「Turkey!」特集 第3回|結城アイラ×岩田陽葵 対談 (2/2)

一緒に作らせていただいた感覚

岩田 アイラさんのお歌のおかげであのシーンが成り立っている、といっても過言ではないと思います。初めてデモを聴かせていただいたときも感動したんですけど、映像と合わさることでよりこう……全身の細胞が震えるような感覚を覚えました。

結城 ありがとうございます……! 今回の曲は、わりと自分が今までに挑戦してこなかった分野と言いますか。

岩田 そうなんですね!

結城 今まではどちらかというと希望や温かみを感じさせる曲をご依頼いただくことが多かったので、こういうシリアスなムードに曲をあてるのは初めてだったし、そもそもフィルムスコアリング自体が初挑戦だったんですよ。「ここのセリフに歌が被らないように」とか「手がアップになるシーンに『選んでく その手は』という歌詞を当てよう」とか、いろんな工夫ができる手法なんだなという発見がありました。

傑里。テレビアニメ「Turkey!」第6話より。

傑里。テレビアニメ「Turkey!」第6話より。

岩田 なるほどー! すごい!

結城 ボーカル的にも、最初のデモでは完成版よりも温かみの強い歌い方をしていたんですけど、「シリアスなシーンでかかるので、もう少し緊迫感や悲しみのほうに寄せてほしい」というリクエストをいただいて、そういう歌い方にも挑戦したりとか。あとは弦の使い方とかも、人を殺めてしまった痛みを表現できたらいいなと思って、アレンジャーの谷ナオキさんにお願いしてキュッキュッって音をバイオリンで入れていただいたり。

岩田 キュッキュッ(笑)。斬ってる感じってことですか? キリキリキリみたいな。

結城 そうそう(笑)。そういう挑戦をいっぱいさせてもらいました。

岩田 そうやってアイラさんが楽曲に込めてくださったもの全部、そのまま伝わりました。しかもアイラさんの歌声の、海のように深くて広い、包み込むような感じが、さゆりともめちゃくちゃリンクしていて。深さの中に切なさや痛みも感じますし、深いところから手を伸ばすような、何かを訴えかけるような思いがすごく伝わってきて、胸が締めつけられるような気持ちになりました。

一ノ瀬さゆり。テレビアニメ「Turkey!」第6話より。

一ノ瀬さゆり。テレビアニメ「Turkey!」第6話より。

結城 説明せずとも通じ合えているところがたくさんあって、本当にうれしいです……!

岩田 こちらこそです! 6話という話数もそうですし、さゆりという人物像もアイラさんと一緒に作らせていただいたように感じられて、私もとってもうれしいです!

一番しっくりくる視点が“神様”だった

結城 この曲をのちに岩田さんもカバーとして歌われるというお話はあらかじめ聞いていたんですけど、まずは自分で歌う曲でもあるので、あまりキャラソンに寄りすぎないように意識はしました。なので、さゆり視点ではなく一歩引いた目線と言いますか……この歌でいうとお花視点なんですけど(笑)、「痛みや悲しみに直面しながらも、それが人間の美しさだよね」という神様視点で寄り添えるような楽曲にしようと。

岩田 うんうんうん。なんか宇宙のような壮大さを感じます。

結城 さっきさゆりのことを「みんなを後ろから見ている立ち位置」とおっしゃっていましたけど、そこにもリンクさせられたらいいなという思いがありましたね。

岩田 なるほど! さゆり自体がちょっと神様みたいな視点でみんなを見てるから(笑)。

結城 そうそう。この曲に関しては結城アイラとして歌う感じでもないしなあ、と思っていたので、一番しっくりくる視点が神様だった(笑)。なので自分のバージョンではボーカルのリバーブを深めにして、空間で鳴っているイメージにしたんですよ。それに対して、さゆりが歌ったバージョンはもうちょっとドライなミックスにしていて、ボーカルが前に出てくる感じにしました。声の魅力をそのまま楽しんでいただけるような音にしたいなと思って。

一ノ瀬さゆりと傑里。テレビアニメ「Turkey!」第6話より。

一ノ瀬さゆりと傑里。テレビアニメ「Turkey!」第6話より。

テレビアニメ「Turkey!」第6話より。

テレビアニメ「Turkey!」第6話より。

岩田 わあ、ありがとうございます! そんな細かいところまでアイラさんが考えてくださっていたなんて。

結城 だから、いい意味で別の曲のようになっています。ただやっぱりキャラソンではないというところで、この曲をさゆりとして歌うときは立ち位置の設定が難しいかもしれないですよね。あんまり自分で自分のことを俯瞰して「美しい」なんて普通は言わないですし(笑)。

岩田 確かに(笑)。

結城 これは私の想像ですけど、誰かがんばっている人や苦しそうな人を応援するような気持ちで歌ったのかな?って。それこそ麻衣ちゃんたちのことを思って、とか。

岩田 うーん……どうやって歌ったんだっけ……。

結城 (笑)。それが思い出せないくらい、歌に入り込んでたってことですよね。レコーディングには私も立ち合わせていただきましたけど、あのスタジオの空気感は忘れられないですもん。すごく入り込んでた。

岩田 たぶん、天から声が聞こえてくるような気持ちもあったかなと思います。どこからともなく、自分のことを認めてくれている誰か……まあアイラさんなんですけど(笑)。その声を受け取りながら歌っているような感覚だったかもしれません。さゆり的には「この歌、なんか自分のことを言ってくれてるみたい」という気持ちだったのかなあ……まあ、実際さゆりのことなんですけど(笑)。

