音楽ナタリー Power Push - 瀧川ありさ
「終物語」エンディングテーマに込めた シンガーソングライターの自我と欲望
できれば多くを語らない人になりたいです
──瀧川さんが「作家・つんく♂」への愛を大いに語るように、「さよならのゆくえ」という曲が評価されると「作家・瀧川ありさ」にも注目が集まりますよね。
問題はそこなんですよね……。特に今みたいにアーティストもSNSで人となりを発信するのが当たり前になっている状況を考えると、「瀧川ありさ」の名前で曲を発表している以上「私のことなんかどうでもいいから」とは言っていられないですし。ありのままの自分に自信があれば、こういうことに悩まずに済むような気もするんですけど……。
──松任谷由実さんや矢沢永吉さんのようなアーティストはTwitterをやっていない、みたいな話?
そうなんですよ。あの、ご本人は多くを語らないんだけど “ユーミン像” や“永ちゃん像”がちゃんとみんなに共有されている状況、楽曲やライブを通じてご自身のスタンスがちゃんと伝わっている状況ってホントにカッコいいですよね。今日もそうであるように私自身はしゃべり出すと止まらなくなっちゃうし(笑)、取材をしていただけるのはもちろんありがたいことだと思っているんですけど、実はできれば多くを語らない人になりたいんです。
1991年という時代が映し出す世代観
──カップリング曲は「1991」。この数字って瀧川さんの生年ですよね?
そうですね。この曲は20歳ぐらいのときに作ったんですけど、当時ってすごく自分の内側に潜ってしまっていた時期で。
──以前のインタビュー(参照:瀧川ありさ「Season」インタビュー)で言っていた「沼」の時期?
その前後です。「私って子供の頃からなんか自分の欲求に素直になれないなあ」って考えていて。「そういえば両親にさえ何が欲しいか聞かれないと言えなかったなあ」って気付いたら、なんか自分が人と上手にツルめない理由がわかった気がしちゃったんです。
──自分の思いを素直に口にできないヤツとはみんなもツルみにくいだろうなあ、って?
まさにまさに。たぶん皆さんはもっとうまくバランスをとっている。単なるワガママにならない程度にちゃんと自分の望みや思いを口にしながら周りの人との関係を築いていると思うんですけど、私は自分で呆れちゃうくらいそれが下手すぎて(笑)。
──ならこの曲のタイトルは「瀧川ありさ」であって、時代や世代を表象する「1991」ではないのでは?
同い歳のミュージシャンを見回してみると私と同じように人と上手にツルめていない人がけっこう多い印象があるんですよ。
──うまくツルめないのはなぜだと思います?
バブル崩壊直後に生まれた世代だからっていうのは1つの理由かな、って思ってます。
──確かに1991年にバブル崩壊が始まった、景気が後退し始めたって言われてますよね。
だから生まれてから今まで満たされることがないまま過ごしてきた気がしていて。満たされるっていうことがどういうことなのかすらわかっていないままだから、自分の思いや欲求をうまく口にできないんじゃないかなっていう気がしたんです。
──どこかに「言っても叶うわけもなし」という諦めや「欲求に素直になったところで果たして自分は何を満たしたいんだろう?」という疑問がある?
ずっとありますし、そういう思いは私だけじゃなくて、1991年生まれからそのちょっとあとくらいの世代までにはあるんじゃないかなあ、って気がしてて。そのまた下の世代になると、満たされない状態との付き合い方がもっとうまいというか、ちゃんと自分なりの楽しみ方や願いの実現の仕方を知っている印象があって。だから自分の世代ならではのことを代弁できたらいいな、と思って作ったのがこの曲なんです。私の思いを「終物語」に託しながら作った「さよならのゆくえ」が入っているシングルに、私と私たちの世代のことという個人的な思いを描いた「1991」を収録できたのはよかったな、って思ってます。
死を肯定することで今を見つめ直す
──アコギでローコードをガシガシとストロークする、どこか苛立ったようなサウンドデザインも当時の心境からくるものだったりします?
はい。曲が完成した当時の弾き方のままです。こじらせまくっていた20歳の夏の空気をそのまま音に残しておきたかったので(笑)。
──あと「2091 その頃にもなれば永遠の風は僕のものになるのかな」「2091 その頃にもなれば永遠の風は僕のものになるのだろう」というフレーズも気になりました。1世紀経てば瀧川さんたちの世代は救われるのかしら?って。
実際のところ2091年のことについては怖くて考えたくないです(笑)。最後に「2091 その頃にもなれば永遠の風は僕を連れてゆくのだろう」と歌っている通り、2091年には私たちの世代のほとんどの人がこの世にはいなくなっているはずなんですけど……。
──だから死=満たされないことを思い煩わなくてもよくなることに、ある種の救済を求めているのかと思ってました。
確かにそういう意味ではあるんですけど、私自身はずっと「死にたくない」って考えていて。10月の終わり頃、ニュースで「街はハロウィン一色です」って感じでガイコツのコスプレとかの映像が流れてたじゃないですか。あのガイコツを見るのもイヤなくらい死を意識するのが苦手なんです。ただ、こじらせまくっていた「沼」の時期に「私は死に対する恐怖ばかりが先立ってしまっていて、今をちゃんと生きていないんじゃないか」っていうことを考えるようになりまして……。
──先のことに気を取られすぎて、足元がおろそかになってないか、と。
それで「死を肯定してしまえば何かが変わるんじゃないか」ということで「2091年になったら僕のもとにも永遠の風が吹く」と考えて。人生は風=大気に触れることから始まっていて、その大気っていうのは例え私が人生を終えたとしても変わらず流れ続けてくれているんだろうな、という解釈。「実は世界は何も変わらないんだ」って理解することで死への恐怖を少しでも紛らわせて、今をちゃんと見つめたかったんです。
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- ニューシングル「さよならのゆくえ」 / 2015年11月18日発売 / SME Records
- 期間生産限定盤 [CD+DVD] 1500円 / SECL-1812~3
- 通常盤 [CD] 1300円 / SECL-1811
期間生産限定盤CD収録曲
- さよならのゆくえ
- 1991
- 銀河鉄道の降り方
- さよならのゆくえ ~TV size~
- さよならのゆくえ ~TV size ver.Instrumental~
期間生産限定盤DVD収録内容
- さよならのゆくえ Music Video
通常盤CD収録曲
- さよならのゆくえ
- 1991
- 銀河鉄道の降り方
- さよならのゆくえ ~Instrumental~
瀧川ありさ2ndワンマンライブ
2016年2月19日(金)
東京都 原宿アストロホール
※2016年1月23日(土)チケット一般販売
瀧川ありさ(タキガワアリサ)
1991年5月8日、東京都生まれのシンガーソングライター。幼少期より音楽に親しみ、中学2年生のときからバンド活動を開始した。高校卒業と前後してバンドが解散すると1年のブランクののち、ソロアーティストとして活動を再開。2015年3月にアニメ「七つの大罪」1~3月期のエンディングテーマに選ばれたデビューシングル「Season」、7月に2ndシングル「夏の花」、11月18日にはアニメ「終物語」のエンディングテーマに採用された3rdシングル「さよならのゆくえ」を発表した。