雨宮天「Blue Christmas for You」インタビュー|世界を真っ青に染め上げる、雨宮流のクリスマスソング

雨宮天がソロとしては初のクリスマスソング「Blue Christmas for You」を表題曲としたシングルをリリースした。

常に攻めの姿勢を崩すことなくオリジナリティあふれる作品を発表し続け、今年アーティストデビュー10周年を迎えた雨宮。「Blue Christmas for You」ももちろん、一般的なクリスマスソングではない。クリスマスカラーと言えば赤と緑を連想するが、雨宮は「真っ赤なあのおじさまは お休み」「真っ青な魔法で 世界征服(ブルー・サプライズ)」と歌い、クリスマスを自身のイメージカラーである青で染め上げようとしているのだ。2コーラス目には、オペラのような歌い方を取り入れたミュージカルパートも。曲調でも歌詞でも楽しませてくれる、遊び心にあふれた雨宮流のクリスマスソングとなっている。

音楽ナタリーではこの挑戦的なクリスマスソングについて、雨宮に話を聞いた。読者の皆さんも、今年は一風変わったクリスマスソング「Blue Christmas for You」とともに“青色”のクリスマスを過ごしてみては?

取材・文 / 須藤輝撮影 / 塚原孝顕

真っ青なクリスマスソングになりました

──表題曲「Blue Christmas for You」はハッピーなクリスマスソングですが、雨宮さんが歌うからには、クリスマスソングもひと筋縄ではいかないんだなと思いました。

楽しいクリスマスソングだったら、私よりも楽しく歌える人はいくらでもいるんですよ。アーティストデビュー10周年を迎えた今、あえてクリスマスソングを選ぶのならば、自分の体臭がするクリスマスソングじゃないとやる意味がない。ということで、真っ青なクリスマスソングになりました。

──では、この曲は雨宮さんの発案だったんですか?

そうなりますね。10周年イヤーにどんなことをやっていこうかといろいろ打ち合わせをする中で「12月あたりにシングルも出せるといいよね」という話になったんです。そのとき、私が「せっかくなら、この10年でまだやっていない、クリスマスソングとかどうですかね?」と言ったら、チームのみんなが「面白いかも!」と盛り上がってくれて。逆に今やらないといつ私の気が向くかわからないし、12月のリリースが今後あるかもわからないので、10周年のお祭りに乗じてやることになりました。

雨宮天

──確かに「お祭り」という前提や特別なアナウンスもないままこの曲が普通のシングルとしてリリースされたら、異常ですからね。

「急にどうした?」って思っちゃいますよね(笑)。「Blue Christmas for You」を作るにあたっては、私からいろいろ意見を言わせてもらいまして。まずクリスマスカラーといえば赤、緑、白だと思うんですけど、そうじゃなくて真っ青に染め上げたい。そのうえで、私のキャラ的にも普通に明るいクリスマスソングを歌う感じでもないし、しかもアーティスト活動を10年やってきてソロでは初めてのクリスマスソングだから、声優としての技術も生かしたい。それで「1曲の中でいろんな場面転換があって、いろんな役を演じ分けられるような楽曲だったら楽しいと思います」みたいな要望を伝えて、ミュージカルのような楽曲にしていただきました。

──作詞はNiiNoさん、作編曲は戸嶋友祐さんで、歌詞にも「染め上げたい!」とあり、なおかつしつこいぐらいに「ブルー」「青」というワードがちりばめられていて。

そうそうそう。各ブロックに必ず「ブルー」か「青」が入るようになっているんです。

──夢のある歌詞ですよね。雨宮さん限定かもしれませんが。

そう、私にとっては最高の世界が広がっている、理想のクリスマスですね。1番Aメロの「街は雪のキャンバス」というのも、私の「雪が白いのをいいことに、青く染め放題な感じを入れてほしい」という意見がもとになっていて。私のことをずっと追ってくれている青き民(雨宮天ファンの呼称)はたぶん知っていることなんですけど、私はけっこういたずら好きなんです。でも、アーティスト活動の中ではいたずら好きな自分をそこまで表に出していなかったから、ここでお見せするのもちょうどいいかなと。青いサンタが街に繰り出して、いたずらしちゃうっていう。

──雨宮さんの3rdアルバムのタイトルが「Paint it, BLUE」(2020年9月発売)でしたが、それをクリスマスにやるという。

そうですそうです。私の中では、少しずつでも世の中を青く染めていきたいという願いがずっとあるので、それを反映してもらいました。

誰かに幸せにしてもらうんじゃなくて、自分で自分を幸せにする

──TrySailにも「Make Me Happy?」(2018年11月発売の9thシングル「azure」カップリング曲)というクリスマスソングがありましたが、それとはだいぶ趣きが違いますね。当然なんでしょうけど。

私のスタンスとして、どこか挑戦的であったり、「支配したい」みたいなところがあって。私が「この日がクリスマスです」と言ったらその日がクリスマスだし……。

──今日でも?

