「Turkey!」特集 第5回|やなぎなぎ&市ノ瀬加那 インタビュー (2/2)

利奈バージョンだけでもいいんじゃないかと

──その「夏の住処」を市ノ瀬さんが歌ったバージョンについてのご感想もぜひ聞かせてください。

いや、本当にすごく素敵で、もうこっちだけでいいんじゃないかと思っちゃうぐらい(笑)。なんかこう、自分が歌う場合は作っている最中から「ここはこういうふうに歌う」というのが決まっていくけど、その先入観なしにフラットな姿勢で歌ってくださったのを感じて。自分で作った曲ではありますが、「この曲って、まだこういう表現を乗せられる余地があったんだ」と思わせていただけたんです。それがめちゃくちゃ新鮮で、すごく感動しました。

──個人的な感想として、市ノ瀬さんのバージョンが“市ノ瀬さん用に書かれた曲”のように聞こえたんです。でもやなぎさんのオリジナルを聴くと、100%やなぎなぎの楽曲として作られたものに聞こえる。これが両立するのって、本来あり得ないことだと思うんですが……。

それはやっぱり、市ノ瀬さんの汲み取り方が素晴らしいということに尽きると思います。さっきも「市ノ瀬さんが歌われることはそこまで意識していなかった」というお話をしましたけど、私の曲がどうこうというよりも、市ノ瀬さんが素敵に歌ってくださったことで成り立ったものだと思いますね。

朱火。テレビアニメ「Turkey!」第9話より。

朱火。テレビアニメ「Turkey!」第9話より。

五代利奈と朱火。テレビアニメ「Turkey!」第9話より。

五代利奈と朱火。テレビアニメ「Turkey!」第9話より。

──具体的に「ここの表現にシビれた」というポイントを挙げるとすると?

全体的に素晴らしかったんですが……特に歌い出しのところですかね。自分ではかなりウィスパー気味に歌ったんですけど、市ノ瀬さんは冒頭からわりとストレートな発声で歌を乗せてくださっていて。利奈ちゃんのまっすぐな気持ちが素直に乗っているのを、聴いた瞬間に感じましたね。

──まさに“市ノ瀬さん用の曲”のように感じられた最大のポイントが歌い出しでした。“利奈の歌”としての説得力が1音目からあったというか。

うんうん、ありましたね。

──あと僕が個人的に感じたのは、「届いたかな 小さな私」のところで一瞬だけ幼い発声になるところがあって……。

わかります! ちょっとあどけない感じになるんですよね。

──ほかは抑えた表現で統一されてるんですけど、ここだけちょっと油断した感じというか。意図したものかどうかはわかりませんが、利奈というキャラクターの不安定さがよく表れている感じがしました。

そうですね。本当に自分とはまったく違う視点というか、「ここの歌い方はこういう感じ」と決めつけちゃっていたのがもったいないなと思うぐらい、本当に素敵な視点で歌っていただけたなと思います。

──あとは、ウィスパーボイスで低音を“聴かせる”のってものすごく難しいことだと思うんですけど、市ノ瀬さんはこれもめちゃくちゃお上手ですよね。

ウィスパーって、音域が低くなればなるほど息を多くしなきゃいけないですし、息が通りづらくなるものなんですよね。でも、その難しさをまったく感じさせない自然な表現をされていて、本当にすごくお上手な方なんだなというのがひしひしと伝わりました。

──そのあたりも含めて、市ノ瀬さんへの当て書き曲のように感じたんですよね。

それはもう、繰り返しになりますけど市ノ瀬さんがすごいだけ、という話ですね(笑)。基礎的な歌の技術だけでもすごいのに、さらにそこにキャラクターを乗せて、感情まで乗せてらっしゃるわけですから。本当にとんでもない技術だと思います!

五代利奈と音無麻衣。テレビアニメ「Turkey!」第9話より。

五代利奈と音無麻衣。テレビアニメ「Turkey!」第9話より。

感情の動きを想像するのが楽しい作品

──改めてになりますが、この記事を読む読者に向けて「夏の住処」の聴きどころをまとめていただけますか?

やっぱり私はキャラクターではないので、物語の全体像を客観的に思い浮かべながら歌っているんですね。それに対して市ノ瀬さんは利奈ちゃんの視点で歌っていると思うので、聴き比べていただく際にはそこが大きなポイントになってくるのかなと思います。そういう歌い手の視点の違いに着目していただくと、きっと皆さんも楽しいんじゃないかなと思います。

──「Turkey!」という作品全体についても、改めて見どころを教えてください。

私はやっぱりエンディングテーマを担当させていただいた9話推しではあるんですが(笑)、その9話を経たあとの展開もすごく好きで。夏の一瞬の体験の中で彼女たちそれぞれが得たものというのが、すべて描かれるわけではないんですけど、「きっとこの子にはこういう感情の動きがあったんだろうな」と想像するのが楽しい作品だと思います。

──「ボウリング×女子高生×戦国時代」というインパクトのある設定にだまされがちですけど、実際はかなり骨太なヒューマンドラマなんですよね。

本当にそうですね。しかも、それぞれの設定にもちゃんと意味があるので、ただのトンデモ設定というわけではなくて(笑)。最初にも言いましたけど、毎話毎話キーになる驚きポイントがありながらも軸となるストーリーがまったくブレずにまとまっていて、非常に観やすい作品でもあると思います。

左から傑里、寿桃、庵珠、朱火、音無麻衣、五代利奈。テレビアニメ「Turkey!」第9話より。

左から傑里、寿桃、庵珠、朱火、音無麻衣、五代利奈。テレビアニメ「Turkey!」第9話より。

──ありがとうございます。では最後に、「夏の住処」を利奈として歌われた市ノ瀬さんへ何かメッセージをお願いします。

「夏の住処」をこんなに素敵に歌っていただいて、本当にありがとうございます。自分では気付いていなかった新たな視点に気付かせていただいた……というと変な言い方かもしれませんが、本当にハッとする部分が多くて、聴き惚れてしまいました。とにかく「素晴らしいです。ありがとうございます」とお伝えしたいです!

