今年結成13周年を迎えたアップアップガールズ(仮)が変革期を迎えている。
ノンストップライブを武器に、汗をかきながら全力かつ泥臭いパフォーマンスを繰り広げる“アスリートアイドル”として、2010年代から群雄割拠のアイドルシーンの最前線をひた走ってきたアプガ(仮)。2023年12月に最後のオリジナルメンバーであった関根梓が卒業し、2020年の新メンバーオーディションを経て加入した古谷柚里花、鈴木芽生菜、小山星流、青柳佑芽、住田悠華の5人体制になると、彼女たちの前に大きな壁が立ちはだかった。日本武道館公演、富士山頭頂ライブなどで強いインパクトを残した初期メンバーのイメージを塗り替えるのは容易いことではない。そもそも令和の時代に“スポ根”的なスタイルはマッチしないのかもしれない。
そこでアプガ(仮)は結成14年目にしてライブスタイルを大きく変化させるという、思い切った改革を試みた。セットリストの固定化、ライブ中の組体操やサークルモッシュの導入……“脱皮”に伴う苦悩や葛藤を味わいつつも、彼女たちはエンタテインメント性の高いステージングに果敢に挑戦し、“新しいアップアップガールズ(仮)”に生まれ変わろうとしている。目標のZeppのステージに向け、ポジティブで前のめりな空気がグループ内に漂っているのだ。
音楽ナタリーではメンバー5人のほか、アプガ(仮)オリジナルメンバーの1人で現在は裏方の立場でグループに関わっている古川小夏、エンタメ集団・梅棒に所属し、アプガ(仮)のステージ演出に携わる塩野拓矢を交えてインタビューを実施。ライブのアプローチを変えた狙いや、その苦労と手応え、「フェスの出番も早くなった “あの頃”と“今”を比べられた」「どん底だって分かってる!動員だって減ってる!気づいてる!」と赤裸々すぎる思いとともに力強い決意を歌った新曲「Again!」について話を聞いた。
取材・文 / 小野田衛撮影 / 佐々木康太
正直、悩んでいました
──最近のアップアップガールズ(仮)は「まるで別のグループに生まれ変わったようだ」と評判です。しかし一方で、まだこの大きな変化が熱心なファン以外には伝わっていないというのも事実。グループ内部で何があったのか、まずはそのあたりから説明していただけますか?
古谷柚里花 やっぱり大きかったのは関根梓さんの卒業で。それが去年の12月30日だったんですけど、唯一の先輩かつオリジナルメンバーがいなくなり、今の5人で活動していくことになったんですね(参照:アプガ(仮)関根梓、卒業公演でリアルな胸の内語る「魂がうまく成仏できるように何か考えたい」)。今年1月から何かを変えなくちゃいけないというのは私たちも頭で理解していたものの、どうしたらいいのか迷っていて……。
小山星流 3月くらいまでは、今までのアプガ(仮)のライブスタイルから大して変えずにパフォーマンスしてきたんですよ。せいぜいMCの時間を減らして、曲数をなるべくたくさんやるくらいの変化であって。ただ、関根さんがいなくなったことで、お客さんの数は明らかに少なくなっていたんです。正直、悩んでいました。
青柳佑芽 演出で塩野拓矢先生に入っていただくことになったのは、ちょうどそんなタイミングでした。4月に5人体制初の楽曲「あいどる道中Be Dash!!」をリリースし、そこで曲中に組体操を取り入れる、うちわを使ってメンバーに風を送る、という演出に挑戦することにしたんです。
住田悠華 そして大きかったのは、ライブでのセットリストを固定化させたことです。ずっと同じ曲ばかりやるわけだから、私たちにとっても賭けでした。
青柳 けっこうみんなで話し合いをしたよね。
鈴木芽生菜 ぶつかったことも多かったです。単純にリーダー(関根)が抜けたあとの歌割りや場位置をどうするかという問題もあったけど、気持ち的にもそれまでは任せっきりだったんですよ。私たち5人だけになったとき、そのことにハッと気付いて、「これは1人ひとり責任感を持たないとマズいぞ」と改めて焦りました。
来てくれるお客様と会話できるようなライブにしたい
──塩野さんがアプガ(仮)に関わるようになった経緯は?
塩野拓矢 最初は演出というより、「あいどる道中Be Dash!!」の振付を依頼されたんです。その中で所属事務所の山田(昌治)社長から言われたのは、「この曲では今までと違うことをやりたい」ということでした。
──塩野さんとしては、アプガ(仮)をどういった方向に変えていこうと考えたんですか?
塩野 一番はライブでお客様とのコミュニケーションを多めに取ること。そういった振付や演出を意識しました。「セットリストを固定化して、お客様にアプローチしやすい作りにしてほしい」という話は、最初に山田社長から出た記憶があります。僕は今までいろんな舞台に携わってきましたけど、ライブというのは絶対的にお客様がいるからこそ完成するものなんですよ。だから、来てくれるお客様と会話できるようなライブにしたいという考えは一貫してありました。
──古川小夏さんの立ち位置はどういうものなのでしょう? 振付師とも違うんですか?
