カミナリグモ セルフカバーアルバム「Another Treasure」発売記念座談会|現体制15周年で開かれる新たな扉

2007年に上野啓示(G, Vo)、ghoma(Key)による2人体制での活動をスタートさせ、今年で現体制での活動15周年を迎えたカミナリグモが、セルフカバーアルバム「Another Treasure」をリリースした。オリジナルアルバム「Another Trip」と同時に発売される本作は、これまで発表してきた楽曲をバンドにゆかりのあるアーティストをゲストに招いてセルフカバーした作品。ゲストとして、秋野温(鶴)、岩崎慧(セカイイチ)、上野優華、kainatsu、カナタタケヒロ(LEGO BIG MORL)、竹澤汀(Cinématographe、ex. Goose house.)、成山剛(sleepy.ab)、わたなべだいすけ(D.W.ニコルズ)、渡會将士(FoZZtone、brainchild's)、山中さわお&真鍋吉明(the pillows)、yoko(noodles)が参加している。

音楽ナタリーでは、カミナリグモの2人と本作に参加した秋野、上野、カナタ、わたなべ、渡會、真鍋による座談会をセッティング。カミナリグモとの交流、アルバム「Another Treasure」でカバーした楽曲について語り合ってもらった。

また特集の後半では、座談会参加メンバー以外の楽曲についてカミナリグモの2人にインタビューを実施。さらにライター・浅野保志による、オリジナルアルバム「Another Trip」のレビューを掲載する。

取材・文 / 森朋之撮影 / 前田立

カミナリグモはネガティブなのに人懐っこい

──本日はカミナリグモのセルフカバーアルバム「Another Treasure」に参加したミュージシャンの皆さんに集まっていただきました。まずはカミナリグモとの関係について教えていただけますか?

渡會将士(FoZZtone、brainchild's) 僕は10年以上前にカミナリグモとFoZZtoneで対バンしたのが最初ですね。確か大阪のライブハウスだったんですけど、僕は当時、弾き語りのライブでthe pillowsの曲と自分たちの曲をマッシュアップして演奏することがあったんですよ。その日のライブの打ち上げに、山中さわおさん(the pillows)がいらっしゃって……。

ghoma(カミナリグモ) 次の日、確かthe pillowsの大阪ワンマンがあって、ふらっと来てくれたんだよね。

カミナリグモ

カミナリグモ

渡會 とにかく最初に会ったときから、カミナリグモはすごくいい曲をやってるバンドで。その印象はずっと変わらないですね。

カナタタケヒロ(LEGO BIG MORL) 僕らはghomaさんにツアーのサポートをしてもらったのが最初ですね。「Re:Union」というアルバムのときだったんですけど、仙台のイベントでカミナリグモのライブを観て、ウチのベース(ヤマモトシンタロウ)と「あの人に鍵盤を弾いてほしい」と話して。

ghoma LEGOが歌モノに寄ってた時期だよね。

カナタ そうなんです。音源には鍵盤を入れまくってたんですけど、メンバーは誰も弾けなかったから、ghomaさんにお願いして。そのあと対バンもさせてもらったんですが、カミナリグモの楽曲には温もりがあって、心に染みてくる感じがあるんですよね。自分たちの音楽とはまた違うんですが、すごく惹かれています。

わたなべだいすけ(D.W.ニコルズ) D.W.ニコルズとカミナリグモはデビューのタイミングが近かったから、同期のようなイメージがあって。カミナリグモのツアーで何本か対バンさせてもらったときに、打ち上げで啓示くんに「カミナリグモのツアーなのに、なんでニコルズのほうが盛り上がるんだろう」と言われて、「すげえひねくれてんな」と思ったのを覚えてます(笑)。でも、憎めないんですよね。

渡會 わかる(笑)。ネガティブなのに人懐っこいんだよね。

わたなべ たぶん根っこの部分は変わってないんだけど、人当たりは柔らかくなってる気がしていて。それは最近の曲にも出ていると思います。ghomaちゃんは、会ったときから髪の毛がサラサラでした(笑)。しかも撮影の前はプチ断食するんですよ。とにかく面白いお二人です(笑)。

座談会の様子。

座談会の様子。

スタイリッシュでどこかイビツなところが魅力

──上野優華さんとカミナリグモの関わりは?

