音楽ナタリー Power Push - THE BACK HORN
ソングライター菅波栄純の告白
どういう生き様だったらこの曲は生きるのか
──図星を指されて、「わかってる」って出てくるのはわかりますね。
図星を言い当てられたときの人間の反応って面白くて。ちょっとムッとして「わかってるよ」って言う。そのフレーズが出てきたときに、“こいつ”の道が見えたなって思ったんですよね。そこまではちょっと観念的な展開だけど、もともとTHE BACK HORN、というか自分はそういう罪悪感をテーマにした曲が多くて、このままだとこれまでの曲の繰り返しにすぎない。そこにもう1つ何かあればいいと思ってたんですけど、その先がなかなか出てこない。「わかってる」ってフレーズで半歩ぐらいは踏み出せた。でもそこから先がどういう道筋なのか見当もつかなくて、何カ月も止まってしまって。その時期が一番苦しかったですね。これはいい曲になると思ったけど、前に進まない。なので客観性ゼロでのめり込んでる状態から1回離れて、幽体離脱みたいに俯瞰で眺めてみる。自分が何を書きたいのか、この主人公はどう生きたいのかなって。どういう生き様だったらこの曲は生きるのか考えた。
──それでどう解決したんですか。
けっこうふとしたことだったんですけど……知り合いとしゃべっているとき。その人の親御さんは早くに亡くなられていて、それでいまだに後悔していると。死ぬ前にああしてあげればよかった、こうしておけばよかった、っていっつも言うんですね。ナイーブなことだから、「しつけえよ」とは言わないですけど、こっちもヘコむし。ただ、またその話かよ、っていう気持ちもけっこうあって。しかも「病室の花瓶の水を替えておけばよかった」とかそんな些細なことを何度も繰り返し言ってる。それだけめちゃくちゃ後悔していて。その話を聞くうち、この歌詞に意識が戻ってきて。「後悔ってすげえ人間臭いな」と思ったんですよ。もしかしたら人って他人が聞いたら「え、そんなこと」っていうような些細な後悔を死ぬ間際にするんじゃないかなと思って。で、この主人公は「重力よ、サラバ。」と言ってで自分の人生の終わりを選んで、死の間際に後悔するっていう話にしたんです。自分もそういう些細な後悔があって。子供の頃友達に親切にしてもらって、でも自分はシャイだから「ゴメンゴメン」って言っちゃったんですね。でもあれは「ありがとう」と言うべきだったなと。それをいまだに覚えてて、そういう思いを今回歌詞にしたんです。「あの悪人はきっと僕だ」なんてことを考えた奴が、人から見たら些細な後悔を抱えてて、しかも「あーあ」というため息で人生を終わっていく。
──映画になりそうですね。映画の一場面みたいな。
(笑)。それぐらい映像を想像しながら書いてました。
「いつも怖いんです。本当に自分が納得したものを、次の曲でも出せるかどうか」
──そういうストーリーも、冒頭の「あの悪人はきっと僕だ」というフレーズを思い付いたからできていったという。
そうです。最後は苦戦しましたけど……本気で自分が納得できるものじゃないとOKにしたくない。それこそ自分が後悔するから。その納得できる水準まで持っていくのが大変でしたね。
──これまでの曲も、すべてそうした“納得”を経て完成させているわけですよね。
そうです。でも次に作る曲で、そういう手応えが得られるかどうかは、実はあまり確信がない。いつも怖いんです。本当に自分が納得したものを、次の曲でも出せるかどうか。出せないまますべての締め切りをぶっちぎって、一生新曲が出せなくなったらどうしようとか。そんなことありえないけど、制作中に不安定になってるときは、いつもそういうことを考えて。ここでOKにしてもいいじゃねえかな、とか。十分がんばったからみんな納得してくれるんじゃねえかな、とか、ささやくわけですよ、もう1人の自分が(笑)。
──「もうこれで十分だよ、これ以上がんばらなくていいよ」って(笑)。
たぶんこれで完成だよ、って。でもどこかで絶対にわかってるんです、完成じゃないことを。だから最後まで、映画で言ったら監督から「カット!」って声がかかるまでやるしかない。
──自分が納得のいく基準レベルは、昔と比べて上がってるんですか?
