音楽ナタリー Power Push - 東京女子流

5人の少女がアーティストになるまで

歌の免許を手に入れる

──歌の個性やスキルはみんな確実に上がっていますよね。

松井 歌の免許を生まれながらにして持ってるみたいな人っているでしょ? 例えばMISIAみたいな。そうじゃなく自分で努力して免許を手にする人も、ある瞬間、それまで習ってきたり聴いてきたものがバッとつながって、そこから先は何をしようが自分の個性になっていく。そんな瞬間があるんですよ。

tofubeats 免許を手に入れられそうになっているメンバーもいますよね?

松井 どれだけ彼女たちが練習してるかはわからないけど、たぶん遅かれ早かれみんな手に入れると思う。誰か1人がポーンと突き抜けたら、みんな引っ張られてうまくなると思うし。

──昨年のライブシリーズ「HARDBOILED NIGHT」(参照:東京女子流、多彩な“通番外”ライブ&衝撃のハードボイルド最終章)で5カ月連続で発表された新曲はどれも新機軸で、5人のボーカリストとしての成長を試しているような印象すらありました。

松井 自分が書いた曲に関しては、グループの曲としては普段だったら選ばないだろうなと思いますね(笑)。ソロアルバムを出すようなときに実験的に入れる曲。昔のアイドルのアルバムによく、2~3曲ぐらい明らかにディレクターの趣味で作ったみたいな曲が入ってたでしょ(笑)。あれって自分にとってはすごく重要な感覚で。

tofubeats 僕にとってはRoyal Mirrorball Mixもそれなんですよ。Royal Mirrorball Mixがあるのとないのとでは、シングルに込めた気概みたいなものが全然変わってきちゃうというか。シングルに特典を付けるのに予算を使うのか、リミックスを入れるのか。

松井 C&C Music Factoryのデヴィッド・コールが、A面はヒップホップなんだけどB面に必ずハウスのリミックスを入れていた、あのやり方にすごく影響を受けているんです。両方できることを証明した、音楽史的にも初めての人ですよ。あれが正しいか正しくないかは別として、1曲をこれだけ広げられるんだよっていうのは、姿勢としてすごく影響を受けていて。女子流の作品でそれが伝わっているとしたら幸いですね。

tofubeats メンバー自身にとっても、Royal Mirrorball Mixを聴くことでいろんな発見につながると思うんですよ。

松井 もうちょっと小生意気な感じになるのかなと思ってたんだけどね。そろそろ「このファンクのギターは全然泣いてない」とか言い出すんじゃないかって。

tofubeats ははははは!(笑)

松井 そんなこと言われたら、こっちはドキドキするよね(笑)。

女子流が最後の希望

tofubeats でもメンバーが自分で作詞を始めたりもしているし、ここからいろいろと変わっていくんじゃないですか?

──アーティスト宣言は実質的な変更点というより、メンバーの意識を切り替えるスイッチみたいな意味合いもあったのかなと。

tofubeats 俺はアーティスト宣言以降のやり方のほうが全体的なやり方としては好きなんですよね。最近よく考えることがあって。去年ぐらいまでアイドルの仕事をいっぱいやってきた中で、女の子に年相応のことをさせてあげたいなという思いが年々強くなってきているんです。大学生の年代だったら大学生なりの曲をあげたほうが健全な気がして。今の女子流は年相応な感じになってきていると思うし、中江さんがラップをやってみたりとか、ああいうのって傍から見ているとすごく気分がいいというか。ちゃんとアーティストとして共感を持って楽曲を楽しめるから、最近の女子流はすごくいいなと思うんですよね。

松井 もうちょっと女子流みたいなグループが増えるのかなと思ってたんだけどね。

tofubeats そうなんですよね。あのアーティスト宣言に関しても、言ってることはかなり正論じゃないですか。CDを握手で売り増したしたりすることに対して軽めに苦言を呈していたり。そういうのって誰もが思っていたことだし、本当だったらやりたくないって音楽業界の人はみんな思ってると俺は思ってたんですよ。でも意外とみんなが逆の反応だったことに俺はめちゃくちゃショックを受けて。単純に音楽1本でやっていけるガールズグループが増えればいいのになと思うし、気高くやり続けてほしいです。

