Uru|より自分らしく、新しい色を

Uruが2年3カ月ぶりのニューアルバム「オリオンブルー」をリリースした。

本作にはドラマ「中学聖日記」の主題歌で自身最大のヒット曲となった「プロローグ」をはじめ、「劇場版 夏目友人帳~うつせみに結ぶ~」の主題歌「remember」、テレビアニメ「グランベルム」のエンディングテーマ「願い」、日曜劇場「テセウスの船」の主題歌「あなたがいることで」など全13曲が収録される。前作「モノクローム」に比べ、今回はUru本人が作詞作曲を手がけた楽曲を多数パッケージ。音楽ナタリーでは、新曲を中心に、収録曲の制作についてじっくり話を聞いた。

取材・文 / 須藤輝

2年の間に見つけられた自分の色

──今回の2ndアルバムのタイトルは「オリオンブルー」です。1stアルバムが「モノクローム」(2017年12月発売)でしたから、当然そこには連続性があるわけですよね。

はい。私はデビューする前からYouTubeにいろんな曲のカバー動画を投稿していて、その動画が白黒だったんです。1stアルバムは、その原点からの出発という意味で「モノクローム」というタイトルにしたんですけど、そこから2年経つ間に少しずつ自分なりの色というものを見つけてこられたかなって。あと、いつも応援してくださっている皆さんに「私に似合う色があるとしたら、何色?」と聞いたことがあって、そのときにブルー系が多かったのを参考にさせてもらいました。

──ブルー系にもいろいろありますが、なぜその中からオリオンブルーを?

私はもともと緑が好きなんですけど、オリオンブルーは緑と調和したような青というか、ちょっと緑寄りの青なので。

──事実、この「オリオンブルー」には、「モノクローム」にはなかった色味があります。1曲目の「プロローグ」(2018年12月発売の7thシングル表題曲)からして以前のUruさんの曲とは雰囲気が違いますね。

そうですね。音に厚みがあるというか、ここからまたガラッと変わったかもしれません。

──エレキギターの音が前面に出た、ロックバラードと言ってもいい曲ですよね。この曲は、Special Trackとして14曲目に収録された、澤野弘之さんプロデュースの「Binary Star」(2018年4月発売のSawanoHiroyuki[nZk]の6thシングル「Binary Star/Cage」収録曲)の影響があるのかなと思ったのですが。

ああ、確かに「Binary Star」はこれまで歌ったことのない曲調で、私が出したことがない歌声を引き出してくれた曲ですね。

──「Binary Star/Cage」リリース時の澤野さんのインタビューによれば、レコーディングではUruさんに対して「サビのところで、今まで出したことないぐらいの大声で歌ってください」とディレクションなさったとか(参照:SawanoHiroyuki[nZk]「Binary Star/Cage」インタビュー)。

それ、本当です(笑)。「もっといけます、もっといけますよ」と言ってくださって。なので「Binary Star」は私の歌の引き出しを増やしてくれて、可能性を広げてくれた曲でした。「プロローグ」に関しては、ちょうどまた新しい歌い方に挑戦したいと思っていたところにドラマ「中学聖日記」の主題歌のお話をいただいて、ドラマの制作サイドの方のリクエストとも楽曲の方向性が一致したんです。

──そうだったんですね。この「プロローグ」で、Uruさんの歌もより世の中に浸透した実感って、ありません?

ありがたいことに、皆さんが「プロローグ」を歌った動画をTwitterで報告してくださったり、YouTubeで検索しても歌ってくださった方がたくさんいらっしゃって。この曲が皆さんのもとに届いているという手応えを感じてうれしくなりました。

2019年3月10日に東京・TOKYO DOME CITY HALLで開催された「Uru LIVE『T.T.T.』supported by uP!!!」の様子。(撮影:西槇太一)

“スイッチ”を入れてくれたアーティスト

──この「プロローグ」もそうですが、「オリオンブルー」ではUruさんが作詞、作曲した曲が一気に増えましたよね。

はい。ずっと書き貯めていた曲もあれば、アルバム用に新たに書いた曲もあります。

──作詞、作曲はいつ頃からなさっていたんですか?

