奥田民生が取材の場に選んだのは、自身のレーベル「ラーメンカレーミュージックレコード」のオフィス。楽器やレコーディング機材に囲まれた一室の空気は、奥田にとってこのうえなく快適そうだ。彼の現在の音楽生活を象徴するこの場所で、ユニコーンのデビュー30周年にまつわるインタビューは行われた。
正直もう1回やるとは想像してなかった
──ユニコーンのデビュー30周年に気付いたのはいつ頃ですか?
「気が付いたのは?」って言われても(笑)。歳が歳だから年齢でわかるよ。ユニコーンを始めたのが21歳ぐらいで、今、52歳だもん。
──「UC30 若返る勤労」の資料に「今年の夏頃に30周年と気付き」って書いてあったので、皆さん気付いてなかったのかなと思いました(笑)。
いやいや、さすがにそれはない(笑)。ユニコーンって途中やってないじゃないですか。だから「30周年って言っていいのかな?」と言うか、「どうやって数えるの?」っていうところがあった。
──「デビューから30年目」って言うんだったら、ありかも?
そうね。音楽活動は30年やってますけど、ユニコーンとしては途中が抜けてるんで。16年間休んでたから、実際は半分もやってないんですよね。
──結局、「30周年って言おう」っていうのを決めたのは?
なんでだろうね。まあ、なんもしないよりはいいかっていうぐらいですかね(笑)。
──そういう意味では、メンバー1人ひとりの音楽生活30周年って言えますよね。メンバー5人は、ユニコーンでプロのキャリアを踏み出して、それ以降、みんな音楽を辞めていない。
辞めてないですね。
──ただ、ユニコーンは30年の半分もやっていない。
やってない間は、忘れてたからね(笑)。
──完全に忘れてた?
忘れてたっちゅうか、まあ、忘れちゃいないけど、正直もう1回やるとは想像もしてなかったですしね。だからやっぱり、ユニコーンが30年やったっていう感じはしないです。
僕は「足りないのを補う」担当
──今思うと、解散までのユニコーンというのは?
解散前はもう昔すぎてちょっとわからないけど、まあでも今とそんなに変わってないと思う。やってることと言うか、内容は。またできるできないっていうのは、1人じゃ決められないですけど、またできてよかったなとは思ってます。
──解散前も再結成後も、やっていることは変わらない?
変わってないですよ。だってメンバーが変わってないからね。もちろんみんな歳を取ってるんで、そこは変わったけど。再結成後はユニコーンだけじゃなく、ほかの動きもあるんでね。ユニコーンとそれ以外を分けてるってほどは分けてはないけど、多少は違う。やっぱりユニコーンは5人があれこれやるんで、自分からしてみると楽チンですね。解散前はもうちょっと負担と言うか、むしろ「俺の曲をもっと使え!」みたいな心意気があったけど、それももうないから。昔は積極的に曲を持っていったけど、最近はもうノルマだけでいいやって(笑)。バランス的に「これぐらいあればいいかな」っていう。
──無駄な力は使わないように?(笑)
そうですね。「いい曲を作って残すんだ」みたいな心意気よりは、その場の演奏が楽しいほうがいい。それは別にユニコーンだけじゃなくてソロでも同じですけど、そういう考えがある。でもユニコーンだと、誰かがいい曲作ってくれてたりするしね。メンバーの役割分担みたいなのが多少あるんですよ。
──名曲担当とか。おちゃらけ担当とか(笑)。
そうそう(笑)。
──民生さんは、その中のどこの担当を請け負ってるんですか?
僕はだから、なんつうの? 「足りないのを補う」担当(笑)。作って持っていく段階で、「なんとなくこういうのを最近やってないから」とか、「やったことないから」とか、そういうイメージを持って作っていくんで。最初から“穴埋め担当”で作ってます。
「服部」ぐらいから自分らでやれるようになってきた
──再結成してもう7年を越して、解散前より長くやってますね。
でも、絶対、解散前のほうが濃いよ。
──そんな言い方して(笑)。
だって解散前のほうが詰め込んでるでしょうよ。あとね、実働が違いすぎる。再結成後の稼働は、年月は経ってるけど、解散前の半分ぐらいじゃない? うすーく、薄く伸ばしてるから。今は薄めて伸ばして使ってるんですよね(笑)。
──もんじゃ焼きみたいな。
はははっ(笑)。そうそう、お好み焼みたいにギュってなってるんじゃなくて、でやーって広げて焼いてるの。食うと薄いなっていう(笑)。
──でもそれが好きな人もいるかもしれない。
まあ年齢もあるし、ゆったりじゃないとできないから。解散したのは、ギューってなってるのがしんどかったのもあったからね。だから今はメンバーみんな、そうならないようにやってるはず。
──再結成のときは何か目標を決めてたんですか?
