30周年記念CDボックスセット「UC30 若返る勤労」は、ユニコーンの全作品をリマスターした超大作。このリマスタリングを、ABEDONはたった1人で行った。その作業の舞台となったのは、ABEDONのプライベートスタジオ「1173(いい波)スタジオ」。海にほど近い高台にあるそのスタジオでインタビューは行われた。
解散は非常にしんどかったけど健全なことだった
──ユニコーンとして30年間、走ってきてどうですか?
僕は30年じゃないですからね。デビューして2年後にメンバーになったから、28年かな。でも、振り返ると長いっすよね。途中、休憩もあったけど、休憩も活動のうちのような気もします。だからそれも含めて、30周年でいいんじゃないかなと思う。今考えると、休憩していた時期があるのが、ある意味健全と言うか。真面目にって言うのは変だけど、まともに進んでいくと、ああなるんだなと思うことがある。
──メンバーがぶつかり合って解散するということ?
そうそう。で、幸いにも、僕らはまたうまいこと“フライト”できたので、ラッキーっちゃラッキーです。たぶんあの休憩がなかったら不健全だったと思う。どっかで妥協してたと思うんですよね。例えば「俺の役割はここまででいいや」とか「だいたいこんな感じの曲でいいや」とか、「こういうのをファンは求めてるんだ」とか。世の中のポジション的には俺たちはこうだし、スタッフもこうだし、それを背負うからには、これをやり続けていくんだみたいなことになってたような気もするね。でもユニコーンは、そうはならなかった。まともに音楽を作っていたら、ああなるんだなっていう。解散自体は非常にしんどかったけど健全なことだったような気がしますね。
──再結成後もまっすぐ音楽をやって、ぶつかり合ってるんですか?
今ですか? 今はないですね、ほぼ。
──それはそれで健全?
うん、健全だと思う。あの16年間があったから、ぶつからないと言うか。その間にみんな、いろんなことを見たんだと思うんですよ。音楽に対するいろんな考え方があって、いろんな姿勢があって、いろんなやり方がある。僕も見てましたし。だからバンド内でいろんな意見が出るのは当然のことだし、みんながほかのメンバーのやってることを尊重するということも覚えたし。だから今は、ぶつかることはあんまりないですね。
──それが解散前と再結成後の一番の違い?
そう。一番違いますね。
──ただ見ているほうとしては、前と同じにやってるように見えます。
まともに音楽にぶつかってるっていうのは同じなんで、そういう意味では同じかな。
──ちなみに28年前に、今の自分を想像できていましたか?
僕ね、五十代は働いてないと思ってました(笑)。これね、ホントなのよ。四十代である程度仕組みを作り、五十代はもうそれに乗っかって酒でも飲んで、まあ今も飲んでますけど(笑)、自分が先頭に立たなくても進んでいけるようなことになってると思ってた。それがなんですか、こんなに汗だくになって働いて!
──ホントだ(笑)。今回の「UC30 若返る勤労」に関しては、一番働いてるんじゃないですか?
そうですね。でも、すごく勉強になりました。
ユニコーンに何か貢献したい
──今回、リマスタリングにあたって、ユニコーンの歴史と対峙したわけですよね?
そう。おそらくメンバーの中で一番対峙したと思います。2カ月かけて、ずっとリマスターの作業をやってましたからね。ある意味、僕は30周年じゃないんで、なんか僕も今回の30周年にちょっと参加したいじゃないですか。
──ABEDONは、ちょっと外側からの感じなんですね。
そうそう。「みんな、おめでとう!」みたいな感じもちょっとあるんですよ。とにかく今回に関しては、メンバーに何か贈りたいと言うか、ユニコーンに何か貢献したいっていうのがあったんで、今、僕が興味があって楽しんでできることは、去年の「50祭」のときにニューヨークで学んだこと、マスタリングを生かして何かできないかっていうことだった。で、この案を出したら、みんな「いいかな」っていう感じだったので、やってみたっていうことですね。
──リマスタリングした感想は?
1、2枚目は演奏のレベル、楽器の音色と質、エンジニアの未熟さが如実に出ていて、さすがにイタイ感じでした。僕は3枚目の「服部」からユニコーンに入ってるんで「もっといいかな」と思ってたんですけど、がっかりでした(笑)。音の傾向がしっかりしてきてるのは「ケダモノの嵐」あたりからかな。「ヒゲとボイン」はわりと落ち着いてますよね。「SPRINGMAN」はね、音はよかったですけど雰囲気が悪い。やっぱり解散前なんで演奏が暗いんですよ。
──そういうものですか?
