ナタリー PowerPush - たむらぱん

分析不能の特別な曲 勝負シングル「ラフ」完成

意外性に富んだ展開、カラフルにしてポップなサウンドが印象的なニューシングル「ラフ」が、たむらぱんから到着。どこかクラシカルな雰囲気を持つメロディの中で歌われる、今の社会に対するボンヤリとした違和感と「最終列車逃して世界の始まりを見てみよう」「そんな気持ちになったら気楽になった」という切実なポジティブ感。彼女自身「すごく入れ込んだ思いがある」というこの曲によって、たむらぱんの世界観・アーティスト性はさらに強く伝わっていくことになりそうだ。

取材・文/森朋之

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「ラフ」は自分でも説明できない曲

──前作「SOS」はサウンドメイク、楽曲構成において“たむらぱん”の個性が押し出された作品だったわけですが、今回の「ラフ」は歌詞の中に人間性のようなものを強く感じました。

あ、はい。

──ちょっと大げさに言うと「今の世界において前向きに生きるとは?」というヒントに満ちた曲だと思うんです。どんなテーマで書き始めた曲なんですか?

えーと、たぶん「ラフ」を書いたのは、前々作の「バンブー」とかを作ってた頃なんですけど。まず最初に、この曲って個人的にすごく入れ込んだ思いがあるんですよね。あ、これ、本題に入る前の前置きなんですけど(笑)。

──お願いします(笑)。

今までの曲っていうのは「こういう仕組みになってます」とか「こういうことについて歌ってて」っていうことを、けっこう分析して話せてたと思うんですよね、私なりには。でも、この曲に関しては細かい分析がうまくできないというか、説明しようとしても、気持ちが先走って途中で何言ってるかわかんなくなると思うんですよ。ということを前提にしてお話すると(笑)、私の基本的なスタンスとしては、普段生活のなかで「どうせだったら、いいふうに暮らしたい」とか「幸せな方向に寄りたい」っていう気持ちがあるんですよね。で、この曲を書き始めたときに最初に思ったことは「今の生活の中で、損してる部分がいっぱいある」っていうことで。

──損してる?

他の人たちもそうかもしれないけど「自分はこの仕事をしてる」ってことになっていても、「これがすべてでいいんだろうか?」みたいな感じがあるんですよね。これだけじゃなくて、もっと外のことを──そこには欲も絡んでくるんだろうけど──見てみたいっていう。損得って言ったらヘンかもしれないけど、毎日の中にも見落としてる部分がすごくあるような気がして、そういうふうに暮らしてることが怖いって思ったんです。

──それこそ「何かをかつかつに進めても それがいいのかは分からない」(「ラフ」)っていう。

そこで見えなくなってしまったものもあると思うし。あの、例えば空気の流れって見えないものじゃないですか? でも「もともとは見えていた」って考えてみると、いろいろと広がるところがあると思うんですよね。本来は見えていたものが見えなくなってしまった。それを取り戻すには、もっと広い心で生活していくことが大事じゃないか、とか。そういうところから広げていったイメージもありますね、「ラフ」は。

──その思考の連なりが「そんな気持ちになったら気楽になった」というサビのフレーズに至った?

「気楽」っていう言葉のニュアンスには難しいところもあるんですけど、投げやりだったり投げ出しちゃうってことではなくて、肩の力を抜くことだったり、広い心を持つという方向に歩み寄ることで、気楽になれることもあるんじゃないかなって思って。

──いい意味で「まあ、いいか」と思えるときってありますからね、確かに。

そうですよね。わりとそういうときのほうが、物事がうまく転がったりするし。私もまだわかってないところもあるし、確実な答えは見つかってないんですけど、この曲自体は最終的に「この先に道が続いている」っていう方向に向かってると思ってて。それは良かったなって。

この曲を作ったときの自分に会いたいって思う

──なるほど。でも、この曲の底には「不安」がちゃんと横たわってると思うんですよね。それが強いリアリティにつながってるんじゃないかなって。

あー。ループで入ってる音がちょっとポコポコしてますからね。ああいう一定のリズムって心臓の鼓動にも感じられるし、時間が経っていくときの焦りにも似てると思うんですよ、私の中では。カツカツのときって、時間が早く動いてるように感じるじゃないですか。そういうときでも「まだまだ時間がある」って思えればいいんですけど。いっぱいいっぱいのときって、どうしてもそういうふうに思えなくて。

──焦ることも多い?

