帝国喫茶が約1年半ぶりとなるニューアルバム「帝国喫茶III ストーリー・オブ・マイ・ライト」を3月19日にリリースした。
2ndアルバム「帝国喫茶II 季節と君のレコード」リリース後、全国ツアーやライブイベントを行う中で、バンドのあり方や楽曲制作の方向性が少しずつ変わってきたという帝国喫茶。ニューアルバムはそうした活動の中でメンバーが出会った“光”と“ストーリー”をつづった楽曲を集めた作品になっている。前回のインタビューは杉浦祐輝(G, Vo)と疋田耀(B)の2人のみだったが、今回はメンバー全員に、アルバム制作の裏側、バンドが向かう先について語ってもらった。
取材・文 / 柴那典撮影 / 藤重廉
帝国喫茶らしさを見つけた4人、次の目標は「どう伝えるか」
──2ndアルバム「帝国喫茶II 季節と君のレコード」リリース後、皆さんは精力的に全国ツアーを行ってきましたが、その経験はバンドにどんなものをもたらしたと思いますか?
杉浦祐輝(G, Vo) 1年半で2本のツアーに加えてワンマンライブも行ったのですが、その中で自分たちの音楽をお客さんにどうやって伝えるかを意識していました。それまでは帝国喫茶はどういうバンドなのかを考えながら曲を作ることが多かったんですけれど、ある程度音楽性が固まってきたら、それをどう伝えていくかが課題になって。
疋田耀(B) ツアーは曲作りにも影響を与えました。僕たちが書いた曲を受け取って盛り上がったり、感動して泣いてくれたりするリスナーを間近で見れたのが大きかった。その反応って、自分たちの中にちゃんと残るじゃないですか。実際に泣いてくれた人を目の前で見たかどうかで、曲を作るときの気持ちの入りようが全然違う。ちゃんとお客さんの反応をキャッチして、それを踏まえて曲作りに挑みました。
杉崎拓斗(Dr) リスナーとの関係性の変化は大きかったです。2ndアルバムを発表した頃から「帝国喫茶とは何か」「どういうバンドにしたいか」「お客さんに思いをどう伝えていきたいか」ということを考えていたんですけれど、ツアーを回ったり、作曲者3人がそれぞれプロデュースするマンスリーライブを行ったりする中で、帝国喫茶をどう見せたいか工夫する機会が増えたんです。ただ自分たちのやりたいことをやるだけじゃなく、もっとリスナーに帝国喫茶というバンドを深く伝える方法が必要になった。その手段は確立されてきたと思います。
アクリ(G) ツアーを回って、私たち自身も強くなりました。バンドとしてひとつにまとまってきたと思いますね。
──帝国喫茶らしさがよりハッキリとしてきた、という感覚もありますか?
杉浦 帝国喫茶らしさというのは、人が生きていくうえで大事にしたいもの、人を思うこと、人にとっての大事な瞬間だと思っています。それを言葉に表すのはなかなか難しいし、僕1人の視点だけで表現すると、どうしても偏ってしまう。でも、3人のソングライターがいて、1人がアートワークを手がけていることで、普遍的な部分も描けているのが帝国喫茶じゃないかと。
──4人のメンバーがそれぞれ違う視点やテーマを持ちながらも、根本的には同じものに向き合っている。
杉浦 そうですね。それぞれ僕にはないものを持っているけれど、同じ感覚も持ち合わせている。だからこそ統一感が生まれると思っていました。描きたいことも以前から明確に持っていたけど、2024年はそれを帝国喫茶というバンドとして、どうやってお客さんに伝えるかを考え続けていました。そしてバンドとして経験を重ねたことで、自分たちの見ているものや、生きていくうえで大事な瞬間を描くのはどういうことかよりはっきりした。伝える手段はずっと探してきたし、今もその渦中にいます。
思い描いている景色を伝えるための物語
──2024年は「ハロー・グッドバイ - EP」や3カ月連続でのシングルリリースがありましたが、アルバムに向けて楽曲を作っていた段階では、最初からコンセプトを決めていましたか? それとも曲がそろってからアルバムの形が見えてきたんでしょうか?