上野優華 ghomaさんにライブのサポートをずっとしてもらっていまして。私のマネージャーさんはもともとカミナリグモのマネージメントに関わっていて、そのご縁でサポートしていただけることになったんです。以前は同じレコード会社で、最初にご挨拶したのもレコード会社のリハーサルスタジオだったんですよ。私はオーディションをきっかけにデビューさせてもらったんですけど、徳島から出てきたばかりで、まだ何もわかってなくて。カミナリグモのお二人は、私にとって初めてお会いしたアーティストなんです。

ghoma そうだったのか。

上野啓示(カミナリグモ) 知らなかった(笑)。

──秋野さんはカミナリグモが2人体制になる前からの知り合いだとか。

秋野温(鶴) 新宿JAMで一緒にライブをやったのが最初だったんですが、もう20年近く前ですね。まだghomaちゃんは加入してなくて、鶴も結成1、2年目で。その頃の啓示くんのイメージは「暗いなー」ですね(笑)。MCの声も小さくて。僕らはギャーギャーやってたから、真逆ですよね。静かに刺してくるというか、ライブハウスでしっかり届く音楽をやっている印象がありました。そのときの新宿JAMのブッキングマネージャーが今の僕らのマネージャーなんですが、その人が企画したコンピ盤(「新宿良音演奏会」)があって、1曲目が自分たちの「愛しのハニー」、2曲目がカミナリグモの「王様のミサイル」なんです。今回のアルバムで歌わせてもらったんですが、当時からすごくいい曲だなと思ってました。

──なるほど。真鍋さんとカミナリグモの接点は?

真鍋吉明(the pillows) the pillowsの山中さわおがカミナリグモのプロデュースをすることになって、山中に紹介されたのが最初ですね。音よりも人間を先に知ったんですけど、当時カミナリグモは僕らの古巣のレーベルに所属していたんです。スタッフも彼らのことを一生懸命応援していて、人を動かす音楽をやっているんだなと感じていました。あと、2人ともよく僕らのライブに来てくれたから、打ち上げで親交を深めて。カミナリグモの「カスタードクリーム」という曲でギターを弾かせてもらったり、the pillowsのアコースティックツアーでghomaちゃんにサポートしてもらったり、いい関係でいさせてもらっています。僕にとっては親戚の子みたいな感じです(笑)。ずっと啓示くんに期待しているので、飲むたびに焚き付けてるんですけどね。ギターがうまいのに、すぐに「いや、僕なんか」って言うんですよ。

上野啓示 真鍋さんはいつも褒めてくださるんですけど、僕自身は全然追い付けてなくて。真鍋さんのイメージに応えられるようにがんばろうって、ずっと思ってますね。

──真鍋さんはお二人の成長も感じているのでは?

真鍋 啓示くんの表現やghomaちゃんのアプローチは進化してますけど、芯の部分は変わってなくて。スタイリッシュなんだけど、どこかイビツな感じがカミナリグモの魅力だとずっと思ってます。

左から上野優華、秋野温(鶴)、真鍋吉明(the pillows)、上野啓示(カミナリグモ)。

左から上野優華、秋野温(鶴)、真鍋吉明(the pillows)、上野啓示(カミナリグモ)。

原曲よりよくなることを目指した

──「Another Treasure」は、カミナリグモの代表曲をリアレンジし、ゲストボーカリストが歌ったセルフカバーアルバムです。あまり聞いたことがない、独創的なコンセプトですよね。