松井 もし5人に突出した歌の才能があったり、ビジュアルが極めて美しかったりしたら、今みたいな状況にはなってなかったと思うんですよ。わりと平均点の5人がそろったから、逆にやれることの幅が広がったような気がするんですよね。例えば安室奈美恵ちゃんみたいなカリスマが真ん中にドンと立っていたら、そこに力を集中していくわけじゃないですか。事務所やメーカーの人は。

tofubeats 5年間同じメンバーでグループが続いてるというのが何よりの証拠ですよね。ここから先の5年は「ギターが泣いてない」とかそういう話でズレが出る可能性もあると思いますけど(笑)。

東京女子流は“気高い”グループだと思ってる

──アーティスト宣言という区切りを経て、松井さんは女子流のアレンジャーとしてどういうサウンドを心掛けていこうと思われますか?

松井 逆に「こういうことをやってみたい」とメンバーからのフィードバックがあればなって。たぶんここから先、どれだけ変わったクリエイターにリミックスをお願いしても女子流ファンは聴いてくれると思うんですよ。その土壌は作れたと思うから。音楽的にエキセントリックなものが出てきたとしても、たぶん受け止めてくれる。それってアーティストとしてはすごくプラスな話であって。本人たちから「こういうことをやってみたい」と言われるんだったら、スタッフと相談してできる限り対応したいなと思います。

──ちなみに今まで女子流のアレンジをやってきた中で、本当はやりたいけどまだやってない、みたいなものってありますか?

松井 どうだろうな。本当の意味でのファンクはまだやってないかな。ファンクと言っても広うございますけど(笑)、ヒップホップ寄りのものもあればエレクトロ寄りのものもあって。そもそもこのプロジェクトでは生でドラムを録ってないから、そういうのはまだやってないよね。全ナマのファンク。そういうことはやりたいかも。ただそれをやるとなると予算がね……(笑)。

tofubeats 音楽業界のみんなが抱える問題ですね(笑)。

──tofuさんは女子流でこういうサウンドが聴いてみたいというリクエストはありますか?

tofubeats 全ナマはぜひ聴いてみたいです。あとは……歌がさらにうまくなっていくとすれば、もっと音数を絞った、ソリッドなトラックに乗せた彼女たちの歌が聴いてみたいですね。ベースとドラムだけで、その上に5人の歌が乗っているような。声が前面にガッと出てくるのはファンもうれしいと思うんですよ。実際「Say long goodbye」(ライブシリーズ「HARDBOILED NIGHT」から派生した楽曲。5人のハーモニーを前面に押し出したバラードで、2014年12月にシングルリリースされた)とか俺、すごい好きだし。でもなんだろう……基本的に気高く活動してくれていたら、どんな曲でもいいんですけど(笑)。

──“気高さ”というのはよくわかります。女子流を語る上で重要なキーワードかもしれないですね。

tofubeats ずっと女子流は“気高い”グループだと思ってるんで。メンバーだけじゃなくて、スタッフを含めたチームとしての気高さを感じますよね。俗っぽさを無駄に入れないというか。その姿勢が本当に素晴らしいなと思うんです。そもそも松井さんも昔の仕事から、すでに気品が漂ってるじゃないですか。

松井 俺に気品なんてないよ!(笑)

tofubeats 気品というか「ここから下のものは絶対作らない」みたいな。女子流の制作チームって、そういう感覚を皆さん持ってる気がするんですよ。何をやっても絶対的なラインより上のものを届けてくれるっていうか。

──では最後に、松井さんとtofuさんからメンバーに向けて一言ずつもらえますか?