目標っていう目標はないですよ。再結成したあとは、何年かやらないことはあっても、また解散することはないだろうと。だからそうやって、ダラダラやりゃいいんじゃないのという雰囲気があるからね。まあ、老後に向けてとか考えてるメンバーは、いるかもしれないけど(笑)。
──思い入れのあるアルバムはありますか?
デビューしてアルバム2枚を笹路(正徳)さんにプロデュースしてもらって、そこでいろいろ修行して、「服部」ぐらいからだいぶ自分らでやれるようになってきた。なので、「服部」は思い出深いです。
──その「服部」の中で、特にこの曲というのはありますか?
「大迷惑」かな。オーケストラが入ったミュージカルのような曲が初めてできた。それまでやったことないし、新鮮じゃないですか。ああいうのをずっとやり続けたかったわけじゃないけど、やってみたかったことだったのかもね。オーケストラの人とやるとか、ブラスの人とやるとか、要するに外部のミュージシャンと一緒にやったりすると、ちょっとプロっぽいし(笑)。お金もかかってるしさ。その前にABEDONが入ってくれたから、外部の人とできる気はしたんでね。それでも、笹路さんがいたからできたことではあるけど。
──「大迷惑」の歌詞のテーマは単身赴任で、そんなテーマで歌ってたバンドは、当時、ほかにはいなかった。
所属レーベルのソニーは、異動がやたら多かったんで、みんな単身赴任をよくしてた。それを目にしてたところもあるね。地方の営業所の人たちと食事すると、「大変なんですよ」って話をよく聞いてたよ。だからって、それで作ったわけじゃないけどね。
再来年がんばります!
──12月6日に始まる「UC30 若返る勤労ツアー」の構想はありますか?
え? 全然考えてなかった。だってツアー、まだ先だもん (笑)。でも今回は短いツアーなので、大げさな仕掛けとかは、そんなに考えてない(取材は10月下旬に実施)。
──稼働期間の14年間全体のベスト、みたいなセットリストになるんですか?
ああ、わかんないですね。そういうのは、ほかのメンバーに聞いてくれる?(笑) でも全アルバムから、1曲ずつ必ずやんなきゃいけないとか、そういうコーナーみたいなのがあるかもしれない。
──今のところは何も考えてないと。
うん。まあでも、新作もないわけですから。すべてが旧作なわけだから。どれを選ぶかっていう話になるよね。でも、これを選ばなきゃいけないっていう理由が、特にないっちゃないじゃない。でも基本的には、いつも新しい曲をやりたいですね。昔の曲は、ときどきシャレでやるぐらいでいいでしょ。
──でも今回は30周年だから、半々くらいのバランスでもいいんじゃないですか?
どうだろうね? でも昔の曲って、基本的に難しいもん(笑)。
──ええ? そうなんですか?
アレンジがややこしい。機材も、シンセとかたくさん用意しなきゃいけないんだよ。だからABEDONが嫌がる(笑)。やってて楽しいのは最近の曲ですよ、そりゃ。自由だし。昔の曲は、たまにやったらオモロいっていうのはあるから、ちょっとはやるんじゃないかな。
──今後のユニコーンについてはどう考えてますか?
今は30周年って言ってますけど、まだいろいろあるんだよ、言い方が。まず「ABEDONが入ってから30年」とか、「ユニコーンの実働30年」もきっとあるだろうし、そうこうしてたら「川西っつぁんの還暦」だとか。
──「再結成して10周年」も間もなくだし(笑)。
それもある(笑)。いろいろ動くネタはある。再来年は「川西還暦」「ABEDON30周年」「再結成10年」がまとめてくるみたいよ。だから、再来年がんばります!
