帝国喫茶の“今”を描き切る「ビフォア・サンライズ」
──杉崎さんはまずEPにも収録された「ハル」を制作しましたが、そこから今作に至るまで、ソングライティングの変化はどのようなものがありましたか?
杉崎 僕も「ハル」完成後に変わったんです。「ハル」以前の曲は物語性を重視し、架空の主人公とヒロインを用意しつつ、自分の中で情景を思い浮かべて曲を作っていましたが、「ハル」以降に作った「つもる話し」「なんとなく」「ビフォア・サンライズ」では自分自身の等身大の思い、普段考えていることを前面に出すようになりました。
──その変化はなぜ生まれたんでしょう?
杉崎 意識して変えたわけではなく、自然と変わっていきました。帝国喫茶というバンドと向き合ううち、おのずと僕自身が伝えたいことが盛り込まれるようになった、という感じです。
──「ビフォア・サンライズ」はまさに今の杉崎さんの話を象徴するような曲だと思います。この曲はライブでメンバー4人とお客さんが高揚している風景が見える、バンドアンセムだと感じたんですね。こういう曲を書こうと思ったのはなぜでしょうか?
杉崎 「ビフォア・サンライズ」はアルバムの中では最後に完成した曲で、帝国喫茶の“今”を描き切り、それを1曲の中に落とし込んでアルバムを完結させたいと思って作りました。この1年間の経験とか、バンドと向き合ってきた結果行き着いた曲というか。
──アルバムを締めくくる曲として、すごく重要な役割を果たしています。
杉浦 アルバムの頭から終わりまで、メンバーそれぞれが描きたかったこと、帝国喫茶が表現したかった景色が盛り込まれているので、それを踏まえたうえで、自分たちにとって大事な瞬間を体現した曲になったし、アルバム全体の説得力がさらに増しました。杉崎がバンドと向き合って考えていたこと、覚悟していることがよく表れていると思います。バンドとして伝えたいことが凝縮された「ビフォア・サンライズ」がアルバムの最後に入ってよかったです。
──「ビフォア・サンライズ」のサビでは「行くぜフォーピース」というフレーズが印象的に響きます。それぞれが異なるクリエイティブを作り出すバンドだからこそ、この言葉には重みがありました。
杉浦 4人が同じ方向に向かっていく、ということですからね。そういう意味では、帝国喫茶の“今まで”と“これから”をちゃんと描いた曲になったと言えます。
「わかり合えなくても、そのままでいい」ところまで突き抜けた
──アルバムに収録されている楽曲だと、ほかには「sha na naなjourney」「ひとりぼっちの幸せの空へ」「グッバイ・コメット!」「アップオールナイト」が疋田さんによる楽曲ですが、これらは「光を迎えに行こう」以降に生まれた曲でしょうか?
疋田 「ひとりぼっちの幸せの空へ」は「さよならより遠いどこかへ」以前に作った曲です。まだ完全に塞ぎ込む前ですね。でも、アルバムの流れにはすごくハマっていて、自分がどんなことを思い、どんなふうに曲作りをして、どう生きてきたのかが見える気がします。まるでフォトアルバムをめくって、昔撮った写真を眺め直すような感覚になるんですよね。
──疋田さんの楽曲には日常の風景を切り取った表現が多い印象を受けました。ご自身ではどう捉えていますか?
疋田 確かにそうですね。生活感のある歌詞が増えました。僕は曲を作っていると作業に集中して、ちゃんと生活するのを忘れてしまうタイプなんです。ごはんを食べなかったり、何日も寝ないで生活リズムを崩したり、体調を崩したりしてしまうこともあって。「光を迎えに行こう」の歌詞に「しゃんとしようぜ」という言葉がある通り、最近はできるだけちゃんとした生活が送れるよう気を付けています。それから、ただ毎日を暮らすんじゃなくて、キラキラした瞬間をちゃんとキャッチできるようにしたくて。例えば週に一度は花を買ってきて、花瓶に生けてみたり。生活感のある歌詞は、「ちゃんと生活したい」という思いが強いから書けるようになったのかもしれません。
──杉浦さんが書いた「会いたいんだよ」は、“ままならなさ”と“愛おしさ”が共存するような、大切な人との関係を真正面から捉えた楽曲のように感じました。これはどういうところから構想した曲でしょうか。
杉浦 「東京駅」を書いたあと、同じようなテーマを深く掘り下げてみたくなったんです。毎回同じことを歌っているように思われるかもしれないけれど、この曲で自分ならではの表現が突き抜けた感触があって。今までは「わかり合えないけど、それでも大事にしたい」というところで終わっていたのですが、「会いたいんだよ」では「わかり合えなくても、そのままでいい」というところまで到達できた。“それでも会いたい”という強い感情を歌っています。僕は「自分と同時に、大切な人も大事にするにはどうすればいいか」ということを題材にし続けてきましたが、それは曲作りだけじゃなく、このバンドをやっている理由にもつながるところがあるんです。自分のことを歌いながら、メンバーや聴いてくれる人を思いやるためにはどうすればいいか、ずっと考えている。それを突き詰めたのが「会いたいんだよ」です。
それでも僕は、帝国喫茶を永遠に続けていきたい
──アルバムのアートワークは、どのようにして決まったんでしょうか?
