ナタリー PowerPush - 竹内まりや

今、思うこと ロングインタビュー

ポピュラー音楽は聴いていただけて初めて意味がある

──ここまでのお話から察するに、まりやさんはより多くの人に自分の作品に触れてほしいというスタンスなんですね。コアな層に確実に届けたいというよりは。

ポップス=ポピュラー音楽ですから、聴いていただけて初めて意味があるといつも思っています。きっかけが何であっても、楽曲をより多くの人に届けるということがひとつの目標ですよね。がんばって作っても、誰の耳にも届かなかったらどこか自己満足で終わってしまう。純粋にアートとしての目的を持つ音楽ならばともかく、私がやっているのはポップスですから。ポップスというのは、大衆音楽にほかなりません。

──はい。

達郎も私も、テレビ番組にいろいろ出るとか映像をいつでも流すというスタンスじゃないがゆえに、人に届きにくい部分がどうしてもあります。けれどその活動範囲の中でやれることで、より広く皆さんに届けるにはどうしたらいいんだろうって考えたときに、こうやってWEBサイトでインタビューを受けることなどは、とても重要になるわけですよね。

──なるほど。宣伝する手段といえば「タイアップ」もまりやさんにとって重要なキーワードではないでしょうか。

そうですね。タイアップにはいろんな意味で助けられてきました。ドラマやコマーシャルで曲が鳴っていることによって、アルバムにまとまったとき「あ、これ聴いたことがある」って思える、そういう効果は大きいだろうと思います。もとを正せばタイアップも、テレビメディアに出ていかないがゆえの、ある種の苦肉の策ではありました。でも、そのほうが逆に、音楽が純粋に音楽として届いてるっていう実感も確かにあるんです。いろんな話題を作ってテレビに出ていったとしても、確かに顔や名前は認知されやすいけど、じゃあ音楽もちゃんと届いているかっていうと、それはまた別かもしれませんし。

──ええ、そうですね。

一方で、桑田(佳祐)くんみたいに作品を出すたびにちゃんと「Mステ」に出るとか、若い世代のミュージシャンたちと互角に露出していく、ああいう一貫した姿勢もすごいなと思うんです。ある程度の年齢になっても、若手の人と同じ土俵に出ていく勇気は、到底私には真似できないことだからすごく尊敬しますし、それこそがポップスのあるべき姿でもあると思います。私の中では、結婚後に家庭に入って以降、数年おきにCDを出すだけが精一杯という時代に比べれば今は多少活動は増えていますが、それでも一定以上の仕事を増やすと自分の許容量をオーバーすることがわかっているので、だったらそのエネルギーを曲書きに使うほうが自分らしいかなと思うわけです。

自分のキャパを知って、そこを超えないこと

──これまでファンの間で映像作品を望む声があったのは、そもそも竹内まりやのライブ自体がレアだという理由もあると思います。まりやさんは前回のライブが10年ぶり、その前が18年ぶりという滅多にワンマン公演を行わないアーティストですが、この機会にライブに対する考えも聞かせてください。

竹内まりや

ことあるごとに多くの方々から「ライブをやってください」って言われるのは、本当にうれしいことですよね。でも、私はやはり山下達郎の音楽のファンなので、彼の音楽活動を第一義に考えたいと思うのはずっと変わらないんです。私がライブを精力的にやるとなると、バンマスとして彼の仕事の負担は当然増えます。と同時に、私が達郎のライブを観られる頻度がその分減るわけですよね。そこはきっと一般リスナーとしての感覚なんだと思います。この先彼のライブをまだまだたくさん観たいし、いつも新しい楽曲ができるのを待ち望んでいるし、そんな彼の活動時間を私のライブで犠牲にしたくないというのは本音です。私は何がなんでもステージで歌いたい欲求を強く持っているタイプではなくて、それはシンガーとしてはとても弱い部分なんですけれどもね。ですから、ほんのたまに達郎が肉体的にも精神的にも余裕があってバンドメンバーもそろうときに、数本ほどの規模でやらせてもらうという形でやってきました。それぐらいで自分にはちょうどいいのかな。

──達郎さんがパートナーになる前はどうでした?

