“渾身の園田”が続々と
──コンペのストック曲については、ちょうど去年のインタビューで園田健太郎さんの楽曲について、園田さんの曲はお気に入りが多くて最終選考に漏れた曲だけで“園田待機列”ができているというお話がありました。
あ、今回は待機列から出てきた人もいます。
──今作だと「恋はBoon Boon Boon」「爪先立ちのシンデレラ」「しあわせCode」の3曲が松井×園田コンビですが。
「しあわせCode」は去年待機してた人ですね。園田さんが作る曲、私ホントにめちゃめちゃ好きなんですよ。園田さんにはデモを出してほしいんですけど、もはや出してほしくない(笑)。出してくれたら全部いい曲だから。でもいっぱい欲しい。
──どんどん待機列が長くなってしまいます。
そうなんですよ。「気に入ってるけど、今じゃないんだよなあ」と思うと、新しい別の曲が聴きたくなるし。もうね、園田の才能が憎いよ。園田からあふれ出てくるものが……もう園田って呼び捨てにしちゃってますけど(笑)、本当に放っておくと渾身の園田がどんどん集まってきちゃうので。
──渾身の園田(笑)。
園田さんだらけになっちゃう。別に悪いことじゃないんですけど、悩ましいですね。私の好きそうな感じだけじゃなく、最近流行っているであろう要素も入れてくれるから。
──まさに、2曲目の「恋はBoon Boon Boon」はイントロから80's歌謡曲のようなテイストを想像していたら、Aメロに入ったとたん、近年の混沌としたガチャポップみたいな要素が出てきて驚きました。同じく松井×園田コンビの3曲目「爪先立ちのシンデレラ」は王道のサニーサイドポップという趣で、8曲目「しあわせCode」はさわやかなアコースティックと、バランスもよいですね。
「しあわせCode」はライブで歌っている画がパッと浮かんだので選びました。今時ないくらいイントロが長いですよね。ちょっと焦らしてくる感じがすごくいいなと思って。「恋はBoon Boon Boon」は音が止まってからダダダダダッと畳みかける感じが印象的で気に入ってるんですけど、ライブで歌うのが大変そう……歌詞が大変そうだな。あーーってなっちゃう(笑)。
このウォウウォウみたいなところも歌ってくれませんかね?
──川島×サクマコンビによる1曲目「Play!」はまさにアルバムの冒頭にふさわしいスタートダッシュの曲という印象があり、ライブでお客さんが一緒に掛け声を上げている様子がありありと浮かびます。
2人のバンド、NoisyCellの解散ライブが2月にあって、私も観に行ったんですよ。NoisyCellのお客さん、めちゃめちゃ歌ってて。「いいなあー。私これいつもやりたいと思ってるんだけど、ならないやつー」と悔しがりながら観てました。
──いわゆるシンガロングを?
はい。合間合間でみんな歌ってて、いいなあって。うちのお客さんはそういう隙間を作っても歌ってくれないのに、歌わなくていいところで歌うじゃないですか。
──(笑)。
「爪先立ーちのシンデレ」「シンデレラー!」みたいな(笑)。「そこ歌わなくていいんですけど?」みたいなところばかり歌ってくるので。まあ歌ってくれていいんですけど、そこを歌うんだったら、このウォウウォウみたいなところも歌ってくれませんかね?っていう。そう思っていたら、川島さんサクマさんからいただいたデモの中に、ちょうどお客さんが一緒に歌えそうなものがあったので、ちょっとやってみようかなと。
──ちゃんと丁寧に「(oh oh oh oh)」とガイドを引いてるんだから、やってくださいよという。
そうなんですよ! 歌詞にわざわざ「(oh oh oh oh)」ってカッコを入れたくないのに入れてるんだから(笑)。
──カッコも入れてるし、珍しく1曲目を先にオンエアするし、こんだけやってんだからさすがに歌ってくれよと。
(笑)。まあ、歌ってくれたらうれしいですけどねー。
──ラストの9曲目「君の街まで」も川島×サクマコンビですが、こちらはラストを締めくくるにさわしい、穏やかなエンドロールのような曲ですね。
そうですね。これも「ららら」ってみんなで歌えたらいいですね。「ららら」って書いてありますから!(笑)
──ありますね(笑)。この曲が終わりの歌としてあまりに美しいので、なんだったら「あれ? もしかして活動そのもののエンドロール?」と邪推してしまったくらいなんですよ。
あはははは。きれいですよね。最後の「ららら」は、はい集合!ってスタッフのみんなにも集まってもらって、一緒に歌っていただきました。
ミュージカルの一員みたいな気持ちで参加してほしい
──川島さんはもう1つ、前口ワタルさん作編曲の6曲目「キネマ」も作詞されています。今作の中では珍しい短調で、メランコリックな印象のジャズワルツですね。
アルバムの中でというよりライブで歌う場面をイメージして、劇中劇のような曲が1つ欲しいなと思ったんです。前口さんはだいぶ前に書いていただいたことがあって(2013年発売のアルバム「螺旋の果実」収録曲「PINK AQUARIUM」)、今回かなりひさしぶりでした。前口さんには次の「カーテンコールの向こうへ」も編曲で参加いただいてるんですけど、これはデモの段階から前口さんがアレンジしてくださっているんですよ。
──「カーテンコールの向こうへ」は伝統的なポピュラー音楽、ミュージカルのような絢爛さのあるシンフォニックジャズ調の曲ですね。この曲調に何かリファレンスはあったんですか?