上野啓示 そうだと思います。ghomaちゃんと2人体制になってから15年になるので、何か特別なことをしたいという話はずっとしていて。「ギタリストに入ってもらうのはどう?」とかいろんなアイデアがあったんですけど、ボーカリストに歌ってもらうというところに行き着きました。きっかけとしては、Hey! Say! JUMPに楽曲(「ハローメロディ」)を提供したのが大きくて。

ghoma うん。楽曲提供する際はアーティストのカラーに沿うのが普通だと思うんですが、先方のディレクターに「カミナリグモらしい曲でお願いします」と言っていただいて。自分たちの色が出ている曲を、ほかの人に表現してもらうのが面白かったんですよ。

上野啓示 そう、「自分が歌うよりいいな」って(笑)。歌詞もしっかり汲み取ってくれて、完成形を聴いたときに「こういう感じになるんだ」ってすごく新鮮だったんです。オケも作らせてもらったんですけど、その作業も楽しくて。

ghoma そこから「自分たちでトラックを制作して、ほかの人に歌ってもらうのはどう?」という道筋が見えてきたんです。それが一番僕ららしいやり方かなと。

ghoma(Key)

ghoma(Key)

上野啓示 いろんな人とコラボしたい気持ちもあったしね。僕はボーカリストですけど、全体の比率で言うと、そこまで歌に重きを置いてないんです。楽曲を作った時点で手柄の8割は受け取ったと思っていて。ほかの人に歌ってもらって、「こっちのほうがいい」と言われても別に傷付かないというか(笑)。もともと作家気質だし、皆さんに歌ってもらえることにすごく喜びを感じてました。今回は原曲よりよくなることを目指していたし、実際そうなったと思います。

わたなべ でもなかなかできないよ、こんなアルバム。いろんな個性を持ったボーカリストが歌ってるのに、カミナリグモらしさもちゃんとあって。

ghoma 自分たちらしい音は意識してたからね。サウンドメイクするときも、自分たちが好きな音を配置したし。

わたなべ なるほど。あ、でも渡會は自分でオケも作ったんでしょ?

カナタ え、そうなんですか?

渡會 うん(笑)。

──渡會さんが歌ったのは「November Fools」ですが、どうしてトラックまで作ることになったんですか?

渡會 2人から「『November Fools』はどうかな」と提案されたんですけど、ほかの皆さんがどうやって制作しているかわからないし、「こういうふうに録ります」という段取りもまったく教えてくれなくて(笑)。とりあえず自分でできることをやってみようと思って、宅録でオケを作ってみたんです。それを「こんな感じでどうですか?」と2人にパスして。

座談会の様子。

座談会の様子。

上野啓示 「歌ってもらう」というのは前提であったんですけど、アニバーサリーの企画アルバムなので制約があるわけでもないし、なんでも好きにやってもらいたいと思ってたんですよ。なので、渡會くんがアレンジもしたいと言ってくれたときも、「ぜひお任せでお願いします!」と。

ghoma 渡會くんのトラックのデータを見ると、すごく作り込んでいるのがわかったので「このまま使いたいな」と思って。音色だけカミナリグモっぽくさせてもらいました。

上野啓示 アコギとコーラスを加えたくらいかな。なので「November Fools」に関しては、渡會くんのトリビュートです(笑)。

渡會 申し訳ない(笑)。歌は難しかったですね。原曲は啓示くんの声のスイートスポットが最大限まで発揮されるように構成されているんだけど、自分のレンジとはちょっと違っていて。うまく歌えないと恥ずかしいじゃないですか。

上野啓示 そういう葛藤があったんだね。ちょっと意外かも。

渡會 いやいや。アルバムを聴かせてもらったときも、「みんな、歌うめえな」と思ったから。

わたなべ それは全員同じだよ(笑)。

渡會 そうか(笑)。まあでも、自分でトラックを作ったこともそうだし、飛び道具的な役割は果たせたのかなと。

上野啓示 すごくよかったよ。渡會くんの歌声は独特だし、このアルバムの中でも異彩を放っていて。渡會くんがいるのといないのとでは、アルバムの振り幅がかなり違うと思う。