古川小夏 私、振付はそんなにやっていないんですよ。パフォーマンス指導みたいな形で携わらせてもらっています。ただ、年齢や感覚的に拓矢さんや山田さんよりもメンバーと会話がしやすい立場だとは思うんですね。リアルにアプガ(仮)としてステージに立っていた過去もありますし。「こういう空気を作りたいなら、こんなイメージでやったほうがいいんじゃない?」とか、目指す方向性を具体化していく段階でお手伝いしていきたいと考えています。
──やはり、今のメンバー5人だからこそのスタイルを模索しているということですか?
古川 そうですね。ただ、根本的な話をすると、私たちの時代から「ライブを大事にする」という活動スタイル自体は変わっていないんですよ。いつだってアプガ(仮)はライブが楽しいグループであってほしい。そこの部分が大事に受け継がれていることは、卒業した者としても単純にうれしいですね。
“固定セトリ”のリスクとメリット
──塩野さんや古川さんのサポートもあり、今年の春頃からライブのアプローチを変えていったということですね。当初、メンバーとしては困惑はありましたか?
小山 もちろんです。いろんなことを変えていきましたが、やっぱり一番大きかったのは先ほども少し話が出た固定セトリなんですよ。気持ちを作ることが難しくて……。同じ曲でも最初は楽しいんですけど、やっぱりやっているうちに慣れとか飽きが出てきちゃうんです。どうしていいのかわからず、家で泣いたこともあります。ライブに向けての気持ちをどうやって高めていけばいいのか、そこは特に古川さんや塩野さんからアドバイスをもらいました。
──固定セトリはリスクもあると思いますが、なんらかのメリットがあるから導入したはずです。
塩野 確かに新鮮味が失われていくという恐れはありますが、もちろんプラスの面も確実にあるんですね。ライブに来てくださるお客様は初見かもしれないし、今まで何度もアプガ(仮)のライブに足を運んでくれている人もいるかもしれない。決まった曲の流れがあって、それをどうやってお客様に楽しんでいただくのか。そこを本人たちが肌で感じながら、自分たちで工夫しつつプローチしてほしかったんですよ。
古谷 ライブは1回だけのものだから、変化をつけなくちゃいけないと思っているんです。そこで最初にメンバーが考えたのは煽り方を変えたり、曲が同じでも言葉は違うみたいな方法論だったんですけど、なかなかそれをライブのパフォーマンスに投影できなくて……。お客さんも私たちも「はいはい、ここでしゃべるんだよね」「このあと、この曲を歌うんだよね」みたいな感じになって、マンネリ化していったんです。そこを脱したのは、佑芽の力が大きかったんですけど。
青柳 私は煽りを担当することが多いんですけど、例えばイベントでほかの出演者さんのライブを観て、「このグループのファンの方は、こういう感じが好きなのか」と研究するんですね。それを重ねることで、徐々にではありますがほかのグループのファンの方もいい反応を見せてくれることが多くなりましたし、私自身もだんだん楽しくなってきました。
古川 メンバーはすごく話し合っていて。拓矢さんの意向でもあるんですけど、ライブが終わるとすぐに意見を言い合って、反省をして、それを次のライブにつなげていく。私と拓矢さんが現場に行けないときは映像を送ってもらって、次までにやるべきことを全部リスト化しています。言い方は悪いかもしれないけど、ライブすらもトレーニングの場として捉えていたようなところがあるんですね。ライブ本番でしか勉強できないことってたくさんありますから。そういう意味では、固定セトリというのはメンバーの成長にとって理想的でした。
小山 当たり前の話かもしれないけど、同じ曲をやっていても会場によってお客さんの反応が全然違うんです。フロアの様子を見ながら、どうしたら盛り上がるのかを考えて対応するようになりました。「この曲のときは、もっと崩してコミュニケーションを取っていいのかな」とか。
古谷 固定セトリを始めて2回目くらいのライブで、いきなり大滑りしたんですよ。
青柳 1回目は大盛り上がりだったんですけど、同じ日にもう1公演やったら、そこで客席がザワザワし始めました(笑)。「えっ、まさか同じ曲をやるの!?」って感じで。
住田 「アプガ(仮)にはほかにもいい曲がいっぱいあるんだから、それを聴かせてほしい」という声が私たちの耳にもかなり届きました。
古谷 アプガ(仮)はエゴサが大好きなんですけど、あまりにもマイナスな意見が多かったので、一時はエゴサを完全に封印しました。
住田 ただ、1カ月に16回とか同じ曲のライブをやっていると、確実に歌がうまくなっていって。そこは単純にうれしかったです。自分の成長が肌で感じられました。最初は悩んでいた部分もあったけど、徐々に手応えをつかんでいった感じですね。
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それ、アプガ(仮)の“伝統”なんですよ