TrySail「そんな僕らの冒険譚!」インタビュー|デビュー10周年、今迎える新たな出航のとき

今年デビュー10周年を迎えるTrySailが、ニューシングル「そんな僕らの冒険譚!」をリリースした。

シングルの表題曲はテレビアニメ「外れスキル《木の実マスター》 ~スキルの実(食べたら死ぬ)を無限に食べられるようになった件について~」のエンディングテーマ。元気いっぱいで明るいTrySailの王道とも言えるナンバーで、3人はデビュー10周年のスタートを勢いよく飾る。カップリングには3月に東京・日本武道館で行われるライブ「LAWSON presents TrySail 10周年出航ライブ “FlagShip” in 日本武道館」のテーマソング「声のシンフォニー」を収録。TrySailの軌跡とこれからの未来に思いを馳せるようなミディアムバラードだ。

音楽ナタリーでは3人にインタビューを行い、新曲の解釈と日本武道館公演への思いを聞いた。

取材・文 / 須藤輝撮影 / 塚原孝顕

私たちはこの道を行くんだぞ!

──表題曲「そんな僕らの冒険譚!」は、聴いた瞬間に「ああ、TrySailってこうだよな」と思いました。

夏川椎菜 “お客さんが聴きたいTrySail”という感じがすごくしますよね。近年TrySailには、例えばテンポが速かったり、歌うのにかなりの体力を要する“マッスル”な楽曲が多かったんです。それを超えてくるような「まだ上があったんだ?」みたいな楽曲が今、デビュー10周年の武道館公演(「LAWSON presents TrySail 10周年出航ライブ “FlagShip” in 日本武道館」)を控えた「また出航するぞ!」というタイミングで来たのは運命的だなって。かつ、この楽曲にはライブを経て育っていく「adrenaline!!!」(2017年5月発売の6thシングル表題曲)的な匂いも感じたので、ライブで歌うのが今から楽しみです。

麻倉もも まさに“ザ・TrySail”な、元気で明るい曲なんですけど、それプラス、冒険的なワクワク感もあるので、10周年のスタートにぴったりかなって。ここからまた、みんなで楽しみながら進んでいける、そんな予感がします。

雨宮天 わちゃわちゃ感がすごい。それはTrySailが今までやってきたことであり、最近その傾向がより強くなっている中で、ダメ押しするかのように「私たちはこの道を行くんだぞ!」という意思を示す楽曲になっていますね。しかも「冒険譚」というだけあって、ある種の幼さを感じさせながら、技術も要求される挑戦的な楽曲だとも思いました。

麻倉ももと雨宮天。

麻倉ももと雨宮天。

──作詞は松井洋平さん、作編曲はEFFYさんで、アニメ「外れスキル《木の実マスター》 ~スキルの実(食べたら死ぬ)を無限に食べられるようになった件について~」のエンディングテーマでありながら、今のTrySailにうまいことハマっています。

麻倉 歌詞も前向きで、聴いていて元気になれるんですけど、マイナスに捉えられそうなことも受け入れているというか。「ちょっとは誰かと違ってたって」「欠点が転じた結果でOK」「調子の良し悪しはしょうがないって」みたいな気張らない感じの歌詞は、今の私たちだから説得力を持って歌えるんじゃないかなと思いました。デビューしたての頃は、私たち自身も肩に力が入っていたし、余裕もなかったので。

──「仲間外れ同士で」などもそうですが、みんなと同じじゃない人、うまくいっていない人を置いていかない感じもTrySailっぽいと思いました。

雨宮 だいぶ明るい曲なんですけど、10年活動してきたTrySailがまだ「Growing up!」と歌えるのはすごいなと思いましたね。今度の武道館ライブも私たちは「出航ライブ」と言っているんですけど……。

──ずっとどこかに向かっていますよね。

夏川 いつまで経っても戻ってこない(笑)。

雨宮 「ここで止まりません!」みたいな。気持ちは常にフレッシュだし、いつだってここから出航だし、まだまだ育ち盛りだしっていう、すごく私たちらしい楽曲ですね。

──夏川さんが「adrenaline!!!」に言及されましたが、「そんな僕らの冒険譚!」のミュージックビデオも「adrenaline!!!」を彷彿とさせます。

夏川 うんうん。セルフオマージュって言うんですかね。「adrenaline!!!」でやっていたのと同じことをあえてやっている部分もあるし、MVの監督さんも同じなんです。「adrenaline!!!」は7年半も前の曲なのに、いまだに同じようなことをやっている……いや、厳密には同じじゃないんですけど、根本は変わっていない。それが伝わるようなMVになっていると思います。