俺が個人的に一番いいなと思ったのは、「シャンブル」。これは名盤だね。誰が作ったか知らないけど(笑)。
──知らないって(笑)。
みんなのスキルが熟してきてるのと、やる気がある。
──みんな、うれしそうに演奏してる。
うん。なんかサウンドがさ、すごく高揚してる。ワクワクしてるね、川西くんの曲にしてもさ。川西くんだけを取り上げるわけじゃないけど、それぞれの曲に、みんな真面目に取り組んでる。みんなでその曲をなんとかしようとしてるところがいい。すごくいいアルバムだなと思ったよ。同時に、ユニコーンっていいバンドだなと思った。今回はある意味、客観的に聴いてるから、「これを世の中に出されたら敵わんな」と思った。自分で降参するって思ったね(笑)。
──制作当時のことは覚えてますか?
「シャンブル」のレコーディングは、ユニコーンの再結成を前提ではなく始めたかったんですよ。ダメならやめるっていうスタンスだった。一貫して今もそうなんですけど、ただアルバムを出すだけっていうのはイヤなのよ。もともと僕が考えてた再結成っていうのは、やっぱり何かにチャレンジして、やりがいがあって、なんか新しいことをやって、一石を投じる。ユニコーンならではのものがあり、それが世の中にある程度受け入れられて、そのあとに布石を残すっていうことに意味があると思うんですよね。だから、もしこれで作品がよくなけりゃ、ユニコーンをやらなくてもいいかというような感じで作っていたので。だから当時は、取材も全部シャットアウトしてた。今だから言うけど、「ユニコーンが再結成するよ」っていうことを公にしてレコーディングに入ると、いろんな人がいろいろ言うじゃないですか。当時は再結成って後ろ向きな印象があったでしょ? だから意見がそれぞれあるはずなんですよ。それを聞いたメンバーが、いろんなことを考える。それが僕にとっては邪魔だったんですね。先に再結成を発表してたら、おそらく失敗してましたね。音楽作品に対して、純粋に向かい合う時間が欲しかったんですよ。外野が邪魔だったんで、完全にシャットアウトしてもらって、非常にいい感じで作品を作れた。今回、リマスタリングをして、そのことを含めて「シャンブル」が改めていいアルバムだなと思えてよかったです。
──最新作の「ゅ 13-14」は?
いい意味で適当(笑)。他人の曲はもうほったらかしでしょ。それが「シャンブル」とまた違って、進化してるとこなんだと思う。「どうぞ、もう好きにやっちゃってくださいよ」みたいな。そういうふうに変化していったんだなっていう感じはあるね。それを楽しめるようになったんだね、最近は。
ちょっと予測ができないユニコーンの今後
──「UC30 若返る勤労」ツアーに関しては?
解散前と再結成後の曲のバランスとかあるんでしょうけど、まだ考えてないですね。
──では今後のユニコーンはどうなっていくんでしょうか?
ちょっと予測ができないです。ただ、前回の流れと同じようなことにはならないと思います。「ゅ 13-14」までの流れのまま、進まないような気がする。って言うのは、今ね、バンドの状態がいいんですよ。ここにきて、みんな仲がいいんですよ。プレイもこれまでとは違うような気がしてます。ただそれが音としてどう出るかっていうのは、予測がつかない。
──この年齢になって、それはすごいですね。
すごいでしょ(笑)。
──普通、意固地になる年頃じゃないですか(笑)。
なるよねえ。でも今はそれがまったくない! あったと言えば、解散前のほうだよ。若いときのほうが意固地な部分があったかな。
──じゃあ今、みんなで一緒にお風呂に入ったりするんですか?
