怖さと美しさを併せ持った表現
──CMJKさんが作曲とアレンジを手がけた「深海より」もすごくよかったです。
もともとは、最近の世界的なトレンドである音を削ぎ落とした曲をやってみたらどうかというディレクターのアイデアから始まったんですよね。僕としても音数を削いだ分、“下のほうの表現”ができそうだなというイメージもあったので、じゃあCMJKさんにお願いしてみようということになり、制作のけっこう早い段階で楽曲はいただいていたんです。ただ、「この曲にどうやって歌詞を乗せればいいんだ⁉」という、あまりに難易度の高い曲でもあったから、一旦保留にして(笑)。結局、最後の最後にレコーディングしたんですよね。
──“下のほうの表現”というのは具体的にどういうことですか?
テンション的な意味のローであったりとか、音量レベル的な意味での下のほうということですね。例えが合っているかはわからないですけど、ビリー・アイリッシュのようなダウナーな感じのウイスパーボイスでしっかり低音に乗せていけるのって、僕はすごいことだなと思っていて。しかもそれが世界的に盛り上がっていたりもする。じゃあ、それを僕なりに挑戦してみたらどうなるかなという興味があったというか。
──ある意味、1曲前の「光の在処」とは真逆のボーカルスタイルですよね。
そうですね。確かに真逆。そういう試みができたのはCMJKさんの作ってくれた深みのあるトラックがあってこそだとは思うんですけどね。
──歌詞は英語と日本語を交えた雰囲気のある世界観になっています。
サウンドから海のイメージが浮かんだので、僕の好きな作品の中からそれに符合するものを探していって歌詞のモチーフを決めました。都会での生活に疲れて夜の海に行ったとき、海の向こうから声が聞こえてくる。その声に誘われるまま海の中に消えるのか、それともそこに引っ張られずまた都会に戻っていくのか……そんな人間の不安定な気持ちの瞬間を怖さと美しさを併せ持った表現で書いていった感じですね。
日常が存在していることの大切さ
──そしてアルバムは、温かな雰囲気を持つ「僕らの奇跡」でハッピーなエンディングを迎えます。これはもうライブで大合唱したい曲ですよね。
今回はライブをイメージした優しくてあったかいミドルの曲を入れたいなという僕の希望があって。じゃあ、長い付き合いの工藤嶺くんに作曲をお願いしてみようということになりました。工藤先生には攻め攻めな曲を書いてもらうことがわりと多かったので、違ったベクトルの曲をオーダーしたらどんなものが上がってくるかなという興味もあったんです。結果、想像以上にいい曲が上がってきたのがうれしかったです。「こんなこともできるのか、この男は!」みたいな(笑)。
──この曲は寺島さん個人の思いがガッツリと反映されているのでは? これまでのライブで感じてきたことが歌詞には込められていると思いました。
そうですね。大本としては僕のずっと大好きなゲーム作品から受け取った、“日常が存在していることの大切さ”みたいなメッセージを表現しようと書き始めたものではあるんですけど、結果的には僕自身の思いがかなり入った歌詞にはなりました。CDが出せること、ライブができること、声優として役がいただけること、そのすべてが奇跡だし、そういった奇跡が集まることで、みんなと一緒に楽しむライブをすることもできる。大げさではなく、僕らの毎日は奇跡の集まりでできているんだよ、だから日々を大切に生きなきゃっていうことをはっきり言葉にすることができてよかったなと思いますね。
オタク文化への恩返し
──ここまでアルバムの新録曲について話を伺ってきましたけど、そのどれもがことごとくご自身の好きな作品との“脳内タイアップ”で歌詞が書かれていることに改めて驚きました。アニメやマンガ作品を日常的にインプットし、そこで得たものが自然と楽曲に反映していく人はほかにもたくさんいると思うんです。でも、寺島さんのように1つの作品目がけて言葉を紡いでいくスタイルを持つ人はなかなかいないように思います。
そこはもう僕の人間性なんですよね。僕はアニメ、特撮、マンガ、ゲームなどから得たものだけで育ったような人間なので(笑)。強い個性を持った先輩方や同じ業界の人たちを見て、「自分の個性ってなんなんだろう」とずっと悩み、考えてきてはいるんですけど、アルバムを4枚作り重ねてきたことで、ようやく寺島拓篤なりの個性が見えてきたような気はしているんですよね。
──うん、そのスタイルは間違いなく大きな個性だと思います。
アニメ業界に関わるようになった1人のオタクとして、そういったスタイルで音楽に向き合うことが1つの生き方のような気もしますしね(笑)。これは僕の人生を形作ってくれたオタク文化への恩返しに近いのかもしれないです。
──5月からは過去最大規模となる全国ツアーの開催も決定しています。そこでもまた奇跡の時間が作られることになるわけですよね。
そうですね。前回のツアーよりも規模を大きくしていただけたので、これまでとは違った、また新しい見せ方ができるかなとは思っています。まだ具体的なことは決まっていないんですけど、今回のアルバムの曲たちを中心にしつつ、どんな過去曲をプラスしていったら面白い内容になるかなということをスタッフ含めて考えていくのが楽しみですね。ぜひ皆さん、“ASSEMBLE”してください!(笑)
ツアー情報
- TAKUMA TERASHIMA LIVE TOUR 2020 4th STAGE ~ASSEMBLE~
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- 2020年5月10日(日)宮城県 チームスマイル・仙台PIT
- 2020年5月16日(土)大阪府 堂島リバーフォーラム
- 2020年5月24日(日)石川県 金沢歌劇座
- 2020年5月30日(土)愛知県 DIAMOND HALL
- 2020年6月6日(土)広島県 BLUE LIVE HIROSHIMA
- 2020年6月7日(日)福岡県 スカラエスパシオ
- 2020年6月14日(日)北海道 札幌PENNY LANE24
- 2020年6月19日(金)東京都 Zepp DiverCity TOKYO
- 2020年6月20日(土)東京都 Zepp DiverCity TOKYO