音楽ナタリー PowerPush - THE BOOM
関係者証言で紐解くバンドの軌跡
ステージ上はあったかくて静かな時間
──宮沢さんとの個別リハから全体のリハーサルに入っていくわけですが、当時と比べてバンドの雰囲気は何か変わっていましたか?
バンドにも、なんの違和感もなく入っていけましたね。それがうれしかった。メンバーやサポートのみんなにも、なんのブランクも感じずに「あ、どもども!」って。会うのは本当にひさしぶりだったけど、「ひさしぶり」とすら言ってないんじゃないかな(笑)。それくらい、居心地が以前と一緒だったんですよね。なんらためらうことなく、スッとあの頃に戻らせてくれた。それもメンバーの懐の広さだなと思ったんです。そんな彼らと同じ場所にいて、THE BOOMのメンバーとしての責任を一緒に感じられることの喜びがとにかくありましたね。……あ、私、勝手に自分のことを「THE BOOMのメンバーだ」と思ってますから(笑)。
──ファイナルでは宮沢さんによる「この人が……帰ってきてくれました!」という紹介があって、南さんも「ただいま!」とおっしゃってましたしね。
もう、「ようやくただいまが言えた!」という感じでしたね。「ギリギリ間に合った!」って(笑)。
──観客席からもひときわ大きな「お帰りー!」という声が飛んでましたが、THE BOOMのファンは本当に濃いというか、25年という時間の中で育ってきたバンドとの信頼関係みたいなものがありますよね。ファイナル当日、ステージから見た客席の様子はどうでしたか?
そうですね……変な意味に聞こえるかもしれないけど、すごく冷静だったような気がする。泣き叫ぶとか取り乱すような人は誰もいなくて、私がそうだったように1人ひとりがちゃんと「解散」という決断を受け止めて、「最後まで見届けよう」という覚悟をして来ていたと思います。みんな、すごくいい顔をしてるように私には見えました。
──そして、うしろを振り返るとメンバーがみんないるわけですよね。客席からは、ステージ上の皆さんも過剰にエモーショナルになることなく「この日を最高の形で全うしよう」としているように見えたんですが、ステージ上の雰囲気はどうでしたか。
なんというか、静かな時間でしたね。厳かというか……それがすごく不思議だったし、同時に「ああ、これがTHE BOOMなんだな」と思いました。
──いい意味で、かつてのライブにあったような“鬼気迫る感じ”がなくて。まさに“大団円”といった感じでした。
確かに。昔は、例えば「TROPICALISM」なんかを演奏してるときはもう戦争というか、ステージの至るところで戦いが勃発してるような感じだったんだけど、そういう火花を散らすような感じは、今回は誰の間にもなかったね。同じ曲をやっているのに、誰もが冷静で、なおかつあったかいというか。ステージ上にいた人はみんなわかってたと思うけど、ファイナルのステージはとてもあったかかったんですよ。それが「歳を取ったな」というものじゃなくて、ちゃんといいものになったのが何よりよかった。
──映像を観るとよくわかるんですけど、本編ラストの「シンカヌチャー」では、ステージの一番うしろで完全に応援団長みたいな立ち位置をとられてましたね。
あのときは本当に「これで最後だ、行ってこーい!」みたいな気持ちでしたからね。私、とにかく一番うしろにいて「よーし、みんな、ラスト行っといで! 私が見届けるから!」って言いたくて。エイサーの子たち(ライブに参加した琉球國祭り太鼓のメンバー)が遠慮して「いや、前に行ってください」と言うのを「いいから、いいから! 前に行っといで!」みたいなやり取りがあったりしてね(笑)。
それぞれの持ち場で戦ってきた
──ファイナルでは振り付けこそ前のツアーと同じ部分もありましたけど、南さんの踊り方も前と少し変化したんじゃないかと思うんです。より「出るところは出る、出ないところは出ない」という切り分けがあったような。その意識はありましたか?
今回は、それをすごく意識しました。私がTHE BOOMに入った当初はさっき言ったような状況だったから、まだ「新しいことをやろうとしてるんだ!」というオーラを前面に出すことに必死だったんです。もしかしたらその気負いが「南は前に出すぎだ」という批判につながった部分でもあるのかもしれないなあと今は思うんですけど、私は私で決して自分が出たいわけじゃなく「こういうことをやっちゃうTHE BOOMはすごいんだ!」ということを世の中に知らしめたいと思うあまり先走ってしまったんですね。でも、そういった当時の気負いのようなものは、今回のファイナルでは一切なかったんです。同じ踊りをしていたとしても、時間を経て私の精神と技が当時よりずっといいバランスになっていたし、そのバランスの取れたものを提供できたなと思っています。
──南さんとしてもそういうタイミングだったということですね。
一度バンドを離れてた私が、このタイミングでもう一度一緒にステージに立つ機会をもらって、当時とは違う自分——成長した姿と、「私は、本当はこういうふうにやりたかったの!」という、以前はできなかったことをきちんと見せる機会をもらえたのは本当にありがたかったですね。
──一方バンドはバンドで、同じだけの時を経て円熟してきた部分もあるわけで。その“いい塩梅”のタイミングが綺麗に合ったのかもしれませんね。
そうだと思います。離れている間にどちらかが歩みを止めたり、成長を止めたりしていたら、このタイミングで道が交差することはなかったんだろうなと。それぞれの持ち場でいろいろなことと戦いながら、いい速度で前に進んできたからこそ、このタイミングでまた出会えたんでしょうね。
号泣している自分がおかしかった
──ライブ中、メンバーの様子で何か印象に残ったことはありますか?
