ナタリー PowerPush - 東京スカパラダイスオーケストラ
細美武士との邂逅、アメリカRECの裏側を語る
彼は“ダイアモンドシンガー”
──その「Diamond In Your Heart」はスカの裏打ちのリズムの奥にあるロックなスピリットをわしづかみして、日のもとに引き出したかのような会心の1曲ですよね。
加藤 それはうれしいですね。ロックも大好きな僕としても、スカにロックをかけあわせるアプローチで会場を爆発させる演奏に、細美くんの声が乗ったら最高だなって思ったんですよね。
──さらにそうやってアレンジを詰めていく一方で、谷中さんが書かれた歌詞には力強いメッセージが込められていますよね。
谷中 細美くんは内面にあるデリケートな部分だったり、怒りや世の中に対する疑問さえお客さんにぶつけつつ、それをみんなで共有しながら、アーティスティックな活動を続けることでいろんな人のシンパシーを得てきた本物のアーティストだし、メッセンジャーですよね。だから、彼が歌うということで、内面的な部分が際立つと同時に肉体的にも力強い歌詞にしたかったんですよね。でも、最初の段階では「Diamond」という言葉はなかったんです。つまり、肉体だけがあって、顔に当たる部分がないなと思っていて、細美くんのことを考えていたら、「彼は“ダイアモンドシンガー”だな」ということに行き着いたんですよ。
──そこで「Diamond」という言葉が生まれたと。
谷中 今の世の中はいろんなことが明け透けになって、秘密に価値がなくなってきているじゃないですか。人知れず努力することだったり、隠れたところで1人で培っていく心の力強さは非常に大事だと僕は思っているんですけど、そういうものを育む間もなく、膨大な情報を取り込んだり、ネットなどを通じて自分の生活をつまびらかにしたり。「秘密にする」っていうと、何か悪いことをしているように聞こえるかもしれないですけど、そうではなくて、何千万年もかけて地中で生成される本物のダイアモンドのように、歌詞に出てくるダイアモンド、つまり心の中心点を時間をかけて育むことで、その強さが人間の強さだったり、オーラやフェロモン、存在感というものになっていくんだと思うんです。だから、この歌詞で伝えたいのは、心の中心点を持っていてほしいということですよね。その中心点は神秘的で、自分自身ではわからないことかもしれないし、わけのわからない自信かもしれない。でも、その自信こそが大事だと思うんですよ。そして「Tough and pure part of your mystery」、つまり、ピュアでいろんなことを敏感に感じるけど、感じやすいために壊れてしまうのではなく、タフに向かっていくということ。これはまさに僕が考える細美くん像なんですよね。
──彼のここ最近の活動を考えても、心のおもむくままに動き続けていますしね。
谷中 普通の人が彼のように何年か生きていたら、傷付きまくって、たぶん生きていくのがイヤになってしまうと思うんですよ。それでも彼は感じることをやめない。そういうタフさが彼にはあって、逃げずに向かっていくし、オープンであることを止めないまま、強くなろうとしている。それが輝きと強さを兼ね備えた彼のダイアモンド性なのかなって思いますね。
──この曲のボーカル録音で、細美さんは4テイクでOKが出たそうで。
谷中 しかも、最後が一番よかったんですよね。そのとき、彼が発した「最後のテイクで決まってよかった!」という言葉が非常に印象的でしたね。彼にとって、最高点が最後のチャレンジにあったことは重要だったみたいですよ。
──ミュージシャンに話を聞くと、ほとんどの場合「1stテイクが一番いい」という話になるので、稀なケースなんでしょうね。
加藤 更新していくっていうことですから、スゴいことですよ。「自分では同じように歌ってたつもりだったのに、3テイク目、4テイク目を歌っているとき、スタジオにいるスカパラのメンバーの反応が違った」って言ってましたからね。
大事にする部分がはっきりしているアメリカでのレコーディング
──アルバムのレコーディングに関して、前回のナタリーのインタビュー([Power Push] 東京スカパラダイスオーケストラ「欲望」特集)ではロンドン、バルセロナの海外レコーディングで、逆に日本の昭和感が刺激されたと語っていましたが、今回も大きな環境の変化によって創作意欲は刺激されましたか?
