音楽ナタリー Power Push - 瀧川ありさ

「終物語」エンディングテーマに込めた シンガーソングライターの自我と欲望

ずーっと電車に乗ってた時期があるんです

──もう1つのカップリング曲「銀河鉄道の降り方」なんですけど、なぜこの主人公は銀河鉄道を降りたいんでしょう? 宮沢賢治の童話しかり、松本零士のアニメしかり、憧れの象徴のような気もするんですけど。

初めて映画版の「銀河鉄道の夜」を観たとき、ちっちゃいながらにズシッと感じるものがあって。当時はもちろん明確に言葉にできてはいなかったんですけど、今思うと「人生って汽車みたいなものなのかな」っていう印象を受けた気がするんです。人生に目的や夢がある人って輝いて見えるじゃないですか。で、その目的や夢っていうのが駅みたいなものなんじゃないかって。「銀河鉄道の夜」ならジョバンニは銀河鉄道で旅した結果、ちゃんと生きる意味を見つけて汽車を降りていますし。銀河鉄道は憧れの存在ではあるんだけど、それに乗ることが目的じゃなくて、それに乗ってどこかに向かうことが目的なんですよね。

──「銀河鉄道999」であれば、結局あまりハッピーなことにはならなかったけど、星野鉄郎は機械の体をくれる星の駅を目指していたし。

瀧川ありさ

どこかに向かうために汽車に乗るのなんて当たり前のことなんですけどね(笑)。でもそうやって目的や夢がある人は汽車を降りることができるんですけど、目的や夢がないと永遠に降りられない。それは怖いと思っていて。そう思うようになったのには10代の頃、ずーっと電車に乗ってた時期があることも影響してるんですけど……。

──それは比喩的な意味ではなく?

ホントに意味なくずーっと乗ってました(笑)。放課後、学校から帰るためにちゃんと電車に乗ってはいるし、別に家に帰りたくないってわけでもなかったんですけど、なぜか最寄り駅が近付くと必ず「別に降りなくてもいいかな」ってなってたんです。一応「夕暮れ時に窓の向こうの景色を眺めながら音楽を聴くのが好きだった」っていう後付けみたいな理由もあるにはあったから乗ってたんですけど、それでも東京都を出ちゃうような電車に乗って誰もいない、知らない終点の駅に降りたとき「目的がないって絶望的だな……」って自己嫌悪に陥っちゃって(笑)。当たり前なんですけど電車に乗って移動しているときって自分はなんの努力もしてないじゃないですか。

──バカみたいなことを言いますけど、切符を買って乗りさえすれば何もしなくても目的地まで運んでくれるのが電車ですからね(笑)。

でも当時の私のようにずーっと電車に乗っていると、自分はなんにもしていないし、達成もしていないのに、ただただ何かが進んでいる感じになってしまう。そういう状況を言葉にしてみたのがこの曲なんです。銀河鉄道という人生は動き出したが最後、終点まで走り続ける。目的がないまま乗っていると死ぬまでずっと揺られているだけ、なんにもない宇宙を延々と彷徨うことになるよって。

自己とフラットに向き合うために過去と対峙する

──でも今の瀧川さんには降りるべき“駅”がたくさんありますよね?

あっ、この曲も「1991」と同じで20歳の頃に作った曲なんです。今私が作る曲には「さよならのゆくえ」のようにフィクションの要素もけっこう盛り込まれていて。だからこそ2~3曲収録できるシングルではバランスをとりたかったんです。自分の思いを伝えることよりも普遍性を目指して作った曲が入っているなら、もう片っぽには、誰からも理解されなくてもいいから自分の思いをそのまま歌った曲も入れておきたくて。だから今回は「1991」と「銀河鉄道の降り方」も収録したんですけど、あともう1つ、この2曲って今だから歌えるような気もしていて。これから歳をとっていくと私の考え方や気持ちって当然変わっていくと思うんですけど、今なら4年前のこの2曲をあのときの気持ちのまま歌える。当時の気持ちを記録しておく意味でも形にしておきたかったんです。

──4年前の自分をアーカイブすることに対する照れは?

照れはしませんでしたね。思い出したくない記憶ももちろんいっぱいあるんですけど(笑)、それをただ単に思い出すことと曲にすることって私の中ではちょっと別なんです。それが赤面してしまうような思い出であっても、音楽という形にすれば「あのすっからかんだった数年間もけっしてムダな時間じゃなかったんだろうな」って肯定できるというか。だから過去を肯定するためにも曲は作り続けていきたくて。そうしないと過去に引きずられたまま一歩も動けなくなってしまったり、逆にさっきお話したように「死」みたいな悲観的な未来のことばかり考えてしまうタイプなので(笑)。当時の言葉やメロディって、その瞬間という意味でもそうだし、まさに今っていう意味でもそうなんですけど、私にとっては「今」を生きるために必要なものなんです。

──ミュージシャンが自分の過去に音楽で決着を付ける。その態度は本当にカッコいいと思います。

過去に引きずられたままだと、それでなくてもあんまり好きじゃない自分のことをホントに嫌いになっちゃうので(笑)。せめて自分に対してはフラットな気持ちで向き合えるようにしておきたいんです。

ニューシングル「さよならのゆくえ」 / 2015年11月18日発売 / SME Records
期間生産限定盤 [CD+DVD] 1500円 / SECL-1812~3
通常盤 [CD] 1300円 / SECL-1811
期間生産限定盤CD収録曲
  1. さよならのゆくえ
  2. 1991
  3. 銀河鉄道の降り方
  4. さよならのゆくえ ~TV size~
  5. さよならのゆくえ ~TV size ver.Instrumental~
期間生産限定盤DVD収録内容
  • さよならのゆくえ Music Video
通常盤CD収録曲
  1. さよならのゆくえ
  2. 1991
  3. 銀河鉄道の降り方
  4. さよならのゆくえ ~Instrumental~
瀧川ありさ2ndワンマンライブ

2016年2月19日(金)
東京都 原宿アストロホール
※2016年1月23日(土)チケット一般販売

瀧川ありさ(タキガワアリサ)

1991年5月8日、東京都生まれのシンガーソングライター。幼少期より音楽に親しみ、中学2年生のときからバンド活動を開始した。高校卒業と前後してバンドが解散すると1年のブランクののち、ソロアーティストとして活動を再開。2015年3月にアニメ「七つの大罪」1~3月期のエンディングテーマに選ばれたデビューシングル「Season」、7月に2ndシングル「夏の花」、11月18日にはアニメ「終物語」のエンディングテーマに採用された3rdシングル「さよならのゆくえ」を発表した。