VIDEOTAPEMUSIC×折坂悠太|ボーダーラインを越えて響き合う歌声

1人ひとりのブルースみたいなところにフォーカスしたかった

──今回のアルバムに参加しているボーカリストも、テンションの高い歌い方をする人はあまりいないですよね。

VTM そうですね。強いて言えば(横山)剣さんぐらいかな。そこは僕の好みもあるとは思いますけど、今回は1人ひとりのブルースみたいなところにフォーカスしたかったんですよね。1人対大勢みたいな感じではなくて、1対1みたいな感覚。僕自身、各ボーカリストと1対1で作っていったということもありますし。

──交換日記みたいな感覚?

VTM あ、まさにそういう感じかもしれないです。2人で力を合わせてバーンと派手にやるぞ!という気持ちより、2人で感覚を交わし合いながら作るというやりかたを今回は選んでますね。

──面白いですね。しかも今回は東京だけじゃなく、ソウルや台北、マニラなど海を越えて個人的なやりとりが行われているという。

VTM そうですね。ただ、こういう音楽をやってると旅好きだと思われがちなんですけど、本当はあんまり……(笑)。

折坂 ははは。

VTM ここ最近はかなりインドアだし。

折坂 僕も(笑)。

VTM だからなおさらに自分には音楽があるおかげで外の世界に連れ出してもらって、いろいろな景色を見させてもらっている感覚があるんです。ありがたいことです。

音楽だったら、いろんな境目を飛び越えられる

──折坂さんも近年は韓国など海外でライブをやる機会が増えてきましたね。

折坂 僕にとっても韓国でライブをやった経験はすごく大きいんですよ。韓国で出会った方々、例えば今回のアルバムにも入っているキム・ナウンさんの歌にもすごく刺激を受けました。静かにつぶやくような歌い方なんだけど、つぶやいてる内容が明らかにヤバいという(笑)。言葉はわからないはずなのに、そういう感覚がなんとなく伝わってくるのがすごく面白くて。

──韓国だとイ・ランなんてまさにそういうシンガーですよね。

折坂 イ・ランもそうですね。あんなにエモーショナルな歌を歌う人はいないんじゃないかと思うんですけど、聴こえてくる音は天国みたいな感覚がある。

VTM 以前、折坂さんとイ・ランについて話したとき、「日本語訳された歌詞を知る前に聴いた印象と、歌詞の意味を知ったあとの印象が案外変わらなかった」と言ってましたよね。

折坂 そうですね。フランク・オーシャンにも同じことを感じるんですよ。「たぶん、こういうことを歌ってるんだろうな」と思って歌詞を読んだら、やっぱり遠からずで。最近の海外の音楽を聴いてると、「だよね」みたいに感じることが多いんです。言葉を越えて、先に共感があるような感じがしていて。

VTM ああ、わかる。

左からVIDEOTAPEMUSIC、折坂悠太。

折坂 トラップがなんでこんなに広まっているかというと、トラップってそもそも言葉を分解してノリを作るようなところがあるから、言語による向き・不向きみたいなものがないんじゃないかと思ってるんですよ。

VTM 確かに。言葉の譜割りが不自然でも当たり前みたいな音楽ですもんね。

折坂 不自然なやり方をしてノリを作る技法だからこそ、「この国の言葉じゃないとできない」ということがない。そういうようなことが今、世界中で起き始めてるような気がするんです。

──言語を越えて「だよね」と共感を得られる感覚。

折坂 そうですね。国同士はどんどん境目がはっきりしつつあって、いろんな分断が生まれてるけど、例えばこのアルバムの中ではさまざまな国の人と、作品を通じて縁が作られている。音楽だったら、いろんな境目を飛び越えられるんですよね。それも決して大袈裟なことじゃなくて、平熱でできる時代になってきてるんだと思う。

VTM ある部分で断絶や分断が大きくなっていく一方で、音楽をやらせてもらってる僕らなんかは、すごく平熱で断絶を越えられるようになっていますよね。そういう時代の気分と自分の手法が合致して、今回のアルバムになったという感覚はあります。

折坂 「Stork」の歌詞では、僕もそんなことを書いているんですよ。自分の部屋の外は大変なことになっているけれど、ここでは違うことを考えているという。どこかの国と戦争になりそうになったときも、僕はその国にいる友達のことを思い出している。そういう温度感を歌詞で表現できたらなと思ったんです。

VTM (しみじみと)本当にいい歌詞が返ってきたなと思います。

折坂 今話したような感覚をそのまま書いてますからね。「そのまますぎるな」って思うぐらい。

その人が住んでる場所の景色は無意識に音楽に染み込む

──本当にいい歌ですよね。折坂悠太というシンガーが不特定多数のリスナーに歌っているというよりも、僕に直接語り掛けてくれてるような感覚があるというか。

折坂 韓国でいろんなシンガーを教えてもらったんですけど、その中には言葉はわからないはずなのに、すごく自分に語り掛けてくれてるような人もいた。心から共感できるニュアンスみたいなものがあって、最近はそれをけっこうお手本にしてるかもしれないですね。

VTM (キム・)ナウンの曲にもそれは思いました。韓国にライブに行ったとき、日が暮れるまで漢江の河原でボーッとしたことがあったんですけど、ナウンの歌を聴いたらそのときの感覚が蘇ってきたんです。で、実際に歌詞の翻訳を読んでみたら、「漢江」って言葉が入ってたんですよ。

──へえ!

VTM その人が住んでる場所の景色というものは無意識に音楽に染み込むんだろうなと思いました。フィリピンにも行ったことはないけど、フィリピンに行ったらMellow Fellowの曲の中に新しい風景が見えてくるかもしれないし。そう思うと、知らない町に行くのが楽しみになるんですよ。

ライブ情報

VIDEOTAPEMUSIC "The Secret Life Of VIDEOTAPEMUSIC" Release Tour
  • 2019年8月24日(土)大阪府 246ライブハウスGABU
    <出演者> VIDEOTAPEMUSIC / 折坂悠太(重奏)
  • 2019年8月25日(日)愛知県 名古屋CLUB QUATTRO
    <出演者> VIDEOTAPEMUSIC / 折坂悠太(重奏)
  • 2019年8月31日(土)東京都 東京キネマ倶楽部(※ワンマンライブ)
    <出演者> VIDEOTAPEMUSIC
左からVIDEOTAPEMUSIC、折坂悠太。

※特集公開時より一部表現を変更しました。


2019年7月25日更新