左から松井寛、tofubeats。

松井 そうですね……がんばってください。ほんとそれぐらいしか言えることはないかなあ。今は楽しそうにやってるから放置しといていいと思う。まだまだ伸びしろだらけだしね。

tofubeats 僕は単なるファンなので、これからもCDをいっぱい出してくださいっていうことぐらいで。いつもCDショップに買いに行ってますんで。これからも楽しく活動してください。よろしくお願いします。

tofubeats(トーフビーツ)

1990年11月26日生まれ。神戸在住のトラックメーカー / DJ。中学時代からWEB上で自作の音源を発表し、高校時代には自作のCD-R作品をリリースする。2010年3月発表の「Big Shout It Out」、2012年6月発表の「水星 feat. オノマトペ大臣」がそれぞれiTunes Storeチャートを中心に話題を集める。2013年4月に初のオリジナルCDアルバム「lost decade」をリリース。同年11月には森高千里やの子(神聖かまってちゃん)をボーカリストに起用したミニアルバム「Don't Stop The Music」でワーナーミュージック・ジャパン内のレーベル・unBORDEからメジャーデビューを果たした。2014年10月に1stフルアルバム「First Album」をリリース。最新作品は2015年4月リリースのCD「STAKEHOLDER」。

松井寛(マツイヒロシ)

1967年3月20日生まれ。作曲家 / 編曲家 / プロデューサー / リミキサー / DJ。86年、パルコ・グランバザール夏のCFを皮切りに作・編曲家として多数のCM音楽を制作。その後、歌謡曲の作・編曲も手がけるようになる。主な楽曲提供アーティストはMISIA、名取香り、Candy、加藤ミリヤ、SweetS、観月ありさ、モーニング娘。など。2010年以降は、東京女子流のほとんどの楽曲で編曲を担当。2014年3月には自身のソロ名義のアルバム「Mirrorball Flare」と、東京女子流の楽曲をリミックスしたアルバム「Royal Mirrorball Discotheque」をパッケージした2枚組作品「Mirrorball Flare+Royal Mirrorball Discotheque」をリリースした。

Contents Index
東京女子流インタビュー
松井寛×tofubeats 対談
バニラビーンズ・レナ コメント
ニューシングル「Never ever」 / 2015年6月24日発売 / avex trax
Type-A [CD+DVD] / 1944円 / AVCD-83321/B
Type-B [CD+フォトブック] / 2160円 / AVCD-83322
Type-C [CD] / 1080円 / AVCD-83323
Type-D [CD] / 1296円 / AVCD-83324
CD収録曲(共通仕様)
  1. Never ever (TJO & YUSUKE from BLU-SWING Remix)
  2. Never ever (Original mix)
  3. Never ever (Royal Mirrorball vs MODEWARP Main mix)
Type-A DVD収録内容
  • "Never ever" Making Movie
Type-D CD収録曲
  1. Never ever (Royal Mirrorball vs MODEWARP Dub mix) [SoundCloud]
  2. Never ever (TJO & YUSUKE from BLU-SWING Remix) -Instrumental-
  3. Never ever (Original mix) -Instrumental-
アナログ盤「Never ever REMIX」 / 2015年6月12日発売 / [7inchアナログ盤] 1620円 / avex trax / AVKD-83329
アナログ盤「Never ever REMIX」
Side-A(45rpm)
  • Never ever (TJO & YUSUKE from BLU-SWING Remix)
Side-B(33rpm)
  • Never ever (Royal Mirrorball vs MODEWARP Dub mix)
東京女子流(トウキョウジョシリュウ)

東京女子流

小西彩乃、山邊未夢、新井ひとみ、中江友梨、庄司芽生からなるダンス&ボーカルグループ。エイベックスにとって約7年ぶりのガールズグループとして2010年1月1日に結成された。 同年5月にデビューシングル 「キラリ☆」をリリース。2011年5月には1stアルバム「鼓動の秘密」を発表する。2012年12月には初の日本武道館単独公演を成功に収め、1年後の2013年12月には2度目の武道館ライブを開催した。2014年にはロックフェス「ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2014」への出演や、台湾、香港、シンガポール、タイ、ベトナム、サンフランシスコなどワールドワイドに活動を展開し、国内外で注目を集めている。2015年3月には山邊未夢が初めて作詞を手がけたニューシングル「Stay with me」、5月にはデビュー5周年を記念した初のベストアルバム「1st BEST ALBUM キラリ☆」を発表。6月には通算19枚目となるニューシングル「Never ever」をリリースした。