よく入りますよ。5人で丸くなってね、背中を流し合ったりしてます。
──それは嘘ですよね(笑)。
はい。そんなこと、やるかい!(笑)
僕は“ROOTS66”(1966年生まれのミュージシャンの集まり)に入ってるんですけど、ほかのミュージシャンよりも早くデビューしてるから、みんなと話してると若気の至りがすごく多い。ただそれはここではしゃべれません。だとすると事件簿は、やっぱり「平山雄一とのケンカ事件」だね(笑)。
解散前の武道館ライブで、僕がパフォーマンスしてる途中で平山さんが帰っちゃったことがあった。「演奏を観に来てるのに、ギャグが長過ぎる」ってことだったらしいんだけど、僕はメッチャ怒りましたよ。お互い若かったじゃないですか。だからお互いの主張みたいなのがあってケンカした(笑)。で、再結成後の横浜アリーナのライブに平山さんが来たので、「平山雄一、出てこい!」って公衆の面前で出席を取った。ずっと怒ってましたから。でもそんな自分ってつまんないし、いつか腹を割って話さなきゃいけないなと思ってた。解散前に起こったことを、再結成後に解決する。そういうふうに思えるっていうのが、すごくうれしかった。つながってるのがいいよね。今こうしてインタビューしてもらってるのは、すごく感慨深いね。
もう1つ、事件があるとしたら、今回のリマスタリングかな。僕はマスタリングをニューヨークのテッド・ジェンセンに教わった。でも今回、リマスタリングしたアルバムには、テッドがマスタリングしてるものもあるんですよ。だからテッド超えをしなきゃいけない。って言うか、ケンカ売ってますよね(笑)。でもこの題材は、ものすごくやりがいがあった。テッドはすごくスキルがあって、もちろん知名度もあって、テクニックもあって素晴らしい。サウンド作りに関して、僕はすごく影響を受けたんですね。で、それを超えなきゃいけない。
真正面からぶつかっても仕方がないので、僕がテッドよりもアドバンテージがあるとしたら、時間だなって思ったんです。彼は通常、アルバム1枚のマスタリングを1日で仕上げなきゃいけないけど、僕には無限に時間がある。今回は2カ月ぐらいかけてリマスタリングしたんですけど、1日やったら休んで耳をもとに戻して、また次の日に直す。それができるのはアドバンテージだなって思って、時間をフルに活用しましたね。いいものになったと思います。
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手島いさむ インタビュー
- ユニコーン「UC30 若返る勤労」
- 2017年12月6日発売 / Ki/oon Music
-
[ボックスセット]
37800円 / KSCL-2981~96
- DISC 1 「BOOM」
-
- Hystery-Mystery
- Game
- Maybe Blue
- Concrete Jungle
- Limbo
- Sweet Surrender
- Alone Together
- Sadness
- Fallin' Night
- Pink Prisoner
- DISC 2 「PANIC ATTACK」
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- I'M A LOSER
- HEY MAN!
- SUGAR BOY
- 抱けないあの娘 -Great Hip in Japan-
- FINALLY
- シンデレラ・アカデミー
- サービス
- ペケペケ
- SHE SAID
- 眠る
- ツイストで目を覚ませ -Twistin’in Suits’85-
- DISC 3 「服部」
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- ハッタリ
- ジゴロ
- 服部
- おかしな2人
- ペーター
- パパは金持ち
- 君達は天使
- 逆光
- 珍しく寝覚めの良い木曜日
- デーゲーム
- 人生は上々だ
- 抱けるあの娘
- 大迷惑
- ミルク
- DISC 4 「ケダモノの嵐」
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- 命果てるまで
- フーガ
- ロック幸せ
- ケダモノの嵐
- エレジー
- 自転車泥棒
- 富士
- リンジューマーチ
- スライム プリーズ
- CSA
- いかんともしがたい男
- 夜明け前
- 働く男
- スターな男
- DISC 5 「おどる亀ヤプシ」
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- 初恋
- ママと寝る人
- 12才
- ボサノバ父さん
- PTA ~光のネットワーク~
- 俺の走り
- DISC 6 「ハヴァナイスデー」
-
- ハヴァナイスデー
- 魚の脳を持つ男
- 鼻から牛乳
- レベル
- $2000ならOKよ
- 東京ブギウギ
- DISC 7 「ヒゲとボイン」
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- ターボ意味無し
- 黒い炎
- ニッポンへ行くの巻
- 開店休業
- 幸福
- 看護婦ロック
- 立秋
- ザ・マン・アイ・ラヴ
- フリージャズ
- 風
- 家
- Oh,What a Beautiful Morning
- 風II
- 車も電話もないけれど
- ヒゲとボイン
- DISC 8 「SPRINGMAN」
-
- 与える男
- 金銀パールベイビー
- 時には服のない子のように
- すばらしい日々
- アナマリア
- オールウェイズ
- 素浪人ファーストアウト
- あやかりたい'65
- 音楽家と政治家と地球と犬
- 裸の王様
- 薔薇と憂鬱
- 甘い乳房
- スプリングマンのテーマ
- 月のワーグナー
- 8月の
- DISC 9 「シャンブル」
-
- ひまわり
- スカイハイ
- WAO!
