ヴィジュアル系になる要素がゼロなんですけど(笑)。
杉本 ないんですよ(笑)。僕も本当にずっとそう思ってるんです。ただ、僕は唯一ファンクラブに入ったアーティストが黒夢で。でも、黒夢も別にヴィジュアル系として好きだったという感じではあんまりないからなあ。
「POISON RAIN」が一番好き
SHUSE 化粧をすることになったインスパイアはなんだったの? ヴィジュアル系の元が何かって言ったら、1970年代のグラムロックから枝葉がいろんな形になっていくわけだけど。
杉本 深夜の番組を観ていて、こういうのが面白いなとか憧れるなと思ったアーティストが中性的だったんです。詩人の血もそうだったし。
SHUSE いわゆるヴィジュアル系ではないけど。
杉本 これも「eZ」からですけど、岡村ちゃん(岡村靖幸)もそうじゃないですか。なんて言っていいかわからないですけど、やっぱり性を超越している感じがあるというか。岡村ちゃんの「Out of Blue」ってデビュー曲のMVを観たときの感じとか……僕はいまだに映像作品を作るときはそれを見せて「僕がやりたいことはこれ」っていう話をするぐらいなので。「女性になりたい」はまったくないけど、「男性ではないもの」に憧れてたんだろうなっていうのはありますね。
SHUSE ヴィジュアル系と言われる音楽を聴き始めたのは?
杉本 楽器を始めてすぐの頃にバンドブームみたいなのがあったんですけど、僕はギターを弾くより前に打ち込みをずっとやってたので、学校内でバンドをやってるやつらが「こういう曲を俺たちのオリジナルでやりたいから、曲を書いてよ」とLUNA SEAのCDを持ってきたんですよ。オリジナルなら自分で書けよって話なんですけど(笑)、それでインディーズ盤の「LUNA SEA」を初めて聴いて「何この曲、全部めっちゃ速っ!」と。部屋の掃除がメチャ捗るぞと、まず作業時の音楽になったんですよ。
SHUSE 速いから?
杉本 はい。何か似たような音楽を買いに行こうと思ってCDショップに行ったら、偶然、黒夢のデビュー日だったんです。「迷える百合達 ~Romance of Scarlet~」が店頭展開されてるのを見て、「深夜番組でCM見たわ。あの化粧してるバンドや、これ。よく知らんけど、化粧してるしLUNA SEAと同じよう感じで速いやろ!」と思って。何も知らずに買って帰って、「迷える百合たち~」の2曲目の「棘」を聴いたとき、めちゃくちゃカッコいい!と思ったのが、僕が黒夢を好きになったきっかけでしたね。そこからどんどん、1つのジャンルの中でもこんなに違うんだっていうのを知っていった感じだった。
SHUSE そのジャンルに対する魅力も感じるようになって、いつの間にか「俺はSUGIZOさんだ!」ってなったっていう(笑)。
杉本 そういう存在になりたいな、とは思いましたね。
SHUSE 俺らもね、言うたらヴィジュアル系になりたいとかで始まったバンドではないから。だから音楽性は、いわゆるヴィジュアル系と少し違うかもしれんね。
杉本 でも、この間ラクリマのステージをひさしぶりに観て、僕らも当時以上にそのよさがどんどんわかるようにもなってきました。とはいえ、思い出の音楽ってあるから、僕がいわゆるヴィジュアル系様式美を求めてた頃にラクリマを初めて聴いた当時は、やっぱり「POISON RAIN」(1996年のミニアルバム「Dwellers of a Sandcastle」収録)が一番好きだったんですよ。
SHUSE ああ、わかりやすい。そこはみんなハマるからね。
杉本 で、1周回って今も「POISON RAIN」が好きなんですよね。それはたぶん、その頃好きになった感覚が自分に残ってるからで、今新しく出会ったらおそらく「これは僕の中のLa'cryma Christiじゃない」になるんですけど。
SHUSE 「POISON RAIN」は大人になって楽しめる要素もあるからね。ジャジーなパターンとかが多いから。
杉本 そういうのは、この間めっちゃ思ったなあ。俺も大人になったもんだみたいな感覚はありましたね。
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ラクリマファンがWaiveの追い風に




