音楽ナタリー PowerPush - TOWA TEI

ソロ20年の軌跡を見つめて

クラブミュージックへの興味が希薄になってきたことは確か

──テイさんの音楽をずっとリアルタイムで聴いてきて、その都度、作品のリリースのタイミングでは「最先端のもの」として聴いてきたんですけど、こうして振り返ってみると、それぞれの時代のトレンドとはまったく別の場所に最初からあった音楽だったんだなってことに改めて気付かされるんですよね。

この20年の歩みというのは、より特定のシーンに対してだったり、特定のソサエティに対してだったりの興味がなくなっていった過程でもあったと思うんですよね。

──それはどうしてでしょうか?

歳なんじゃないですか(笑)。

──(笑)。

言ってしまえば、「クラブミュージックが最先端のもの」という考え方自体が、ものすごくカッペな考え方だと思うんですよ(笑)。世の中にはほかにもいろんな面白い音楽があるわけで。もちろんクラブミュージックを否定するつもりはないですし、自分自身、これはあまり言いたくはないんだけど、クラブミュージックがいい時代にその中で過ごしてきたと思うんですよ。でも、だんだんクラブミュージックが細分化されていく中で、そこへの興味は希薄になってきたというのは確かなことだし。それは、ソロ1作目の「Future Listening!」から始まっていたんですよね。あれは、どこにもないリスニング音楽がコンセプトの作品でしたから。

──「『クラブミュージックが最先端のもの』という考え方自体がカッペ」という認識は、EDMがこれだけメインストリームになった今の時代に、ようやく一般化してきたようにも思います。

そうですね(笑)。まあ、EDMがメインストリームになっていくだろうってことはエレクトロクラッシュが流行り始めた頃から予想できたし、別にそれに抗おうという気持ちもないんですけど。正直、残念な気持ちはありますね。そんな中でも、クラブミュージック本来のドープネスだとか、ボディソニックの気持ちよさとか、レンジの広さだとか、情緒との絡み合いとか、そういうものを伝えたいという思いでDJは続けてきたし、今後も自分の音楽がクラブでかかることもあると思いますけど。クラブミュージックシーンにおける役割みたいなものは、もうあまり考えてないですね。

音楽は時代の原液

──今回テイさんのキャリアを振り返って改めて思ったのは、活動が停滞していた時期がほとんどないということなんですよね。ものすごくマイペースのようでいて、プロデュースワークやリミックスも含めて、作品はコンスタントにリリースされてきた。

優雅な時間というのは大事だと思いますけど(笑)、時間をかければいいものが作れるとは限らないということは、途中からすごく意識するようになりましたね。特にMacBookを持ち歩くようになってからは、新幹線を待っている時間にも音楽が作れるようになったわけで。制作環境の変化というのも、大きかったです。それと、やっぱり歳のせいですかね(笑)。年齢的なことを考えてもそうですし、例えば親友が他界したりすると、「自分の人生もいつ終わるかわからない」ということを考えざるを得なくなってきていますからね。そうすると、あまり作品を煮詰めてばかりいる場合じゃないと思うんですよ。レコードの時代からCDの時代になって、今はMP3の時代かもしれないけど、それでも作品のことを「アルバム」って呼ぶじゃないですか。要は、作品っていうのはある時期の自分の写真のアルバムのようなもの、1つのクラスタ(集合体)だと思うんですよ。そう思うと、なるべく自分のある時代ごとに、ある気分ごとに、ちゃんとそのクラスタを残しておきたいと思うんですよね。昔はもっとコンセプチュアルに煮詰める作業みたいなものも好きだったんですけど、そこはだんだん変化してきた部分だと思います。

──ということは、これまでの作品はその時代のシーンの動向には左右されてこなかったけど、当時の自分の個人史としての音楽であり、それぞれの時代のシーンの反映としての音楽ではあったということですか?