ありますね、けっこう。というか、いつも焦ってる感じです、わりと。

──たぶん、そんなイメージは持たれてないかも。

で、「何も考えてないだろ?」みたいに思われるとグサッと来るっていう(笑)。でもボーッとしてるときって、実はいちばん頭が動いてたりしません? 私、ワイドショーとか見るのも好きなんですけど、見てても見てないっていうか、それをきっかけにずっと違うことを考えてたりするんですよね。公開放送とか、後ろに人が映ってるじゃないですか。そうすると「あの人、こんな時間に何やってるんだろう?」から始まって、いろいろとイメージが広がっちゃったり。

──(笑)でも、普段考えてることだったり、強い思いが込められた曲をシングルとしてリリースすることはすごく意味があると思います。曲を作ったときの状況や人となりも感じられて。

そうなんです!(と指をパチンと鳴らす) この曲ができたときって、今でも「あのときの自分に会いたい」って思うくらい、すごい勢いだったんですよ。あの、指でピースを動かして絵を揃えるパズルがあるじゃないですか。あれが一発で揃っちゃうくらいの研ぎ澄まされた感じだったというか。音楽に対する気持ちの込め方とかサウンドの部分に関しても、すごく健全に作れていたし、パワーもあったと思うんですよね。だから「ラフ」も、できたときからちょっと特別だったんです。聴いてもらうんだったら他の何かと一緒じゃなくて、メインじゃなくちゃイヤだって思ってたし。

──なるほど。

さっき言ったみたいに自分でも説明できない曲だし、「シングルっぽくないかもしれない」っていうのもわかってたんですよ。サビでバーッと盛り上がっていく華やかさもないし。でもこれが出せるときが来たら、自分に対しても周りの人に対してもひとつ確信が持てると思ったんですよね。自分のなかでぼやけてた部分がはっきりして、何かを信じられるようになる、というか。そういう意味でも「ラフ」をシングルにできたのは良かったと思うんですよね。

ニューシングル「ラフ」 / 2010年10月20日発売 / 日本コロムビア

  • 初回限定盤 [CD+DVD] 1575円(税込) / COZA-475~6 / Amazon.co.jpへ
  • 通常盤 [CD] 1260円(税込) / COCA-16424 / Amazon.co.jpへ
CD収録曲
  1. ラフ
  2. ズンダ
  3. 伝心棒
初回盤DVD収録内容
  • 「ラフ」ミュージックビデオ
全国ワンマンライブツアー
「パンダフルツアー」
  • 2011年2月12日(土)
    東京都 代官山UNIT
    OPEN17:30/START18:30
  • 2011年2月17日(木)
    福岡県 DRUM Be-1
    OPEN18:30/START19:00
  • 2011年2月19日(土)
    大阪府 UMEDA AKASO
    OPEN17:30/START18:30
  • 2011年2月20日(日)
    愛知県 ell.FITS ALL
    OPEN17:30/START18:30
  • 2011年2月25日(金)
    宮城県 仙台CLUB JUNK BOX
    OPEN18:30/START19:00
  • 2011年2月26日(土)
    新潟県 新潟LOTS
    OPEN17:30/START18:30
  • 2011年3月6日(日)
    東京都 LIQUIDROOM ebisu
    OPEN17:30/START18:30
たむらぱん

作詞・作曲・アレンジはもちろん、ジャケットやWEBサイトのアートワークまで手掛けるマルチアーティスト・田村歩美のソロプロジェクト。2007年からMySpaceにおいて自ら楽曲プロモーションを開始。4カ月で1万人のファンを獲得し、18万PV、24万回のストリーミング再生を達成したことが大きなきっかけとなり、日本初の「MySpace発メジャーデビューアーティスト」として、2008年4月にデビューアルバム「ブタベスト」をリリースする。 その後3枚のシングルを経て、2009年6月に多くのCMやTV番組のタイアップ曲を含む2ndアルバム「ノウニウノウン」をリリース。その後、自身初となる全国ワンマンツアー「世界パンタム級ツアー」を敢行。東京は追加公演も含めてチケット完売という大盛況ぶりで幕を下ろした。さらに「ゼロ」のビデオクリップではイラストレーター田村歩美としてSTUDIO4℃とコラボレーションを行い映像制作にもたずさわるほか、shing02の楽曲にボーカルとして参加、ロッテ「Fit's」CM曲の歌唱など、多岐にわたる活動でその才能を発揮している。