デビューして3年ぐらいまでは全国いろんなところを回りました。学園祭もたくさん出ましたし、浜省(浜田省吾)さんと2組でジョイントツアーしたりもしたんですよ。だけど、女性シンガーが1人でバンドを従えてライブ活動をやっていくためには、しっかりとした経験的ノウハウやガッツを持っていないと、すごく消耗しちゃうんですよね。それが今ライブをやるときはいつでもバンマスが達郎なので、精神的にずっと楽になりました。肉体的には昔よりずっと大変ですが(笑)。

──デビュー3年くらいまでというと、アイドル的なお仕事もされていましたよね。

ライブツアーの合間にアイドル誌のグラビアを撮ったり、テレビ番組の司会をやったり、いろんな顔を使い分けて仕事をしていた気がするんですけど、その場に行くとサービス精神でやっちゃうから、家帰るともうぐったりしちゃって。音楽的なことは何もしてないのに疲れてるみたいな、そういう日々を経験しました。それでわかったことは、私の場合、音楽を長く楽しく続けていくには、自分の活動キャパシティの限界を知って、そこを絶対に超えないこと。でもそうやって続ける以上は、自分が曲を書くなり、歌うなり、レコーディングして作品を残していくことに最善を尽くす。高い志と誠意を持ってやっていかないとバチが当たるほどの、本当にありがたい環境にいさせてもらっているので。考えてみれば、5年も6年アルバムを出さないなんて、普通許されない話ですから。

──確かに特殊な活動スタイルだと思います。

達郎が私の私的なパートナーでもあり、仕事のパートナーでもあることによってそれが可能になっているわけですし、私の活動のあり方をレコード会社や事務所の皆さんが理解し承認してくださっているからこそ成り立っているわけで、本当にありがたいことです。感謝しかありません。ライブ活動もテレビ活動もない歌手の音楽を売っていくのは実に大変なことだと思います。

──「自分の活動キャパシティの限界を知って、そこを絶対に超えないこと」。これを心がけているから、こんなに長く音楽活動ができているんですかね?

心がけているというよりも、自分で見えてしまうんですね。ここまでやったらもう自分は音楽を作り出せないだろうなって。仕事の内容が単なる芸能としての義務やノルマの負担になったら、皆さんに向けて笑顔で歌うとか、エネルギーを保ってレコーディングに臨むっていうことができないだろうなと。で、家のこともできなくなっちゃうと、それがまたストレスになっていく。家族のごはん作ることまでやめて仕事にだけ力を注いでも、きっとうまくいかないだろうとわかっている。自分の精神衛生の整え方は自分が一番よくわかるし、これまでの経験によって出した結論です。

ニューアルバム「Dear Angie ~あなたは負けない / それぞれの夜」 / 2013年7月3日発売 / ワーナーミュージック・ジャパン
初回限定盤 / [CD+DVD] / 1680円 / WPZL-30637
通常盤 / [CD] / 1260円 / WPCL-11523
CD収録曲
  1. Dear Angie~あなたは負けない
  2. それぞれの夜
  3. Your Mother Should Know
  4. Dear Angie~あなたは負けない(オリジナルカラオケ)
  5. それぞれの夜(オリジナルカラオケ)
初回限定盤 DVD収録内容
  • Dear Angie~あなたは負けない(Music Video)
  • 元気を出して(souvenir 2000 LIVE)
竹内まりや(たけうちまりや)

1978年、シングル「戻っておいで・私の時間」でデビュー。「SEPTEMBER」「不思議なピーチパイ」など次々とヒットを飛ばす。山下達郎と結婚後は作詞家、作曲家として「けんかをやめて」「元気を出して」「駅」など多くの作品を他の歌手に提供する傍ら、1984年に自らもシンガーソングライターとして活動復帰し、1987年に発表した「REQUEST」以降すべてのオリジナルアルバムがミリオンセールスを記録している。また、1994年発表のベストアルバム「Impressions」は350万枚以上の記録的な大ヒットとなり、日本ゴールドディスク大賞ポップス部門(邦楽・女性)でグランプリアルバム賞を受賞。ベスト盤ブームの先駆けとなった。2007年、6年ぶりとなるアルバム「Denim」を発表。2008年にはデビュー30周年を記念した自身初のコンプリートベストアルバム「Expressions」をリリースし、オリコン週間ランキングでは3週連続1位を獲得。2010年12月には10年ぶりのライブ「souvenir again」を日本武道館と大阪城ホールで行った。