谷中 そうですね。単純に移動することで力が得られるということはあると思うんですよ。文化というのは移動によって生まれるんじゃないかと僕は考えていて。いつもとは違う場所に行くことでいろんなことを発見するということもそうだし、移動して、また戻ってくることで、身近なところにある幸せに気付いたり、行った土地に住む人にはなんでもないことが僕らにとっては驚きだったりもする。そして、何より、僕らはいろんな場所に行って、その場所の空気を吸って、その場所に最大限の感化を受けようという積極的な姿勢があるので。「欲望」のときもそうだし、今回もまた別の刺激を受けましたよね。
──例えば、それはどういった点ですか。
谷中 アメリカで思ったのは、大事にしている部分がはっきりしているなということ。まずスタジオでも、録音スペースは昔からずっと同じままなんですよね。レコーディングにおいてはその部分が大事なので変わらずそのままにしてあるんですけど、それ以外の内装はフィリップ・スタルクっていう著名なデザイナーの手できれいにリノベーションされていたんですね。
──内装は部分的に変わっていても、1950年代からフランク・シナトラ、エルヴィス・プレスリーからRED HOT CHILI PEPPERS、U2といったトップアーティストが長年にわたって使い続けてきた由緒あるEASTWESTスタジオの神髄は変わらないと。では、THE CLASH、RAMONES、BEASTIE BOYSの名作を手がけてきたエンジニアのジョー・ブレイニーさんの仕事ぶりはいかがでしたか?
谷中 彼のエンジニアの方法も、時間をかけるべきところは納得するまで妥協せずに時間をかける。その姿勢が圧倒的で、サウンドチェックにすごい時間をかけてたし、「みんなを待たせてるから……」とか、そういうことは一切考えてないんです。でも、どういう音で録るか。その音決めはレコーディングの肝の部分だから、確かに一番時間をかけるべきところですよね。みんなが待っていることはもちろんわかっているんですけど、それでも予定より数時間オーバーしても、納得がいくところまで焦らずにしっかり時間をかける。日本人は、チームワークだったり、さまざまな点を繊細に考えながらいい仕事をするんだけど、それとは異なる力の入れ方はさすがアメリカの一流エンジニアだと思いました。
- 東京スカパラダイスオーケストラ ニューアルバム「Diamond in your heart」 / 2013年7月3日発売 / cutting edge
- CD+DVD 3600円 / CTCR-14801/B / ※初回プレス分はデジパック仕様
- CD 2300円 / CTCR-14802
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CD収録曲
- Diamond In Your Heart
(ボーカル:細美武士) - LA Traffic
- Aranjuez
- Dizzily Dazzled
- Born To Be Wild
- Skactus
- Rockabilly Cutie
- You've Got A Friend In Me
DVD収録内容
スカパラ史上最も激しく熱かった“TOUR Walkin'”ファイナル公演 (@代々木第二体育館 2012.7.6) より、客演の中納良恵(EGO-WRAPPIN')が歌う「縦書きの雨」「マライの號」「BONGO TANGO」や、EGO-WRAPPIN'とスカパラによる奇跡のコラボ「くちばしにチェリー」など17曲を収録(90分)。さらに、細美武士をゲストボーカルに迎えた「Diamond In Your Heart」のビデオクリップも収録!
TOKYO SKA PARADISE ORCHESTRA
2012 TOUR Walkin' FINAL@代々木第二体育館 2012.7.6- Return of Supercharger
- ルパン三世'78
- MONSTER ROCK
- Walkin'
- クールなスパイでぶっとばせ
- HURRY UP!!
- Lonesome Eddy
- マライの號
※ゲスト:中納良恵(EGO-WRAPPIN') - BONGO TANGO
※ゲスト:中納良恵(EGO-WRAPPIN') - 縦書きの雨
※ゲスト:中納良恵(EGO-WRAPPIN') - 水琴窟 -SUIKINKUTSU-
- SKA ME CRAZY
- LET ME COME THE RIVER FLOW
- White Light
- All Good Ska is One
- くちばしにチェリー
※ゲスト:EGO-WRAPPIN' - DOWN BEAT STOMP
- Diamond In Your Heart –music video-
※初回出荷分はデジパック仕様
- Diamond In Your Heart
- 沖祐市ソロアルバム「Gospel」 / 2013年7月3日発売 / cutting edge
- 2800円 / CTCR-14790 / ※初回プレス分はデジパック仕様
- So many tearsニューアルバム「LOVE & WANDER」 / 2013年7月3日発売 / cutting edge
- 2800円 / CTCR-14795 / ※初回プレス分はデジパック仕様
東京スカパラダイスオーケストラ
(とうきょうすかぱらだいすおーけすとら)
NARGO(Tp)、北原雅彦(Tb)、GAMO(Tenor sax)、谷中敦(Baritone sax)、沖祐市(Key)、川上つよし(B)、加藤隆志(G)、大森はじめ(Per)、茂木欣一(Dr)からなる9人組バンド。1989年11月にインディーズで黄色いアナログ「TOKYO SKA PARADISE ORCHESTRA」をリリースし、その本格的なサウンドと独自のスタイルが話題を集める。1990年4月にシングル「MONSTER ROCK」、アルバム「スカパラ登場」でメジャーデビュー。以降、オリジナルメンバーの逝去や脱退といった幾多の困難を乗り越え、2008年7月より現在の編成となる。スカをルーツに多彩なジャンルを取り込んだ豊かな音楽性は国内外のオーディエンスから高い評価を獲得。国内はもとより、ヨーロッパを中心に世界各国でライブを行い、日本を代表するライブバンドとしてワールドワイドな活躍を続けている。