- ボルボレロ
- ザギンデビュー
- キミトデカケタ
- オッサンマーチ
- AUTUMN LEAVES
- 水の戯れ ~ランチャのテーマ~
- BLACKTIGER
- 最後の日
- R&R IS NO DEAD
- サラウンド
- パープルピープル
- HELLO
- DISC 10 「Z」
-
- 頼みたいぜ
- Z LIFE
- デジタルスープ
- 手島いさむ物語
- AGONY
- SAMURAI 5
- 明日
- ゆめみら
- ウルトラヘブン スーパーマイルド
- オレンジジュース
- いい雨
- ライジングボール
- さらばビッチ
- 裸の太陽
- DISC 11 「ZII」
-
- 手島いさむ大百科
- レディオ体操
- ぶたぶた (ZIIver)
- いちじく
- メダカの格好
- 晴天ナリ
- DISC 12 「イーガジャケジョロ」
-
- イーガジャケジョロ
- 夢見た男
- Boys & Girls
- あなたが太陽
- 早口カレー
- We are All Right
- KEEP ON ROCK'N ROLL
- 俺のタクシー
- ユトリDEATH
- トキメキーノ
- お前BABY
- それだけのこと
- 鳥の特急便
- Feel So Moon
- DISC 13 「ゅ ゅ 13-14」
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- すばやくなりたい
- オーレオーレパラダイス
- サンバ de トゥナイト
- 僕等の旅路
- 道
- ハイになってハイハイ
- マッシュルームキッシュ
- TEPPAN KING
- マイホーム
- CRY
- エコー
- 第三京浜
- 風と太陽
- フラットでいたい
- DISC 14 「アルバム未収録曲集」
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- ブルース
- サマーな男
- 雪が降る町
- お年玉
- 忍者ロック
- はいYES!
- かきまZ!
- ギンギラギンのスニーカー
- DISC 15 「半世紀 No.5」
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- 半世紀少年
- 川西五〇数え唄
- NEW甘えん坊将軍
- ゴジュから男
- ロック! クロック! オクロック!
- 私はオジさんになった
- TAIRYO
- VERTIGO
- RAMBO N°5
- 50/50
- ユニコーンツアー2017「UC30 若返る勤労」
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- 2017年12月6日(水)福岡県 DRUM LOGOS
- 2017年12月7日(木)福岡県 DRUM LOGOS
- 2017年12月9日(土)広島県 BLUE LIVE HIROSHIMA
- 2017年12月12日(火)東京都 Zepp Tokyo
- 2017年12月13日(水)東京都 Zepp Tokyo
- 2017年12月16日(土)北海道 Zepp Sapporo
- 2017年12月19日(火)宮城県 チームスマイル・仙台PIT
- 2017年12月21日(木)愛知県 Zepp Nagoya
- 2017年12月23日(土・祝)大阪府 Zepp Osaka Bayside
- 2017年12月24日(日)大阪府 Zepp Osaka Bayside
- ユニコーン
- 1986年に広島で結成。翌1987年にアルバム「BOOM」でメジャーデビューを果たす。メンバーは奥田民生、EBI、手島いさむ、川西幸一、ABEDONの5人。全員が楽曲制作に携わりボーカルを取るフレキシブルなスタイルで、オリジナリティあふれる活動を展開する。「大迷惑」「働く男」「雪が降る町」「すばらしい日々」など数々のヒット曲を生み出すも1993年に惜しまれつつ解散。その後はそれぞれソロ活動を展開していたが、2009年に16年ぶりに再始動。2月にシングル「WAO!」とアルバム「シャンブル」を発表し、3月より全国ツアー「蘇える勤労」を開催した。それぞれソロ活動と並行してユニコーンとしての活動も行い、メンバーが50歳を迎えた際には「50祭」と銘打ったライブイベントを実施した。2017年10月にデビュー30周年を迎え、12月にリマスタリングボックス「UC30 若返る勤労」リリース。同月より全国ツアー「UC30 若返る勤労」を開催する。