とにかく車を運転するのが大好きな手島いさむ。川西幸一、EBIと組んだバンド・電大では、自ら運転してライブツアーを回っている。この現場感と身軽さはメンバー随一のものだ。その感覚は、ユニコーンでの活動にも直結している。デビュー30周年を迎える今、彼はどんな思いで活動をしているのか話を聞いた。
あの頃の自分はもう完全に別のもんですよね
──30周年を迎えて、どうですか?
あんまり実感がないですけどね。まだ若いつもりなので(笑)。若いつもりと言うか、自分が年を取った感じがしないですよね。たぶん記憶が断片的に切れてるからかな。前の記憶がギュッと編集されたような状態になってる。例えば知り合いとカラオケの付いてるようなところに飲みに行って、「Maybe Blue」のミュージックビデオが流れると、もう完全に別のもんですよね。あの頃の自分は、もう自分ではないんだな(笑)。あの頃の自分はそのままどっかにあるんだけど、今はそこからリセットされた自分がいる。まったく別のもんになっちゃってる。そこがちょっと残念なような、うれしいような。
──懐かしいっていう感じですか?
違いますね。カラオケの画像を観ると、民生とかも別人なので(笑)。
──その“別人の自分”に、今だったらどんな声をかけてあげますか?
「もうちょっと肩の力抜けや」って言う(笑)。今から見ると、当時は相当力が入ってた。わけのわかんないものに対抗意識があったと言うか、「自分は自分でいたいんだ」「自分を守りたい」みたいなところがありましたね。レコード会社さん、事務所の皆さんみたいな、いわゆる外圧によって変えられていく自分がイヤだった。それをすごく恐れてましたね。オーディションで合格してデビューが決まったけども、自分の足りないところもわかってるから、その不足を補わなきゃいけない。周りからも不足してるところを要求されるっていうのが、東京に来てから2、3年ありましたよ。「これでいくんだ!」って思うまでに時間がすごくかかった。
──例えばどんな外圧ですか?
髪を切ったほうがいいよって言われたり。俺は俺で「これから髪を伸ばしていこう」と思って東京へ来たんだけど、「あれ? あれ?」と思う間に切られて、だんだん米軍のGIみたいな状態になっていった(笑)。自分としては「なんだろう? これは」と思いながら。でもそれはね、今考えたら不要な抵抗だったと思う。素直にしてればよかったのにね(笑)。自然にしてりゃいいんだと思うけど、でも自然にしてたら、今こうなってないんだろうなと思ったり。
──それはそうですね。
抵抗と言うか、上に行きたいって心と、自分の持ってるものをまっすぐに維持したいっていう気持ち。でも外から「あれせー、これせー」っていろいろ言われて。
やっぱね、奥田民生は太陽なんだなと思った
──そういう気持ちが整理されて、楽しくなってくるのは?
2枚目の「PANIC ATTACK」のツアーが終わって、「服部」に至るあたりかな。プロデューサーの笹路(正徳)さんがツアーを14本ほど一緒に回ってくれたんですよ。そこで大きく変わった。移動やご飯も一緒で、笹路さんがいろいろ話してくれたことが大きかった。笹路さんはいろんなバンドのプロデュースをしてたから、モデルケースをいっぱい知ってる。バンドにとってよく伸びる方向とかよくない方向の話してくれた。「上に、前に、行くためにはこうしなさい」っていうのを、押し付けじゃなくて、「こうだよね」「ああだよね」って言ってくれたので、「あ、そうなのか」って気付けたりして、ありがたかったですね。今考えると、それがなかったら今の自分はないと思う。
──一番ありがたかったアドバイスは?
とにかく「ずっと向上しなきゃいけない」「ずっと学ばなければいけない」っていうことかな。そういう基本姿勢が自分にはちょっと欠けてたと思う。「バンドだけやってりゃいいんだ」っていうバンドマンもいていいと思うんですけど、とりあえずバンドやって、ライブやって、人気者で、お酒飲んでっていうスタイルが僕には合わなかった。自分にとって合うスタイルに笹路さんが導いてくれた。音楽とか仕事にものすごい厳しいけどホントに頼れる人だったですね。
──今もそのときに教えてもらったことっていうのが生きている?
