美しいだけではないものも心に芽生えるのが人間

登坂　話が戻っちゃいますけど、オリンピック前に曲を作っていただけたのはありがたかったです。「BE WILD」には本当に勇気をもらいました。逃げ出したくても、自分が叶えたいものがあるなら向かっていかなきゃいけないんだなって。

山中　ありがちな言葉だけど、やっぱり本当の敵は自分自身だと思ったので、そこを軸に書いたんだよね。どんな日々を送って、いかになりたい自分になるかっていうさ。楽しくない時間だってあるわけでしょ？ 身体をブラッシュアップするには、自分をいじめることも必要だろうし。それをサボらずにやれるのはもう……すごすぎる！

登坂　いえいえ。

山中　あと、オリンピックの公式ソングって美しい曲が多いけど、それは自分らしくないので、「汗をかいてない外野席の 冷やかす落書き 気にしない」という歌詞を入れたのはあるね。美しいだけではないものも心に芽生えるのが人間だと、俺は思うから。

登坂　なんとなくわかります。私たちも勝負なので、きれいごとだけでは成り立たない部分もあるし。「BE WILD」は本番ギリギリまで聴いてましたね。私、ピロウズさんの音楽でスイッチを入れると、出発のときにはもう無敵なんですよ。マリオで言うスターみたいな感じ！

山中　マットに上る直前とか、監督が肩叩いてるときとかさ、もう顔が全然違うよね？

登坂　完璧に入ってますね。「絶対に勝ってやる」って。

山中さわお、48歳で初めてスポーツ観戦に夢中になる

山中　オリンピック始まったら、ほかの選手の試合もつい観ちゃったの。で、ちょっとずつルールがわかってきたら、もう、俄然夢中になってきて（笑）。愛国心みたいなものもまったくない人間だったのに、やっぱり日本を応援しちゃうもんだね。登坂さんのことはね、なんて言うんだろう……オリンピックのときはまだ面と向かって会ってないし、自分のことのように置き換えて「期待しないでおこう」と思ったんだよ。「出場しただけですごい！」って言い聞かせる感じで。だけど、途中から「……いや、待て待て。これ金メダル行けんじゃねえか!?」って。

登坂　あはははは！（笑）

山中　決勝の（マリヤ・）スタドニク戦は燃えたなー。金メダルが決まった瞬間、1人で家のソファから「やったー！」って立ち上がったもん。そんなこと人生で初めてだよ（笑）。登坂さんも残り1秒くらいあるのに、スタドニクの背中をバン！ と叩いてたよね？

登坂　そう、まだ試合終わってなかったんですよね（笑）。私もめっちゃ興奮しちゃってました。

山中　でも、あの逆転劇はそうなっちゃうのもわかるなー。

──登坂さんの場合はピロウズ、さわおさんの場合はオリンピックですけど、突然何かに夢中になって、夢中になったら一気にのめり込む感じは、なんだかお互い似てますね。

登坂　確かに！

山中　そうだよね。俺、吉田沙保里さんの試合も泣いちゃったよ。

登坂　私、オリンピックってだいたいの人が観るものだと思ってました。逆にそこまでスポーツに興味がなかったにも関わらず、試合を観ていただけたなんてうれしいですね。

山中　本当に、自分の中で何かが変わったと思う。実際、テンション上がっちゃったしね。今は気軽に共感を欲しがる時代だけど、そんなのとは違う。絶対に自分と重ねられないくらいの努力をして、高度な技術と強い意志で望みを成し遂げるのって、普通じゃないから。それはすごく夢中になるし、生きていく糧にさえなるってことが、48歳にしてわかったよ（笑）。