夏川椎菜がアルバム「CRACK and FLAP」に込めた決意に迫る全曲解説インタビュー

夏川椎菜が4thフルアルバム「CRACK and FLAP」をリリースした。

アルバムにはシングル「シャドウボクサー」「『 later 』」の収録曲に、夏川がかねてからファンであることを公言しているShiggy Jr.、下北沢を拠点にライブハウスシーンで注目を浴びるバンド・レイラ、これまでも夏川とタッグを組んできた田淵智也(UNISON SQUARE GARDEN、THE KEBABS、Q-MHz)の提供曲などを加えた全10曲を収録。自らの殻を破ってさらなる大きなステージを目指す、夏川の決意に満ちあふれた作品となっている。

音楽ナタリーではアーティスト、クリエイターとして成長し続ける夏川に全収録曲を解説してもらうインタビューを実施。今まさに夢見る景色に向かって羽ばたこうとしている彼女の思いに迫った。

取材・文 / 須藤輝撮影 / 星野耕作

01. シャドウボクサー

──「シャドウボクサー」(2024年4月発売の8thシングル表題曲)をバンドセットのライブで披露したのは、現時点では「re-2nd」(2024年7月に開催された「LAWSON presents 夏川椎菜 Revenge Live “re-2nd”」)だけですか?(※取材は2025年11月に実施)

バンドだと、そうなりますね。シンクであれば今年3月のTrySailの日本武道館公演(「LAWSON presents TrySail 10周年出航ライブ “FlagShip” in 日本武道館」)のソロコーナーとか、お呼ばれしたライブでやっていて。だから、まだ披露した回数は少ないんですけど、すっかり「定番曲ですけど?」みたいな、我が物顔をしている曲です。

──ライブアンセム化しつつある。

歌うときは勇気がいるというか「大丈夫かな?」と心配になってしまう、大変な楽曲ではあるんです。でも、絶対に盛り上がることはわかっている。何より、たぶん以前のインタビューでも言ったんですが、この楽曲を乗りこなせるのは私しかいないと思っていて(参照:夏川椎菜「シャドウボクサー」インタビュー)。自分が歌いやすい詞を自分で書いたから、私以外の人にとってはかなり歌いづらくなっているはずなんです。その詞の内容にしても、ここ数年の自分が心に抱えているものを包み隠さずぶつけているので、夏川椎菜とは何者かを説明するときに名刺のように出せる楽曲ですね。すっごく面倒くさい名刺なんですけど。

夏川椎菜

──その名刺に書かれていること、いわば「シャドウボクサー」精神みたいなものが「CRACK and FLAP」というアルバムを貫いているように思います。

うんうん。3rdアルバム「ケーブルサラダ」(2023年11月発売)のときから何か変わったのかと聞かれると、別に変わってはいなくて。ただ、私が困難に遭遇したときの対処法に違いがあるというか。「ケーブルサラダ」では、一旦あきらめてみることで溜飲を下げるじゃないけど……(参照:夏川椎菜「ケーブルサラダ」インタビュー)。

──「人生って、そんなもんだよね」と。

そうそう。割り切ったうえで「どうせなら、それも愉快だと思おうじゃん」みたいなメッセージを込めた楽曲が多かった。それに対して「CRACK and FLAP」は、壁にぶつかったとき、正面からぶち壊すんじゃなくて、ちょっと回り道してほかのルートを探してみる感じで。そういう方向で困難に立ち向かう姿を描きたかったし、楽曲もそのイメージを基準に選びました。もちろん、このアルバムに「シャドウボクサー」が収録されることは確定していたから、こいつが映えるような、またはこいつが入ることによってまとまるアルバムでもあってほしいと思いながら。

02. ミエナイテキ

──新曲の「ミエナイテキ」は夏川さんにしては珍しい、ひねくれていないギターロックですね。

はい。今回のアルバムでは、夏川椎菜をまったく知らない人が聴いても「カッコいいかも?」と思ってもらえるような曲を意識的に入れていて。ひねくれた楽曲は散々やってきたから、逆にまっすぐでわかりやすいロックは新境地なんじゃないかという話を夏川チーム内でしました。

──アニソン的なキャッチーさもあるように思います。

そう、私たちも「アニメのオープニングみたいだよね」と言いながら選びました。今までだったら「いや、これはちょっと、別にタイアップが付いているわけでもないし、無理に選ぶ必要はないんじゃない?」と、わりと最初に弾いちゃうタイプの楽曲なんですよ。でも、単純に音楽としてカッコいいし、そこで自分のオリジナリティが出せるんだったら、こういう方向性もありだよねという話になって。今回のコンペでは、普段は弾きがちな曲もキープするようにしていたんですけど、最終的に「まさかこれが決定になるなんて!」ということも起こったりして、けっこう意外な選曲になりましたね。

