寺島拓篤|雨上がりに見た、美しい希望の光

「メグルモノ」っぽいけど、全然違う曲

──「ファントムライツ」は、アプリゲーム「転生したらスライムだった件 魔王と竜の建国譚」主題歌になっています。

寺島拓篤

こちらは「『メグルモノ』のような曲を」という先方からのオーダーがあって。それを「メグルモノ」の作曲者である桑原(聖)さんにお願いするというのもなかなかエグいなと思ったんですけど(笑)、でも上がってきたものはもう最高の仕上がりになっていて。「うわ、『メグルモノ』っぽい全然違う曲キター」って感動しちゃいました。歌詞については、アプリゲームのオリジナルストーリーに出てくる登場人物のモノローグ的な思いを強めに出しつつ、そこに僕からのメッセージも込めました。わりとドラマチックで、コンセプチュアルな印象が強いと思うんですけど、ゲームをプレイしていただくとその内容をよりわかっていただけるとは思いますね。

──歌詞に込めた寺島さんからのメッセージというのはどの部分になるんですか?

最後に出てくる「一歩踏み込み 飛び出せばいい どこまででも その翼で」のところですね。それはキャラクターに対してのメッセージではあるんですけど、聴いてくれる方にとっても応援メッセージとして響いてくれたらうれしいです。曲自体、サビで開けていく流れは希望を感じさせてくれるものだと思いますし。

──「Reincarnate」と比べると、こちらは強い表情が出たボーカルになっていますよね。

そうですね。サビなんかはだいぶ強めに歌っています。「転スラ」はいろんな側面を持つ面白い作品なので、この曲ではその中のバトル要素であったり、シリアスな面を表現した感じですね。「メグルモノ」よりも攻撃力がちょっと高めというか(笑)。

──間奏のフェイクもめちゃくちゃカッコよかったですよ。

やった、ありがとうございます! あんまりやったことないので大丈夫だったかなって、今もちょっとソワソワしてるんですよね(笑)。まあでも、今までの自分から脱却しようみたいなことは毎回思っているので、今回はフェイクという形でそれを実現できた気はしています。今回の経験は、またしっかり次に生かしたいですね。

夏のラブソング

──シングルにはもう1曲、「sweet mirage」が収録されています。タイアップ曲を表題に掲げたシングルの場合、カップリングもその作品に寄り添った内容にするのが寺島さんの定番なわけですが、今回はどんなイメージを持って制作したんですか?

この曲はいつもと比べると、曲のモチーフとしての「転スラ」の存在感は少な目ではあるんですよ。ポイントポイントで「転スラ」からイメージをもらってはいますけど、実は関係ないっちゃ関係ないというか。

──夏がテーマのラブソングになっていますよね。

そうですね。曲を聴いたときに夏っぽい曲にしようっていうアイデアが浮かんだので、前に出した「君の季節」(2015年11月発売のアルバム「INNER STAR」収録曲)と内容的につなげようと思ったんですよ。あの曲は直接的には言ってないですけど春に書いたラブソングだったので、今回はその続きを書いてみようと。その結果、すでにいつか秋と冬の曲も作らなきゃなって気持ちになってますけど(笑)。

寺島拓篤

──「転スラ」から受け取って曲に反映したのはどんなイメージだったんですか?

夏をテーマにすることを決めた段階で、季節感のエピソードを求めて「転スラ日記」を改めて読み返したんですよ。そうしたら、テンペストにリムルじゃないスライムが迷い込んできたときに、「それがここの夏の風物詩だね」みたいになるお話があって。で、そこから連想していったところ、僕の中の夏の風物詩は車を運転してるときに見える逃げ水だったので、それに恋愛を絡めて書いていった感じでした。調べたら逃げ水は英語で“mirage”なので、「なるほど。ちょっと言葉選びとしては『ファントムライツ』にも関連性あるな」と思ったりもしつつ。

──歌詞の中では「幻(=ファントム)」という言葉を使ったりしていますしね。

そうそう。ちょっと寄せすぎたかなという気持ちもあるんですけど、1枚のCDとしてうまく整ったんじゃないかなとは思います。

──この曲では、「Reincarnate」や「ファントムライツ」とは異なるベクトルのボーカルが味わえますよね。

まったく違う歌声をイメージしてレコーディングしました。ものすごくおしゃれで気持ちいいアレンジになっているので、言葉をしっかり届けるというよりも、サウンドの一部という感覚で歌を乗せたところがありましたね。ここでもまた「こういう輪郭の歌を出せるんだ」という新鮮な発見があったのが楽しかったです。

自分自身を調理することにもっとこだわりたい

──そして、シングルリリースの翌月、9月22日にはライブBlu-ray「TAKUMA TERASHIMA ONLINE LIVE 2020 4th STAGE ~ASSEMBLE~」もリリースされます。昨年12月に開催された寺島さんにとって初のオンラインライブを収録したものですね。