結城 メタ的に言えばそうなんですけどね(笑)。レコーディングを拝見していて、言葉の1つひとつをすごく大切にして歌ってくださっているのを感じたんですよ。私が個人的に一番聴いていただきたいポイントが、声の震えです。ビブラートという意味ではなく、さゆりの臆病さや恐怖心をあの声の震えに全部乗せてくれたんだなと思って、「ヤバい! さゆりだー!」ってなりました(笑)。だからこそリバーブで散らさずに、声の芯を残すミックスにしたというのもあります。

一ノ瀬さゆり。テレビアニメ「Turkey!」第6話より。

一ノ瀬さゆり。テレビアニメ「Turkey!」第6話より。

岩田 わあ……うれしいです。でもやっぱり基本的にはアイラさんからいただいたものをさゆりとして受け取って、それを歌に込められたらいいな、という思いだけでしたね。

結城 あと、サビの譜割がさゆりと私とで違っているところがあって。

岩田 わざと変えたわけじゃないんですけど(笑)、私がそう歌ってしまったのを受け入れてくださって。

結城 魂のままに歌ってくださった結果ですし、聴いて「あ、それが正解だな」と思えたので。

岩田 ありがとうございます……!

結城 やっぱりそれによって言葉の聞こえ方も全然変わってくる印象があったので、視聴者の皆さんもぜひここに注目して聴き比べていただけたら、いろいろ楽しんでいただけるんじゃないかなと思います。

めちゃめちゃいいアニメだと思うんですよ

岩田 そもそも、メインキャスト5人の担当回それぞれに挿入歌やエンディングテーマがあるってこと自体にまずびっくりしました。しかもそれぞれ違うアーティストさんが、それも映像に合わせて歌を作ってくださるなんて、なかなかないことじゃないですか。そのうえ、それをキャストがカバーさせていただいてCDにまでなるという、とてもぜいたくな企画で。

結城 本当に、ほかであまり聞いたことがないような試みですよね。

岩田 実は先日、収録内容についてほとんど公表されていない段階でこのCDのリリースイベントをやったんですよ(笑)。「オープニング曲が収録されます」ということしか言えない状態だったんですけど、このカバーが収録されることはすでに決まっていたので、どうしても皆さんに聴いてもらいたくて「絶対にゲットしたほうがいいです!」ということだけは強調しておきました(笑)。

一刻館高校ボウリング部の面々。テレビアニメ「Turkey!」第6話より。

一刻館高校ボウリング部の面々。テレビアニメ「Turkey!」第6話より。

結城 音楽面もそうなんですけど、トリッキーな導入に対する骨太なドラマ性なども含めて、何かと意欲的な作品ですよね。これ、シンプルにめちゃめちゃいいアニメだと思うんですよ。めっちゃいいですよね?

岩田 (笑)。はい、もちろんです!

結城 予測不可能な展開の中に深い人間ドラマがあって、きっと多くの方の心に残る1作になるんじゃないかなと思います。

岩田 本当にアイラさんがおっしゃった通りで、一見ギミックの部分に目を引かれがちではあると思うんですけど、「生きることとは?」「人間とは?」みたいな根源的なテーマに真っ向からぶつかっていく作品なんですよね。「楽しいだけじゃ語れない」というキャッチコピーが、まさにこの作品を言い当てているなって思います。

結城 もちろん5人の成長物語でもありますしね。

岩田 私たちも1話1話魂を込めて演じさせていただきましたし、歌を作ってくださったアーティストの皆様も同じ思いを持ってくださっています。もちろんスタッフさんたちも全身全霊を懸けて作ってくださっていますので、どうか全12話、最後まで見届けていただきたいです。最後まで観ると「あ、そういうことだったんだ」といろいろ腑に落ちることが多いと思いますし、そしたらまた第1話から観なおしていただくと、より深くメッセージを受け取ってもらえるんじゃないかと思います!

音無麻衣と一ノ瀬さゆり。テレビアニメ「Turkey!」第6話より。

音無麻衣と一ノ瀬さゆり。テレビアニメ「Turkey!」第6話より。

プロフィール

結城アイラ(ユウキアイラ)

アーティスト、作詞家、作曲家。2007年にテレビアニメ「sola」のオープニングテーマ「colorless wind」で歌手デビュー。声優ユニット・NOW ON AIRのサウンドプロデュースや、テレビアニメの音楽プロデュースなども手がける。2022年10月にデビュー15周年を記念したシングル「Zeal」を発表し、2023年3月にはワンマンライブ「結城アイラ 15th Anniversary LIVE ~Anime Selection~」を開催。2025年8月にはテレビアニメ「Turkey!」第6話のエンディングテーマ「sincerity flower」を配信リリースした。

岩田陽葵(イワタハルキ)

東京都出身、fennec所属の声優。これまでに「少女☆歌劇 レヴュースタァライト」「アサルトリリィ BOUQUET」「D4DJ First Mix」「異世界でもふもふなでなでするためにがんばってます。」などのアニメ作品に出演しているほか、声優ユニット・harmoeのメンバーとしても活動している。2025年放送のテレビアニメ「Turkey!」では、一ノ瀬さゆりを演じている。