上坂すみれ|地獄と星空、春アニメED2曲のコントラスト

「蒼天の拳 REGENESIS」EDはキャラに寄り添ってシリアスに

──今回はもう1曲、4月から放送されるテレビアニメ「蒼天の拳 REGENESIS」のエンディングテーマ「祈りの星空」も同時配信されます。こちらは「鬼灯」と違って初めての組み合わせですね。

この曲は、まず声優として「蒼天の拳 REGENESIS」のオーディションを受けて、出演が決まったあとでエンディングテーマのお話もいただいたんです。

──シリーズ開始から携わっていた「鬼灯」と違い、「北斗の拳」の流れを汲む歴史ある作品に参加するのはプレッシャーも大きそうですね。

「蒼天の拳」は伝統ある作品で重厚な世界観なので……本来ならもうちょっとソウルフルな女性ボーカリストの方が歌ったほうがいいのではないかと思ったんですけど、私が歌わせていただけることになりました。

──EDM調の楽曲で、上坂さんの楽曲にはあまりなかったタイプのシリアスさですね。

シリアスな歌はあまり向いているほうじゃないですけど、がんばってどうにかほころびが出ないように歌いました(笑)。アフレコも順調に進んでいるのですが、アニメのオリジナル要素もありつつ原作の蒼天らしさがしっかり落とし込まれている作品なので、蒼天ファンの皆さんのためにもこの曲は作品とキャラクターに寄り添うことを第一に考えました。

──CDリリースのない、配信のみのシングルというのは今回が初めてですよね。気持ちのうえで違うところはありますか?

上坂すみれ

曲作りは変わらないですけど、スケジュール的には救いの配信でした。今までずっと3カ月に1枚シングルが出ていたので。

──確かに、CDとなるとアートワーク周りの作業量が全然違うでしょうし、それを3カ月ペースでやるとなかなかの過密スケジュールになるでしょうね。

同志諸君(上坂すみれファンの呼称)もそうたびたびシングルを出していると散財の心配があるでしょうし(笑)。それに今回はアルバムの制作も控えているので、私自身アルバムでまとめて聴くのが好きなので、こういう形のリリースもいいなと思いました。

海外に行くためのアルバムコンセプト

──3rdアルバム(参照:上坂すみれがアルバム発売&ツアー開催を発表、ライブの内容は「シラフでは…」)は今夏発売と予告されていますが、アルバム全体の構想はすでに見えているのでしょうか?

アルバムは……まだ何も。ただ海外に行きたいだけです。なんでもいいから海外に行きたいので、海外に行けるような曲やコンセプトにしたいですね。和風な曲だとたぶん国内にとどまることになるので……できれば香港に行きたいので、チャイニーズな曲を作る必要があります。目的と手段が逆なんですけど。

──外堀から見えてくるものもありますからね。今回の2曲や2ndアルバム「20世紀の逆襲」(参照:上坂すみれ「20世紀の逆襲」特集)以降のシングルは入ると思いますが、それ以外の楽曲については現在のところ白紙と。

シングルがたくさんあって、それを補完する必要はあるので、収録曲的にはすでにけっこうな数の候補があると思うんですけど、方向性はシングルによってまちまちなので、それをどうまとめるか。あと、1stアルバム(参照:上坂すみれ「革命的ブロードウェイ主義者同盟」インタビュー)や2ndアルバムは「これで出納め!」みたいな迫力のあるコンセプトだったので、今回はもうちょっとラクに聴けるような、ラフなコンセプトでもいいかなと思ってます。

──確かに過去の2作品はコンセプトが強烈で、上坂さんがどんな歌を歌っているか知らない人がいきなり手を出してみるには、少々敷居が高かったかもしれないですね。曲単位で考えたとき、例えば先ほどの野猿もそうですけど、上坂さんからたびたび名前の出てくる秋元康さんに歌詞を書いてほしいという希望はないんですか?

秋元先生は時代時代で作風が変わっていると思うので……私はおニャン子クラブだったり野猿だったり、あの時代性が好きなんだと思うんです。昔のアニソンも書かれてますけど、今の秋元先生が書いている歌詞はもう少しスマートな印象なので。あまり詳しくはないですけど、きっとLINEとか出てきますもんね。私にLINEの歌はちょっと難しいかな……。

──上坂さんのキャラを踏まえたうえで「あの頃の秋元康として書いてほしい」とオーダーできたら面白そうですけど。今の秋元さんが書いた歌詞を上坂さんが歌うのも、それはそれで面白そうです。

そうですね。どっちがいいのかわかりませんけど、うしろゆびさされ組(おニャン子クラブから派生した、高井麻巳子と岩井由紀子によるユニット。テレビアニメ「ハイスクール!奇面組」の主題歌を歌うユニットとして誕生した)みたいな雰囲気ならすんなり歌えるような気がします。できれば最新機器が出てこない歌詞でお願いしたいです(笑)。

──アルバム発売後にはツアーの開催も決定していますが、先日のシングル「POP TEAM EPIC」発売記念イベント(参照:上坂すみれ、池袋でピピ美のお面を引き裂く)では「開催場所はまだ決まっていない。サイコロで決める」と話してましたよね。

はい。サイコロで決めたいです。ライブは東京が多いので、たまに発売記念イベントなどで地方に行くと、ほとんどの方がはじめましてなんですよ。学生さんも多くて、「東京まではとても行けないので、ツアーをやってください」という声もたくさんいただいたので、地方でのライブもやっていきたいです。

週に1回くらいは蹴ったり殴ったり

──前回のインタビューで近況をたずねたところ、「サブカル鬱を回避するために11月からおもむろにボクササイズを始めた」とおっしゃってましたよね(参照:上坂すみれ「POP TEAM EPIC」インタビュー)。ボクササイズはまだ続けてますか?