解散は1つの事件として当然ある。解散は再結成よりデカいね。ま、解散の前に、川西っつぁんが先に辞めたじゃない? それも事件って言えば事件だった。結果的にはそれが解散の理由の1つでもあるかもしれないんでね。その2つをひっくるめて事件かな……今考えてみれば、解散してもなんとかなるかなとか思ってたんでしょうね、きっと。音楽は続けるし、曲もできるんじゃねえかと。でも解散してみたら、どうしたらいいんだろうってなって。何からやったらいいんだろうかっていうのは確かにあって、ちょっとうろたえましたけどね。
再結成も確かに事件だったですよ。びっくりしたからね(笑)。他人事のようにびっくりした。ホントにまたやるのかと思ったもんね。やってなかった時期にも、メンバーに会ってなくはなかったわけですけど、そんな雰囲気はまったくなかったからね。よくみんなそんな普通に、また集まったなと思う(笑)。この驚きっていうのは、うーん、同じマンションにまた住むことになったみたいな。「あれ? また一緒?」とか言って、そんな感じ。「まさかまた一緒のマンションの隣の部屋になるとは思わなかったね」みたいな(笑)。
川西っつぁんの半世紀も事件かな。まあ、あのときはネタを見つけて盛り上がっただけなんですけど、あれは川西っつぁんだったからなんだよ。1人だけだいぶ年上だし、それを祭り上げる。プラス、本人にすごいそれをやる気があったわけ。だからホントはあれ1回でよかったのに、「なんで全員『50祭』やるの?」みたいなところはあったですね。結局、全員やりましたけど。
次のページ »
ABEDON インタビュー
- ユニコーン「UC30 若返る勤労」
- 2017年12月6日発売 / Ki/oon Music
-
[ボックスセット]
37800円 / KSCL-2981~96
- DISC 1 「BOOM」
-
- Hystery-Mystery
- Game
- Maybe Blue
- Concrete Jungle
- Limbo
- Sweet Surrender
- Alone Together
- Sadness
- Fallin' Night
- Pink Prisoner
- DISC 2 「PANIC ATTACK」
-
- I'M A LOSER
- HEY MAN!
- SUGAR BOY
- 抱けないあの娘 -Great Hip in Japan-
- FINALLY
- シンデレラ・アカデミー
- サービス
- ペケペケ
- SHE SAID
- 眠る
- ツイストで目を覚ませ -Twistin’in Suits’85-
- DISC 3 「服部」
-
- ハッタリ
- ジゴロ
- 服部
- おかしな2人
- ペーター
- パパは金持ち
- 君達は天使
- 逆光
- 珍しく寝覚めの良い木曜日
- デーゲーム
- 人生は上々だ
- 抱けるあの娘
- 大迷惑
- ミルク
- DISC 4 「ケダモノの嵐」
-
- 命果てるまで
- フーガ
- ロック幸せ
- ケダモノの嵐
- エレジー
- 自転車泥棒
- 富士
- リンジューマーチ
- スライム プリーズ
- CSA
- いかんともしがたい男
- 夜明け前
- 働く男
- スターな男
- DISC 5 「おどる亀ヤプシ」
-
- 初恋
- ママと寝る人
- 12才
- ボサノバ父さん
- PTA ~光のネットワーク~
- 俺の走り
- DISC 6 「ハヴァナイスデー」
-
- ハヴァナイスデー
- 魚の脳を持つ男
- 鼻から牛乳
- レベル
- $2000ならOKよ
- 東京ブギウギ
- DISC 7 「ヒゲとボイン」
-
- ターボ意味無し
- 黒い炎
- ニッポンへ行くの巻
- 開店休業
- 幸福
- 看護婦ロック
- 立秋
- ザ・マン・アイ・ラヴ
- フリージャズ
- 風
- 家
- Oh,What a Beautiful Morning
- 風II
- 車も電話もないけれど
- ヒゲとボイン
- DISC 8 「SPRINGMAN」
-
- 与える男
- 金銀パールベイビー
- 時には服のない子のように
- すばらしい日々
- アナマリア
- オールウェイズ
- 素浪人ファーストアウト
- あやかりたい'65
- 音楽家と政治家と地球と犬
- 裸の王様
- 薔薇と憂鬱
- 甘い乳房
- スプリングマンのテーマ
- 月のワーグナー
- 8月の
- DISC 9 「シャンブル」
-
- ひまわり
- スカイハイ
- WAO!