3人それぞれの個性を詰め込んだ

──「同じじゃない」というのは、歌唱表現にも言えることですね。

夏川 2番Aメロの早口のパートとかは、特にそうですね。音を取るのが難しくて、テンポも速い。そのうえ、ちゃんと言葉を置いていかないと歌詞に聞こえないようなリズムだったりして。あと、サビをはじめとして食って入るところが多いんですけど、食って入りつつ、あんまりせわしい感じになってはいけないメロディなので、そのへんの調節にも気を使いました。だから「そんな僕らの冒険譚!」は「adrenaline!!!」を歌った当時はできなかったタイプの楽曲だし、自分たちもこういう楽曲を任せてもらえるようになったという成長を感じましたね。

雨宮 早口のところは「大抵全員当然っていう一般論の範疇 超えちゃってる境界線その向こう」という歌詞自体、発音しづらい言葉で構成されているんですよね。でも、ここはサビ明けからノリが変わるというか、急に重心が低くなる印象的なパートでもあって。曲を聴いてくれた人みんなが歌詞を正確に聞き取れるとは思っていないけど、言葉を届けることを疎かにしちゃいけない。なので、早口かつ低い音の中でもアタックをしっかり付けて、言葉が耳に残るように気合を入れて歌いました。あと、ナンちゃん(夏川)も今ちょっと言っていたように、サビがすごく難しくて……。

夏川 難しかったよね。

雨宮 なかなかリズムがつかめなかったんですよね。曲のノリに対する音符のハメ方が、私にとっては親しみのないものだったから、リズムを意識しすぎて歌が無感情になってしまったりして。楽しそうな感じを保ちつつ、ちゃんとリズムにも乗って歌うのに大苦戦しました。

雨宮天と夏川椎菜。

雨宮天と夏川椎菜。

麻倉 私は、さっき言った「ワクワク感」を出したくて、跳ねるように歌うことを意識していましたね。ただ、私は跳ねるような歌い方が得意なほうではないので、あらかじめディレクターさんから「こういうふうに歌うと跳ねて聞こえるよ」みたいなアドバイスをしてもらって、方向性を決めてから録っていきました。

──ちなみに、レコーディングした順番は?

夏川 私が最初だったかな?

麻倉 私が最後だったのは覚えてる。

──麻倉さんは、先に歌った2人に合わせるみたいなことは?

麻倉 曲によっては合わせることもあるんですけど、今回は2人の歌を聴きつつ、自分の歌いたいように歌いました。こういう曲はそれでいいというか、3人それぞれの個性を詰め込んだ感じがふさわしいのかなって。

──自分では言いにくいかもしれませんが、「そんな僕らの冒険譚!」において麻倉さんの個性が出ている部分を挙げるとすれば?

麻倉 うーん……2番サビの「未熟な羽ばたき 全力で飛びだそう」は私1人で歌っているんですけど、ここはもはや「跳ねる」を超えて、文字通り飛び出すように歌えたらいいなと思っていて。実はレコーディングのとき、最初にディレクターさんから「このフレーズは麻倉さんに任せたい。だから気合い入れて歌ってね」みたいなことをふわっと言われていたんですよ。

夏川 「ここは使うからな」と、圧をかけられていた(笑)。

麻倉 それもあって気合いを入れて歌ったし、実際にそのテイクを使ってもらえたので、飛び出すぐらいの勢いを感じてもらえたらうれしいです。

夏川椎菜と麻倉もも。

夏川椎菜と麻倉もも。

──お二人にも、この曲におけるそれぞれの個性についてお聞きしていいですか?

夏川 落ちサビの「居場所がないなら、そこから旅立とう」のところは、歌のトーンもわかりやすく落ちるんですよ。さっきちょっと触れてくださいましたけど、この楽曲は「仲間外れ同士で」とか「予想外れだっていい」とか、一見するとネガティブなことも肯定していて。だから落ちサビも、まさに居場所を見つけられないでいる人を優しく包み込むように歌いたかったし、そういう表現ができたんじゃないかな。

雨宮 私は、メロディ的にはナンちゃんと同じになるんですけど、2番Bメロの「夢と自分のズレなんて あったっていいんじゃないの」ですかね。ここはけっこう場面転換を意識したというか、さっきお話しした早口パートとは逆に、ふわっと軽やかなノリに転じるんですよ。なので、入り口の「夢と」と出口の「ないの」をちょっと弾ませたり、楽しいテンション感を残すように歌いました。自分としても、やりたいことがしっかりできているという満足感があります。

──歌い分けに関して、麻倉さんは「このフレーズは麻倉さんに任せたい」と言われたとのことですが、あらかじめ自分のパートが決められてる場合もあるんですか?

雨宮 けっこうありますね。あるよね?

麻倉夏川 ……。

雨宮 あれ?