「LUCKY」ジャケット

それはもちろんそうです。昨年リリースした「LUCKY」という作品は、結果的に、初めて作曲も作詞も自分で手がけたアルバムになりましたし。音楽を作り続ける中で、言いたいことがなくなっていくのではなくて、むしろ、歌詞に書きたいことは増えてきました。今、あんまりにも世の中ヘンテコだし、複雑怪奇でしょ? 音楽って、空気のような存在というか、まさに空気の震動ですからね。ある意味、時代の原液のようなものだと思うんですよ。その原液が薄まって広がっていくというか、世間に繁殖していく。そんな時代に自分がどのような原液を作ることができるのかってことは、特に3.11以降、以前よりも考えるようになりましたね。

つまんない音楽が多いから

──なるほど。でもその一方で、20年前、18年前の楽曲も、まったく古くなってないことにも驚かされます。

流行歌を作ってきたわけじゃないですからね。例えば、初期の「Amai Seikatsu」や「Luv Connection」といった歌モノの曲も、当時付き合っていた今の奥さんと暮らし始めた頃とか、まだ子供もいなかった時代のことを歌にした曲だったし。個人史を音楽にしてきたという意味では、当時も今も変わってないんですよ。

──へえ! そうだったんですね! 当時はそんなパーソナルな歌だとはまったく思わずに、音楽家としての職人技の賜物の楽曲として聴いてましたよ。特に当時は、テイさんって、存在そのものが抽象的というか、フィクショナルな感じだったし。

いやいや、今も昔も具体的なおっさんですよ(笑)。

──先ほど「クラブミュージックシーンにおける役割みたいなものは、もうあまり考えてない」とおっしゃってましたが、それでは、今音楽を作る一番の原動力というのはどこにあるんですか?

それはやっぱり、つまんない音楽が多いからかな。特にここ数年は、派手で、耳に痛い、波形がとがった音楽ばかりになってきていて。自分の聴きたい音楽はもっとまあるい音楽だから。それを何よりも自分が聴きたいんですよ。あと、「深夜2時からDJ」みたいな仕事はだんだん年齢的にもキツくなってきたけど(笑)、最近はINTERSECT BY LEXUS(参照:INTERSECT BY LEXUS | Amazing In Motion | Lexus International)の音楽コンサルタントとして、選曲の仕事はこの20年で一番してるかもしれない。だから、DJとしての20年以上のキャリアというのも、そういう形で生かされていて。自分の好きな音楽を他人と共有したいという気持ちは、今も変わってないですね。

TOWA TEI THINKS PRETTY THINGS
2014年9月8日(月)~9月28日(日)東京都 (marunouchi) HOUSE
OPEN 11:00~16:00(日、祝:11:00~23:00)
※入場無料
TOWA TEI 20TH ANNIV & 50th BIRTH Party
2014年9月12日(金)東京都 (marunouchi) HOUSE
OPEN・START 21:00 / END 24:00
<出演者>
TOWA TEI / SHINICHI OSAWA / INO hidefumi / DJ HICO / DJ RUBY / Dorian(ライブ)
※入場無料
ソロデビュー20周年を記念したスペシャル対談集
「TOWA TEI対談集『ハタチ』」
[書籍] 2014年9月8日発売 / 1728円 / honeyee.com
TOWA TEI(テイトウワ)

1990年にDeee-Liteのメンバーとして、アルバム「World Clique」で全米デビュー。その後活動の拠点を日本に置き、1994年にソロアルバム「Future Listening!」をリリー スする。2007年には自身の音楽プロダクション「hug inc.」、2010年には電子セレクトショップ「MACH」を設立。2005年からは「FLASH」「BIG FUN」「SUNNY」というアルバム3部作を発表し、その評価をさらに高める。その他、DJやトラックメーカー、プロデューサーとして多彩な活動を展開。2014年にはソロデビュー20周年を迎え、ベストリミックス集「94-14 REMIX」、ベストカバー集「94-14 COVERS」、ベストアルバム「94-14」をリリース。