音楽ナタリー Power Push - tricot

ドラマー4人と見せる化学反応

tricotが前作「A N D」から約1年ぶりとなる新作CD「KABUKU EP」を完成させた。2014年3月に前ドラマーが脱退したのち、千住宗臣、刄田綴色、BOBO、山口美代子(DETROITSEVEN)、脇山広介(tobaccojuice)という第一線で活躍するドラマーを迎えて制作された「A N D」に対し、今回はオーディションで選ばれた4人のドラマーと曲作りおよびレコーディングを実施。そこで生まれた化学反応によって、ソリッドかつエモーショナルなtricot節がさらなる進化を果たしている。

近年は活動範囲を海外に広げ、アジア、ヨーロッパ、北米で積極的にツアーを行ってきたが、正式なドラマーが不在という状況は厳しい側面もあったという。しかし2015年の結成5周年イヤーを経て、tricotはいよいよネクストステージに突入しようとしている。そのプロローグと言うべき作品である「KABUKU EP」について、メンバー3人に話を聞いた。

取材・文 / 金子厚武 撮影 / 藤田二朗

挫折を経て本来の形に

──「KABUKU EP」、素晴らしい仕上がりでした。ドラマーオーディションというトピックがありましたが、制作の面では実際どのような変化がありましたか?(参照:tricotがドラマーを募集

tricot

中嶋イッキュウ(Vo, G) 前作の「A N D」を出してから、けっこう制作が滞ってたんです。去年の12月にネット上だけで公開した「ポークジンジャー」っていう曲があるんですけど、去年1年であの曲しか作ってなくて。その間に海外を回ったり、ドラマーオーディションが進んだりしていく中で、今回参加してもらった4人で作ったら面白そうだなって思って、ようやく曲作りができて。今作にはその爆発感が入ってるのかなって。

──1曲しかできなかったっていうのは海外のライブなどが多くて物理的に作る時間がなかったのか、それともスランプだったのか、どちらが近いですか?

キダモティフォ(G, Cho) ドラマーがいない状態でスタジオに入るのは難しいので、前のアルバムはまず3人で集まってガレバン(GarageBand。Appleの音楽制作用ソフト)に打ち込んで曲を作ったんですね。でもやっぱりちょっとあわなかったというか。スタジオに入ってバンッて合わせる作り方が一番しっくり来るので、それができないと制作も滞っちゃって。

──じゃあ去年1年でガレバンの使い方を研究して、それで今回の作品のクオリティが上がったということではないんですね。

中嶋 どっちかっていうと挫折っていうか、「やっぱり無理!」っていう(笑)。前回はガレバンで制作することが新しくて「これでもやれることあるんや」って発見はあったんですけど、それはもう前回でやり切って、今回は本来の形に戻ったって感じです。しかも、前回は参加してくれたドラマーの方々がすごかったので(参照:tricotの新アルバムに刄田、BOBO、千住らドラマー参加)、結果的には私たちが成長させてもらった部分が大きかったんですけど、今回は「tricotでドラムを叩きたい」って集まってくれた人たちと作れたので、よりバンド力の強い作品になったと思います。

ヒロミ・ヒロヒロ(B, Cho) tricotの曲はドラムにすごくこだわってて、ドラムによってほかの楽器のフレーズを引き出してもらってた部分もあるし、それはガレバンでは無理ですよね。今回はスタジオで一緒にあわせていくうちにどんどん閃いて、楽しくてさらにいい曲が作れるっていう、そういう流れやったんやろうなって。

3人で歌舞伎を観に行った

──では、意識の面での変化はいかがですか? 「KABUKU EP」というタイトルや日の丸を意識したようなアートワークからは明確に「日本」が感じられて、やはり海外ツアーを回る中で「日本のtricot」という意識が強まり、それが作品にも反映されたのかなと思ったのですが。

中嶋イッキュウ(Vo, G)

中嶋 海外でライブをする機会がこの1~2年でガンッと増えたことで、各国のいろんな文化に興味を持ち始めたんです。それでお城や教会などいろんなところに行くうちに、逆に日本を全然見てなかったなってことに気付きました。普段歩いてる道も、自分がもし外国人だったら1個1個の作りが「日本っぽい」って思うだろうし、そういう日本のよさをもっと知りたいなって思って。それで年明けに3人で歌舞伎を観に行ったらすごく感動して、「歌舞伎用語をタイトルにしよう」と思って探したんですけど、結局「『KABUKU EP』でよくない?」ってなりました。もともとtricotはど真ん中からは外れた音楽をやってると思うし、「傾く」(かぶく)という言葉でそれを改めて表現したいと思って。

──世界に出たことで、逆に日本を見つめ直すことになったわけですね。直近では3月に3度目のヨーロッパツアーがありましたが、ロンドンをはじめとしたいくつかの公演はチケットもソールドアウトしたそうで、繰り返し行くことによる変化もあったのではないでしょうか?

中嶋 2~3回目のところはやっぱりすごかったですね。でも初めて行くところも待っててくれた人がたくさんいて。ポーランドやフランスなど今回が初めての場所も人がいっぱい来てくれてすごく盛り上がりました。

ヒロミ・ヒロヒロ(B, Cho)

ヒロミ 最初は「海外に行けるなんてすごい」くらいの感じやったんですけど、何回か行くといつも来てくれるお客さんはこっちも覚えるようになるし、そういう人が日本じゃなくて海外にもいるって、すごいことやなって。なのでただ楽しみに行くだけじゃなくて、日本で大きいワンマンをするのと同じような感じで、1本1本純粋にいいライブをして、tricotのすべてをその国で伝えていけたらなって思うようになりました。

新作CD「KABUKU EP」 / 2016年4月27日発売/ 1404円 / XQMZ-1001 / BAKURETSU RECORDS
「KABUKU EP」
収録曲
  1. Nichijo_Seikatsu
  2. 節約家
  3. あーあ
  4. プラスチック
  5. 青い癖
tricot(トリコ)
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中嶋イッキュウ(Vo, G)、キダモティフォ(G, Cho)、ヒロミ・ヒロヒロ(B, Cho)により2010年9月に結成される。2011年5月にサポートメンバーのkomaki♂(Dr)が正式加入。8月にライブ会場および通販限定で1stミニアルバム「爆裂トリコさん」をリリースし、11月には自主企画イベント「爆祭-BAKUSAI-」を初開催した。2012年5月には初の全国流通作品となる2ndミニアルバム「小学生と宇宙」を発売。継続的なリリースや、大型フェスなどへの出演、海外ツアーの開催など精力的に活動する中でkomaki♂がバンドを脱退する。その後も活動を止めることなく、サポートメンバーを迎えて2015年2月に4thシングル「E」、3月に2ndアルバム「A N D」を発売した。9月にバンド結成5周年を迎え、10月から翌2016年3月まで北米、日本国内、ヨーロッパツアーを実施。同年4月には2015年夏に実施したドラマーオーディションの応募者から選ばれた4名とともに制作した新作CD「KABUKU EP」をリリースした。