市ノ瀬加那が語る、やなぎなぎの歌声と「Turkey!」の見どころ

──「Turkey!」はボウリング部に所属する女子高生たちが、ある出来事をきっかけに戦国時代へとタイムスリップする驚きの内容の作品です。一ノ瀬さんはこのストーリーを聞いたとき、率直にどのように感じましたか?

女子高生、ボウリング、戦国時代、このワードだけ聞くと本当にどんな物語になっていくかまったく想像がつきませんでした。タイムスリップをしたりとユニークで意外性のある設定にもとても惹きつけられましたし、ボウリングという現代的で平和なスポーツをしていた麻衣たちが突然戦国時代に放り込まれる展開はなかなかしびれましたね。

──一ノ瀬さんにとって、利奈というキャラクターはどんな存在でしょうか?

利奈は不器用だからこそ空回ってしまったり周囲に強く当たってしまったりと、とても人間味のある子だなと感じました。それが本当に愛おしくも感じますし、「揺らぎ」があるからこそ、より利奈の1人の人間としての立体感が生まれているなと思いました。本当はすごく不安だったり、「本音」と「外から見える利奈」のもどかしさは共感する部分も多いなと思いながら演じさせていただきました。

五代利奈と音無麻衣。テレビアニメ「Turkey!」第9話より。

五代利奈と音無麻衣。テレビアニメ「Turkey!」第9話より。

──利奈にフォーカスした第9話のエンディングテーマを、やなぎなぎさんが担当されると聞いたときはいかがでしたか?

やなぎなぎさんの楽曲は学生の頃から聴いていたので素直にうれしかったです。唯一無二の世界観と繊細な歌声が魅力的ですし、澄んでいて透明感のあるお声に水のようにスッと心に染みわたってくる歌詞が本当に素敵です。「Turkey!」でやなぎさんの歌を聴けるとわかったときは「どんな曲になるのかな?」とワクワクしました。

──一ノ瀬さんは「夏の住処」を初めて聴いたとき、どのような印象を受けましたか?

心がキュッと切なくなるけど前を向いていきたくなる、最後は自然と元気をもらえる曲だと思いました。別れや変化に対する寂しさや喪失感を優しく包み込んでくれていて、繊細さと力強さが巧みに合わさっているので曲を聴き終わったあとにはなんだか映画を1本観たような満たされた気持ちになりました。

五代利奈と音無麻衣。テレビアニメ「Turkey!」第9話より。

五代利奈と音無麻衣。テレビアニメ「Turkey!」第9話より。

──利奈として「夏の住処」をカバーする際に意識したこと、こだわったポイントなどあれば教えてください。

最初は特に隣で話しかけるくらいの距離感を大事にしたのと、とても繊細でノスタルジックな雰囲気があるので語尾の処理なども難しく、言葉の乗せ方1つひとつを丁寧に意識して歌わせていただきました。

──やなぎさんへのメッセージをお願いします。

いつも素敵な曲をありがとうございます。初めてやなぎなぎさんの歌声を聴いたとき、ふわっと風景が浮かんできてとても惹き込まれました。繊細ででも力強い歌声に心を動かされますし、曲の中に丁寧な思いや表現のこだわりをたくさん感じられてどの曲も本当に素敵です……! 利奈として「夏の住処」をカバーさせていただいてとてもうれしかったです! ありがとうございました!

──最後に「Turkey!」第9話の見どころ、作品全体の魅力について聞かせてください。

文化や価値観の違いに葛藤しつつも、麻衣たちなりに戦国時代の人たちと関係を築いていきましたが、お話もいよいよ終盤です……! 物語はさらにギアが入って見逃せない展開になります! 彼女たちがどんな決断をするのか、ぜひ見届けてください!

プロフィール

やなぎなぎ

関西出身の女性シンガーソングライター。2006年にライブハウスやインターネット上で音楽活動を開始するやいなや注目を浴び、2009年発表のsupercell「君の知らない物語」にnagi名義でゲスト参加。2012年2月にはテレビアニメ「あの夏で待ってる」のエンディングテーマ「ビードロ模様」でメジャーデビューを果たした。2025年6月には音楽活動20周年を記念したアルバム「ENcore」を発表。9月にはテレビアニメ「Turkey!」第9話のエンディングテーマ「夏の住処」を配信リリースした。

市ノ瀬加那(イチノセカナ)

北海道出身、シグマ・セブン所属の声優。これまでに「機動戦士ガンダム 水星の魔女」「葬送のフリーレン」「ハニーレモンソーダ」「メダリスト」「紫雲寺家の子供たち」といったアニメ作品に出演しており、「第十五回 声優アワード」では新人女優賞、「第十八回 声優アワード」では主演声優賞を受賞した。2025年放送のテレビアニメ「Turkey!」では、五代利奈を演じている。