- ボルボレロ
- ザギンデビュー
- キミトデカケタ
- オッサンマーチ
- AUTUMN LEAVES
- 水の戯れ ~ランチャのテーマ~
- BLACKTIGER
- 最後の日
- R&R IS NO DEAD
- サラウンド
- パープルピープル
- HELLO
- DISC 10 「Z」
-
- 頼みたいぜ
- Z LIFE
- デジタルスープ
- 手島いさむ物語
- AGONY
- SAMURAI 5
- 明日
- ゆめみら
- ウルトラヘブン スーパーマイルド
- オレンジジュース
- いい雨
- ライジングボール
- さらばビッチ
- 裸の太陽
- DISC 11 「ZII」
-
- 手島いさむ大百科
- レディオ体操
- ぶたぶた (ZIIver)
- いちじく
- メダカの格好
- 晴天ナリ
- DISC 12 「イーガジャケジョロ」
-
- イーガジャケジョロ
- 夢見た男
- Boys & Girls
- あなたが太陽
- 早口カレー
- We are All Right
- KEEP ON ROCK'N ROLL
- 俺のタクシー
- ユトリDEATH
- トキメキーノ
- お前BABY
- それだけのこと
- 鳥の特急便
- Feel So Moon
- DISC 13 「ゅ 13-14」
-
- すばやくなりたい
- オーレオーレパラダイス
- サンバ de トゥナイト
- 僕等の旅路
- 道
- ハイになってハイハイ
- マッシュルームキッシュ
- TEPPAN KING
- マイホーム
- CRY
- エコー
- 第三京浜
- 風と太陽
- フラットでいたい
- DISC 14 「アルバム未収録曲集」
-
- ブルース
- サマーな男
- 雪が降る町
- お年玉
- 忍者ロック
- はいYES!
- かきまZ!
- ギンギラギンのスニーカー
- DISC 15 「半世紀 No.5」
-
- 半世紀少年
- 川西五〇数え唄
- NEW甘えん坊将軍
- ゴジュから男
- ロック! クロック! オクロック!
- 私はオジさんになった
- TAIRYO
- VERTIGO
- RAMBO N°5
- 50/50
- ユニコーンツアー2017「UC30 若返る勤労」
-
- 2017年12月6日(水)福岡県 DRUM LOGOS
- 2017年12月7日(木)福岡県 DRUM LOGOS
- 2017年12月9日(土)広島県 BLUE LIVE HIROSHIMA
- 2017年12月12日(火)東京都 Zepp Tokyo
- 2017年12月13日(水)東京都 Zepp Tokyo
- 2017年12月16日(土)北海道 Zepp Sapporo
- 2017年12月19日(火)宮城県 チームスマイル・仙台PIT
- 2017年12月21日(木)愛知県 Zepp Nagoya
- 2017年12月23日(土・祝)大阪府 Zepp Osaka Bayside
- 2017年12月24日(日)大阪府 Zepp Osaka Bayside
- ユニコーン
- 1986年に広島で結成。翌1987年にアルバム「BOOM」でメジャーデビューを果たす。メンバーは奥田民生、EBI、手島いさむ、川西幸一、ABEDONの5人。全員が楽曲制作に携わりボーカルを取るフレキシブルなスタイルで、オリジナリティあふれる活動を展開する。「大迷惑」「働く男」「雪が降る町」「すばらしい日々」など数々のヒット曲を生み出すも1993年に惜しまれつつ解散。その後はそれぞれソロ活動を展開していたが、2009年に16年ぶりに再始動。2月にシングル「WAO!」とアルバム「シャンブル」を発表し、3月より全国ツアー「蘇える勤労」を開催した。それぞれソロ活動と並行してユニコーンとしての活動も行い、メンバーが50歳を迎えた際には「50祭」と銘打ったライブイベントを実施した。2017年10月にデビュー30周年を迎え、12月にリマスタリングボックス「UC30 若返る勤労」リリース。同月より全国ツアー「UC30 若返る勤労」を開催する。