寺島拓篤

アルバム「ASSEMBLE」を引っさげたツアーがコロナの感染拡大の影響で中止になってしまったので、「じゃあその代わりに何かできないかな」と思って決めたオンラインライブでした。ツアーに向けて決めていたセットリストはもちろんあったんですけど、単発のライブとなればまた話は変わるよねということで、新たなセットリストを決めて臨んで。構成や演出に関しても、オンラインライブならではの面白いものにしようという思いを持って、みんなで考えながら作っていきましたね。

──その結果、ダンスステージとバンドステージが用意されたライブになりました。ダンサーと激しく踊る寺島さんと、バンドを背負ってアグレッシブなパフォーマンスを見せる寺島さんの両方が楽しめてしまう贅沢な内容で。

今になって思うとなかなか大変なことをやったなあって思うんですけど。がんばりましたよね。ダンスは5、6曲連続でやったので、「よくやるな、この人」って冷静になる部分もありつつ(笑)、同時に「もっとがんばらなきゃな」とすごく思いました。覚えた振りでただ動けばいいというわけじゃなく、そこに自分の気持ちを乗せてどう見せていくか。自分自身を調理することにもっとこだわりたいなって、あのライブを通してすごく思ったんですよね。新たな課題が見えたという意味でもすごく大事なライブになったと思います。

──バンドでのパフォーマンスはどうでしたか?

あれはもうバンドがいてくれる安心感があるので、難しいことを考えずにやろうと。そのほうが画になるとも思ったし。見せるところはしっかり見せ、浸るところは思い切り浸ろうと。特に最近、浸るということの大事さを感じるんですよ。楽曲の中にしっかりと没入していくことが、自然とにじみ出る表情、声の色につながるんだなって。ひいてはそれがライブならではのグルーヴ感という、答えがあるようでない大事なものにつながるんだとも思うし。

──カメラに向かってお客さんを煽るシーンもあったりして。無観客ではあるけど、ちゃんとオーディエンスとつながろうとしていましたよね。

いわゆるファンサービスみたいなものもやっぱり大事なんだなって気付く部分もあったんですよ。今までは照れくささもあってあまりできなかったことなんですけど、純粋に届けたいものがあるとか、逆にみんなからのリアクションが欲しいとか、そういうやり取りをするうえではすごく大事なことなんだなと改めて気付きました。ライブって自分が思っていた以上にストイックな場所なんだなって、今回オンラインでのライブをしてみて痛感したところはありましたね。

──寺島さんのライブ観に影響を与えたステージは必見ですね。

オンラインライブのよさって、Blu-rayになっても鮮度が落ちないところだと思うんですよ。あの日の様子を真空パックでお届けできるので、皆さんそれぞれにそれぞれの楽しみ方をしていただけたらうれしいですね。通常のお客さんがいるライブの場合は会場全体に行き届くような放射的なパフォーマンスになりますけど、オンラインだとカメラに向けた直線的なパフォーマンスになるところも面白いと思うんです。バンドの音やダンサーのダンス、会場の照明や演出もすべてが僕を通して、ギュッとカメラに向けて注がれていく。それがこの作品の見どころだと思いますね。リハーサルやメイキング映像も収録されているので、初見の方にもおかわりの方にもぜひ観てもらいたいです。

寺島拓篤
寺島拓篤(テラシマタクマ)
寺島拓篤
12月20日生まれ、石川県出身の声優 / アーティスト。2005年にテレビアニメ「創聖のアクエリオン」アポロ役でテレビアニメ声優デビューし、テレビアニメ「うたの☆プリンスさまっ♪マジLOVE1000%」一十木音也役や、テレビ「ウルトラマンタイガ」タイガ役を務める。2012年6月にセルフプロデュースアルバム「NEW GAME」でアーティストデビュー。以降、テレビアニメ「SERVAMP-サーヴァンプ-」のエンディングテーマ「sunlight avenue」、テレビアニメ「転生したらスライムだった件」のオープニング主題歌「Nameless Story」「メグルモノ」など毎年作品を発表してきた。2019年8月にテレビ「ウルトラマンタイガ」のオープニングテーマを表題曲としたシングル「Buddy, steady, go!」をリリースし、2020年3月にアルバム「ASSEMBLE」を発表。12月にはアルバムを携えて、初のオンラインライブ「TAKUMA TERASHIMA ONLINE LIVE 2020 4th STAGE ~ASSEMBLE~」を開催した。2021年8月に「転生したらスライムだった件 第2期」第2部のエンディング主題歌を表題曲としたシングル「Reincarnate」をリリース。9月にはオンラインライブの模様を収めたBlu-ray「TAKUMA TERASHIMA ONLINE LIVE 2020 4th STAGE ~ASSEMBLE~」を発売する。