音楽ナタリー Power Push - 瀧川ありさ

「終物語」エンディングテーマに込めた シンガーソングライターの自我と欲望

長い時間の果てにたどり着いた1つのレトリック

──「仕上がっていた」ということは、やっぱり職人的なテクニックやロジックばかりが先に立った曲……。

というわけではないですね。もともと曲と歌詞が同時に出てくるタイプなのもあって、曲先、詞先で書いて、あとから言葉やメロディを付けると、いかにも当てはめた感じ、堅苦しい感じになって違和感があって。自然に出てきた言葉とメロディのほうが相性がいいからということで、今回も救われない2人を救いのあるメロディで歌ってみよう、みたいなことだけ意識して、ギターで弾き語りをしながら作ってるんです。あと「わたし」と「僕」が出てくるのも、結局のところ自分がそういう構造の歌詞を書きたかったからではありますし。一人称の歌詞を書くときもそうなんですけど、歌詞の中に「君」とか「あなた」っていうほかの登場人物が出てくると、その人の心情も気になっちゃって。今回は「だったらその人のことも書いちゃえばいいじゃん」ってことになっただけといえば、それだけなんです(笑)。

──デュエット曲ならいざ知らず、ソリストの、しかも正味4分の楽曲の中で主人公の視点を移動させるのってけっこう高度な作業のような気がするんですけど……。

確かに完成するまでには時間がかかりました。それは今回の歌詞を書くということについてもそうだし、こういう構造を持った詞を書くこと、そのものについてもそうですし。

──「2つの人称の登場する歌詞」そのものを完成させるのに時間がかかった?

アマチュア時代からこういう構造の曲を書いていたんですけど、当時は歌詞を見せたり聴かせたりするたびに決まって「わかりにくい」って言われてたんです(笑)。今回メジャー3作目のシングル曲を作るにあたって、改めてこの形になって。いろいろ細かく手直しを加えながら書き進めていくことで、やっとわかりやすい言葉で表現できるようになったって感じなんです。

──確かに凝った構造なんだけど、言葉がすごくわかりやすいから聴き手が戸惑うことはないんですよね。なんとなれば小学生でもちゃんと楽しめるというか。

あっ、その「小学生でもわかる言葉で書く」っていうのは目標にありました。以前は日本語の美しさをちゃんと生かして風景や心情を伝えたいと思っていた。簡単な言葉じゃイヤだって思いがあったんです。でもメジャーデビューして、本当にいろんな人に自分の楽曲を聴いてもらえるようになってからは「楽曲は私だけのものじゃない。聴き手のものでもあってほしい」っていう思いが芽生えてきていて。おっしゃっていただいた通り、わかりやすい言葉で書けているのなら、それはデビューしてから半年以上経って、多くの人に共感してもらいたいという思いがより強くなったからなんじゃないかなって思ってます。

「シンガーソングライター>瀧川ありさ」という考え方

──「私の姿を見やがれ」的な思いは……。

瀧川ありさ

もしかしたら表現者としてはちょっと問題があるんじゃないか?ってくらい「自分のことを伝えたい」っていう意識は欠如してますね(笑)。とにかく“曲”を聴いてほしい。デビューシングルの「Season」が「七つの大罪」のエンディングで初めて流れたときって、当然皆さんは私のことなんて知らないから「これ歌ってるの誰?」っていう声をたくさん聞いたんですけど、正直な話、ちょっと戸惑っちゃったんです。「私のことなんてどうでもいいのに」って。

──それよりも曲を気にしてよ、と。

正直そういう気持ちもありました(笑)。でも「七つの大罪」のおかげで瀧川ありさの名前を知っていただけたからでもあると思うんですけど、「さよならのゆくえ」が「終物語」の第1話のエンディングで初公開されたときは、皆さん、私自身でなく曲のことを話題にしてくれて。しかも好きになってくれたのが、すごくうれしかったですね。

──その瀧川さん言うところの「曲」って? 歌詞とメロディとアレンジ? それとも声やギタープレイも含めたものが「曲」?

声やギターをほめてくださるのももちろんうれしいですし、パフォーマンスが曲を気にしていただくためのフックになることはあると思うんですけど、そこだけ評価されててもダメだと思うんです。シンガーソングライターを名乗る以上、歌詞やメロディやアレンジを切り離して考えることはできないですから。

「ハロヲタ」というより「つんく♂さんヲタ」

──プレイヤー、パフォーマーとしての評価を集める人への憧れは? それこそ瀧川さんは大のハロプロファンですよね。

もちろんどのメンバーのことも「かわいいなあ」「カッコいいなあ」って観てるんですけど、それ以上に「つんく♂さんの歌を歌える選ばれし人たち!」っていう認識なんです(笑)。

──どちらかというと作り手にフォーカスを合わせている、と。

そうですね。ハロコンを観ているとき、よくつんく♂さんに作ってもらった曲をもしも自分が歌えたらと想像してるんですけど……。

──あはははは(笑)。

結局「彼女たちのようには到底なれない……」と思うんですけどね。ただほかのアーティストさんのコンサートやライブを観ているときにそういうことって頭に浮かんでこなくて。そもそも私が小学生のとき「歌手になりたい」と思ったのも「つんく♂さんの曲で」という想像の中でのもので。で、自分はつんく♂さんに曲を提供していただける立場や状況にないので、自分で曲を作らざるを得なくなったという(笑)。

──シンガーソングライターになった理由はハロプロメンバーじゃないから(笑)。

たぶん「ハロヲタ」っていうより「つんく♂さんヲタ」なんですよね。「ほかの人の曲を歌うなら、それはつんく♂さんの曲であってほしい」とは思うんだけど、それが第一目標ではなくて。作詞家・作曲家としてのつんく♂さんみたいな存在、曲や言葉を評価される存在になりたいんだと思います。

ニューシングル「さよならのゆくえ」 / 2015年11月18日発売 / SME Records
期間生産限定盤 [CD+DVD] 1500円 / SECL-1812~3
通常盤 [CD] 1300円 / SECL-1811
期間生産限定盤CD収録曲
  1. さよならのゆくえ
  2. 1991
  3. 銀河鉄道の降り方
  4. さよならのゆくえ ~TV size~
  5. さよならのゆくえ ~TV size ver.Instrumental~
期間生産限定盤DVD収録内容
  • さよならのゆくえ Music Video
通常盤CD収録曲
  1. さよならのゆくえ
  2. 1991
  3. 銀河鉄道の降り方
  4. さよならのゆくえ ~Instrumental~
瀧川ありさ2ndワンマンライブ

2016年2月19日(金)
東京都 原宿アストロホール
※2016年1月23日(土)チケット一般販売

瀧川ありさ(タキガワアリサ)

1991年5月8日、東京都生まれのシンガーソングライター。幼少期より音楽に親しみ、中学2年生のときからバンド活動を開始した。高校卒業と前後してバンドが解散すると1年のブランクののち、ソロアーティストとして活動を再開。2015年3月にアニメ「七つの大罪」1~3月期のエンディングテーマに選ばれたデビューシングル「Season」、7月に2ndシングル「夏の花」、11月18日にはアニメ「終物語」のエンディングテーマに採用された3rdシングル「さよならのゆくえ」を発表した。