続いてます。唯一の運動として。

──心身に変化はありますか?

そうですね。同じジムに通っている意識の高い女子たちを見て、自分もがんばって生きようという気持ちが芽生えてきました。

──その意識高い女子たちとの交流は?

上坂すみれ

ないです。ただ盗み見ているだけなんですけど、皆さんはアディダスか何かの立派なウェアを着て、私はヴィレヴァンで買ったサブカルシャツを着て(笑)。後ろのほうから「皆さんすごいなあ」と眺めています。ボクササイズが終わったら、皆さんがこれからパーティに行くだのお肉を食べに行くだのと華やかな暮らしをしているので、「社会にはこういった上層部があって、私たちがいるんだな」と知ることができました。

──「一緒にパーティに行こうよ」と声をかけられたりはしませんか?

しないです。たぶん私が壁を作ってるんだと思いますけど。

──心にはあまり変化があるようには見えないですけど(笑)。

まあ交流はしなくても運動はできますからね。自分の体力を知るのは大事ですし。アフレコも運動だと思ってたんですけど、そうでもないらしく。蹴ったり殴ったりすることで、自分の中の邪悪なものが去っていくんです。やっぱり蹴ったり殴ったりする人のほうが、蹴ったり殴ったりしない人よりもメンタルは安定していると思うので、やっぱり週に1回くらいは蹴ったり殴ったりしなくちゃいけないなと。新しい習慣が生まれて、非常に体が強くなった気がします。

──そのほかに最近変わったことはありますか?

これは前からちょっとずつ改善されているんですけど……昔は何事も食わず嫌いが多くて、「どうせそういうのは私には向いてない」と排除していたものが意外と面白かったりして。最近はフュージョンを聴き始めましたね。おしゃれピープルのものだと思っていたんですけど、シティポップっぽくもあって。よく角松敏生さんを聴いています。ちょっとずつビーチのパリピに近付いていると思います。

──心理的に変わりたいという気持ちがあるんですかね。それとも今まで自分になかった異物に接する楽しみのほうが強いのか。

普及しているメインカルチャーを知ることで、サブカルのありがたみがわかるところもあると思うんです。サブカルだけで生きてると、世の中の人は皆サブカルだと思いがちですけど、大衆文化を知ることで「我々の地下世界はなんと住みやすいのだろう」と環境のありがたさがわかるんです。

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フォトギャラリー

上坂すみれ「地獄でホットケーキ / 祈りの星空」
2018年4月9日配信 / KING RECORDS
上坂すみれ「地獄でホットケーキ」
上坂すみれ(ウエサカスミレ)
上坂すみれ
ソビエト社会主義共和国連邦が崩壊した1991年生まれの声優、アーティスト。小学生時代よりジュニアモデルとして活動し、2012年テレビアニメ「パパのいうことを聞きなさい!」の小鳥遊空役で本格的に声優デビューを果たす。以来、注目作に出演する一方でメディアやイベントなどを通じて、無類のロリータファッションマニア、ソ連・ロシアマニア、ミリタリーマニア、音楽マニアであることがファンの知るところに。そして2013年4月、その趣味の世界をダイレクトに反映したシングル「七つの海よりキミの海」でアーティストデビュー。その後も桃井はるこ作詞作曲の「げんし、女子は、たいようだった。」や、大槻ケンヂ作詞、NARASAKI作曲の「パララックス・ビュー」など話題作を立て続けにリリースし、2014年1月には1stアルバム「革命的ブロードウェイ主義者同盟」、2016年1月には2ndアルバム「20世紀の逆襲」を発表した。2016年2月には東京・中野サンプラザホールで初のバンド編成による2DAYSライブ「超中野大陸の逆襲」、12月には初のアリーナ会場となる東京・両国国技館でワンマンライブ「上坂すみれのひとり相撲2016~サイケデリック巡業」を行う。2017年4~6月にはTOKYO MXとBS11で初の冠テレビ番組「上坂すみれのヤバい○○」が放送され、9月には放送された全12話に未公開映像を加えたBlu-rayボックス「上坂すみれのヤバい○○ Blu-rayBOX」が発売された。2018年1月にテレビアニメ「ポプテピピック」のオープニングテーマ「POP TEAM EPIC」をシングルとしてリリース。4月にはテレビアニメ「鬼灯の冷徹」のエンディングテーマ「地獄でホットケーキ」、同じくテレビアニメ「蒼天の拳 REGENESIS」のエンディングテーマ「祈りの星空」を配信シングルとして2曲同時に発表した。