今年デビュー10周年を迎え、ベストアルバム「BestSail」をリリースしたTrySail。ミュージックレインの先輩であるスフィアの背中を見つめながら2015年にデビューした彼女たちは、いつしかアニソンイベント「Animelo Summer Live」で大トリを務めるほどの唯一無二の“お祭りマッスルユニット”に成長した。
ベストアルバムの発売を記念して、音楽ナタリーではTrySailの軌跡を年表と1万5000字のインタビューで振り返る。数々の裏話とともに、3人で走り続けてきた10年間の歴史を存分に感じてほしい。
取材・文 / 須藤輝撮影 / 星野耕作
2015
- 1月7日
インターネットラジオ番組「TrySailのTRYangle harmony」配信とともに、TrySailとしての活動を開始。
- 3月14日
単独イベント「LAWSON presents トライアングルステージ!!! ~JUMP~ in TOKYO DOME CITY HALL」を東京・TOKYO DOME CITY HALLで開催。
- 5月13日
デビューシングル「Youthful Dreamer」をリリース。
TrySailデビューシングル発売日決定&パシフィコで1stライブ
- 5月23日
初のライブ「LAWSON presents TrySail First Live 2015 "Sail Out!!!"」を神奈川・パシフィコ横浜 国立大ホールで開催。
- 8月19日
2ndシングル「コバルト」をリリース。
TrySail & ClariS、夏アニメ“クラクラ”のテーマソング担当
- 8月30日
「Animelo Summer Live 2015 -THE GATE-」に出演。
- 10月11日
ライブ「LAWSON presents TrySail Live 2015 “The Golden Voyage of TrySail”」をパシフィコ横浜 国立大ホールで開催。
- 12月29日
単独イベント「LAWSON premium event TrySailのMusic Rainbow 03」を東京・中野サンプラザホールで開催。
私たちのこと、誰も知らないじゃん!
──今回は年表でTrySailの10年を振り返りつつ思い出話などをしていただけたらと思います。まずデビュー年である2015年から見ていきましょうか。
麻倉もも 私は、この年の「アニサマ」(「Animelo Summer Live」)のことを今でもよく覚えていて。5月13日にデビューシングル「Youthful Dreamer」を出して、そこから3カ月ちょっとしか経っていなかったから「私たちのこと、誰も知らないじゃん!」って3人で震えていたんです。しかも、トロッコに乗って「はじめまして」の顔見せみたいな演出を用意してくださったんですけど、トロッコだとよりお客さんの顔が見えるんですよ。だから、もし「この人たち、誰?」という表情まで見えてしまったらどうしようと、自分たちの出番が来るまでずっと怯えていました。
──実際にトロッコに乗ってみて、いかがでした?
麻倉 思ったより温かく迎えてくださいましたし、TrySailのグッズを持って応援してくださっている方もいて、すごく安心した記憶があります。
雨宮天 「アニサマ」って、最後に出演者みんなでステージに並んでその年のテーマソングを歌うじゃないですか。でも、私たちは初出演で浮き足立っていたうえに、人見知りすぎて周りの人たちのことが目に入らなくて。アニサマバンドの方がギターソロを弾いているときとかに、みんなしゃがんでソリストを引き立てている横で、TrySailだけが気付かずに立ったまま「イエーイ!」ってはしゃぎ続けていたという。
夏川椎菜 そういうシーンを見たことはあったけど、自分たちもやるものだという意識が欠けていたよね。立ち位置的にもTrySailは端っこだったから、余計に周りが見えていなかった。
麻倉 「イエーイ!」もね、純粋に「アニサマ」を楽しんでいるというよりは、「盛り上げなきゃ!」「がんばらなきゃ!」という使命感から出た「イエーイ!」だったと思う。
雨宮 盛り上げることに徹していたからね。陰キャなりにがんばったんですけど、ちょっと空回っちゃった。今となっては初対面に近いアーティストさんにも絡みにいけるぐらい強くなったからこそ、当時の人見知りっぷりが思い出に残っていますね。
──デビューして間もない新人が、いきなり「アニサマ」ですもんね。
雨宮 それを言ったら初ライブがパシフィコ横浜というのもすごいですよね。まだ持ち曲が「Youthful Dreamer」とカップリングの「Sail Out」しかないのに。
夏川 デビューシングルをリリースした10日後に初ライブだもんね。当然2曲じゃ足りないから、のちに音源化される「コバルト」「ホントだよ」「僕らのシンフォニー」とかを歌ったのかな。だから未発表曲のほうが多かったという。
麻倉 それでも足りないからカバー曲も歌って。
雨宮 劇もやって。
麻倉・夏川 あー、そうだ!
