音楽ナタリー Power Push - 瀧川ありさ

「終物語」エンディングテーマに込めた シンガーソングライターの自我と欲望

瀧川ありさがニューシングル「さよならのゆくえ」をリリースした。瀧川3枚目となるこのシングルの表題曲は現在放送中のアニメ「終物語」のエンディングテーマ。今作において作詞・作曲・編曲を手がけた瀧川はアニメの舞台の1つでもある教室をイメージさせる言葉の数々を駆使しながら、やはりアニメのテーマの1つである“別れ”の物語を紡ぎ出している。

2015年3月のデビュー曲「Season」がアニメ「七つの大罪」のエンディングテーマに採用された際、自らの楽曲がほかのアートになんからの作用を及ぼすことへの喜びを語っていた瀧川。アニメ作品との2度目のコラボを前に彼女は何を思うのか、話を聞いた。

取材 / 成松哲 文 / 高橋拓也・成松哲

さよならの“先”を見つめたかった

──今回のシングル曲「さよならのゆくえ」はアニメ「終物語」のエンディングテーマ。瀧川さんの楽曲がアニメのテーマソングに採用されるのはデビュー曲にして「七つの大罪」のエンディングテーマだった「Season」以来です。

ですね。

──で「Season」はもともと制作していたデモが「七つの大罪」スタッフの目に留まってエンディングテーマに採用されたとのことでしたけど(参照:瀧川ありさ「Season」インタビュー)、今回はどのような作り方を?

瀧川ありさ

もとになる“メロディのようなもの”はあったんですけど、ほぼ書き下ろしですね。「『終物語』のエンディングテーマを」というお話をいただいてから改めて作った曲です。

──だからなんでしょうけど、瀧川さんは「教室」とか「廊下」といったキーワードを散りばめつつ、センチメンタルな別れの物語を描く「終物語」らしい詞を書いている。そしてそれでいて、やはりご自身が手がけたメロディやアレンジはドライブ感があってブライト。そのアンビバレントな感じが面白かったです。

歌詞とメロディやアレンジがこういうバランスになったのは、私のあまのじゃくな性格に由来している部分が多分にあるんですけど(笑)、それだけでもなくて。確かに「終物語」ってパッと見、救いのないストーリーのようなんですけど……。

──すでに放送済みの老倉育のエピソードもショッキングでしたもんね。「母なる者とそういう別れ方をさせるか」って。

でも育もそうだし、主人公の阿良々木(暦)くんもそうなんですけど、その事実に傷を負いながらも、ちゃんと次の一歩を踏み出してますよね。あとClariSさんとか春奈るなさんが担当された過去の〈物語〉シリーズのエンディングテーマを聴いていても「どんなに絶望があっても希望はある」という意思が感じられて。だからタイトルは「さよならの“ゆくえ”」。さよならの“先”、つまり未来に希望的観測を込めてみたし、歌詞自体も悲しくはあるけど完全に絶望的なものにするつもりはなくて。

──確かにラストで「退屈な日々 君が蹴り飛ばしてくれてた」と“さよなら”した相手に対する感謝を歌ってますね。

あと1コーラス目は女性視点、「わたし」で歌っていて、2コーラス目は男性視点、「僕」で歌うというように、カメラ割りのような歌詞にしているのも未来に希望を持たせるためで。実は1コーラス目と2コーラス目で歌っていることは同じこと、つまり「わたし」と「僕」はどちらも僕とわたしのことを「退屈な日々 君が蹴り飛ばしてくれてた」人だと思っていたっていう構造になっていて。別れやすれ違い自体は悲しいことかもしれないけど、実はお互いがお互いのことを思っていたことがわかったなら、ちょっとだけかもしれないけど希望が生まれるんじゃないか、っていう気がするんです。

あのときの誰かに思いを馳せる作詞術

アニメ「終物語」キービジュアル (c)西尾維新 / 講談社・アニプレックス・シャフト

──お話を伺うに、今回の瀧川さんの制作スタイルはある種職業作家的。「瀧川ありさの楽曲」よりも「『終物語』のテーマソング」を制作することに軸足を置いているように見えます。

確かに1コーラス目と2コーラス目で視点を振り分けたあたりは作為的というか「この方法でやれば面白くなるかな」という感じで書いてはいますけど、この歌詞がまったく私の本心じゃないかと言われるとそうではないですね。「終物語」って私が感情移入できるポイント、10代の頃の自分と重なるようなポイントが多かったですから。

──育のような別離がありました?

さすがにあんなハードなお別れとかではなく(笑)、感情移入したのは阿良々木くんのほうですね。自分は完全に忘却していたんだけど、実は過去に誰かを傷付けていて、それでその人と関係が悪くなったという経験がないわけではないので。あと、実は自分も相手もお互いのことを思いやっているのに、お互いの勘違いからすれ違いが起きちゃって、そのまま関係を修復できなかったっていう経験もありますから。阿良々木くんが育との過去を清算するために当時の彼女に思いを巡らせていたように、私も「あのときあの子はこんなふうに考えていたのかもしれない」って想像しながら書いていたら、こういう歌詞に仕上がっていました。

ニューシングル「さよならのゆくえ」 / 2015年11月18日発売 / SME Records
期間生産限定盤 [CD+DVD] 1500円 / SECL-1812~3
通常盤 [CD] 1300円 / SECL-1811
期間生産限定盤CD収録曲
  1. さよならのゆくえ
  2. 1991
  3. 銀河鉄道の降り方
  4. さよならのゆくえ ~TV size~
  5. さよならのゆくえ ~TV size ver.Instrumental~
期間生産限定盤DVD収録内容
  • さよならのゆくえ Music Video
通常盤CD収録曲
  1. さよならのゆくえ
  2. 1991
  3. 銀河鉄道の降り方
  4. さよならのゆくえ ~Instrumental~
瀧川ありさ2ndワンマンライブ

2016年2月19日(金)
東京都 原宿アストロホール
※2016年1月23日(土)チケット一般販売

瀧川ありさ(タキガワアリサ)

1991年5月8日、東京都生まれのシンガーソングライター。幼少期より音楽に親しみ、中学2年生のときからバンド活動を開始した。高校卒業と前後してバンドが解散すると1年のブランクののち、ソロアーティストとして活動を再開。2015年3月にアニメ「七つの大罪」1~3月期のエンディングテーマに選ばれたデビューシングル「Season」、7月に2ndシングル「夏の花」、11月18日にはアニメ「終物語」のエンディングテーマに採用された3rdシングル「さよならのゆくえ」を発表した。