今日でも(笑)。ある意味で自己中心的というか、よく言えば能動的で、誰かから与えられたものを楽しむというよりは、自分にとって楽しい世界を自分で作り上げるみたいなことを、これまでやってきたと思うんですよね。

──当時のインタビューで、雨宮さんは「Make Me Happy?」の歌詞に共感できないとおっしゃっていました。

ああ、言いましたね。

雨宮天

──なぜなら、雨宮さんは「幸せは己の力で掴み取る派」だから(参照:TrySail「azure」インタビュー)。

そこまで言いましたっけ(笑)。じゃあ、当時から変わっていないんだ。伏線を回収したというか、「Blue Christmas for You」は「Make Me Happy?」に対してケンカを売るじゃないけど、「これが私のクリスマスだ!」と突き付けたような感じですね。誰かに幸せにしてもらうんじゃなくて、自分であちこち青く染め上げて、自分で自分を幸せにするんだと。

──雨宮さんのそういう考え方、すごくいいと思います。逆に言うと「君のことを必ず幸せにする」みたいなセリフって、フィクションとかでもありがちですが……。

思い上がりも甚だしいですよね。いったいどの口がそれを言うのか。1回、会議したほうがよくないですか? 何をもって私を幸せにしてくれるのか、具体的にどういうプランがあるのか、じっくり聞かせてもらわないと。

──「幸せにする」とか言っちゃう人には、「仮にあなたにできることがあるとするならば、それはあなたのパートナーが幸せになろうとするのを邪魔しないことだけです」と言いたいです。

そうそうそう! 「君が幸せになる手伝いをしたい」とか「君が不幸にならないように全力を尽くす」とかだったらまだわかるんですけどね。いや、この話題で盛り上がれると思いませんでしたけど、確かに「Blue Christmas for You」には私のカラーが鮮明に出ているなと、言われて気付きました(笑)。

悪役を演じたい

──「Blue Christmas for You」の聴きどころの1つだと思いますが、2コーラス目の途中から様子がおかしくなって……。

突然ね(笑)。ここは、私が「悪役を演じたい」と言ってそうなりました。

──僕は取材用にいただいた音源を、最初は歌詞を読まずに再生していたんですが、クリスマスなのに「地獄」という言葉が耳に入ってきて「今、なんて言った?」みたいな。

「ブッシュ・ド・ノエル」と「地獄」が共存する歌詞って、あんまりないかもしれないですね。でも、ミュージカル調にするんだったらわかりやすく場面転換してほしいし、わかりやすく役柄を変えたくて。今私が言ったまんまのリクエストだったんですけど、「Dメロあたりで悪役に転じたいです」というムチャぶりに、作曲の戸嶋さんが応えてくださいました。ただ、あとから聞いた話だと、戸嶋さんはすごく悩まれたそうなんです。「悪役ってなんだ!?」って。

──ひと口に「悪役」と言っても……。

そう、いろんな悪役がいますからね。しかもこの曲はコンペじゃなくて、指名だったんですよ。「ミュージカルっぽい曲にしたい」と方向性が定まったとき、サウンドプロデューサーが「じゃあ、戸嶋さんにお願いしよう」と。本当に、戸嶋さんが私のわがままにストイックに向き合ってくださったおかげで、素晴らしい楽曲ができあがりました。

──演じがいのある曲でしょうし、見事に演じ切っていると思います。

ありがとうございます。演じるにあたって、そもそも曲がけっこう難しかったので、実はレコーディング当日に譜割を多少いじらせてもらったんですよ。あまりにも音符が詰まっていたりリズムが取りづらかったりすると、楽しく演技をする余白がなくなっちゃうというか、歌うことに必死になっちゃって。だから「ここのリズムをこういうふうに変えたら、もうちょっと演じやすくなるよね」みたいな感じで、かなり演技優先で調整させてもらいました。

──具体的にどこをどう調整したのか、お聞きしてもいいですか?

文章になったときにうまく伝わる気がしないのですが、例えばサビの「今夜 ちょっといいものあ・げ・る」の「今夜」がそうで。もともと「こぉ・んや」だったのを、「こ・ん・や」に変えたんです。これ、きっと文字で読んでもわかりませんよね(笑)。かなり16ビートが強くて、全体的に突っ込み気味のメロディが多かったんですけど、それだと歌詞にふさわしい表現を入れる隙間がなくなってしまうので、そのへんを気持ちシンプルにさせてもらいました。

──それは役者ならではの考え方なんでしょうね。

「こぉ・んや」よりも「こ・ん・や」のほうが、相手にいいものあげそうな感じがしません? その感じを大事にしたかったんですよね。そういう細かい調整がいっぱいあったんですけど、戸嶋さんは寛大な方で、快く応じてくださいました。

雨宮天

──雨宮さんがポップな曲を歌うと、つい「数年前は考えられなかったですよね」みたいなことを言ってしまうのですが、「Blue Christmas for You」もまた然りで。

そうですね。「PARADOX」(2020年1月発売の10thシングル表題曲)でかわいらしい歌い方に挑戦して、さらに「Love-Evidence」(2022年5月発売の13thシングル表題曲)とかを経てたどり着いた、今だからやれる曲ではあります。もしかしたら2、3年前でも、自分のシングルのジャケットやミュージックビデオでサンタの格好をするというのは、けっこう拒否感が強かったかもしれない。サンタの格好、できます?

──うーん、トナカイなら……。

抵抗ありますでしょ(笑)。ちょっとしたイベントとかだったらまだしも、自分のシングルでこれをやれたのは、30歳を超えたからかなって。もう、けっこうお姉さんなので。

──30代でサンタのコスプレをしている声優を全員敵に回していませんか?

いやいや、逆です! そこに私も仲間入りさせてもらったので(笑)。30代になってから、なんか楽になりましたね。肩の荷が降りた感じがするというか。

──戸松遥さんも似たようなことをおっしゃっていました。30歳になる直前に。

直前に(笑)。

──「29歳」には「20代最後の年」「ギリ20代」といった、本人は特に気にしていない意味を与えられがちだから、早く30歳になって「30代の最年少になりたい」と(参照:戸松遥「Resolution」インタビュー)。

なるほど。「30代の最年少」って、いいですね。戸松さんがおっしゃっているところが想像できるかも(笑)。