アクリ これまでは私1人でアイデアを練ることが多かったんですけれど、今回はメンバーと話し合ってから作りました。アルバムのタイトルが決まったあと、みんなが思い描いているイメージを聞いて、「本をモチーフにしたら、どんなアルバムなのか興味が湧くんじゃないか」ということになったんです。1曲ごとに異なるストーリーを描いているからこそ、聴いてくれる皆さんに寄り添える気がして。そこからキラキラした心のときめきや、その感情を自分の中にしまっておきたい気持ちを連想し、本から温かいイエローの光がふわふわと飛び出しているアートワークにしました。
──今後のバンドの活動についても教えて下さい。4月には自主イベント「喫茶店の日 2025」、5月からは全国ツアーが決まっています。ライブについてはどんな思いがありますか?
杉浦 「どうやって伝えるか」を意識して作ったアルバム曲が、ライブではどう届くのか楽しみです。今回のアルバムは別のメンバーが書いた歌詞を自分の体験に置き換えて、いい意味で自分らしさを手放した部分もあるので、帝国喫茶の楽曲とリスナーをさらにつなげられるようになりたいです。
疋田 ライブで演奏すると、ファンがどんなふうに歌詞を受け取るのかがわかるんです。それが好きだし、皆さんの反応で曲の表情も変わっていきます。自分が気付かなかった思いを知り、そこから得たものを持ち帰って、また新しい曲を書くこともできる。僕たちが与えているだけでなく、リスナーからもらっているものもあるので、それを繰り返し、音楽で気持ちを還元していくことを続けたいですね。
──今後の帝国喫茶はどのように活動し、どんな存在になっていきたいですか?
アクリ 私は楽しく音楽を続けていきたいですね。もちろん大変なこともあるけど、大きな野心みたいなものはあまりなくて。気楽に、楽しく活動できたらいいなと思っています。
杉崎 これからの帝国喫茶に対する思いは「ビフォア・サンライズ」の中に全部詰め込んだつもりです。「つもる話し」「なんとなく」のように、普段は日常生活での些細なことを大事にしているんですけど、その一方で夢とロマンも忘れたくなくて。バンド活動ってまさに夢とロマンが詰まっていて、その思いは「ビフォア・サンライズ」の「偶然だって今では永遠さ」という部分で表現しました。ここはあえて「永遠」という言葉を使ったんですが、現実には永遠って存在しないじゃないですか。それでも僕は、偶然始まった帝国喫茶というバンドを、この4人で永遠に続けていきたいです。
公演情報
帝国喫茶 喫茶店の日 2025
- 2025年4月13日(日)大阪府 Shangri-La
帝国喫茶 ワンマンツアー2025「ストーリー・オブ・マイ・ライト」
- 2025年5月16日(金)愛知県 名古屋CLUB QUATTRO
- 2025年5月23日(金)茨城県 mito LIGHT HOUSE
- 2025年5月30日(金)北海道 BESSIE HALL
- 2025年6月6日(金)宮城県 ROCKATERIA
- 2025年6月8日(日)東京都 LIQUIDROOM
- 2025年6月15日(日)岡山県 CRAZYMAMA 2nd Room
- 2025年6月22日(日)福岡県 DRUM Be-1
- 2025年6月28日(土)大阪府 Music Club JANUS
- 2025年6月29日(日)大阪府 Music Club JANUS
プロフィール
帝国喫茶(テイコクキッサ)
2020年に関西大学の軽音楽部に所属していた杉浦祐輝(G, Vo)、疋田耀(B)、杉崎拓斗(Dr)の3人が中心となって結成したロックバンド。当初は大学の学園祭に出演することのみを目的にしていたが、手応えを感じたため活動を継続し、2021年10月に初音源「開店」を発表した。アートワークの制作に携わっていたアクリがギタリストとして加入したあと、2022年9月に初のフルアルバム「帝国喫茶」をリリース。2025年3月には3rdフルアルバム「帝国喫茶III ストーリー・オブ・マイ・ライト」を発表した。