チェック項目が増えてる可能性がありますね。それがつらい。昔は項目が1個しかなかったかもしれない。泣けるような曲なら、自分が泣ければOK、みたいな。でも今は、これを聴いた人の心に何か爪痕を残せるかどうか、とか。何項目も増えてる気がします。
──自分自身の満足度だけでなく、これは聴く人にどう聴こえるか、聴いてもらいたいか、そこまで考えるようになった。
そう。といってそれで味が薄くなってもダメだし。世間的に、歌詞を濃くすれば一般的じゃなくなっていく、みたいな見方があるじゃないですか。薄めれば一般的になる、みたいな。でもそんなことじゃないと思う。濃くたって聴きやすく受け入れやすいものは作れる。そういう意味で昔よりハードルが上がってるのかもしれないですね。
──自分がやりたい音楽、表現したい世界はたくさんあるけど、「濃厚なもの」という指向は常に一貫している。その「濃厚なもの」とは、自分の考えや感情や感性がぎっしり込められているもの。その濃厚なものを聴く人にどう受け入れてもらうか考えるようになった。
うんうん。それが何かを犠牲にすることなく成立している、そういうものにしたいから、なかなかハードルが高い……。
──この曲はアーティストの内面を深くえぐったようなヘビーな曲で、聴き応え十分だけど、やる側は大変だと思います。
そうなんですよ。あの言葉を言うために将司も一緒に苦しんだりして。あいつは感情移入して歌いたいタイプだから。大変だったと思う。
──そうでしょうね。
でもそういうきつい、しんどくなるような作品が救いになる人がいると思うんですよ。自分がそうだからそう思うんですけど。
──逆に明るい曲が人の気持ちを明るくさせるとも限らない。
そう。明るい曲も好きだけど、大げさに言えば、人生を乗せて書かれたような暗い曲に救われたなと思うことも多いですね。
──苦しんでるのは自分だけじゃない、と思えるのが「救われた」ということかもしれません。口先だけじゃなく、自分も苦しんでるんだってことを……。
見せられるような。それもコミュニケーションの形の1つですよね。励ましの言葉を送るのもコミュニケーションだと思うけど、ハダカの自分を見せるというか。
──この曲で歌われているのは「真実」だし、その真実は聴く人の琴線に触れるんじゃないでしょうか。
うん、そういう曲がまた生まれたなって手応えはありますね。
次のページ » 「その先へ」で鳴らした理想のロックのリフ
- ニューシングル「悪人 / その先へ」 / 2015年9月2日発売 / SPEEDSTAR RECORDS
- ニューシングル「悪人 / その先へ」初回限定盤
- 初回限定盤 [CD+DVD] / 2160円 / VIZL-858
- 通常盤 [CD] / 1296円 / VICL-37090
CD収録曲
- 悪人
- その先へ
- 路地裏のメビウスリング
初回限定盤DVD収録内容
『イキルサイノウ』完全再現ライブ from マニアックヘブンVol.8 (2014.12.25)
- 惑星メランコリー
- 光の結晶
- 孤独な戦場
- 幸福な亡骸
- 花びら
- プラトニックファズ
- 生命線
- 羽根~夜空を越えて~
- 赤眼の路上
- ジョーカー
- 未来
THE BACK HORN「『KYO-MEI対バンツアー』~命を叫ぶ夜~」
- 2015年10月2日(金)宮城県 Rensa
- <出演者> THE BACK HORN / THE BAWDIES
- 2015年10月4日(日)北海道 札幌PENNY LANE24
- <出演者> THE BACK HORN / アルカラ
- 2015年10月10日(土)広島県 広島CLUB QUATTRO
- <出演者> THE BACK HORN / キュウソネコカミ
- 2015年10月11日(日)福岡県 DRUM LOGOS
- <出演者> THE BACK HORN / ACIDMAN
- 2015年10月23日(金)大阪府 なんばHatch
- <出演者> THE BACK HORN / ムック
- 2015年10月24日(土)愛知県 DIAMOND HALL
- <出演者> THE BACK HORN / UNISON SQUARE GARDEN
- 2015年10月30日(金)東京都 Zepp Tokyo
- <出演者> THE BACK HORN / ストレイテナー
THE BACK HORN(バックホーン)
1998年に結成された4人組バンド。2001年にシングル「サニー」をメジャーリリース。国内外でライブを精力的に行い、日本以外でも10数カ国で作品を発表している。またオリジナリティあふれる楽曲の世界観が評価され、映画「アカルイミライ」の主題歌「未来」をはじめ、映画「CASSHERN」の挿入歌「レクイエム」、MBS・TBS 系「機動戦士ガンダム 00」の主題歌「罠」、映画「劇場版 機動戦士ガンダム00 -A wakening of the Trailblazer-」の主題歌「閉ざされた世界」を手がけるなど映像作品とのコラボレーションも多数展開。2012年3月に20枚目となるシングル「シリウス」を、同年6月に9作目のオリジナルアルバム「リヴスコール」を発表。9月より2度目の日本武道館単独公演を含む全国ツアー「THE BACK HORN『KYO-MEIツアー』~リヴスコール~」を開催し、成功を収める。2013年9月にB面集「B-SIDE THE BACK HORN」、2014年4月に通算10枚目のアルバム「暁のファンファーレ」をリリース。11月には熊切和嘉監督とタッグを組み制作した映画「光の音色 –THE BACK HORN Film-」が全国ロードショー。2015年9月にニューシングル「悪人 / その先へ」を発表した。