ナタリー PowerPush - 高橋優
1stフルアルバム「リアルタイム・シンガーソングライター」
シンガーソングライター、高橋優。昨年夏のデビュー以来、東京メトロのCMソング「福笑い」やドラマ「Q10」の主題歌「ほんとのきもち」などを発表し、着実に知名度を上げてきた。そんな彼がリリースしたメジャー1stフルアルバム「リアルタイム・シンガーソングライター」は、日々の苦悩や生きる難しさを包み隠さず、それでも希望を見つけて光を照らすような力強い作品となった。
目を覆いたくなるようなニュースばかりの今こそ聴かれるべき今作は、いかにして生まれたのか。制作時の心境や、歌に賭ける思いを訊いた。
取材・文/田島太陽
何色であっても濃くなれば光ることができると思ってます
──高橋さんの歌はすごいパワーと説得力で迫ってくるなあと、このアルバムを聴いて改めて感じて、その理由はなんだろうとずっと考えてたんですよ。これは本人に訊くことではないかもしれないですが、ご自身では何が違うと思います?
いや、本当にありがたいですけど、自分では全然わかんないです(笑)。なんだろうなあ……、曲に自分の思いを精一杯詰め込みたいから、そのために周りをあまり気にしないようにはしてます。誰かを意識するとその人との背比べになっちゃうけど、それはつまんない気がして。ミュージシャンはみんな素晴らしいし、戦いじゃないし、似たような音楽があったっていいんですよ。それを選ぶ権利は皆さんにあるから。だから自分が誰かに似てるとか似てないとか、いいとか悪いとかの評価には興味がなくて。それよりも、自分が何を歌いたいのかを一番に考えるようにしてます。
──評価は全然気にならないですか?
曲を作る段階ではまったく。リリースしたら必ず何かしらの反響はあるし、その時点で喜びや悔しさはあるんです。でも作る段階では自分色を濃くすることだけ意識してます。
──自分の色というと、それは具体的にどういうものなんでしょう?
それが自分でもまだよくわからないんですけど、例え何色であっても濃くなれば光ることができると思ってます。自分に正直に詞を書いて、胸を張って歌える曲ができれば、例え「パクリだ!」とか「ダメな歌だ!」って言われても怖くないから。そう思う人もいるんだなってくらいで聞き流せるじゃないですか。
──なるほど。そういうまっすぐさが曲に出てるんでしょうね。ご自身では今回のアルバムはどんな作品になったと思いますか?
とにかく今の自分を100%込められたと思ってます。前回のアルバム(「僕らの平成ロックンロール」)はリリースのあとに「どう聴いてもらえるんだろう」とか「どう響くんだろう」ということがちょっとわからなくなっちゃったこともあったんです。「高橋は怒りの感情をむき出しにするシンガーだ」ともよく言われたし。
──教師のセクハラや家庭内暴力を描いた「こどものうた」が特徴的ですよね。かなりストレートな歌詞でしたし。
今振り返れば確かに怒ってた部分もあるんだけど、でも僕にはほかの顔もある。だから今回はもっと表情豊かな、僕のいろんな感情が表現されたアルバムにしたいと思って曲をセレクトしました。
自分が本当に思っていることだけ書こうと腹をくくった
──全体としてかなりポジティブなメッセージが強いアルバムになりましたよね。前作の「こどものうた」と今回収録されている「福笑い」を比べるとかなりイメージが変わったなと思ったんですよ。
あの頃は自分の興味があることを歌で射抜くというか、言い当てたいみたいな気持ちが強くあって。でもそれを何回もやっていくうちに、ちょっと変わりましたね。「世界は腐ってて、生きるのはつらい」なんてことは誰にでも言えるし、みんな思ってることじゃないですか。
──辛くてしんどいけど、希望もあるということを歌いたくなった?
はい。暗い部分だけ見つめて「もうだめだ」って諦めるような生きかたはしたくないなと思って。世間は厳しくて思いどおりにいかないのは本当かもしれないけど、それでも笑えたじゃん、成功したじゃんってことに光を当てて歌いたい。それができたらもっと多くの人に届くだろうし、曲として価値が高まるんじゃないかと思ったんです。
──ただポジティブな言葉、例えば「世界は素晴らしい」と歌うことは、やり方によってはとても空虚に聴こえてしまうこともあると思うんです。実際に苦しんでいる人には、きれいごとだって思われてしまうかもしれない。そういう怖さはなかったですか?
それはないですね。実はある時期、自分はなぜシンガーソングライターを名乗っているのかと悩んだことがあったんです。高橋優というミュージシャンがいることを少しでも知ってほしいと思って活動しているのに、実際は差し障りのない曲ばっかり歌ってるじゃん、何がシンガーだよって。それで、これからは自分が本当に思っていることだけ書こう、言いたいことを歌ってやろうって決めたんです。そのときに恐怖はあったんですけど、このチャレンジをしないといけないと思って。それで腹をくくって書いたのが「僕らの平成ロックンロール」に入ってる曲たちなんです。
──チャレンジしようと決めてからの「こどものうた」であり「福笑い」だったんですね。
そうですね。ただこのアルバムは、言葉が強すぎたり説教臭く聞こえたりしたら大失敗だとは思ってました。できるだけそうならないように、「もう終わり?」って感じてもらえるようしたかったから、曲順にもかなり気を使いましたね。
CD収録曲
- 終焉のディープキス
- 素晴らしき日常
- 福笑い
- メロディ
- 希望の歌
- 靴紐
- サンドイッチ
- ほんとのきもち
- 虹と記念日
- 現実という名の怪物と戦う者たち
- 少年であれ
DVD収録内容
- ニューヨーク路上ライブドキュメンタリー完全版およびレア映像
- 箭内道彦演出による7曲のビデオクリップ集:「素晴らしき日常」「ほんとのきもち」「福笑い」「現実という名の怪物と戦う者たち」「少年であれ」+インディーズ時代の「こどものうた」「駱駝」
高橋優(たかはしゆう)
1983年生まれ、秋田県出身のシンガーソングライター。大学進学と同時に路上で弾き語りを始め、2枚の自主制作アルバムを制作。2008年に活動拠点を東京に移し、2009年7月にミニアルバム「僕らの平成ロックンロール」を全国リリースする。その後ワーナーミュージック・ジャパンと契約し、2010年7月にシングル「素晴らしき日常」でメジャーデビュー。社会、友情、恋愛、性、孤独など自身が感じた思いをストレートな言葉で表現した歌詞、聴き手の感情を揺さぶる熱い歌声が支持を集めている。