VIDEOTAPEMUSIC×折坂悠太|ボーダーラインを越えて響き合う歌声

折坂さんには“鳥のような人”という印象がある

──今回のアルバムに収められたお二人のコラボレーション曲「Stork」についてお聞きしたいんですが、VIDEOさんはどういう考えをもってこの曲の制作に取り組んでいたのでしょうか。

VTM 「Stork」は英語で「こうのとり」という意味なんですけど、折坂さんには“鳥のような人”という印象があるんですよ。音楽があるから僕はいろんな土地に行くことができるわけで、音楽がなかったらそこにいろんな人が住んでいて、いろんな生活が存在するということにも気付けなかったかもしれないと思うときもあって。国境にしても世代にしても、音楽のおかげで僕はそれを越えていくことができるんですよね。僕は行く先々でVHSをもらったり、映像を撮影したり、フィールドレコーディングをしたりしながら、記録物として土地の記憶を持ち帰って作品に変換するわけですけど、折坂さんはそういうものを自分の身体に宿しながら、また違う土地へとそれを伝えているんじゃないかと思ったんです。

──そういう意味で“鳥のような人”なわけですね。

VTM そうですね。

折坂 僕は何かを収集して、それを元に新しい何かを生み出すようなことができなくて、あくまでも自分の感覚でしか生み出すことしかできない。ただ、その場所にある本質みたいなものを感覚的に捉えるという作業は、案外早いほうかなと思うんですよ。それを自分の中に焼き付けて、持ち帰って、自らの音楽に取り入れていくという。形は違えども、VIDEOさんがやっていることと同じようなことを自分の身体を通じてやってるのかもしれない。

自分よりも先に音楽が現地の人と仲良くなってくれる

──ところで、VIDEOさんの中で、ただの“鳥”ではなく、“Stork=こうのとり”というイメージがあったのはどうしてなんでしょうか。

VTM この曲では(ギリシャの映画監督である)テオ・アンゲロプロスの「こうのとり、たちずさんで」(1991年)という映画をイメージしてたんです。前作以降、海外でライブをやる機会が増えたんですけど、僕は人見知りなので、知らない場所に行くと最初はあんまり人と話せないんですよ。でも、僕よりも先に自分の音楽が現地の人と仲良くなってくれていることがあって(笑)。

折坂 すごくわかります(笑)。

VTM 僕みたいに国境線上にたちずさんで、前に進めずにモヤモヤしてるような人間でも、音楽が先に国境を越えてくれる。音楽が持つ境界線を軽く飛び越えていくような力を、僕は折坂さんの歌に感じているんですよね。そういう気持ちで作った歌を、折坂さんに歌ってもらえたらいいなと思ったんです。

──歌詞は折坂さんが書いているわけですが、VIDEOさんが今話したようなイメージから、歌詞の世界観を広げていったんですか。

折坂 そうですね。

VTM いろんな話をしました。

──今回、折坂さん以外の方々ともそうやってやり取りしながら作っていったんですか。

VTM そうですね。100%お任せした方はいないです。何かしらお題みたいなものをこちらから投げかけさせてもらったんですけど、1曲目の「教えて」という曲は、僕が皆さんにオファーしたときの内容をそのまま歌にしてます。「あなたの見てる街の景色や、あなたがそこで経験した夏を教えてください」というフレーズを僕がそのまま歌っていて。

折坂 へえ(笑)。

VTM 折坂さんにはさっきの「こうのとり、たちずさんで」の話をしたので、ほかの方とはちょっと違いますけどね。そういえば、折坂さんのインタビュー記事を読んでいたら、夏についてコメントしていたものがあって。

折坂 「夏はすべての境界が曖昧になる季節」みたいなことを話してたのかな。夏はめちゃくちゃ汗をかいてどこまでが服でどこまでが肌なのか分からなくなるし、お盆の時期には、生と死の境界線が曖昧になったりしますよね。

VTM 湿気もすごくて、自分と外気の境界も分からなくなるし。

折坂 暑すぎて記憶も曖昧になる(笑)。

VTM 折坂さんのそのインタビューを読んでいたら、夏に対するそういうイメージも自分と共通していてグッときましたね。今回、海外の人たちは夏に対してどんなイメージを持ってるのかなと思って、「あなたがそこで経験した夏を教えてください」という質問を投げかけたんです。(フィリピンの)Mellow Fellowにも同じ質問を投げてみたら、返ってきた歌詞はラブソングっぽかった。そこにも彼なりの夏感が込められているのかなって。

左からVIDEOTAPEMUSIC、折坂悠太。

エモーショナルな感覚の伝わり方が変わってきた

──「Stork」もそうですけど、今回のアルバムは全体的なテンションがちょっと低めですよね。真夏の炎天下というよりも、夏の夕方。低空飛行みたいな感覚を感じたんですが、折坂さんの最近の楽曲にもそういう感覚がありますよね。

折坂 そうですね。僕はいつも「対・人」なので、聴いてくれる人に自分の歌を届けたいという気持ちが強くあるんです。全然自分とは音楽性が違いますけど、ビリー・アイリッシュがなんであんなに受け入れられたかというと、ブツブツつぶやいてるからかなと思うんですよ(笑)。ワーッて歌うのも場面によってはいいんですけど、より低いところで、囁くような歌い方をしたほうが今は届きやすいのかなって。まあ、僕もまためっちゃガナったりするかもしれないですけど、今回いただいたトラックには低空飛行みたいな印象を受けたので、言葉を置いていくようなイメージで歌ってみました。

VTM 最近はイヤフォンで音楽を聴く人も増えたと思うし、バッと迫ってくるものより、抑え目の質感のほうがしっくりくるのかなとは思いますね。

折坂 例えばフェスとかでも、ガーッ!と歌って、それに対してお客さんがウォー!と応えるような反応の仕方じゃなくなってきてるのかな。エモーショナルな感覚の伝わり方が変わってきた感じがする。

VTM そうですね。今の個人的な感覚ですが、強い声よりも、つぶやくような声のほうがエモーショナルに響くのかもしれない。

折坂 歌に関していうと、譜割も大事だと思うんですよ。ただボソボソつぶやいてるだけじゃダメで、それこそトラップの譜割も、その言葉をどう分解するかという部分が面白いんだと思う。最近はそういうことを考えながら曲を作っているところもあります。


2019年7月25日更新