the peggies|傷つきながら進み続ける“普通の3人”が赤裸々にさらけ出すありのままの姿

ひさびさに表に出したルサンチマン

──それこそ「ドア」の歌詞には北澤さんのありのままの姿が表れているように感じました。

the peggies

北澤 「ドア」は「足跡」と同じ時期に作った曲なんですけど、さっきも言ったように、周りの友達がコロナ禍をうまくサバイブしていたので、その友達が心配して手を差し伸べてくれているにもかかわらず、「君はいいよね」と思ってしまって。そんな一面も私っぽいなと思ったので、ルサンチマンのようなものをひさしぶりに赤裸々に書いてみました。この曲はぜひ歌詞を読みながら聴いてほしいです。「こんなに暗い曲、もしかしたら採用されないかも」と思いつつ、自分で自分を納得させるために書き始めた曲だけど、同じ気持ちの人もいっぱいいるだろうから。

石渡 私もアルバム制作中に落ち込むことがあったんですけど、そういうときに、この曲にめちゃくちゃ救われて。聴いてくれるみんなの中にも救われる人がたくさんいるんじゃないかと思います。

大貫 私も同じ気持ち。私は暗い気分になったときにどうすればいいかわからなくなっちゃうタイプだから、ゆうほがこういうふうに言葉にしてくれるのはいちリスナーとしてありがたいです。

北澤 次の「Contrast」も含めたこの2曲に関して思うのが、リスナーに対して「うんうん、そうだね」と言えるような曲になれたらいいなあということ。私は友達から悩みを相談されたとき、できるだけ口を挟まず、傾聴することを大事にしているんです。それは、そうしたほうがその子が救われるんだろうなと思うからなんですけど、曲も一緒で。誰かにとって、「私あのときこういう気持ちだったんだ」「あのときすごくつらかったけど、こういうことだったんだね」という気付きのきっかけになったらいいなと。そうすると、その人がthe peggiesに「私ってこういう人なんだ」と語りかけてくれているみたいで、私もうれしいんです。

──「Contrast」はピアノやフルート、打ち込みを取り入れた幻想的な曲調が新鮮でした。どういう経緯でこのような音像になったんですか?

北澤 普段はギターの弾き語りでデモを作るんですけど、この曲はピアノの打ち込みと歌だけでデモを作ったんです。なぜピアノを入れてみようと思ったのかは自分でも不思議なくらいなんですけど……とにかくいろいろ曲を書いていて、「ダメ元でいいから思い付いたことをやっていこう」という時期だったのかな。「どうせこんな暗い曲は採用されないだろう」と思っていたんですけど、もともとチームの中で「今回のアルバムでは音楽的に新しいチャレンジをしていきたい」という話が上がっていたので、「ピアノの弾き語りはありかもね」という話になって。そこからループみたいな同期の音を重ねていき、じゃあいっそギターを弾かずに歌おうということになりました。

the peggies

the peggiesはこの3人でいることが楽しいんだ

──リード曲の「ドラマチック」も音楽的なチャレンジにあたるのではと思いますが、いかがでしょうか?

北澤 そうですね。最初は3人だけのバンドアレンジで作っていたんですけど、「ダンスミュージックに寄せてみない?」という話になって。

石渡 「シンセベースを演奏するくらいまで振り切ってもいいかも」「ギターソロもなくていいんじゃないか」という意見も出たりして、バンド感をどこまで残すかというのはけっこう話し合いました。

北澤ゆうほ(Vo, G)

北澤 音数で言ったらバンドの生楽器以外の音のほうが多いので、最初にできあがったデモを聴いたとき、バンド感がかなり薄いように聴こえたんですよ。私たちも初めてやることだから「これ大丈夫かな? どうなっちゃうんだろう?」と思っていたんですけど、スタッフから「いや、実際に生音が入ったら印象が変わるから」と言われて。「ホントか?」という感じでちょっと半信半疑だったんですけど(笑)、実際にレコーディングしてみたら、やっていることは本当にシンプルなのに、3人の生音が入るだけで、バンドとしてのアイデンティティが守られたサウンドにちゃんと仕上がるから不思議ですよね。

大貫 レコーディングがめっちゃ難しかったです。エレクトロだし、音もタイトに作ってあるから、ちょっとでもタイム感がずれると気持ち悪くなっちゃうし。こういう曲を録るのが初めてだったというのもあって、OKテイクまでめちゃくちゃ時間がかかりました。

北澤 実はこの曲は、ジムでバイクを漕いでいるときに浮かんだんです(笑)。普段歩いているときはその情景に合った好きな曲を聴いているんですけど、ジムにいるときは「退屈な時間こそ新しい風を吹かせなきゃ!」という気持ちで、普段聴かないタイプの音楽を聴くようにしていて。バイクを漕ぎながら「ラブストーリーに限らない、いろいろな愛の形に光を当てられるような曲を書きたいな」「帰ったら書ーこうっ!」と思って、家に帰ってからさっそく作ったんですけど、ほぼ最初に浮かんだ歌詞のまま完成まで持っていけましたね。

──バンドのことを歌っている曲にも解釈できると思いました。

北澤 そう言ってもらえるのはうれしいです。実際にバンドをテーマにして書いたわけではないんですけど、「人生を一緒に歩んでいく人たちとは、こういう心持ちで、こういう関係性を築きたい」と思いながら書いた歌詞なんですよね。それってつまり私にとっては、バンドのことでもあるし、友人・恋人のことでもあるので。この歌詞の「君」の中には確実にメンバーが存在しています。

石渡 ミュージックビデオの監督さんが私たちと同い年ぐらいの女性の方なんですけど、その人も「この曲ってthe peggiesのことにも当てはまるよね」「“the peggiesはこの3人でいることが楽しいんだ”ということが観ている人にも伝わるようなビデオにしよう」と言ってくれて。MVを観ていただけたら、より曲の理解が深まるんじゃないかと思います。