やっぱり大きいですよ。逆に言うと、今はそこしかなくなってる。とにかくギター1本で、どんだけのことができるんだよっていうのを問われた。別に今、そこに到達したとも思わないけど、ギター1本でいろんなことを回していきたいと思ってる。今はアコギ1本の弾き語りで大都市ぐらいは回れるようになった。けど、まだ一人前じゃないかな。
──がんばってる自分を、デビューの頃の自分に見せてやりたい?
うーん、「ここまで来るのに、お前はすげえ回り道してるね」って言いたい。お前はこのあと、いろんないらんことするんだよって(笑)。いらんことだったのかどうなのかはわかんないですけど、結局、そこを通らないとここに来てないのかなと思ったりして。
──解散のときはどうだったんですか?
解散のときはもう、勘違いした若者ですよ、ホントに。このまんまずっと右肩上がりな感じで、心も体も調子よくいくんだって思ってたんでしょうね。だけど解散したあとで、ギターの技術とか、楽曲を作ることとか、レコーディングの技術とかのほかに、マネージメントとかレコード会社とか、そういうことも大事なんだなって気が付いた31歳でした(笑)。
──解散しないとわからないことだった?
そう。解散して、「よっしゃ、自分のバンド作るぜ!」って言ってやってはみたものの、それだけではダメなんだっていう。BIG LIFEってバンドをやったんですけど、このバンドの1枚目のアルバムをたまに聴くんですよ。なんらカッコ悪いことはない。今でも全然カッコいいと思うし、ちゃんとやることをやってたと思う。後悔することはない。だけど、カッコいいものをちゃんと作るっていうだけではダメなんだなっていうことです。年代的にも同じようにデビューして、同じようにやってた周りのバンドもいたけれど、なぜ生き残ったのか、なぜ人気が出たのか、なぜ人気が出なかったのか。やっぱり考えさせられる三十代でしたね。
──再結成の話があったときは?
やっぱね、奥田民生は太陽なんだなと思った。静かだけど、太陽。俺は太陽がいないと周りが見えないんだよねっていう。月だったり、その周りを回ってる衛星のタイプ。月はまったく見えなくなるときだってあるから。日食だ月食だって、表裏になったりね。太陽の民生の反射で輝いたり、いなくなったりっていうのが、ユニコーンの中での俺のポジションかなと。奥田民生という人間は、人気もありつつ、音楽的にも充実して、でもだからって音楽一辺倒に考えてない。これをやることで楽しさが生まれるかどうかっていうことを、常に考えてる。周りがニコニコしてるのが大事って言うか。
未来については、リスクを取らなきゃいけない
──手島さんの思い入れのあるアルバムは?
全部のアルバムに思い入れはあるけど、「シャンブル」で大きく変わったところがある。あの頃から、全員がユニゾンで怒鳴って歌うというのが増えてきたんですよ。まず「WAO!」がそうだった。それがどんどん顕著になっていく。誰かが何か言ったら、みんなユニゾンで叫ぶ。5人が一緒に歌う面白さがある。しかもユニコーンって、1人ひとりの声の聴き分けができるくらい個性的だから、独特のものになってますね。民生を中心とした音楽になりつつ、でも5人が5人一生懸命せめぎ合ってるっていう像が、まさに「シャンブル」だった。実はその頃から電大のことを考え始めた。電大って、1人ひとりでは声が細いわけですよ。EBIはすごくうまいし、いい声なんだけど、それだけでずーっといくには細い。だったら3人でユニゾンで歌ったら面白いかなと思って。それが今の電大の歌のサウンドになってます。
──今後のユニコーンってどうなっていくと思いますか?