私、どんなステージでも、必ずみんなとコンタクトをとろうとしてるんです。孝至くん(小林孝至)とか山ちゃん(山川浩正)はそれをよく知ってるから、目が合った瞬間に「いくぜ!」「OK」って感じで、私と同じステップを踏み始めたり。そのへんはもう、阿吽の呼吸でしたね。あの人たち、楽器があるから手は空かないんだけど、意外と“参加したがり”だったりもするから(笑)。
──栃木さん(栃木孝夫)は?
とっちーはドラムを集中して叩くタイプだから偶然目が合うことはそんなにないんだけど、私はとにかく、合うまですぐ横にいて。そしたら「わかったわかった!」って感じでこっちを見てくる(笑)。そういう呼吸は、みんな本当に昔と変わってなかったから、うれしかったですね。
──バイブスは昔と変わらないまま、全員の佇まいだけが円熟していたんですね。
そうですね。「ここはもっとこうしたほうがいい」みたいな意見も、よりクリアに交わし合えたし。みんなが自分のためじゃなく“音楽のため”にその場にいる感じが、すごく心地よかった。“そこにあるべきもの”をみんなで作る、その喜びを分かち合えていましたね。それが昔と一番変わったことかもしれない。
──そして、そんなファイナルのライブが終わった瞬間。どんな気持ちでしたか?
号泣でしたね。もう、「お前が主役かよ!」っていうくらいの号泣(笑)。自分でもびっくりした。ただ、それも自分が悲しいんじゃないんですよね。「みんなはどんな気持ちなんだろう」と思ったら、もう泣けて泣けて。でも、孝至くんはそんな私を見て笑ってたんですよ。最後にみんなで一列になってお客さんに挨拶をしてるときに、隣で嗚咽してる私をめっちゃ笑ってて。「おい、お前は冷静か!」という(笑)。メンバーがそうだと、号泣してる自分がますます何の立場なのかわからなくなるじゃないですか。それがすごくおかしかった。それが、自分のリアルでしたね。
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Contents Index
- Blu-ray / DVD「THE BOOM FINAL」2015年3月18日発売 / よしもとアール・アンド・シー
- 「THE BOOM FINAL」初回限定盤
- 初回限定盤 [Blu-ray Disc 3枚組] 10000円 / YRXN-80000 / Amazon.co.jp
- 初回限定盤 [DVD4枚組] 9000円 / YRBN-80143 / Amazon.co.jp
- 「THE BOOM FINAL」通常盤
- 通常盤 [Blu-ray Disc 2枚組] 6000円 / YRXN-80003 / Amazon.co.jp
- 通常盤 [DVD3枚組] 5500円 / YRBN-80147 / Amazon.co.jp
収録内容
- 島唄
- YOU'RE MY SUNSHINE
- Human Rush
- TOKYO LOVE
- berangkat-ブランカ-
- いつもと違う場所で
- そばにいたい
- 月さえも眠る場所
- モータープール
- 10月
- 光
- 釣りに行こう
- おりこうさん~ないないないの国~都市バス~過食症の君と拒食症の僕~逆立ちすれば答えがわかる~雨の日風の日
- 蒼い夕陽
- TROPICALISM
- 手紙
- I'm in love with you
- この街のどこかに
- 不思議なパワー
- 風になりたい
- 真夏の奇蹟
- 世界でいちばん美しい島
- シンカヌチャー(THE BOOM ver.)
- 星のラブレター
- 明日からはじまる
- 愛のかたまり
- ドキュメンタリー映像
- 渋谷公会堂ライブ(※初回限定盤のみ)
- 写真集「THE BOOM LIVE 2014」
- 2015年3月18日発売 / 3000円 / オールカラー128ページ
- 2015年3月18日発売 / 3000円 / オールカラー128ページ
THE BOOM(ブーム)
宮沢和史(Vo)、小林孝至(G)、山川浩正(B)、栃木孝夫(Dr)の4名で1986年に結成。原宿ホコ天でのストリートライブ活動を経て、1989年にアルバム「A Peacetime Boom」でメジャーデビュー。1993年に発表した「島唄」は国内のみならず世界各国でカバーされるなど幅広い支持を得た。バンドは結成以来不動のメンバーで活動を続けたが、2014年12月の日本武道館公演を最後に解散。このライブの模様は「THE BOOM FINAL」としてBlu-ray / DVDで2015年3月にリリース。
南流石(ミナミサスガ)
ダンサー、振付師。幼少時からさまざまなジャンルのダンスを実践し、オリジナリティあふれるパフォーマンスでプロのダンサーとして活躍。1980年代にはJAGATARAにコーラス兼ダンサーとして参加した。その後、振付師として真心ブラザーズ、GLAY、大塚愛、PUFFY、ヒャダイン、乃木坂46など数多くのアーティストの振り付けやステージ演出を手がけるほか、自身もTANGOS、Rabbitといったグループで活動。現在はクリエイティブダンスチーム「流石組」を率いて幅広い活動を行っている。