音楽ナタリー Power Push - The Flickers

解散の危機を乗り越え“新体制”で描く未来像

進化のために導入したシーケンサーが足かせに

タイラ そもそもギターロックバンドだったThe Flickersは、同期モノをやるっていうことに抵抗感はなかったの?

安島 そうですね。もともと僕はバンドを始めたときからギター1本じゃなくてまず何本かで曲を考えるし、いくつか複合的な組み合わせで曲を発想していくんですけど。だから3人で演奏するってなってもシーケンサーやサンプラーを使ってきたし、打ち込みをするようになって僕は新たに自分の衝動をぶつける楽器だと思ったんです、シーケンサーが。でもなんかね、それと同時に重い足かせを背負ってしまったとも思って。つまりシーケンサーっていうものが、自分の衝動のぶつけ先でもあり、新しい表現の、なんだろう……制約というか。自由で等身大の自分を打ち込みに縛り付けちゃうような、そういうものを背負っちゃった気もしてて。それは楽しくもあり、苦しくもあり。

タイラ リズム隊の2人はどう思ってたの?

本吉“Nico”弘樹(Dr, Cho)

本吉 ライブ中は俺が基本的にシーケンスの管理をしてるんです。だから安島が「生演奏でやりたい」って言うたびに、そこは俺の能力不足が原因なんじゃないかってずっと思ってた。そもそもシーケンサーをステージで使うようになったのも急だったんで、なんとかしてうまく使えるようになってやろうっていうのがあったし。

タイラ 本吉くんはシーケンサーの導入に対して意気込み始めたタイミングだったのね。

本吉 なので複雑でしたね。メンバー同士それぞれ方向性が違ってきちゃった。

2014年の秋「もう3人で続けるのは無理だ」

タイラ サポートメンバーを迎えようという話に行き着いた理由は?

安島 もうはっきり言うけど、打ち込みで3人でやってく中でジレンマが自分の中であって、それはすごい苦しかったしもうやめようって話をしたんだよね。もうこれ以上続けるのは無理だって。終わりにしようっていう話をして。

タイラ それっていつの話なの?

安島 去年の10月ぐらい。今年4月に出したアルバム「UNDERGROUND POP」を作ったときもこれが最後だってつもりで作ってたし、終わったあとも何度も話し合いをして、話し合うたびにもうずっと全力でやってきたっていう自負があったし、もうないって。

タイラ ジレンマがあったんだ?

安島 そう。もう俺たちは続けられないっていう結果を出したんだけど、でもどうしても3人はこのバンドをやりたかったんですよ。どうしてもやれないと思うと同時に、どうしてもやめたくないって俺は思ったし、3人ともそれは一緒だった。もし本当に自由に音楽をやるとしたら、どうしたらもっと音楽をやれるだろうっていうのをみんなで話し合って、今の形態に挑戦してみようってことになったんですよ。ずっと3人でやってきたことには僕は否定的な思いはなくて、むしろ自負があって。でもこれ以上葛藤を抱えたままやるとしたらここから先は嘘をついてやってくことになるし。自分たちの都合でお客さんを置き去りにすることにもなっちゃうからやめようと思ってたとかを含めて本当に赤裸々に全部話したいとも思ってた。でもそんなことは言いたくないし言えなかった……。だから僕たちは前に進む、よくなる、続けていくという意志があって今の編成でやるっていう選択をしていて、それを実際に体現して見せていこうと。それは今もその気持ちが続いてるから当時のことをこういうふうに言えるわけですけど。

サポートメンバーを入れてみた結果

タイラ サポートメンバーを入れるメリットってなんだったんだろう?

安島 サポート入れて具体的に音で変わったことっていくつかあると思うんですけど、前は僕がオルタナっていうかパンクギターっていうか、パワーコードでガーッと弾いてくんですよね。シーケンスとのすり合わせもあったしあんまり複雑な音階の響きを使えなかったんですよ。でもKanakoさんやギターが支えてくれることで、三度の響きだったり、よりポップだったりキャッチーに響く和音の響きを足したり足さなかったりっていうところまですり合わせて演奏することができるようになった。

タイラ なるほど。

安島 僕がもともと打ち込みで作っていたフレーズを、よりどこを立体的に響かせようとか、どこをグリッドから外れて自由に振り回してとかそういうことができるようになって、このコードでこのメロディーこの歌詞、ここにこの音の響きを足すともっと遠くまで言葉が飛ぶんじゃないかとかメロディが乗るんじゃないかっていうところをみんなで相談しながらやれるようになった。そういう作業もまたその場で素早くやれるようになったことで発想も広がった。

タイラ ライブのアレンジの再構築みたいなのもけっこう、さあどうしようっていうところからはじめなきゃいけなかったと思うんだけど。

安島 最初はねえ、とりあえずどうしようって感じ。

タイラ その作業って新しくバンドを始めた感じっていうか、苦しいところはもちろんあると思うけど、楽しいのほうが勝ってたって感じ?