再結成以降、やれ病気だのなんだのって、いわゆる「高齢バンドあるある」に直面したりもしたので、リスクを取りながらやってるわけです。長生きして安全にと思ったら、たぶん何もしないのがいいんですよ。
──そうはいかないですよね(笑)。
(笑)。だから未来については、リスクを取らなきゃいけない。今回、リマスターもやったということで、音楽が若返るっちゅうところもあるしね。見直す部分があると思うんですよ。そろそろ大人にならないとなとも思うし、同時に若返らないとなとも思う。そのバランスを見直したい。自分たちのやってきたことを思い出すのも大事だし。
──「UC30 若返る勤労」ツアーにも関係してくるテーマですね。
そう。それは今さら「Maybe Blue」を毎回やろうぜっていうことじゃない。僕的には曲単位で言うと、「ヒゲとボイン」であり、「スターな男」であり、「ケダモノの嵐」であり、そういうところをリマスターによってほかの4人のメンバーに見直していただきたい。ユニコーンの温故知新って言うんですか? 「ちょっと忘れてねえかい?」っていう(笑)。皆さん、忘れっぽいですよねって。そこに「WAO!」や「ひまわり」や「HELLO」っていう強力なのが、今のユニコーンには加わってるわけじゃないですか。そこをツアーで見せていこうと思ってます。
若い頃にやらかしたのは、他人に乗せられて髪を切ってしまったことかな。デビュー前のソニーのオーディションのとき、僕はカーリーに近いクリクリの髪型だったんですよ。それでね、審査をしてた部長かなんかから「ギターの人の頭はなんとかならんのか」って言われて、「あ、切ります」って言っちゃった。伸ばそうと思って伸ばしてたんだけど、抵抗してたのに切ってしまったっていう事件。切ったあとで、ものすごい後悔した。アルバムのジャケット見るとわかるんですけど、1、2、3、4枚目と、どんどん髪が伸びていってる。で、当初の目標に達したのが「ケダモノの嵐」ぐらいです(笑)。
それと、今回の「UC30 若返る勤労」の制作でも事件がありましたね。アルバム収録曲以外で、僕が途中で抜けてるのに気が付いたのが「忍者ロック」だった。「一応、ライブとは言え、録音されてるものだぞ。ライブのレパートリーでやってたものなのに」って言って、入ることになった。なのに、「デーゲーム」の坂上二郎さんバージョンを忘れてた(笑)。途中で思い出したんだけど、間に合わなかったんですよ。「デーゲーム」のシングルバージョンが入ってない。あれ、ミュージックビデオを僕の今の地元の八王子の球場で撮ってるんです。ときどき横を通るんですけどね、「ああ、ここだったのか。でも入れるの忘れた」って(笑)。
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EBI インタビュー
- ユニコーン「UC30 若返る勤労」
- 2017年12月6日発売 / Ki/oon Music
-
[ボックスセット]
37800円 / KSCL-2981~96
- DISC 1 「BOOM」
-
- Hystery-Mystery
- Game
- Maybe Blue
- Concrete Jungle
- Limbo
- Sweet Surrender
- Alone Together
- Sadness
- Fallin' Night
- Pink Prisoner
- DISC 2 「PANIC ATTACK」
-
- I'M A LOSER
- HEY MAN!
- SUGAR BOY
- 抱けないあの娘 -Great Hip in Japan-
- FINALLY
- シンデレラ・アカデミー
- サービス
- ペケペケ
- SHE SAID
- 眠る
- ツイストで目を覚ませ -Twistin’in Suits’85-
- DISC 3 「服部」
-
- ハッタリ
- ジゴロ
- 服部
- おかしな2人
- ペーター
- パパは金持ち
- 君達は天使
- 逆光
- 珍しく寝覚めの良い木曜日
- デーゲーム
- 人生は上々だ
- 抱けるあの娘
- 大迷惑
- ミルク
- DISC 4 「ケダモノの嵐」
-
- 命果てるまで
- フーガ
- ロック幸せ
- ケダモノの嵐
- エレジー
- 自転車泥棒
- 富士
- リンジューマーチ
- スライム プリーズ
- CSA
- いかんともしがたい男
- 夜明け前
- 働く男
- スターな男
- DISC 5 「おどる亀ヤプシ」
-
- 初恋
- ママと寝る人
- 12才
- ボサノバ父さん
- PTA ~光のネットワーク~
- 俺の走り
- DISC 6 「ハヴァナイスデー」
-
- ハヴァナイスデー
- 魚の脳を持つ男
- 鼻から牛乳
- レベル
- $2000ならOKよ
- 東京ブギウギ
- DISC 7 「ヒゲとボイン」
-
- ターボ意味無し
- 黒い炎
- ニッポンへ行くの巻
- 開店休業
- 幸福
- 看護婦ロック
- 立秋
- ザ・マン・アイ・ラヴ
- フリージャズ
- 風
- 家
- Oh,What a Beautiful Morning
- 風II
- 車も電話もないけれど
- ヒゲとボイン
- DISC 8 「SPRINGMAN」
-
- 与える男
- 金銀パールベイビー
- 時には服のない子のように
- すばらしい日々
- アナマリア
- オールウェイズ
- 素浪人ファーストアウト
- あやかりたい'65
- 音楽家と政治家と地球と犬
- 裸の王様
- 薔薇と憂鬱
- 甘い乳房
- スプリングマンのテーマ
- 月のワーグナー
- 8月の
- DISC 9 「シャンブル」
-
- ひまわり
- スカイハイ
- WAO!