雨宮 30分ぐらいある劇をやって、なんとかして間を持たせる……と言ったらあれですけど、パシフィコでよくやったと思いますね。今だったらあんな劇はできないんじゃないかな。
麻倉 ね。毎日、缶詰状態で劇の練習もしていたから。
夏川 しかも、セリフが多いうえに専門用語もいっぱいあって難しかったよね。ざっくり言うとタイムマシンの開発をしている大学の研究室が舞台で、タイムスリップの理論とかを説明するために理系っぽいことを早口でまくし立てるシーンがたくさんあったんですよ。だから、セリフを覚えるのがすごく大変でした。
──デビューしたときはどういう心境だったんですか? 「私たちは売れる」と……。
雨宮 思っていません(笑)。
夏川 それを言える人に会ってみたいな。売れる売れない以前に「やれるのか?」という感じでしたね。事務所に入ってから何回か、先輩であるスフィアの皆さんのライブを観させてもらったりしていたので「グループを組んだらこういうことをするのか」という想像はある程度できていたんです。でも同時に、間近で観てしまったからこそ「これを私たちがやるの!?」という戸惑いのほうが大きかったかもしれない。
麻倉 いつの間にか始まって、目の前のことを必死にこなしている状態だったので、「売れたい」とかそういう野望を抱く暇もなくて。デビューシングルのリリース日に秋葉原でお店回りをしたとき、秋葉原中に私たち3人の姿があると言ってもいいぐらい大々的に展開してくださっていて「これは、とんでもないことになったぞ……」と。自分の想像を超えていました。
雨宮 TrySailの結成は、2014年の12月にやったラジオのイベント(「TRYangle harmony presents トライアングルステージ!!! ~STEP~ in 日本青年館」)で発表されたんですけど、そのとき私は「ああ、もう戻れないんだ……」という気持ちだったんです。発表されてしまった以上、やらなきゃいけないから。私はユニット活動をやりたくない側だったので、内心「嫌だ!」と思いながら、なんとか笑顔を作ってそのイベントを乗り越えましたね。
──いつ頃から嫌じゃなくなったんですか?
雨宮 いつ頃……ええと、2016年の年表を見ていきましょうか(笑)。
2016
- 1月24日
「リスアニ!LIVE 2016」に出演。
リスアニ!LIVE2日目、川田まみ衝撃発表に武道館揺れるも笑顔で大団円
- 1月31日
「ミュ~コミ+プラス presents アニメ紅白歌合戦 Vol.5」に出演。
- 2月10日
3rdシングル「whiz」をリリース。
TrySail〈物語〉新シリーズ主題歌「whiz」発表
- 2月14日
単独イベント「LAWSON presents TrySailのチョコっとVoyage ~アマイセイル~」を東京・NHKホールで開催。
- 5月11日
4thシングル「High Free Spirits」をリリース。
TrySail「はいふり」OP曲を5月に、6月には横浜&東京ホールワンマン
- 5月25日
1stアルバム「Sail Canvas」をリリース。
TrySail、新たなる“帆”掲げる1stフルアルバム
- 6月5日
ライブ「LAWSON presents TrySail Live 2016 "Smooth Sailing"」を神奈川・パシフィコ横浜 国立大ホールで開催。
- 8月28日
「Animelo Summer Live 2016 刻-TOKI-」に出演。
- 11月6日
~2017年2月26日 1stツアー「LAWSON presents TrySail First Live Tour "The Age of Discovery"」を全国8会場で開催。
- 12月3日
「リスアニ!LIVE TAIWAN」に出演。
- 12月14日