麻倉 歌詞の意味合いと本人のキャラが一致していたりする場合は、あるかも。

雨宮 今回だと「『冒険はあるよ』は天ちゃんになると思う」って言われました。

麻倉夏川 ああー。

雨宮 冒険がありそうなんですかね?(笑)

自分たちらしさを追求してこられたから、今ここにいる

──先ほど雨宮さんが指摘していましたが、10年経っても「Growing up!」と歌えるのって、いいですね。

夏川 まだまだ成長期(笑)。

──4thアルバム「Re Bon Voyage」(2021年9月発売)のインタビューで、僕は当時のTrySailを指して中堅という言葉を使いましたが(参照:TrySail 4thアルバム「Re Bon Voyage」インタビュー)、そろそろベテランの域に……。

雨宮 ベテランの育ち盛りです。

TrySail

TrySail

──10年間コンスタントに活動を続けている声優ユニットって、極めて稀ですよね。しかもアニメやゲームと連動していない、独立したユニットとして。

雨宮 気が付けば10年という感じなんですけど、振り返ってみれば、例えばコロナ禍でのスタジオ配信ライブ(「LAWSON presents TrySail 5th Anniversary “Go for a Sail” STUDIO LIVE」)とか、その時々にできることをちゃんとやってきたのかなって。同時に、自分たちらしさみたいなものを追求してこられたから、今ここにいるのかもしれません。

麻倉 私も、あまりにもあっという間すぎて「え? そんなに経ったんだ?」ぐらいの感覚ではあるんです。でも、この10年で、今思い出せるだけでもいろんなことがあったし、いろんなことをやってきたんですよね。もう、例を挙げだしたらキリがないぐらいに。その中で、天さんが言うように自分たちらしさを追求しながら、ちょっとずつ変化もしていて。初期の頃と比べれば楽曲の幅も広がったし、音源でもライブでも表現できることが増えたし、結果として活動への取り組み方もずいぶん変わっているんですよ。そう考えると、10年という年月の重みを感じますね。

夏川 最初の頃は、ついていくのに必死だったというか。歌を歌うのに必死だし、ダンスと自分の立ち位置を覚えるのに必死だし、MCをするのに必死だし、とにかく必死なことが多すぎて。考える間もないまま、時間が経っている感覚もないまま走り続けて、ここ数年でようやく余裕が出てきたんですよね。1つひとつの課題に対して「これはちゃんとやってる。これもできてる」みたいな感じで、少しずつ思考をコントロールできるようになってきた。だから心はデビュー3年目ぐらいで、自分ではまだ「ベテラン」とか「中堅」と言えないです。言いたい気持ちはあるけど(笑)。

──雨宮さんは、2年連続10周年ですね。

雨宮 そうなんですよ。去年がソロアーティストとしてのデビュー10周年だったから。

夏川 そういう人も珍しいと思うけど、来年はもちさん(麻倉)がソロデビュー10周年だから、天さんに続いて2年連続になるんだよね。

麻倉 そっか。で、再来年がナンちゃんの10周年だ。

夏川 私の場合は2年連続にはならないけどね。でも、10周年が4年続くんだ、うちの事務所。

麻倉 ずっと誰かがお祝いされている(笑)。

TrySail

TrySail

──持ち回りで。雨宮さんは、ソロの10年とTrySailの10年で、何か違いを感じます?

雨宮 けっこう違いますね。ソロの10年に関しては、特に後半は自分の手で作り上げていく部分が多かったんですよ。一方、TrySailはよりチーム感が強いというか、スタッフさんたちと関係を築きながら、お任せできるところはお任せしていくみたいなスタイルでもあったので。あと、ファンのみんなが私たちを見るときのスタンスも違うと思っていて。

──ファンのスタンスの違いとは?

雨宮 言語化するのが難しくて……求めているものが違うと言えばいいのかな? もちろん、ソロでもTrySailでもみんなで一丸となって楽しむというのは変わらないんですけど、ソロが自分の挑戦とか進歩を見てもらうようなイメージだとしたら、TrySailはとにかく一緒に遊ぶみたいな。

──麻倉さんと夏川さんにも同じ質問をしていいですか? ソロとTrySailの、ファンのスタンスの違いについて。

麻倉 明確に違うなと、私も感じてはいて。言葉で説明しづらいんですけど、TrySailは「一緒に遊ぶ」とともに、3人の関係性とか、3人で歩んできた道のり、歴史にエモを求められている気がします。

夏川 私は、ソロではお客さんとお互いの傷を舐め合うような活動をしていて(笑)。だから、心のささくれを癒すものとして、私のソロを追ってくれている人も多いと思うんです。私自身も自分の心の汚い部分、普通だったら人には見せない部分をあえて見せていくようなスタイルでやっているし、TrySailにそういうものを求めている人は、あんまりいないんじゃないかな。ただ、どっちの私も間違いなく私ではあるんです。どっちかを演じていることもなく、心に汚い部分がある私も私だし、それをおくびにも出さずにわちゃわちゃ遊ぶことを徹底する私も私なので、違う私を楽しんでもらっている感じがありますね。