ナタリー PowerPush - the HIATUS
細美武士が振り返る“17人組バンドthe HIATUS”
初ホールツアーで初日から“ピークに達した感”
──とは言え、綿密に構想してスタジオでリハーサルを重ねたスタジオライブと、実際にお客さんを前にしたライブはまた別ものだったのでは?
うん。観客を前にしたライブが別ものになるのがわかっていたからこそ、「The Afterglow - A World Of Pandemonium -」では観客不在の演奏を収めたかったということもあったんです。あと、そもそもthe HIATUSにとってホールでライブをやること自体が初めてのことでした。最高の形で終えることができたけど、今回のツアーでは初日の札幌のライブが始まるまで、メンバーも、おそらく観に来たみんなも「これ、どうなるんだろう?」って思っていたはずで。自分の中でも「伸るか反るか」ってドキドキしてました。
──そうだったんですね。
でも実際やってみたら、普通はツアーってどうしてもやりながらクオリティが上がっていくものなんですけど、今回は初日からいきなりズドンとピークに達した感があったので、残りの公演はそのまま突っ走るだけでした。もちろん譜面をちょこちょこ書き直したりはしていますけどね。歌詞のテーマをもっと共有した方がいいなって思う曲はみんなと話したりとか。
──通常は演奏者が増えれば音も壮大に広がると思うんですけど、今回の作品から伝わってくる“壮大なだけでなく、躍動している感じ”は、17人のメンバーが共有したものの積み重ねがあって生まれたんですね。
毎回ライブ前にみんなで円陣を組んでたんですけど、この最終日のライブの直前に円陣を組んだとき、青弦が「今日がファイナルだからといって、それに流されないように気を付けよう。これだけの人数、これだけのミュージシャンが揃っているんだから、ちゃんと音を出せばすごい破壊力に絶対なるはず。1音1音に集中しよう」ってことを言ったんです。そんな初日に言ってもおかしくないような話をファイナルの直前にすることで、みんなのたすきを締め直させるような……あの瞬間はゾクゾクしたなあ。
──今回のような壮大かつ緻密な音楽世界はなかなか形にすることが難しいと思うんですけど、実際にステージ上で形になって、音が鳴った瞬間の心境ってどんなものでしたか?
俺、絵を描くのがけっこう好きなんですけど、もちろん日々描いているわけでもないし、得意な画材があるわけでも、うまいわけでもなくて。でも頭の中にすごくいい絵が思い浮かぶことがたまにあって。とは言え、それを実際に描いてみようと思っても描けないんですよね。でも音楽だったら俺にもそれができるんです。頭の中でバーンって鳴った音がそのまま外に出せる感覚っていうか。そういうふうに思い描いた歌を歌えたときっていうのは、なんて言うか……自分がいいコンディションにあるってことが実感できる瞬間でした。
──ボーカリストとしてのコンディションとは?
歌って気持ちとか人間性とかばっかり大事だと思われがちですけど、すごく当たり前な話として肉体もすごい大事で。筋肉の量やキャパシティに余裕がないといけないし、声帯のコンディションを整えることもすごく大事。時間さえあればテレビを観ながらゴロゴロしてるような生活を送っててもいい歌は歌えない。そういう意味で歌における肉体の重要性を再認識しつつ、使う筋肉を必要な量よりも多めに鍛えておくと、すごく自由に歌えるようになるんだなっていうことが今回のツアーでわかりました。
堀江さんにはもっといろいろ教えてほしかった
──前回お話を伺った際、細美さんは作品の再現性よりもインプロビゼーションを含めて、その場で作り上げていくのがthe HIATUSのライブだとおっしゃっていて。ただ今回のように17人編成となると、インプロビゼーションを加えるのは難しかったんじゃないかと思いました。
もちろん人数が多いのでアレンジはある程度は決めているんですけど、インプロビゼーションを入れる余地も残してあります。例えば、インタールードの部分とか、堀江(博久 / Key)さんと青弦の2人だけで演奏しているところ、それからトランペット、坂本美雨(Vo, Cho)ちゃん、柏倉隆史(Dr)、堀江さんの4人で演奏しているところは全部アドリブでしたし。ミュージシャンって同じ演奏を複数回やったとき、1回目の衝動ってどうしてもそれ以降は薄れていくんですよね。だから前の日によかった演奏をそのままやらず、ちょいちょい変えて演奏するんです。今回のツアーもその点は変わらずでした。
──今名前が挙がりましたけど、ツアー本番では坂本美雨さんがボーカル&コーラスで参加していますよね。
彼女はもともと面識があったし、青弦とも制作やライブをやってる間柄なんです。男女のツインボーカルの「Souls」っていう曲をやるにあたって、前のDVDではCDと同じくジェイミー・ブレイクに参加してもらったんですけど、今回のツアーはジェイミーが全公演に参加できるわけではなかったので、どうしようかなって考えていて。そんなときに美雨ちゃんのことが思い浮かんだんです。あいつめっちゃくちゃいいヤツだから、ステージはもちろん、楽屋でも常にいい空気を作ってくれたし、それ以外の部分でも本当に助けてもらいました。今思えば、今回のツアーでは美雨ちゃんだけじゃなく、みんなに助けられましたね。俺はうまいこと仕切れないし、「はい、じゃあ、そろそろやるよ!」って言っても、みんな言うことを聞いてくれないので(笑)、そういうときにいろんな人が助けてくれたことで、バンドとしてタイトにまとまることができたと思います。
──さらに今回のツアーを最後に、堀江さんがしばらくthe HIATUSを離れるということですが。
ミュージシャンとして堀江さんは変わらず活動していくわけだし、俺らの間に断絶があるわけでもないので、それもまあ柔軟な感覚で捉えてほしいなと。振り返ると、堀江さんにはミュージシャンとして今後の自分にとって財産になるようなことを本当にたくさん教えてもらいましたし、「まだまだ、いろいろ教えてもらいたいのに」と思っているところでバンドを離れるのが堀江さんらしくもありますね(笑)。
新しいアルバムを制作中
──バンド内の変化や大がかりなツアーを経て、その先について何か考えていることはありますか?
