シンガーソングライター・TOMOOが新曲「オセロ」をIRORI Recordsからリリースし、メジャーデビューを果たす。
「オセロ」は、TOMOOがメジャー進出を発表した2月のワンマンライブ「YOU YOU」で初披露された楽曲。彼女は強さと弱さ、明るい一面と暗い一面など、相反する要素が隣り合っているからこそ成立している自分自身を、オセロの石になぞらえてこの曲を書いたという。これまでの歩みや自身のルーツを詰め込み、メジャーリリース一発目だからこその思いを乗せた「オセロ」を彼女はどう作り上げたのか。TOMOO本人に話を聞いた。
取材・文 / 倉嶌孝彦撮影 / SEIYA FUJII(W inc.)
スタイリスト / Minoru Sugaharaヘアメイク / YOUCA
メジャー進出前のぎゅっとした数カ月
──IRORI Recordsへの所属発表をした2月以降、いろんなメディアに登場しているのを見かけました。今年の春先は例年とは少し違う過ごし方になったのではないですか?
そうですね。すごくぎゅっとした、濃い時間を過ごさせてもらいました。ライブをたくさんやっていたわけでもないんですが、いろんなラジオ番組に出演する機会をいただきましたし、ライブの準備をするにも力を貸してくれる人が増えたので、意見をすり合わせながら進める必要があって、何かを成し遂げるためのプロセスが増えたと言いますか。
──充実していたようですが、その分大変なこともあったのでは?
確かに大変ではあったんですが、それをつらく感じるようなことはありませんでした。むしろ新しい出会いが多くて、いろんな方からアイデアを借りたり、話し合いながらお互いに意思疎通ができたときはうれしいですし。新しい方と知り合うことで受ける刺激も大きくて、わりとオンな状態で過ごしていることが多かったですね。その分オフの日は、魂が抜けたように過ごすこともありましたが(笑)。それは慣れていないからであって、今振り返っても楽しい数カ月でした。
──街でTOMOOさんの曲が流れることも多くなったと思います。周りの反応などは変わりましたか?
ファンの方だったり、仲よくしているミュージシャンの方だったり、いろんな方に「流れてたよ!」と言ってもらったんですが、不思議なことに私は1回も自分の曲が流れているのを聴いたことがなくて(笑)。人伝てではあるものの、自分の曲が全国に広がっているんだなあということを知れてうれしかったですね。本当はそれが自分でも実感できたらよかったんですが、運が悪いのかなあ(笑)。
ライブタイトル候補だった「オセロ」
──今回リリースされる「オセロ」という曲は、2月のライブで初披露されていた曲ですよね?(参照:メジャーデビューを決めたTOMOO、目の前の“YOU”に「大丈夫」と繰り返し伝えたワンマン)
はい。実はそのときのライブのタイトルを「オセロ」にしようかなと考えていたくらい、私にとって大事な言葉の1つなんです。昼夜2公演あるライブをやることになって、私の中ではそれが昼と夜で1つのライブだなと感じていたんです。明るい時間帯にやる昼公演と暗い時間帯にやる夜公演が2つで1つだとすれば、それはオセロのようだなとぼんやり考えていました。結局ライブのタイトルは別の意味を持たせた「YOU YOU」に変えて、「オセロ」は曲名として使うことにして。
──逆に「オセロ」の歌詞には「YOU YOU」という言葉が入っていますよね。
ノリで入れちゃいました(笑)。ライブをどうするか考えているときと、この曲を書いていた時期が被っていたから「YOU YOU」という言葉が入ってきて。実は以前も一度歌詞に「YOU YOU」を使ったことがあったからここはすごく悩んだ部分なんですが、私の音楽を聴いてくれる“あなた”のことを強調したいという気持ちを大事にしたかったので、「YOU YOU」と書いています。
──「オセロ」という言葉の由来が二面性にあるとおっしゃいましたが、それ以外にもいろんな意味を含ませることができる言葉ですよね。白と黒という色彩の話かもしれないし、そこから転じて白黒付けるという意味かもしれない。楽曲における「オセロ」にはどういう意味を持たせているんですか?
それで言うと、やっぱり二面性の意味合いが強いと思います。白い部分と黒い部分の表裏一体で私という人間、もっと言えば世の中の物事が成り立っているということを昔からぼんやりと考えていて。白と黒と言うと漠然としていますが、例えば強さと弱さ、いいことと悪いこと、明るい部分と暗い部分、みたいな2つの物事に関してですね。私はそれら2つのうち、いい部分だけを残して悪いほうを排除する、みたいなことを極力したくない。どちらも隣り合っているからこそ成り立っているという思いが、この「オセロ」という曲につながっていると思います。
──「オセロ」という曲に書かれているのは過去のことが多いですよね。過去を肯定して未来に進んでいくようなイメージが浮かびました。
過去にあったことをちゃんと自分のものとしてこれから先に持っていく、というのは大事なテーマだと感じています。ありがたいことに今回メジャーデビューのお話をいただいたわけですが、私はここからがスタートみたいな捉え方をしていなくて。活動を始めて10年くらい経っているのもあって、これまで経験してきたことを思い出してみて、いろんなことがあったんですよ。それはいいこともあれば、つらいことも。以前はつらいと思っていたことが事実としては変わらなくても、自分の中でその出来事の持つ意味合いがひっくり返る瞬間があるんですよね。過去をかき消すんじゃなくて、一緒に歩んでいきながらその過去をひっくり返していきたい、そう思ったときに「オセロ」という言葉がすごくしっくりきたんです。
──メジャーリリースの1発目として「オセロ」をリリースすることは以前から考えていたんですか?
「この曲でメジャーでの活動を始めるぞ」みたいな気持ちで書いたわけでもないんですが、ちょうど曲を書いていたのが去年の秋の終わりから年明けにかけての時期で、いろいろと決まっていたタイミングではあって。メジャーという場で活動することに向けて自然と出てきた思いが込められているとは思っています。でもこの曲がメジャー1発目になるとは、全然意識していなかったですね。
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明るすぎず暗すぎないアレンジ