動画を投稿し始めた2013年くらいからですね。もともと私は幼い頃にピアノを習っていたんですけど、楽譜を読む弾き方をしていたのでコード弾きというのがわからなくて。なのでカバーするたびに「この曲はどういうコードなんだろう?」と確認しながら動画を上げていて、そこで勉強したというか、自分でも少しずつ曲も作るようになっていきました。

──Uruさんがカバーしてきた曲は多岐にわたっていますが、ご自身の音楽的なルーツってどこにあるんですか?

小さいときから歌が好きだったんですけど、人前で歌うことは……今でもそうなんですけど、あまり得意ではなくて。でも中学生のときの合唱コンクールで、音楽の先生からみんなの前で歌声を褒めてもらったり、友達とカラオケボックスで歌ったり……。

──特定のボーカリストに憧れて歌手を目指した、みたいなタイプではない?

そうですね。たぶん母がすごく歌が好きだったというのも影響しているんですけど、なんとなく歌そのものが好きだったので。だからどこかで「歌手になりたい」という夢を抱いていたものの、自分にとってその夢は大きすぎて現実感がなくなってしまったというか、歌手を目指そうともしていなかったんです。でもあるとき、ちょっと心が疲れてしまったタイミングがあって、そのときスキマスイッチさんのライブを観に行ったんです。もともとスキマスイッチさんは大好きだったんですけど、生で歌われていたのを目の当たりにして、そこでスイッチを入れてもらったというか。

──うまいこと言いましたね。

え? ……あ、ホントだ、“スイッチ”だ(笑)。

──Uruさんの曲にはバラードが多いですが、それはご自身の好みから?

うーん……実は、自分で好きなように歌うときはもっと明るい曲やアップテンポの曲を歌うことが多いんです。でも、例えば「この曲を歌ってください」とか「こんな曲もあります」と皆さんから教えてもらった曲はけっこうバラードが多くて。もちろん私はバラードも好きなんですけど、「私がバラードを歌うと皆さんに喜んでもらえるのかな」というのもあったりします。

2019年3月10日に東京・TOKYO DOME CITY HALLで開催された「Uru LIVE『T.T.T.』supported by uP!!!」の様子。(撮影:西槇太一)

「テセウスの船」の真ん中にあるように

──アルバムの話に戻すと、2曲目「今 逢いに行く」と3曲目「あなたがいることで」はいずれもUruさん作詞、作曲のオーセンティックなバラードが続きます。

「今 逢いに行く」はずっと前からあった曲で。作曲したときのことはあまり覚えていないんですけど、男女間の出来事の想像というか妄想がバーっと広がって、歌詞は一気に書けた記憶があります。

──曲を書くときは、いわゆる曲先ですか?

この曲はそうですけど、場合によりますね。逆のパターンもあれば、メロディと歌詞が同時に浮かんでくるパターンもあります。

──Uruさんって、あまり愉快な歌詞を書くタイプではないですよね。

たぶん、本質的に性格が暗いんだと思います(笑)。だからそっちのほうが書きやすいのかな。

──その中で、「今 逢いに行く」もそうなんですが、わりとつらめのラブソングが多い印象がありまして。先ほど「妄想」とおっしゃいましたが、必ずしもご自身の体験がもとになっているわけではない?

妄想が多いですね。あとは、本を読むのも好きなので、そういう物語に影響されている部分もあるかもしれません。

──ご自身の心情を吐露するというよりも、ストーリーテリング的なことをするほうが多い?