新しいアルバムを作り始めました。「The Afterglow Tour 2012」で「A World Of Pandemonium」の世界は突き詰めきったので、“前回足りなかった何かを次の作品で埋めよう”みたいな気持ちはないし、かといって燃え尽き症候群みたいなものに陥ってもないです。いい感じですよ。7月にはシングルを出す予定ですし。
──ツアー終了後の細美さんは弾き語りライブをやったり、DJをやったり、アメリカの音楽フェス「Coachella Valley Music and Arts Festival」で東京スカパラダイスオーケストラのライブにゲストで出演したり、休まずにあちらへこちらへと走り回っていますが。
それもこれも、友達に誘われるがまま駆けずり回ってるだけですけど、その中で自分が持てるもの、磨けるもの、やれること、やりたいことを全力でやっていった先で、答えがわからないなりに「しゃかりきにやってよかったな」って、いつか思えるように生きていたいですね。「自分はあそこに行きたい!」ってゴールを決めて、そこに向かって走っていくんじゃなくて、全力で走ったあげく、「わ、こんなところに着いたんだ!」っていう感じで生きてきたし、それは今後も変わらないと思います。ただ、いろいろやってるけど、今はthe HIATUSとしてステージに立つこと、歌うことがやっぱり一番楽しい。さらにその中でも、自分が今歌いたいと感じる歌を歌っているときが一番なんです。だから自分が最も歌いたいと思える曲をこれから作りますよ。
- DVD / Blu-ray「The Afterglow Tour 2012」 / 2013年5月22日発売 / NAYUTAWAVE RECORDS
- [DVD] 3000円 / UPBH-20107
- [Blu-ray Disc] 3990円 / UPXH-20021
収録曲
- The Afterglow
- Deerhounds
- Flyleaf
- Ghost In The Rain
- My Own Worst Enemy
- Bittersweet / Hatching Mayflies
- Shimmer
- The Ivy
- Little Odyssey
- Monkeys
- ベテルギウスの灯
- Snowflakes
- Walking Like A Man
- The Flare
- Superblock
- Insomnia
- Twisted Maple Trees
- Souls
- On Your Way Home
アンコール
- 紺碧の夜に
- Silver Birch
- ライブアルバム「The Afterglow Tour 2012」 / 2013年5月22日発売 / フォーライフミュージックエンタテインメント / 2520円 / FLCF-4454
- ライブアルバム「The Afterglow Tour 2012」
DISC1
- The Afterglow
- Deerhounds
- Flyleaf
- Ghost In The Rain
- My Own Worst Enemy
- The Tower and The Snake
- Bittersweet / Hatching Mayflies
- Shimmer
- Broccoli
- The Ivy
- Little Odyssey
- Monkeys
- ベテルギウスの灯
DISC2
- Snowflakes
- Walking Like A Man
- The Flare
- Superblock
- Insomnia
- Twisted Maple Trees
- Souls
- On Your Way Home
- 紺碧の夜に
- Silver Birch
参加アーティスト
細美武士(Vo, G) / masasucks(G) / ウエノコウジ(B) / 柏倉隆史(Dr) / 堀江博久(Key) / 一瀬正和(B, Per, G) / 徳澤青弦(Cello, Glockenspiel) / 坂本美雨(Vo) / ジェイミー・ブレイク(Vo) / 梶谷裕子(Violin) / 菊地幹代(Viola) / 木ノ脇道元(Flute) / 類家心平(Tp) / 武嶋聡(Clarinet, Sax) / 滝本尚史(Tb) / 庄司知世(Horn) / 中村公輔(Manipulator)
the HIATUS(ざ はいえいたす)
現在活動休止中のELLEGARDENのフロントマン・細美武士を中心に結成され、ウエノコウジ(B)、堀江博久(Key)、柏倉隆史(Dr)、masasucks(G)、一瀬正和(Dr)、伊澤一葉(Key)らが参加するバンド。2009年4月にパンクロックフェス「PUNKSPRING 09」で初ライブを披露し、同年5月に1stアルバム「Trash We'd Love」をリリースした。その後もオルタナティブ、アートロック、エレクトロニカへ傾倒しつつジャンル不問の新しい音楽を追究。2011年11月に3rdアルバム「A World Of Pandemonium」が発売される。 そして2012年9月にレーベルをNAYUTAWAVE RECORDSへ移籍し、「A World Of Pandemonium」にストリングスとホーンアレンジを加えたスタジオセッションドキュメンタリーDVD / Blu-ray「The Afterglow - A World Of Pandemonium -」を発表し話題を集めた。同年11月からは、総勢17人編成で全国を回る初のホールツアー「The Afterglow Tour 2012」を開催。この東京公演の映像を収めたライブDVD / Blu-ray「The Afterglow Tour 2012」と、ライブ音源を収めた同名のライブアルバムを5月に同時リリースした。