いやいや、私は音楽のジャンルはよくわからないので……去年デモをいただいたときに私は宝塚みたいだなと思って気に入っていたんですが、そのときは自分の中でうまくハマらなかったんです。今年また作品を作るにあたっていろいろ考えてるうちに「あの曲いいかも」って。プリプロの段階で、1つの軸になっていた曲ですね。ライブではお客さんもミュージカルの一員みたいな気持ちで参加してほしい。「群衆1」として。ダンサーちゃんのサビの振付も簡単にしようと思っているので、ぜひ参加してもらえたら。お客さんをなんとかステージに上げることはできないかって相談したんですけど、言ってもそんなにステージは広くないから難しいみたいで。
──ピンクの法被を羽織った王国民(田村ゆかりファンの呼称)がステージに?
はい。ちょっと観たかったんですけどね。
個よりも全体を意識した「あなた」に
──HaToさん作編曲の5曲目「Flower ripples」は4/4拍子に3/4が混ざるちょっとトリッキーな曲で、中盤のいいアクセントになっています。
このあざとくなくかわいい感じがいいなと思って選びました。
──トリッキーなアレンジはEP「Altoemion」の楽曲など、これまでの川島×サクマコンビの楽曲とも相性がよさそうだし、今後セットリストの幅が広がりそうですね。
あー、はいはい。前からなんですけど、こういう曲が好きなんですよ。ライブを意識して作品を作るとあまり採用できないんですけど。
──「可愛いは誰のせい?」の作編曲の永塚健登さんは、前作収録曲「Wonder habit」に続いて2回目の起用ですね。ポップで聴き心地のいい楽曲ですが、ベースが激しく動いていたり、一筋縄ではいかないアレンジになっていて。桃色男爵(田村ゆかりのバックバンド)は非常に演奏しがいがあるんじゃないかと思いました。
永塚さんは今私の中で「一番かわいい曲担当」みたいな感じになっていて。ほかにもかわいい曲はありますけど、わかりやすく一番かわいい感じの曲。
──単に甘くて元気なかわいい曲ではない、大人かわいい雰囲気が「Flower ripples」や「可愛いは誰のせい?」からは感じられます。
そうですね。永塚さんにはけっこうたくさんデモをいただいていて、どれもかわいかったんですけど、ライブで歌うことをイメージしたらこれかなって。
──田村さんはご自身で作詞をしないものの、こういうことが歌いたい、こういう歌詞は歌いたくないという意識が昔から強いと感じています。そういった部分での美学は、今も昔も大きくは変わらない?
変わらないですね。ただ、ライブを意識したときに……本当は曲作りのうえでそんなに意識しなくてもいいのかもしれませんけど、ミニマムなもの、「私とあなた」みたいな関係性を歌いたいと考えたとき、その「あなた」はライブを観てくれるお客さん1人ひとりが自分のことだと思ってもらえるような歌詞にしたくて。川島さん作詞の曲に関しては、最近ライブを観てくださっているというのもあって、大きな愛を描く感じに変わっているかもしれないですね。
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「私がかわいいのはあなたのせいですよ」