the peggiesが2年8カ月ぶりのアルバム「The GARDEN」をリリースした。
テレビアニメ「彼女、お借りします」オープニングテーマにも使用されたポップチューン「センチメートル」のヒットを機に、ますますリスナー層を拡大し続けるthe peggies。「The GARDEN」には、「センチメートル」を筆頭に、テレビアニメ「僕のヒーローアカデミア」第5期エンディングテーマ「足跡」や、テレビアニメ「さらざんまい」エンディングテーマ「スタンドバイミー」など数々のタイアップ曲が収録されている。
音楽ナタリーでは、the peggiesの3人にインタビューを実施。自信を喪失していたというコロナ禍でのバンドのモードや、赤裸々に自分たちをさらけ出したという今作に込めた思いを語ってもらった。
取材・文 / 蜂須賀ちなみ撮影 / 前田立
メンバーがつらい思いをしているのを知らないままでいるのは寂しい
──2年半ぶりのフルアルバムですが、まず、その間の大きなトピックとして新型コロナウイルスによる感染症の流行がありましたね。特に2020年春頃は、ライブもできずスタジオにも入れず、メンバーにすら会えない状態が続いたかと思います。
石渡マキコ(B) 私たちは中学の頃から同じ学校に通っていたので、メンバーとこんなに会えないのは人生で初めてだったんです。毎週スタジオに入って世間話をするのが当たり前になっていたから、気軽に雑談できる相手と長い間会えないのは寂しいなあと思いました。
──プライベートの話も3人で共有するんですか?
石渡 そうですね。わりとなんでも話します。悩みがあれば共有するし、それはここ1、2年でさらに増えてきていて。
──一緒にいる年月が長いほど、関係がドライになって、会話が減るイメージがありますが、the peggiesはむしろ逆なんですね。
大貫みく(Dr) 高校生のときは、周りにいるバンドが「私たち仲良し、最強!」みたいなノリでバンドをやっていたので、「自分たちはそういうふうに見られたくないよね」という気持ちがあったんですけど、そういうところも越えての今なので。
北澤ゆうほ(Vo, G) それに、私生活での感情の動きはバンド活動にもどこかで影響してくると思うので。メンバーがつらい思いをしているのをずっと知らないままでいるのは寂しいし、そんな状態だとグルーヴも失われていくのかなという気持ちがあるというか。だから基本的には全部共有するし、「バンドはバンドとして割り切る」という考え方はあまりないかもしれないです。外出自粛期間中はZoom飲みもしたんですけど、私は背景をアー写にして、まーちゃん(石渡)とみくと私の3人でいるみたいにして(笑)。
石渡 (笑)。LINEでも定期的に連絡を取り合っていました。
恋愛に限らない愛について書けるように
──2020年はツアーが中止になるなど活動において大きな打撃を受けたかと思いますが、一方、2020年8月にリリースした「センチメートル」が国内外で広く聴かれるという喜ばしい出来事もありましたね。
大貫 アニメの影響もあって、海外の方にもたくさん聴いてもらえたのがすごくうれしかったです。
北澤 「センチメートル」は、おもちゃ箱を開けたときのようなワクワク感があって、だけどポップでキュートなだけではなく切なさも入っている曲で。アレンジが仕上がった時点で「あ、これだよ!」と思いました。メロディアスな曲と遊び心のあるアレンジというのは私たちがずっと目指してきたものだったので、ここまでの活動報告のような曲になったなと。
石渡 アニメの作画担当の方から「主題歌はthe peggiesさんだったらうれしいと思っていたんです」と直接伝えてもらえる機会があって。今まで私たちが積み重ねてきたものを受け取ってそう言ってくれる人がいることを知れたのもうれしかったです。
北澤 人との距離についてみんなが改めて考えたり悩んだりしていた時期にこういう曲をリリースできたのは、コロナ禍において唯一ラッキーな出来事だったと思います。もっと前に書いていた曲だから、そんなつもりで書いたわけではないんですけど。
──恋愛に限らない人と人との関係性について書くこともまた、北澤さんがずっとトライしてきたことですしね。
北澤 そうですね。表面上は「君と僕の恋」をテーマにしているように見える曲でも、「恋愛に限らない愛について書けるように」ということはずっと考えていたので。ときにはそれがわかりづらさにつながり、ド直球なラブソングを好む人にはなかなか伝わらないという葛藤もありましたが、あきらめずになんとか続けられています。
そのどれもがあなたのありのままの姿だから
──その後の楽曲制作はスムーズに進みましたか?
北澤 実は「足跡」を書いたときにかなり悩んでしまったんです。アニメ「僕のヒーローアカデミア」のエンディングテーマなので、まず、自分自身と戦う姿を描きたいなと思って。「そのためには私自身がまず戦わなきゃ」と考えていろいろな曲を書いたものの、うまくいかず、自信喪失してしまい……。その頃はライブがいつできるようになるのかもまだわからない時期だったんですけど、ライブができなくてもTikTokなどを使いこなしてファンの心を離さずにいるミュージシャンの友達もいるのに、私はそういうこともうまくできなくて。「そもそも私が音楽をやる意味ってあるのかな?」「才能ある人がこんなにいっぱいいる世界で、私が曲を作って発表する意味ってないんじゃないか?」というところまで考えてしまったんです。だけど、そこから「私はなんのために曲を書いているんだろう」と自問自答していったときに、チームの人からOKをもらうために必死になりすぎていたことに気が付いて。それで「誰々に求められている気がするからこうしよう」という考え方を一旦全部やめてみたんです。
──そういった経験から「足跡」の歌詞が生まれたと。
北澤 はい。情けない姿も含めて「これも私だよな」「こういう姿をみんなにも見せたいな」と思えました。私の姿を見て「あ、私もこのままでいいんだ」と思ってくれる人がいるならそれはすごく素敵なことだと思うし、私自身も生きている実感が湧くなと。
──「足跡」の制作で得た気付きが今回のアルバムにもつながっているのでしょうか。
北澤 そうですね。それこそ「センチメートル」のように、多くの人に受け止めてもらえているシングル曲は明るい曲がほとんどで。それはもちろん私たちが望んでやっていることですけど、新曲ではアルバムにしかできないアプローチをして、「さらにthe peggiesに対する理解を深めてもらえるとうれしいよね」という感じでアルバムは作っていきました。
──「明るいだけではない一面も知ってほしい」ということですか?
北澤 というよりは、「この明るさはどこから生まれてくるのか」という部分をもっと伝えられたらと思っていて。ポジティブなメッセージも素敵だけど、そういうものだけが世の中にあふれていると、毎日の葛藤や苛立ち、落ち込んだり嫌な気持ちになったりすること自体を否定されているみたいに感じてしまう人もいるんじゃないかと。生きている中で暗い気持ちになる瞬間があってもいいし、同じように、幸せな気持ちでいる瞬間があってもいい。「どんな感情があれど、そのどれもがあなたのありのままの姿だからそのままでいいんだよ」と言ってあげられるようなアルバムにしたいという気持ちが制作中どんどん強くなっていきました。
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ひさびさに表に出したルサンチマン