杉浦 あとから形になっていった感じですね。毎回そういう作り方をしていて、今回もあらかじめ「こういうアルバムを作ろう」と決めたわけではなく、それぞれがそのとき思ったことを曲にして、それを僕が歌うことでアルバムのコンセプトが見えてきました。さらに今作は、3人それぞれの感情や思い描いた景色が曲に込められていて、より明確に個性が出ています。
──タイトルに冠した「ストーリー・オブ・マイ・ライト」という言葉はどういうイメージから決まったんでしょうか?
杉浦 すべての収録曲ができあがったとき、どの曲にも物語性があることに気付いて、このタイトルにしました。それは僕たちが曲を作るうえで、お客さんにどう伝えるかを考えた結果でもあります。自分たちが体験したことや見た景色が曲になっているけれど、それをリスナーにも自分ごととして捉えてもらえるよう、物語性のある曲を作るようになったんです。それと、どの曲にも「光」や「輝く」というワードが出てくるんですが、これはメンバー同士だけでなく、僕らとお客さんのつながり、リスナーが大切な人と生み出した“光”を表しています。このアルバムはそういうものが詰まっていますね。
──12曲の中で、最初に完成したのはどの楽曲ですか?
杉浦 「東京駅」と「さよならより遠いどこかへ」は「ハロー・グッドバイ - EP」にも収録されているので、早い時期にできた楽曲です。あとは「ハル」もそうですね。
──杉浦さんが書いた「東京駅」は遠距離恋愛をテーマにした楽曲ですが、どのようなイメージで制作していきましたか?
杉浦 前のアルバムを作っていたときは、帝国喫茶の音楽性や表現したいことを突き詰めていたんです。だからこそ明るいほうに向かいたい、ちゃんとお客さんと向き合いたいという思いがあって、わかりやすく伝えたいことを決めて書き始めたのが「東京駅」でした。この曲はまず「遠くのものほど美しく見える」という自分の考えがあって、それを伝えるためのストーリーを描いていきました。
──固有名詞を用いた情景描写が印象的な曲ですが、こういう書き方については?
杉浦 今まで固有名詞を使って情景を描くことはあまりなかったけれど、聴いている人にどう伝えるか考えるうち、自然とこの表現に行き着いたんです。東京駅というモチーフは、サビで自分が伝えたい思いをストーリー仕立てで描いていくうちに思い浮かびました。
とにかく自分の中にある感情を曲にぶつけたい
──「さよならより遠いどこかへ」は疋田さんによる情熱的なロックンロールですが、これはどのようにして生まれた曲でしょうか。
疋田 今回のアルバムは「ストーリー・オブ・マイ・ライト」というタイトルもそうですし、1曲目から「光を迎えに行こう」という曲があるので、キラキラした明るい作品になったんですが、そういう明るい方向に向かうきっかけになったのが「さよならより遠いどこかへ」だったんですね。この曲を書いていたのは一番しんどい時期で、塞ぎ込んでしまって。それまでは、バンドのイメージや杉浦くんが歌うとどう聞こえるかを考えながら曲を作っていたけれど、この曲だけは「とにかく自分の中にある感情をぶつけたい」「ただただ思ったことをそのまま曲にしたい」というのがあって。1人の人間の気持ちが強く表れた楽曲と言えます。
──この曲が1つのきっかけになったということですが、そこから疋田さんのソングライティングはどう変わりましたか?
疋田 沈み切った気分を「さよならより遠いどこかへ」で曲にしたあと、次に完成した「光を迎えに行こう」からは明るいほうに向かえたし、しっかりと自分の芯を持ち、軽やかなイメージを持ちながら曲を作れるようになりました。ありのままの感情をアウトプットできたのはよかったです。自分にとっては転換期になりましたね。
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帝国喫茶の“今”を描き切る「ビフォア・サンライズ」