HoneyWorks meets TrySailとして、HoneyWorksとのコラボレーションシングル「センパイ。」をリリース。
TrySail、ハニワ映画主題歌シングル詳細&アートワーク公開
幻のイベント「アマイセイル」
夏川 ああ、「アマイセイル」は2016年だったんだ……。
雨宮 いまだにファンの間で語り継がれている、幻のイベント。
麻倉 映像化もされていないからね。
雨宮 そもそもあの日は、TrySailのイベントをやる予定はなくて。NHKホールを押さえていたほかのアーティストさんが出られなくなって、その穴を私たちが埋めることになったという。
夏川 だから、いろいろと急だったよね。たまたま日付がバレンタインだったから“チョコレート”がテーマになったけど。
雨宮 チョコレートのように甘く、ひたすらぶりっ子するイベントだったよね。ライブパートでも「バレンタイン・キッス」(国生さゆり)とか「チョコレイト・ディスコ」(Perfume)をカバーして、とにかく甘々に仕上げる。
夏川 そうそう。3人で甘いセリフを言い続けてた。あと、ビンゴゲームのパネルみたいなのが用意されていて、めくるとお題が書いてあったのかな? そこで私、ニンジンを食べさせられた記憶があるんだよね。
雨宮 TrySailだから“トライ”しようみたいな感じで、もちちゃん(麻倉)は自転車に乗ってなかったっけ?
麻倉 あれ? ここでも乗ってたんだ?
──よく自転車に乗るんですか?
麻倉 いっつも乗らされています(笑)。
雨宮 苦手なことに挑戦するコーナーだったんじゃないかな。当時、ナンちゃん(夏川)はニンジンが嫌いだったし、もちちゃんは自転車に乗れなかったから。あとさ、1人ひとり自己紹介の口上を作ったよね。「スカイツリーより上から目線! アマイセイルのなんとか担当、雨宮天です!」みたいな。
夏川 そう! 天さんの「スカイツリーより上から目線」が強すぎて、自分ともちさんのやつは覚えてないわ。
麻倉 私はね、えっと……。
雨宮 「もちもちほっぺのもも色フェアリー」だったかな。
夏川 すごい!よく覚えてるね。
麻倉 で、「アマイセイルのお砂糖担当」だ。
──雨宮さんは何担当だったんですか?
雨宮 なんだったかな……。
麻倉 たぶん、イベントレポートならファンの方のブログとかに残ってるんじゃない?
雨宮 確かに、誰かが記録してくれているかも。ナンちゃんの自己紹介はコール&レスポンス方式じゃなかったっけ?
夏川 そうだ。「椎菜に会えて、うれ」「しいな!」みたいなコーレスを3つぐらいやって「アマイセイルのなんとか担当、夏川椎菜です!」だった。
──インターネットで調べたところ、雨宮さんは「アマイセイルのお天気担当」のようです。なるほど、気象衛星はスカイツリーの遥か上空から我々を見下ろしていますね。
雨宮 ああ、そうだ。ナンちゃんはなんだったんだろう?
麻倉 ヒヨコとかパンダとか?
──「ヒヨコ担当」っぽいです。
夏川 もうこの頃から「ヒヨコ」を使っていたんですね。
──ヒヨコ担当って、何をするんですか?
雨宮 そういうことを掘り下げちゃいけないんですよ!
夏川 見切り発車でしかないんですから!
麻倉 当時はまだ若干の照れがあったと思うんですよね。なので、熟した今だからこそ、またこういう……いや、こうじゃなくてもいいんですけど、おかしなイベントをやりたい気持ちはあります。
夏川 確かに、今だったらもっといける。むせ返るほどの甘さで。
麻倉 アマイセイル・リターンズ。
夏川 いや、やっぱ帰ってくんな!
やりたいこと / できることのギャップに苦しんでいた
雨宮 2016年にもう「ハイスピ」(「High Free Spirits」)を出してたんだ?
夏川 このへん怒涛なんだよね。「ハイスピ」の前に「whiz」があって、そのあと1stアルバム「Sail Canvas」も出してるから。
──リリースも充実して、ユニットとしての手応えをつかみ始めていたのでは?