夏川椎菜

──作詞、作曲、編曲は山崎真吾さんという、夏川楽曲に欠かせない作家の1人です。歌詞は、クレジットを見なければ夏川さんが書いたと思ったかもしれません。

この歌詞は、デモの段階からほぼ変わっていないんですよ。「さあ膝カックン背後からラッシュ」とかも最初からあって。山崎さんは毎回、デモにご自身が書いた仮の歌詞も添えてくださるんですけど、それがいつも変で面白いんです。

──「『 later 』」(2024年10月発売の9thシングル表題曲)では、歌詞だけ無理やりハロウィンに寄せていたというお話でしたね(参照:夏川椎菜「『 later 』」インタビュー)。

そうそう。そういう変な仮歌詞をいつかそのまま歌いたいと思っていて。「ミエナイテキ」のデモが来たとき、「戦闘体制の寝相で負傷」とか「目を見開きすぎると涙(ビーム)が出ちゃう」という歌詞を見てチームのみんなで爆笑したんですよ。私の寝相が悪いという話はいろんなところでしているし、目が大きいという自覚もあって、当て書きしてくれたのかなと思うぐらい私っぽい歌詞だったので「このままいこう!」となりました。

──歌詞では「現実」「前世」「弱い自分」に「テキ」というルビが振ってありますが、夏川さんもそういった見えない敵と戦っている感覚はあるんですか?

私は「これは自分との戦いだな」と思うことが多くて。例えば目指している未来の自分に対する劣等感というか、今の自分に足りていないものや課題について悩んだりすることがよくあるんです。それって見えているようで見えていない感じがあるし、「物理的に戦いようがないけど、敵とみなすしかなくない?」みたいなところで、「ミエナイテキ」の歌詞はすごく自分と重なっているように思いますね。

──夏川さんは曲によって声色や歌い方が変わりますが、「ミエナイテキ」ではロックボーカリスト然としたボーカルを披露していて、ハマっていると思いました。

9月から10月にかけて回っていたTrySailのデビュー10周年ツアー(「LAWSON presents TrySail 10th Anniversary Tour 2025 "BestSail"」)が終わった直後ぐらいからレコーディングを始めていて、ライブの感覚が残ったまま臨めたことに助けられましたね。最近、瞬発力が高くなったと自分でも思っていて、ブースに入って「さあ、始めますよ!」となったとき、テストの段階から自分の出したい音が出せるようになった気がするんです。「そうそう、これこれ。こういう表現がしたいの」みたいな感じで。特に「ミエナイテキ」ではそれを強く感じたし、ライブのテンションを持ち込まないと出せないような声もたくさん使っていて。かなり難しい曲ではあるんですけど、その分、無事に録り切れたことで自分の成長も感じられました。

夏川椎菜

03. ライクライフライム

──「ライクライフライム」(「『 later 』」カップリング曲)の歌詞を改めて読むと、夏川イズムにあふれていますね。リリース時のインタビューで指摘しろよという話ですが。

いや、私も時間を空けてみて、すごく私っぽい歌詞だなと思いました。結局、作詞しているのは同じ夏川椎菜なので、手を替え品を替え同じことを言っているというか。「ライクライフライム」の作編曲はおなじみのHAMA-kgnさんで、HAMA-kgnさんが作編曲して私が作詞した楽曲は「ステテクレバー」(2019年4月発売の1stアルバム「ログライン」収録曲)が最初なんですけど、たぶんその頃から言っていることは変わっていないんですよ。言い換えれば、それが私の根底に流れ続けているものなんだろうなって。

──「普通だって言われることが 大義となる前提の 人生ってシケてるんじゃないか?」とか。

ひどいことを言っていますよね(笑)。自画自賛になっちゃいますけど、しばらく経ってから「なかなかいい歌詞じゃないか」と思うことがけっこうあります。

夏川椎菜

──夏川さんは作詞もずいぶんなさっていますが、作詞を通して思考を言葉にすることで、行動も変わるようなことはあります?

明確に「あります」と言えるような事例はパッと思い浮かばないですけど、意識はしますね。例えば「ラフセカンド」(「ケーブルサラダ」リード曲)で「笑えるまでは生きようかい」と歌った手前、笑えるまでは死ねないという気持ちにはなります。しかもその言葉を、自分の思いとしてヒヨコ群(夏川椎菜ファンの呼称)に届けて、ヒヨコ群もそれに共感して人生を歩んでくれていたりするのを知っているから、その言葉自体に責任が乗っかるという。

──ヒヨコ群の人たちが共感するのは、夏川さんの言い方、あるいは語彙によるところも大きいように思います。

私がチョイスする言葉を面白がってくれる人が多いから、そこだけは誠実でありたい。作詞をするときに参考にできるものはいろいろあって、最初は辞書を引いたり、読んだことのない本を読んだり、ネットで検索したりして歌詞に使えそうな言葉を探していたんです。でも、それって作詞のために拾ってきた言葉であって、自分の言葉じゃないからどうしてもなじまなくて。なので、外から言葉を持ってくるのは早々にやめて、自分が普段使っている言葉の範囲内で作詞をするように心がけてはいます。