安島 苦しいのはもうつきものだと思うんですよね、何をやるにしても。正解もないし。だけどいつも意志があるんで。不安は絶対付きものだけど、よくしようっていう意志があってこの選択をしてるんで。前に進む意志っていうか。僕の作る曲の初期衝動が、楽しいとかとはまたちょっと違うと思うんです。たぶん鬱屈したネガティブな気持ちの先の肯定的な表現だったりだと思うんですけど。

タイラ 楽しいっていうところが一番満足感を得るところじゃないかもしれないっていうことだね。

安島 そう。だから音楽でやりたい表現にもっと手が伸ばせるようになったっていうか。もっとこういうふうにしていきたいっていうことをより発想できるようになって。だから音楽的な感性や手法に束縛がないというか。料理に例えて言うと、塩加減だったり砂糖のさじ加減だったり、そういうところがよりこれまでよりもコントロールして調整ができるようになったっていうか。そうやって演奏や作曲をできるようになったっていう感じがあるかな。

タイラ ちなみにサポートメンバーを入れたのはいつ頃?

安島 今年の1月からスタジオに入り始めました。

タイラ 音合せしてみてどうだった?

安島 楽しかったな。

Kanako すごい楽しそうだった(笑)。

本吉 俺もスタジオ入ったときすごく楽しかったな。自分がこれまで抱えてた悩みが吹き飛ぶくらい。

タイラ 今のサポートメンバーはどうやって決めたの?

安島 みんなで話し合って、いろんな人のライブを観に行ったり、声をかけて一緒にスタジオに入ってもらったりして話し合って。

タイラ 実際にライブを観て「いいプレイヤーだねえ」とかいう話を3人でしたってこと?

安島 そう。でも僕はずっとあったんだよね。初めて観たときからだし。

タイラ Kanakoさんと一緒にやりたいって思いがずっとあったんだ。

安島 いつかなんか声かけたいなと思ってて。3人でやってるときもキーボード弾いてもらうならあの人がいいとか、ギターならあの人がいいって、完璧に今そのままになってる。

Kanako (笑)。

堀内 話したまんま(笑)。

三橋隼人(G / HERE)

安島 三橋くんは僕がギター始めてすぐの頃から憧れていたギタリストで。

タイラ THE RODSでやってた頃?

安島 いや、今のHEREでもTHE RODSでもなくて、H.EATっていうバンドの畑(大介)さんのやってる「田中」っていうサイドバンドで初めて観た。三橋くんは僕にとってギターヒーローで。王道的なロックスタイルを継承しつつも、ユニークだったりエフェクティブな音色も使いこなす。「俺が好きなギタリストはあの人だ!」って。

タイラ じゃあナカオくんは?

ナカオソウ(G / Applicat Spectra)

安島 ナカオくんも僕が楽器初めてすぐの頃、彼がやってた大阪のバンドのファンで自分は普通に観に行ってて。彼が東京に遠征しに来たライブは俺たぶん全通していて。でもその頃は話したことがなくてさ。彼とのちにApplicat Spectraで出会ってそこから親交を持つようになったんです。ナカオくんはエレクトロにも精通しててファンクだったり軽快なグルーヴがあるギターで。アプリとかもそうだけど音数が多いバンドの中で弾きすぎず、弾かなすぎずっていう意味のある1音で曲を支えてくれるっていうイメージがすごくあって。対照的だと思うんです、三橋くんとまた。でもそのどっちもの要素をThe Flickersはすごく求めてたっていうか。一緒にやりたいなと思ったギターで。

The Flickers presents「SUMMER OF LOVE」
2015年12月11日(金)東京都 新宿MARZ
<出演者> The Flickers / HAPPY / 吉田ヨウヘイgroup
2016年1月29日(金)東京都 新宿MARZ
<出演者> The Flickers / and more
2016年2月26日(金)東京都 新宿MARZ
<出演者> The Flickers / and more
The Flickers presents「SUMMER OF LOVE」in OSAKA
2016年2月20日(土)大阪府 LIVE SQUARE 2nd LINE
<出演者> The Flickers / and more
アルバム「UNDERGROUND POP」 / 2015年4月15日発売 / ONECIRCLE
CD+DVD / 3564円 / CTCD-20021/B
CD / 3024円 / CTCD-20022
The Flickers(フリッカーズ)
The Flickers

安島裕輔(Vo, G, Syn)、堀内祥太郎(B, Cho)、本吉“Nico”弘樹(Dr, Cho)の3人からなるロックバンド。2015年初頭よりサポートメンバーを加え、現在は三橋隼人(G / HERE)、ナカオソウ(G / Applicat Spectra)、Kanako(Syn / ORGALOUNGE)の3名を迎えた6人編成で活動している。ガレージロック、ニューウェイブ、エレクトロなどの要素を盛り込んだダンサブルなサウンドと、エモーショナルなパフォーマンスでライブハウスシーンを中心に注目を集める。2011年11月にタワーレコード限定で 1stミニアルバム「WONDERGROUND」を、2012年5月に初の全国流通盤となる2ndミニアルバム「WAVEMENT」をリリース。2013年6月に1stフルアルバム「A PIECE OF THE WORLD」を発表した。2014年6月に4曲入りCD「AT FIRST LIGHT」でavex内のロックレーベル・ONECIRCLEよりメジャーデビュー。2015年4月にフルアルバム「UNDERGROUND POP」を発売し、7月にはゲストを迎えての東名阪ツーマンツアーを開催。さらに12月11日、2016年1月29日、2月26日に東京・新宿MARZにて自主企画「SUMMER OF LOVE」を行う。