雨宮 私たちが何かをやると大勢の人が集まってくれて、それがすごく不思議でした。私個人としては「ユニットでどんな変なことをやらされるんだろう?」と最初は不安だったんですよ。でも、例えば「ハイスピ」のようなロックな曲も歌えるようになったから、私にとっては徐々に不安が薄れていった時期かもしれないですね。
夏川 私はまだ手応えらしきものはまったく感じていなくて、1つひとつのライブを終えるのに精一杯でしたね。特に「ハイスピ」はカッコよくて好きな曲ではあったんですけど、ライブで歌うとなると大変で、自分のやりたいこととできることのギャップに苦しんでいたというか。「こうやって歌って、こうやって踊りたいのに、できない」と、がむしゃらにもがき続けていた時期だったんじゃないかな。
麻倉 今ナンちゃんが「怒涛」と言ったように、リリースもイベントも初めてのツアーもあって。1つひとつの出来事を振り返る間もなく、次々と新しい何かが目の前にやってくるので、手応えとか慣れを感じる余裕はなかった気がしますね。
雨宮 そういえば「whiz」と「ハイスピ」で、ミュージックビデオ撮影のつらさを知りました。
夏川 そうかも。「Youthful Dreamer」と「コバルト」の撮影はそんなに大変じゃなかったからね。
雨宮 確か「whiz」の撮影は夜中の2時ぐらいまでかかったんだよね。カット数が多かったうえに、あとでCGで合成するためのグリーンバックのセッティングを変えたりしなきゃいけない都合もあって。だから、撮り終わるまで帰れないという状況を初めて経験したのが「whiz」だったし、「ハイスピ」もキツくなかったっけ?
夏川 「ハイスピ」は山梨にロケに行ったのよ。しかもロケ現場が山奥にある洋館と、小高い丘の上にある天文台の2カ所あって、山梨県内でも移動しなきゃいけなかったんだよね。だから帰りも遅くなって、山梨を出たのが22時とかだったんじゃない?
麻倉 天さんにとっては恒例の“虫”事件もあったよね。
雨宮 私、本当に虫が苦手で。洋館でお手洗いに行ったとき、手洗いシンクの死角になるところにでかいやつがいるのに気付いて「きゃああああ!」って。
夏川 そうそう、古びた洋館でね。あれはいい悲鳴だった。
──めちゃくちゃベタなことをやりましたね。
夏川 あと、Try“Sail”というユニット名だけあって、ジャケ写とかも含めて海で撮影することが多くて、それもけっこう大変だった覚えがあります。風との戦いがあったり、目がシパシパして開けられなかったり。でも、この年でそういう環境には慣れたというか、慣れざるを得なかった。
麻倉 いろんな種類の大変さを思い知った年かもしれない。
──TrySailは毎年「アニサマ」に出演していますが、二度目となる2016年は「皆さんご存知のTrySailですよ」ぐらいには思っていました?
雨宮 いや、さっきから私たちのことをなんだと思っているんですか?(笑)
夏川 デビュー2年目でそれはない。
麻倉 初出演のときほど怯えてはいませんでしたけど、まだまだアウェイ感はあったと思いますね。
雨宮 この2016年の「アニサマ」で、戸松遥さんが……。
夏川 ああ、このときか!
──戸松さん、何かしたんですか?
雨宮 私の誕生日が8月28日で、「アニサマ」の日程と被りがちなんですよ。この年は戸松さんもソロで出演していて、楽屋がTrySailの隣というか、パーテーションで仕切られているだけだったんです。そのパーテーションの裏から突然、ケーキの着ぐるみを着た戸松さんが現れて「お誕生日おめでとう!」って。
──ヤバすぎる……。
雨宮 わざわざケーキの着ぐるみを調達して、楽屋まで運んできて、私たちから見えないように着替えてサプライズでお祝いしてくれたという。実はこの直前に、私は当時のマネージャーとケンカをして、すごく険悪な雰囲気になっていたんです。だからケーキ姿の戸松さんの登場で情緒がどうにかなっちゃいそうだったんですけど、すごくうれしかったですね。
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