山中さわおソロインタビュー|変わり続ける世界の中で貫く、変わらない生き方と音楽への姿勢

山中さわお(the pillows)が、約1年4カ月ぶり、7枚目となるソロアルバム「Muddy comedy」をリリースした。

6thアルバム「Nonocular violet」のリリース以降、ソロツアーやthe pillowsのアルバム「Smile」「Thank you, my twilight」を完全再現するツアー「RETURN TO THIRD MOVEMENT! Vol.3」の開催、さらにJIRO(B / GLAY)、高橋宏貴(Dr / ELLEGARDEN、PAM)とともに活動するTHE PREDATORSのアルバム「Go back to yesterday!」のリリースなど、驚くべきペースで活動を続けてきた山中。昨年、自身のポッドキャストで初披露された「その世界はキミのものだ」、彼らしいオルタナティブなポップセンスが反映された表題曲「Muddy comedy」などを含む本作からも、奔放にして攻撃的な姿勢が伝わってくる。

ソロアルバム発売を記念して、音楽ナタリーは山中にインタビュー。この1年半の活動を振り返ってもらいつつ、アルバム「Muddy comedy」の制作背景、5月から7月にかけて行われる全国ツアー「MUDDY COMEDY TOUR」に対する思いについて話を聞いた。

取材・文 / 森朋之 撮影 / 山川哲矢

常に音楽に携わっていたい

──2021年は自身のソロツアー、the pillowsのアルバム再現ツアー、THE PREDATORSのニューアルバムのリリースなど、精力的な活動を継続していました。

そうだね。そもそも忙しいのが好きだし、休日とかいらないんだよね。予定がないと、飲んでるか寝てるかになっちゃうから(笑)。自分の作品に限らず、誰かのプロデュースでもいいんだけど、音楽に携わる作業を常にしていたいのかな。スタジオに入っていろいろなアイデアを出したり、オーディオを整えたりするのが好きだからね。俺はそうやって目いっぱい動き回ったけど、この2年間は暇だったミュージシャンが多いだろうね。ライブやフェスの機会が減ってるから。

山中さわお

──そうなるとリリースもしづらいですからね。山中さんはこの2年間、ソロアルバム、コラボレーション作品など8作を発表していて。創作もまったく止まってないですね。

ライブができなかったんだから、作品が増えるのは当然なんだけどね。ライブに関しても、こっちから「やらない」という選択肢を取ることはないし、強制的に中止にされない限り、予定を組んでやるのが当たり前だと思ってるから。それは2019年までと変わらないし、これまでと同じようにやっただけだよ。ただ、印象操作と言わざるを得ないニュースやアナウンスがあったから、そのことで右往左往する人も俺の想像以上にたくさんいて。多少は情緒不安定になったし、人間が嫌いだとはっきりと思ったかな。自分には自分が作った小さな世界があるから、できるだけそこに気持ちを向けるようにして、それ以外のことはシャットアウトしたかったんだけど、大人として生活している以上、そういうわけにもいかないじゃないか(笑)。「なんとかして心をくだらないことに引っ張られないようにしよう」と言い聞かせながらやってきたし、それはまだ続いてるね。

──それが自分を守ることになるし、音楽を続けるためにも必要だと。

そうだね。自分でもビックリしてるんだけど、人間には自己防衛本能みたいなものがプログラムされていて、すごく嫌なことでも慣れるようにできてるんだよね。もちろん慣れるのは嫌だし、受け入れるつもりもないんだけど。あとね、「いったいどうしたんだよ、みんな」という最初の衝撃はずっと残ってる。いろんな人にいろんなことを言われたけど、自分の生活や信念は人に踏み込まれていいものではないし、自分の自由や権利は何よりも大切で。俺だって人に嫌われないように行動したいけど、限度があるじゃないか。……いや、この話はやめよう。人に嫌われるためじゃなく、人気が出るためにインタビューを受けてるんだから(笑)。

──(笑)。これは個人的な印象ですけど、さわおさんの言動自体は昔からまったく変わってないですよね。

そうなんだよ(笑)。俺の物差しから言うと、変わったのは外側のほうだから。

山中さわお

暗いアルバムにはしたくなかった

──では、ニューアルバム「Muddy comedy」について聞かせてください。本当に素晴らしい作品だと思います。まず全体を通してかなりポップな印象があって。

うん、暗いアルバムにはしたくなかったかな。「Nonocular violet」までの流れは“怒り爆発”みたいな曲が多かったけど、今回はチクッと嫌味を言ってる程度に留めたしね。

──でも歌詞はかなりストレートじゃないですか? 「多数派の列はどこだい」(「愛のパラダイス」)、「街宣車の美辞麗句 空々しい」(「壁の穴と少年」)もそうですが、何のことを歌っているのか明確と言いますか。

それは歌詞の向こう側にあるものを理解してくれてるから、そう感じるんだと思うけどね。世間一般で言う“ストレートな歌詞”っていうのは、「〇〇なんてウソだぜ」とか「〇〇反対」みたいなことだから(笑)。俺は10代の頃に佐野元春さんを好きになってからスタイリッシュ病にかかっているので(笑)、どうしてもポエトリーにしたくなるんだよね。それは今回のアルバムもそうなっていると思う。まあ「現世はもう捨てた 生まれ変わりたいんだ」(「Muddy comedy」)みたいな歌詞もあるけどね(笑)。

──そのフレーズについては、同じような思いを抱えている人も多いと思います。前作以降も、曲は書き続けていたんですか?

書いてはいたけど、もともと今回はミニアルバムを想定してたんだよ。レコーディングには2組のリズムセクションに参加してもらっていて。関根史織ちゃん(B / Base Ball Bear、stico)と楠部真也くん(Dr / Radio Caroline)、安西卓丸くん(B / ex. ふくろうず)と千葉オライリー(Dr / THE BOHEMIANS)の組み合わせなんだけど、それぞれ2曲ずつくらい録って、あとは弾き語りで1曲作れば、5曲入りのミニアルバムにできるかなと。その時点では歌詞もあいまいな状態で。

山中さわお

──とりあえず制作をスタートさせたと。

うん。家で1人で作るんじゃなくて、仲間と遊びながら作りたかったんだよ。「2曲くらいならやれるでしょ?」って聞いて、「うん」と言わせて。そのあとに「すまん、曲が増えてしまった」という(笑)。思い付いたアイデアをスタジオに持っていって、セッションして、いい感触だったら持ち帰って、歌詞を考えて。そうしているうちに7、8曲くらいになって、「これならアルバムにできるな」と思ってからは、さらにスイッチが入ったね。そこからグッと集中して曲を書いたかな。ただ、あまりにも短期間で作ったせいか、コード進行が似ている曲がいくつかあったんだよ。途中で「Nonocular violet」の中で気に入ってる曲と同じような進行の曲があることにも気付いて、「ちょっと変えるか」という感じで調整して。好きなコード進行やメロディラインはあるんだけど、そればっかりじゃ飽きるし、かといって好きじゃない曲はやりたくないし(笑)。あとは全体のバランスも考えつつ、少しずつ整えながら作っていった。

──リズムセクションが2つあるのも面白いですよね。曲のタイプによって「こっちがいいな」と振り分けてるんですか?

そうだね。俺はそういう判断が早いし、悩まないんだよ。この曲はAチーム、こっちはBチームという感じでパッと決めて。みんなそれぞれ個性があるけど、どんな曲でも対応できる人たちだからね。