- ボルボレロ
- ザギンデビュー
- キミトデカケタ
- オッサンマーチ
- AUTUMN LEAVES
- 水の戯れ ~ランチャのテーマ~
- BLACKTIGER
- 最後の日
- R&R IS NO DEAD
- サラウンド
- パープルピープル
- HELLO
- DISC 10 「Z」
-
- 頼みたいぜ
- Z LIFE
- デジタルスープ
- 手島いさむ物語
- AGONY
- SAMURAI 5
- 明日
- ゆめみら
- ウルトラヘブン スーパーマイルド
- オレンジジュース
- いい雨
- ライジングボール
- さらばビッチ
- 裸の太陽
- DISC 11 「ZII」
-
- 手島いさむ大百科
- レディオ体操
- ぶたぶた (ZIIver)
- いちじく
- メダカの格好
- 晴天ナリ
- DISC 12 「イーガジャケジョロ」
-
- イーガジャケジョロ
- 夢見た男
- Boys & Girls
- あなたが太陽
- 早口カレー
- We are All Right
- KEEP ON ROCK'N ROLL
- 俺のタクシー
- ユトリDEATH
- トキメキーノ
- お前BABY
- それだけのこと
- 鳥の特急便
- Feel So Moon
- DISC 13 「ゅ 13-14」
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- すばやくなりたい
- オーレオーレパラダイス
- サンバ de トゥナイト
- 僕等の旅路
- 道
- ハイになってハイハイ
- マッシュルームキッシュ
- TEPPAN KING
- マイホーム
- CRY
- エコー
- 第三京浜
- 風と太陽
- フラットでいたい
- DISC 14 「アルバム未収録曲集」
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- ブルース
- サマーな男
- 雪が降る町
- お年玉
- 忍者ロック
- はいYES!
- かきまZ!
- ギンギラギンのスニーカー
- DISC 15 「半世紀 No.5」
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- 半世紀少年
- 川西五〇数え唄
- NEW甘えん坊将軍
- ゴジュから男
- ロック! クロック! オクロック!
- 私はオジさんになった
- TAIRYO
- VERTIGO
- RAMBO N°5
- 50/50
- ユニコーンツアー2017「UC30 若返る勤労」
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- 2017年12月6日(水)福岡県 DRUM LOGOS
- 2017年12月7日(木)福岡県 DRUM LOGOS
- 2017年12月9日(土)広島県 BLUE LIVE HIROSHIMA
- 2017年12月12日(火)東京都 Zepp Tokyo
- 2017年12月13日(水)東京都 Zepp Tokyo
- 2017年12月16日(土)北海道 Zepp Sapporo
- 2017年12月19日(火)宮城県 チームスマイル・仙台PIT
- 2017年12月21日(木)愛知県 Zepp Nagoya
- 2017年12月23日(土・祝)大阪府 Zepp Osaka Bayside
- 2017年12月24日(日)大阪府 Zepp Osaka Bayside
- ユニコーン
- 1986年に広島で結成。翌1987年にアルバム「BOOM」でメジャーデビューを果たす。メンバーは奥田民生、EBI、手島いさむ、川西幸一、ABEDONの5人。全員が楽曲制作に携わりボーカルを取るフレキシブルなスタイルで、オリジナリティあふれる活動を展開する。「大迷惑」「働く男」「雪が降る町」「すばらしい日々」など数々のヒット曲を生み出すも1993年に惜しまれつつ解散。その後はそれぞれソロ活動を展開していたが、2009年に16年ぶりに再始動。2月にシングル「WAO!」とアルバム「シャンブル」を発表し、3月より全国ツアー「蘇える勤労」を開催した。それぞれソロ活動と並行してユニコーンとしての活動も行い、メンバーが50歳を迎えた際には「50祭」と銘打ったライブイベントを実施した。2017年10月にデビュー30周年を迎え、12月にリマスタリングボックス「UC30 若返る勤労」リリース。同月より全国ツアー「UC30 若返る勤労」を開催する。