そうですね。もちろん、ある意味で心情を吐露しているというか、どうしようもない、打ち明けようのない気持ちをぶつけたような曲もあって。例えば8曲目の「頑な」がそうですね。この曲は、和氣慎吾さんというプロボクサーのドキュメンタリー番組を観て書いた曲なんです。

──へええ。僕は「頑な」にはUruさんご自身の体験だったり、あるいは「歌手になりたい」といった意志が反映されているのかなと思ったのですが。

なるほど。もしかしたらそういう思いを和氣さんに仮託していたというか、どこかで和氣さんの物語に重ねていたのかもしれませんね。とにかく私はそのドキュメンタリーにすごく感動して、その勢いのままに「私もがんばろう!」と思って書いた曲です。

──言われてみれば、歌詞には「弱さを殴った拳に」のようにボクシングを連想させるフレーズも散見されますね。

そうなんです。でも、聴いてくださる方にとってはそこはあまり重要ではないというか、単純に応援歌として届いてくれたらうれしいです。

──では、3曲目の「あなたがいることで」に戻って、この曲は先の「今 逢いに行く」と歌詞のトーンは近いものがありますが、より希望的で、ボーカルも力強いですね。

「あなたがいることで」はドラマ「テセウスの船」の主題歌にしていただいている曲なので、もうストレートにドラマの脚本などを拝見して作った曲です。歌詞も、登場人物の皆さんの誰にでも当てはまるというか、物語の真ん中にあるようにと思って書きました。

──とても優しい歌詞だと思います。この曲は小林武史さんがアレンジをなさっているんですよね。

はい。私の中で小林さんは、すごく印象的なイントロを作る方というイメージがあって。この「あなたがいることで」にしても、私がお渡ししたデモの雰囲気をそのまま引き継いでくださりつつ、やはり素敵なイントロを付けてくださいましたし、サビでの盛り上がりやストリングスが駆け上がる感じもさすがのひと言です。奇をてらったことはしていない、王道ど真ん中なバラードに仕上げてくださいました。

2019年3月10日に東京・TOKYO DOME CITY HALLで開催された「Uru LIVE『T.T.T.』supported by uP!!!」の様子。(撮影:西槇太一)

幸せな曲を1曲ぐらい作ってみたい

──その王道的なバラードから、次の「space in the space」で雰囲気が変わりますね。Uruさんには、このようなR&Bテイストの曲もよくお似合いだと思います。

うれしいです。私としてもこういう曲は作りやすいというか、こんな雰囲気の曲を作りたいと思うことがけっこう多くて。「space in the space」は1stアルバムにはなかったようなテイストの曲なので、皆さんに聴いてもらうのが楽しみです。

──淡く、メロウなサウンドで、歌詞もちょっと艶っぽいですね。

私はいつもピアノで作曲するんですけど、この曲は「何かいつもと違うものが浮かんでこないかな」と思ってエレピで作ったんです。そのエレピの音色や、特にイントロのフレーズから着想を得て、共依存というか、体の関係に依存してしまう男女の歌詞を書いてみたくなったんですよね。なので、アレンジを手がけてくださったKan Sanoさんに「イントロのフレーズは絶対に引き継いでください」とお願いさせてもらいました。

──「space in the space」というタイトルも面白いなと思いました。

これは造語なんですけど、“Space=宇宙”というのはエクスタシーを意味していて。求め合った2人が融合している感覚で、満たされていく感じを表したかったんです。

──続く「marry」も従来のUruさんの楽曲とは雰囲気の異なるフォークトロニカ的な曲で、ひと言で言ってお洒落ですね。

これは、お洒落にしていただいた感じですね。「marry」はアレンジでガラッと印象が変わった曲で、私が作ったデモのバックはピアノとドラムのループだったんです。それをアレンジャーのShingo Suzuki(Ovall)さんにお渡ししたらドラムレスで、なおかつギターのフレーズがすごく印象的な曲にしてくださって。聴いていくうちに「もう、これじゃなきゃダメだ!」と思うくらい気に入ってしまいました。

──曲名が「marry」だけに、Uruさんにしては比較的ストレートなラブソングですよね。

それこそ、先ほどおっしゃったように、私の曲には悲恋の曲が多いので、「幸せな曲を1曲くらい作ってみたいな」と(笑)。私が今までYouTubeに上げていたカバー曲をウエディングソングとして使ってくださる方もいらっしゃるというか、「使ってもいいですか?」とご連絡をいただくことがけっこう多くて。そういう場面にも使ってもらえるオリジナル曲があったらいいなとは以前から思っていたので、満を持して、じゃないですけど。